惑星Zi西方大陸戦争録 【Zi-EX天神 ゾイド二次創作小説再掲(2002~2010)】   作:むげんゆう

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第3章 第2話 スズメバチの夜

 7月18日、戦力の編成やゾイドの整備に追われていたロブ基地ではこの日、高級将校らを召集して作戦会議が開かれていた。

 

 会議で一番の議題となったのは帝国軍の行動に関してだった。西方大陸派遣軍最高司令官サマービル元帥に対して参謀達からは様々な意見が出されていた。

 そして、そのほとんどが近日中に帝国軍が全面攻勢に出るだろうというものだった。

 

「現在我が軍はこの西方大陸に30個師団もの兵力を送りこむ事に成功しましたが、そのほとんどの部隊が準備を整えておりません。帝国軍にして見れば攻撃するなら今が絶好の機会でしょう」

 

 彼の意見に対して他の参謀が反論した。

 

「確かに我々を攻撃するならば今が絶好の機会でしょう。ですが帝国軍は我が空軍の度重なる空爆によって補給線を徹底的に叩かれており、前線への物資の配給が滞っているのは航空写真を見ても明らかです。弾薬も燃料も、そして食料さえ欠乏しているような状況で攻勢など仕掛けられるとは小官には思えません」

 

「だが、相手は帝国軍だ。長期戦に持ち込めないと判断した場合、なりふり構わぬ攻勢に出る事は十分にありえる。そして我々が十分に準備をしていなかったとして、最前線の部隊だけでどれだけ時間が稼げると思っているのだ!無論彼らは歴戦の猛者達ばかりであるから我々の期待にそぐわぬ活躍を見せてくれるのは疑いないが、それとて限度と言うものがあろう」

 

 彼らの討論にじっと耳を傾けていたサマービルはゆっくりと口を開いた。

 

「諸君達の意見はよくわかった。帝国軍が親身になって前線の将兵たちのことを考えているのであれば、恐らく帝国軍は攻勢に打って出る事はあるまい。だが、帝国軍の指揮官達の頭の中は、大した補給も受けられないまま最前線で戦う兵士たちの苦しみよりも、我々を撃滅する絶好の機会を逃すまいとする誘惑の方が優先される可能性は高いと判断せざるを得まい」

 

 サマービルは手に持っていた万年筆をくるくると回しながら続けた。

 

「現在行動可能な部隊をできる限り前線に向けて移動させるのだ。そしてこれまで以上に前線との連絡を密にせよ。いいか、如何なる帝国軍の行動の予兆も見逃してはならんぞ。」

 

 だが、彼らでさえも数日後に起こる帝国軍の攻撃を予想することまではできなかった・・・。

 

 7月20日、この日もロブ基地は相変わらず、いや司令部の決定に従って最前線に出来る限り多くの部隊を向かわせるための準備でそれまで以上に慌しくなっていた。そしてその喧騒は、ここ第17番格納庫も同じであった。

 

「お~い、お~い!こっちだこっち!」

 

 慣れない手つきでカノントータスを誘導していたのは、誰あろうクレイジーアーサーだった。

 そしてその光景を、長時間の作業続きでようやく小休止を許されていた、本来の誘導員が面白そうに眺めていた。

 

「少佐殿の手つきも大分サマになってきましたね」

 

「うるせいやい!」

 

 照れくさそうに"少佐殿"は笑っていた。

 

「猫の手も借りたいほど忙しいってんだから、わざわざ猫使いならぬライガー乗りが手伝ってやってんのに、その言いぐさはないだろうが」

 

 誘導員は申し訳なさそうに笑っていたが、すぐさまやってきた迷子のゴドスの報告を受けると道案内のために慌しく走り去っていった。

 

「やれやれ、パイロットがろくろく休憩も取れずに仕事をしなければならねえとはな。これじゃあいざと言う時にまともに動けなくなっちまうぞ」

 

 アーサーはそうぼやくと、ふとこの格納庫の一番奥にあるゾイドを見つめた。

 

「あれが噂の悪鬼か。GIGA計画とやらの一環で、試験的にオーガノイドシステムを搭載したゴジュラスだったな」

 

(シールドでさえあのシステムを搭載したとたん制御もままならない機体になっちまったんだ。タダでさえ気性の激しいゴジュラスにあんなものを搭載すりゃ結果がどうなるかぐらい予想がつきそうなものなのだがな。)

 

 そう思いながら悪鬼と呼ばれるゴジュラスを見つめていたアーサーの目に、同じようにオーガを熱心に眺めている兵がいる事に彼は気がついた。

 アーサーは休憩を入れようとしていた整備兵を捕まえると尋ねた。

 

「おいおい、誰だありゃあ?」

 

 整備兵はすぐに答えた。

 

「ああ、あいつはジンライですね。あいつは輜重部隊のグスタフ乗りで、仕事が早いので有名なんですよ。うちの方もパーツの搬入で世話になっているんで余った時間の少々のサボリくらいは黙って見逃してやってんですよ」

 

 アーサーは、ほう、と驚いた顔をした。

 

「それでアイツはどのくらいここに来ているんだ?」

 

「ええ、アイツはここ最近、暇さえあればここに来てあのゴジュラスを眺めていますよ。」

 

「グスタフ乗りがゴジュラスに惚れたのか・・・。」

 

 ゾイド乗りがゾイドに惚れるということは、ままある事である。

 事実エースパイロットと呼ばれるゾイド乗りの中にはそういった人物は数多い(無論アーサーもその一人である)。

 だが、相手は制御不能のバケモノである。到底人間に制御できるゾイドではない。

 10分ほどの小休止が終わると、慌しく作業が再開されアーサーもこの風変わりなグスタフ乗りの事は忘れ去ってしまった。

 それよりも彼が気になっていたのは、今夜の天気のことだった。予報によるとトライアングルダラスから発生した強烈な磁気を含んだ低気圧が接近していると言う。

 

 

 北エウロペ大陸ニクシー基地。

 この基地から数十kmほど離れた地点に建設された秘密飛行場に、極秘に集められた部隊があった。

 その部隊の将兵や所属ゾイドにはすべてスズメバチの前者にはバッヂ、後者にはマーキングがなされていた。

 この部隊こそ神聖ガイロス帝国軍最強と言われているプロイツェン・ナイツ、P.K.師団であった。

 

 部隊は通常の部隊の約3倍もの早さで整列を終えていた。

 その彼らの上空に、深紅のホエールカイザーよりも数倍巨大な飛行ゾイドが5隻姿を現した。最新鋭艦ホエールキングである。

 その巨大な飛行艇ゾイドは悠々と着陸した。

 そしてその一隻から一人の人物が降り立った。誰あろう、神聖ガイロス帝国宰相プロイツェンその人であった。

 彼が用意された演説台に上ると、見事に整列していた将兵たちは見事な敬礼を一糸乱れず執り行った。

 その光景は一般の将校であれば感激を禁じえないほど見事なものだったが、帝国宰相はさも当然の事のようにこれを受け取ると、演説を始めた。

 

「諸君たち栄光のP.K.師団についに大々的な活躍の時が来た!これから諸君達が行う作戦は、間違いなく歴史上の快挙として永遠に語り継がれるものになるだろう。そして我が帝国に勝利をもたらした作戦としても燦然と輝く事となる・・・・。」

 

 演説が終了すると、直ちに飛行場に展開していたP.K.師団は、一切の混雑もなく30分足らずで5隻のホエールキングに完全に搭載された。それから点検が行われ、作業の確認が終わると、夕暮れの空にホエールキングは飛び立っていった。

 

 

 その日の夜、カシモフ一等兵らは見張り台に立って歩哨の任務に当たっていた。

 外は天気予報の予報通りの雨、しかも風を伴っていたから嵐そのものだった。

 ある程度頑丈に作ってある見張り台ではあったが、風が吹くたびに軋む音が聞こえて来たり時折大きく揺れたりと、気分の良いものではなかった。

 

「まったく、なんでこんな夜にこんな任務にあたらなきゃあならないんだよ。」

 

 全身ずぶ濡れになりながら彼はぼやいた。すると空から強烈な閃光が走った。と同時にものすごい耳を劈くいかめしい轟音が鳴り響いた。

 

「最悪だぜ、雷まで落ちてきやがった。」

 

 耳鳴りに悩まされながら彼は歩哨の任務をつづけた。雷の音は3分おきに鳴り響いていたが、彼の耳には何か別の音が聞こえてきていた。いぶかしんだ彼は同僚に尋ねた。

 

「おい、さっきから雷にまぎれて変な音が聞こえないか?」

 

 同僚はうっとおしそうな顔をしていた。

 

「俺には何も聞こえちゃいないぜ。お前、雷で耳がやられちまったんじゃないのか」

 

 同僚にはぞんざいに扱われたが、彼の耳には次第にはっきりとその音が聞こえてきていた。

 

「間違いない、こりゃあ飛行ゾイドの、しかもマグネッサーじゃあないやつ特有のロケット推進の音だ。」

 

 ここへ来て、ようやく同僚の耳にもその音が聞こえていた。

 

「確かにお前の言う通りだぜ。でもうちの基地の航空ゾイドじゃないのか?」

 

「だが、この基地にはロケット推進のゾイドなんて配備されていねえぞ。一応報告しておくか」

 

 カシモフは備え付けられていた電話の受話器を取ると、その件を伝えようとした。だが、受話器から聞こえてくるのは雑音だけであった。

 

「おい、こいつは何か変だ。俺は直接軍曹のところに報告しに行くぞ」

 

 急いで見張り台から駆け下りた彼は、近くの宿舎へと急いだ。

 だが突然彼の目の前は閃光に包まれた。同時に爆風が彼に襲いかかり、カシモフは大きく投げ飛ばされ、近くの茂みに叩きつけられていた。

 

 額から血を流している事も気付かずに彼は立ちあがったが、周りの光景の変わり果てた様にただ呆然とするしかなかった。宿舎が全壊していたのだった。

 

 彼は慌てて見張り台に戻ろうとしたが、その見張り台が存在していた場所にはゾイドが降り立っていた。そのゾイドは辺りを見まわすと、カシモフを無視して基地の内部に向かっていった。

 

「あ、ありゃあハンマーロック・・・・」

 

 彼の目には訓練期間中に散々訓練でシルエットを叩き込まれたハンマーロック、その実物が炎に照らされて、くっきりと映し出されていた。

 

 21日の午前2:12分、P.K.師団による史上最大規模の夜襲作戦、オペレーション・ベスパ・ナイトがついに開始されたのである。

 

 

 この夜のP.K.師団の奇襲攻撃を連邦軍はまったく察知することが出来なかった。

 この作戦が連邦の諜報部にまったく引っかからなかった事だけでなく、接近しつつあったホエールキングをレーダーに捕らえる事さえ出来なかったのである。

 

 これには訳があった。この夜、ロブ基地周辺は前述したように磁気を含んだ嵐に見まわれており、これによってレーダーは全て無力化されていた。

 さらにそれに乗じてホエールキングからは広範囲にECCM(妨害電波)が行われ、他の基地からのレーダー探索をも無力化していた。

(連邦は広範囲に渡ってレーダーが使用不能になった事も嵐の影響と判断していたためまったく探知が出来なかった。)

 さらにこの嵐のため飛行ゾイドが離陸できず、ロブ基地の上空ががら空きだった事、そしてホエールキング自体のステルス能力の存在も大きかった。

 これらの条件が重なる事によって(意図的にそうなるように準備していたことによって)帝国軍はP.K.師団の奇襲を確実なものにしていた。

 

 真っ先にP.K.師団が攻撃したのはセオリー通り基地のレーダーサイトだった。

 降下用ロケットブースターを装備したハンマーロックの一班がこの任務に当たり、見事に成功。ロブ基地に5箇所設置してあった巨大レーダーは襲撃からわずか数分の後に姿を消していた。

 

 次に狙われたのは飛行基地であった。ロブ基地の飛行場にはこの時、西方大陸に展開してあったストームソーダーの約3分の1があり、サラマンダーも偶然出払っていた数を除いても5分の1、プテラスも相当数が配置されていた。

 これに襲いかかったのはパイルバンカーを装備したレブラプター隊であった。彼らは大型機に狙いを集中して攻撃を行い、1機、また1機と貴重な大型機のゾイド生命核を攻撃し、使用不能にしていった。

 

 そして最重要目標として狙われたのは、連邦軍司令本部ビルであった。

 この場所を叩いて連邦軍の中枢を麻痺させなかれば、この作戦は成功したことにはならない上、前線の味方の部隊の撤退はおろか、彼ら自身の撤収さえ困難になってしまうであろう。

 その為、司令本部攻撃に当てられたのは、P.K.師団最強の戦力、通常のアイアンコングの3倍の戦力を持つといわれるアイアンコングP.K.であった。

 

 この司令本部襲撃部隊の指揮を取っていたのはハンナ・ハンナ少佐であった。

 彼女のP.K.コングは司令本部ビルの間近に着地すると、ビル目掛けてその火器のすべてを叩き込んだ。

 司令本部ビルはこの攻撃によってその根元から崩れ落ち、多くの高級将校が戦死した。

 幸い最高司令官のサマービル元帥はこの時は宿舎に居たためかろうじて難を逃れる事が出来たが、その宿舎も別の機の攻撃を受け崩壊し、彼は全治2ヶ月の重傷を負った。

 そして何よりこの攻撃によってロブ基地の中枢が破壊されたため、帝国軍の目論見通り基地はおろか西方大陸全土の連邦軍の指揮が混乱する事になってしまったのだった。

 

 P.K.師団は攻撃開始からわずか30分以内にその第一目的を達成していた。

 後はその混乱に乗じて戦果を拡大するだけだった。彼らは予定された集合地点に向かいながら、周辺の施設への断続的な攻撃を行い、戦果をさらに拡大していった。

 

 そしてこの時、迎撃に出るはずの連邦軍はほとんど抵抗らしい抵抗が行うことができなかった。

 どの部隊も本部に問い合わせていたが、すでに本部はその機能を失っており基地の誰もが正確な情報が掴めないままだった。

 さらに闇夜の、しかも嵐の中の奇襲だったために敵の全貌がつかめず、デマが飛び交い正常な判断が下せる部隊はほとんどなかったからである。

 

 部隊長の独自の判断で迎撃に向かった部隊もあったが、彼らは逃げ惑う味方の兵士のために前進を阻まれ、それを発見した敵になすすべなく撃破されていった。

 

 混乱が混乱を呼び、憶測が悲劇をもたらし、ロブ基地はまさに魔女の大釜と化したのである。

 




初出 2002年9月29日
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