惑星Zi西方大陸戦争録 【Zi-EX天神 ゾイド二次創作小説再掲(2002~2010)】   作:むげんゆう

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第3章
第3章 第1話 疾風ジンライ


 ZAC2100年7月、ここロブ基地は基地建設以来の"大賑わい"であった。

 

 なにしろ連邦軍の投入可能な戦力のほとんど、約20万人もの兵員とそれ相応の数のゾイドで基地はおろか周辺にいたるまで埋め尽くされ、臨時の兵員収容施設の建設が急ピッチで進められていたからである。

 

 連邦の第28輜重(物資の輸送)中隊はこの急な"お引越し"で息をつく暇もないほどロブ基地周辺を走り回っていた部隊の一つだった。

 

「おい!今度はどこにこの資材を持っていくんだ?!」

 

 強引に港に乗りつけてきたグスタフ部隊の隊長が物資の積み込みを行いながら怒鳴った。

 

「中尉殿!この建築資材は基地郊外25kmのポイント33-1であります!!」

 

 積み下ろしの監督を行っていた現場の責任者である下士官が怒鳴り返すように答えた。

 

「了解した!ところでその地点は今どうなっているか分かるか?!」

 

 下士官は振り向きもせず書類に目を通しながら答えた(普段ならば絶対に許される事ではなかったが、特にこの時期は忙しかったために特別に許可がおりており、現場は積極的に認めていた)。

 

「恐らくではありますがほとんどの部隊同様、宿舎が出来るまでは仮設テントで待機しているのではないでしょうか!!」

 

「わかった!仕事の邪魔をして悪かったな。このクソ暑い大陸の荒野のど真ん中で行軍中でもないのにキャンプはキツかろうな。」

 

 そういうと隊長は積荷をすべて載せ終わったのを確認して一人の兵を呼んだ。

「ジンライ!ジンライ伍長はいるか!!」

 

「あいよ!じゃなかった、はい!!ここにおります中尉殿!!」

 

 そう言葉を返すと一人の服装の乱れた兵士が勢い良く駆け込んできた。

 

「おう、相変わらず娑婆の気分が抜けきっておらんようだな、ジンライ伍長!」

 

「も、申しわけありません中尉殿!」

 

 ガチガチの敬礼の姿勢で答える彼を見てニヤニヤしながら彼は言った。

 

「まあいい。その辺りの事は後で曹長が何とかしてくれるだろうが、今はそれよりも仕事が優先だ」

 

「目的地はこの地図上のポイント33-1だ。先頭はお前に任せる。もちろん俺も乗せてもらうがな。まあ、いつものように要領良く頼んだぞ」

 

 

 この輜重部隊は輸送部隊としては例外的に有名な部隊だった。

 理由の一つはこの戦争の開戦当初からこの戦域に派遣されていた部隊で、数え切れないほどの激戦を後方で潜り抜けてきた部隊であった。

 もう一つの理由は、この事が最もこの部隊を有名にさせていたことであるが、輸送にかかる時間が、とにかくべらぼうに早かったことだった。

 この速度に関しては理由があった。この部隊の元々グスタフ乗りが多かった事、そして彼、ジンライ・タツミ伍長がこの部隊に配属されていたことだった。

 

 彼の生まれは中央大陸だったが、親の都合(両親ともにグスタフ乗り)で西方大陸で育っており、西方大陸の地理に特に詳しかった。

 もっとも、彼自身はゴジュラス乗りになろうとして軍に志願したのだが、軍は志願者が多く他にも適性のあった人材が揃っていたゴジュラスのパイロット候補生になってもらうよりも、いざと言う時大量に人員が必要になるグスタフに乗ってもらったほうが良いと判断したため、グスタフ乗りとして輜重部隊に配属されてしまった。

 ジンライはこの決定に大いに憤慨していたが、ゴジュラスが無理であれば乗りなれたグスタフに乗ることを望んでいたため、自分の気持ちに整理をつけると(整理をするまでが大変だったが)、この任務に奮闘する事になった。

 言葉遣いの悪さから直属の上官に修正を受ける事もしばしばであったが、その任務の要領の良さから隊長をはじめ、部隊全体から好かれていた。

 さらにその活躍から、中隊が所属する大隊からは感謝状はもちろんのこと、輸送部隊勤務としては極めて稀な特別勲章までもらう事もあった(本人はあまり喜んではいなかったが)。

 

 

 ジンライ機を先頭にした中隊はいつものように近道を進みながら目的地へと急いでいた。

 ここ最近ロブ基地周辺は非常にごった返しており、渋滞が起こる事もしばしばだったが、地元の地理を知り尽くしていた彼は、直感でそれを嗅ぎ分けると道を外れると強引に河川敷を走り始めた。

 

「おいジンライ!今日はまたずいぶん荒っぽい道を行くんだなぁ?!」

 

「先頭を命じられたのは中尉殿でしょう?!申しわけありませんが我慢してください!」

 

 もっとも、グスタフは半ばホバー推進であったから極端に揺れるわけではなかったから中尉の冗談ではあったが、他の部隊では考えられないルートを通っていたことは事実だった。

 なお、ポイント33-1まではこれまでであればおよそ1時間半で到着できた距離だったが、ここ最近の渋滞で所要時間は倍近くになっていた。だが彼らはその区間を僅か1時間で走破していた。

 

 ポイント33-1に到着した彼らを待っていたのは一面の仮設テントとその周りで訓練をさせられていた兵士達であった。

 兵士達は輜重隊を目にすると訓練中にもかかわらず大きな歓声をあげた。すぐさま上官が一喝して黙らせたが、喜んでいたのは彼らも同じだった。

 予定より1時間半も早く到着した彼らに工作部隊と周辺の責任者である中佐がすぐに駆け寄ってきた。

 

「任務、大変にご苦労だった。お陰で助かったぞ」

 

「いえ、単に任務を遂行したまでです」

 

 見事な答礼を中尉は返した。

 

「ここに到着してからまともに物資が届かんでな。特に熱風が直接吹き付けて来るここでは宿舎が到着した事は本当にありがたい。せめて感謝状ぐらい出しておいてやろう」

 

 彼自身天幕の中ではあったが、この過酷な気候の下での業務に本当に疲れていただけにその言葉は切実であった。

 

「いえ、これから最前線に赴かれるのですからこの位の事は当然です。どうかご武運を・・・」

 

 積荷を下ろした彼らは再び物資が卸されているであろう港へと急いだ。

 

「隊長・・・、本当に休む暇もないんですね。俺もこいつらもへたばってしまいますよ」

 ジンライは愛機をなでながら呟いた。

 

「後で全員に缶コーヒーを奢ってやる。もちろんあのまずい安物の支給品からではない。第一とっくにそれは底をついているからな」

 と、とたんに話を聞いていたメンバー全員の顔が明るくなった。

 

「そういうわけで俺の自腹からだ。それとグスタフだが、俺が大隊長と掛け合って腕のいい連中を優先的に回してもらうようにしておく。まあこれだけのペースで仕事をしているから心配はしなくて良いぞ」

 

 一方その頃、ここ西方大陸から遠く離れたニクス大陸、神聖ガイロス帝国首都ヴァルハラでは西方大陸に派遣された連邦の大軍に対する御前会議が開かれていた。

 まず開幕から陸海空軍大臣による他者への罵倒が続いた。

 

「開戦初期の陸軍の失態がなければ今頃我が軍は中央大陸に上陸できていたはずだ!」

 

 と、海軍大臣が切り出せば、

 

「確かに初期においては不測の事態で進行が遅れてしまった。だがその事への責任はすでに取ってある。それよりも南エウロペの制圧が失敗してしまったのは海軍がふがいなかったからではないのか!さらに言わせてもらえば連邦軍の今回の増援の上陸をゆるしたのも海軍ではないか!!」

 

「そして最近は前線への補給が滞りがちになってしまっている。これは空軍が制空権の確保に失敗してしまったからではないのか!」

 

 と、矛先を海軍だけでなく空軍にも向けた。それに対して海軍大臣も空軍大臣も激怒し、さらに罵り合いが続けられた。

 

 その様子をしばらく愉快そうに眺めていたハインリッヒであったが、プロイツェンが余り愉快そうでなかったのを見ると15分ほど放置したところでその罵りあいを止めさせた。

 そしてプロイツェンに会議の本題に移らせた。

 

「陸、海、空軍に言わせてもらうがもはや過ぎ去った事をどうこう言っている場合ではない!我々が陛下の御前で何のために集まったのか分かっているのか!!」

 

 帝国宰相の一喝に室内は静まり返った。

 

「本題に入ろう。連邦軍は60万にも及ぶ兵力を西方大陸に派遣してきた。無論我が軍の総兵力はこれを凌駕しているが、いかんせん西方大陸の各地に分散されてしまっている。我々の対応如何では各個に撃破される事態も想定せねばなるまい」

 

「そこで我が軍が取るべき戦略だが、大きく二つに分けられるだろう。一つは敵の戦力が整わない今のうちに強襲して敵を壊走させるというもの。もう一つは我が軍の制空権内まで戦略的転進・・・」

 

「プロイツェン、下手な言い回しは私の好みではない。はっきり撤退と言いたまえ」

 

 皇帝ハインリッヒが口を開いた。その言葉にプロイツェン以外の全員が驚きを隠せなかったが、プロイツェンは謝辞の言葉を言うと淡々と続けた。

 

「もう一つは我が軍の制空権内まで撤退し、その間に南エウロペの反乱勢力を掃討し、返す刀で連邦軍を撃滅するというものです」

 

 まず陸軍が答えた。

 

「西方大陸北部方面軍(これは南エウロペ大陸攻略のため神聖ガイロス帝国軍は大規模な増援を行い、その際西方大陸方面軍を北部方面軍と南部方面軍に分割したため)は準備を十分に整っております。」

「対して敵軍は最前線に配備されている戦力を除けば準備が整って下りません。それゆえ勝機は今かと存じます。後は十分な航空援護と敵海上補給路への攻撃がなされておれば攻略は可能かと存じます」

 

 陸軍の発言に海軍も珍しく同調した。

 

「我が海軍も敵の海上補給路への攻撃は最初にこそ失敗致しましたが、ここ数週間は予想通りの戦果を上げております。あとはこれに実戦配備が開始された海戦用大型ゾイドさえ投入できますれば十分作戦への援護は可能であります」

 

 空軍も続いた。

 

「我が帝国空軍はこの作戦が実施されますれば、一度に2200機のレドラーを投入する事が可能です。現在西方大陸に配備されている敵の新型機は400機前後と推定されておりますので、数で圧倒する事は十分に可能だと存じております」

 

 3軍ともこの機に一気に畳み掛けるという結論を出していた。確かに理にかなった話ではあった。だが、皇帝ハインリッヒは各軍に対して意地悪な質問を発せずにはいられなかった。

 

「我が帝国が誇る3軍ともに全面攻勢に出た方が良いという結論に達した事は誠に興味深い事だ。だが私は各軍に一つずつ質問せねばならない事がある」

 

 子供のように悪戯っぽくはにかみながら彼は続けた。

 

「まず海軍であるが、実戦配備された新型を投入すると言っているが、人員の訓練は?そして配備台数はどうなっている?言うまでも無い事だが連邦海軍は洋上戦力においては未だに我が帝国を凌駕している事は認めねばならんぞ」

 

 海軍大臣は下を向いて、ただうつむくしかなかった。そんな彼を空軍大臣が失笑していた。だが。

 

「次は空軍だ。空軍には現状で敵の新型機を圧倒する新型機、もしくは戦術はあるのか?いたずらに数を頼んでぶつけても被害が大きくなるのは我が方だということが分からぬ訳ではあるまい」

 

「最後に陸軍だ。現在最前線への補給はどうなっておる?現状で侵攻を開始した場合、どの位戦闘の続行が可能なのだ?」

 

 おずおずと陸軍大臣が答えた。

 

「はっ、おおよそ1ヶ月強であります・・・」

 

「で、あろうな。だがもし敵が頑強に抵抗して攻略に時間が掛かりすぎればどうなる?空中補給だけでは限界があるぞ。まして海上からの補給も陸軍としては過剰な期待はできまい。」

 

 三軍の代表者たちは全て沈黙してしまった。

 どの軍も他の軍に過剰な期待を持つわけには行かなかった。確かにハインリッヒの言う通りだったからである。

 

「そこで私の意見だが、ここは余力のあるうちに一時的に撤退すべきだと考えている」

 

 議場内の空気は一変した。これまで主力が大規模に後退した事など、かつてなかったからである。

 慌てふためく出席者を尻目にハインリッヒは続けた。

 

「無論そのまま撤退したのであれば、敵の前線部隊からの追撃は免れまい。また兵士たちの士気にも関わるだろう。だが、策が無いわけではない」

 

「要は敵に追撃を行わせなければよいのだ」

 

 

 一日の仕事のほとんどを終えた輜重部隊は大隊本部への道を戻っていた。

 すでにとっぷりと日は暮れている。朝食以外の食事はすべて車内で取らざるを得ない状況で全員がへとへとに疲れ切っていたが、とにもかくにも本部に戻らない事には休む事も出来なかった。

 本部に到着した彼らは、まず副長が本部に報告に向かい、その間に散々に働かされた愛機を整備班のところへ運び込もうとしていた。

 そんな彼らの行く手を交通整理をおこなっていた兵士が塞いだ。

 

「おい!何があったんだ!!」

 

 隊長の叫びに兵士が答えた。

 

「申しわけありません!これからかなり大きな荷物が運ばれるそうなのでしばらく我慢してください!!」

 

 すると彼らの目の前を巨大なコンテナを牽引するグスタフが通っていった。

 

「隊長?!ありゃあなんですかね?」

 

 曹長が隊長に尋ねた。

 

「ああ、サイズから見てあれは恐らくゴジュラスだな。しかも厳重に封印されていたところを見ると噂に聞いたアレかもしれんな」

 

「隊長!アレってなんなんですか!」

 

 興味深げにジンライが質問した。それに対して隊長はばつの悪そうな表情を浮かべて言った。

 

「何でもない、忘れろ」

 

 そうは言うものの、彼の頭は本土にいる友人から聞いた話を思い出していた。

 

「確かアレは起動実験に失敗したとかいう噂の実験機じゃないのか?あんなものまで持ち込むとは何を考えているのやら・・・」

 

 一方ジンライは目に飛びこんできたコンテナに施されていたステッカーの文字を心の中で繰り返し呟いていた。

 

「O・G・R・E、オーガか・・・。あんな厳重に保護されているようなゴジュラスに乗ってみたかったぜ!」

 

 だが彼の頭の理性という部分はその可能性をすでに否定していた。

 輜重部隊に配備されている自分がゴジュラスを扱えるチャンスがあるとは考えられなかったからだ。そう、その日が来るまでは・・・。

 

 

 会議が終了した後、皇帝ハインリッヒは執務室にプロイツェンを呼びつけていた。

 この執務室は強大な帝国の皇帝が執務を行う部屋とは思えないほど質素で、無論絨毯や机、カーテンにいたるまで最高級の素材が使われていたが、装飾はほどほどに押さえられており、この部屋に神聖帝国皇帝の性格が現されていた。

 

「陛下、プロイツェン宰相閣下がお見えになりました」

 

 執事であるヴァツー老紳士が、ハインリッヒに来客を告げた。

 

「よし、通せ」

 

 皇帝が短く答えると、ドアが開かれプロイツェンが執務室に入った。

 

「陛下、仰せにより参上仕りました」

 

「うむ。」

 

 一言肯くと、皇帝は彼を席につかせた。

 

「ヴァツー、すまぬが人払いを」

 

「御意」

 

 宰相と2人きりになった執務室で皇帝は語り始めた。

 

「さて、先ほどの会議では3軍に損害を出させずに撤退すると約束してしまったわけだが、その為には当然敵軍の足止めが必要だ」

 

「その為の我がP.K.師団、ということでしょうか陛下」

 

 ハインリッヒの顔から笑みがこぼれた。

 

「まあ、そういうことだ。P.K.師団には優先的に最新装備と優秀な将兵たちが揃っている。これまで重要な拠点の防衛には投入してきたが、特に表立って活躍はさせておらんかったからな。そのこともあるのだろう。前線の将兵からはP.K.が何もしておらんと不平不満が出ておるそうだ」

 

 人差し指で机を軽く叩きながら皇帝は続けた。

 

「そこでP.K.師団の出番と言うわけだ」

 

「もしや陛下はP.K.師団に最前線で敵軍を防げと仰せられるのでしょうか?」

 

 プロイツェンもいたずらっぽくにやけながら答えた。

 

「何を馬鹿な事を言っている!」

 

 わざとらしくハインリッヒは語気を強めて怒ってみせた。

 

「あれだけの長さの戦線をP.K.師団だけで支えられるのであれば、そもそも本軍の撤退など行う必要があるまい」

 

「では陛下、我々の仕事というのは・・・・」

 

「そうだ。蜂の一刺しで十分なのだ」

 

 ハインリッヒは机の上に広げられていた北エウロペの地図の一点を指差した。

 

「蜂の一刺しと言っても、その蜂は時に人間をも殺すという強力なスズメバチだ。しかも神経の中枢部に」

 




初出 2002年9月15日
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