惑星Zi西方大陸戦争録 【Zi-EX天神 ゾイド二次創作小説再掲(2002~2010)】 作:むげんゆう
味方部隊の支援を受けて高速機動隊は敵に発見される事なくオリンポス山に上陸することに成功した。
後ろを振り返ればいまだに味方部隊の攻撃が続いている。彼らの帰還を待つために退路を守ろうとしてくれているのだ。この作戦に参加する際、生還できる確率がほとんどない事は全員がわかっていたことであったが、自分たちの帰還を待っている味方がいることはこれ以上ない励ましであった。
山頂へ向けて登頂を開始した高速機動隊だったが、目的地である山頂への道のりは決して楽なものではなかった。先に制圧を完了していた帝国軍の哨戒部隊がいたるところで哨戒活動を行っていたからだ。
ハルフォードは部隊を半分に分けた。大勢で固まっていては発見されやすくなる。発見されればどれだけ潜んでいるとも知れない哨戒部隊が襲撃してくるだろう。そこで戦力を消耗していては肝心の遺跡の破壊ができなくなってしまう。それだけは避けねばならなかった。
幸いな事に山の厳しい天候が彼らに味方した。登頂そのものは困難を極めたが、それ以上に哨戒部隊の哨戒活動も緩くなっており、何とか予定通りに頂上へと進撃する事ができたのだ。
「ハルフォード中佐、このままいけば連中に見つかる事もなく頂上へ予定通りに届きそうですね。」
部下の一人が言った。
「確かに、ここまでの道のりは何とか予定通りだった。だが別働隊の方も順調とは限らん。最悪補足されているやもしれんのだ。それにここからの路が順調だと言うわけでもあるまい・・・・。」
登頂開始から4日目の夜だった。その夜はここ数日続いていた嵐も晴れ、不気味なほどに月が明るかった。山頂まで後1/3と迫った山中の開けた岩場で異変は起きた。
先頭を走っていたボルタ少尉のコマンドウルフが、何者かの攻撃を受け、突如爆炎に包まれた。パイロットは悲鳴をあげることさえ出来ずに絶命した。
恐るべき速度で攻撃を仕掛けたその敵は、まさに紅の虎、シールドライガーに匹敵する帝国軍の高速ゾイドにして最も恐るべき敵、セイバータイガーだったのだ。
「こんなところまで敵の侵入を許していたのか。まったく正規軍の警戒部隊は何をやっていたと言うのだ?」
セイバータイガーを駆る、ステファン・スコルツェニー大尉は半ば呆れたような反応をしていた。
彼は神聖ガイロス帝国宰相ギュンター・プロイツェン直属の部隊として組織された皇帝親衛隊、通称プロイツェン・ナイツと呼ばれる最精鋭部隊の所属だった。
プロイツェン・ナイツは本来、神聖ガイロス皇帝ハインリッヒの親衛隊として組織されたものだった。主な仕事は国内や軍部内部観察を主な業務としているのだが、宣伝効果を狙うため最新兵器を優先的に回され、最精鋭しか入隊する事のできない特殊師団も存在していた。
今回のオリンポス山の制圧は今後の戦争のゆくすえを決めるための極めて重要な作戦であり、遺跡の守備には彼らP.K.も配備されていたのだった。
「まあいい、折角手柄が自ら進んで来てくれたのだ。頂かないわけにはいくまい。」
セイバータイガーの動きは、正に暴風そのものだった。唯1機で高速機動隊のただなかに飛び込み、縦横無尽な動きで砲撃を避け、混戦に持ち込んで同士討ちにさそいこみ、冷静にコマンドウルフを潰していったのだった。
「何なんだこいつは!速い、速すぎる。俺の弾がただの1発も当たらないなんて。奴はバケモノか!?」
トミー・パリスは驚きの声を上げた。本土からの援軍としてこの部隊に参加してから愛機を駆って1ヶ月、数多くの帝国ゾイドを撃破してきた彼だったが、今度の相手は次元が違いすぎた。今まで自分がのろま野郎と罵ってきた帝国の連中もこんな惨めな気分だったのだろうか?そんな思いが彼の胸をよぎった。
このまま放っておけば同士討ちで損害は増えるばかりだろう。これ以上損害を出すわけには行かない。しかも標高が高いため夜明けも早い。夜が明ければ警戒部隊が嫌と言うほど沸いて出る事はわかり切っていた。
「全機さがっていろ!奴は私がやる!!」
部下をかばうようにハルフォードのシールドライガーが踊り出た。
シールドライガーとセイバータイガー。かつてのセイバーはサーベルタイガーと呼ばれていたが、ガイロス帝国の手によって改良された際に名称はこの名前に変更されていた。
中央大陸戦争では、好敵手として激突してきた両機の1体1の激突が時代を超えて繰り広げられようとしていた。
最初に仕掛けたのはシールドライガーだった。背中のカバーを跳ね上げ、せり出すビーム砲。その銃口から矢継ぎ早にビームが撃ち出された。だがセイバータイガーはそれをあらかじめ予測していたように、わずかな動きですべてかわし切った。
シールドがビーム攻撃を止めミサイルに切り替えようとしたその時、大きくジャンプしたセイバーが今度は逆襲に転じた。
シールドに向け振り下ろされる電磁クロウ、その攻撃を寸でのところで回避したシールドは、間合いを取るために全力で駆け出した。
セイバーは自分にシールドが背を向けた瞬間を見逃さなかった。シールドが全力で駆け出したその刹那、ミサイルを撃ち込んできたのだった。
最高速度時速250kmを誇るシールドライガーといえ、至近距離から放たれるミサイルをかわす術などあるはずがなかった。この時点ですでにスコルッェニーは勝利を確信した。だがその時、信じられない動きをシールドは見せた。
まともに直進した所で回避はできない事くらいは誰にでもわかる話だ。命中まで後わずかと迫った時、ハルフォードは右側のミサイルランチャーを開放したのだ。それと同時に機体をぎりぎりまで右側に傾け、急旋回でミサイルをかわしたのだった。
「面白い、連邦軍にもこれほどの腕を持った者がいるとはな。」
「あの蜂のマークのセイバータイガー、あれが噂に聞くP.K.なのか・・・。」
足場のおぼつかない岩場での戦闘にもかかわらず、お互いにその事をまったく感じさせず、一進一退の戦いは続いた。だがシールドライガーは1つだけ出遅れていた。
シールドは高速戦闘を行う際に武器を収納しなければならず、武器を使用する際にどうしても速度を落とさなければならなかった。ハルフォードはそれを逆にそのことを利用して敵の動きを回避してきたが、それもすでに限界にきていた。
間合いをわずかに離したとき、再びビーム砲を放とうとしたシールドに急加速をかけたセイバーが突撃をかけた。
「ちぃ!」
瞬時に反応したものの、セイバーの右前足の電磁クロウはシールドの頬を切り裂いてた。
「ハルフォード隊長っ!!」
部下たちの悲痛な叫びがコクピット内に響く。だがその時、突如シールドのたてがみがまばゆいばかりの光を放った。
「これまでのようだなシールドライガー!!」
勝利を確信したスコルッェニー特尉は必殺のビーム砲をシールドに叩き込んだ。
シールドライガーの輝きは、彼の目には一瞬、機体の制御システムのショートに映ったのだろう。彼は迷うことなくビーム砲のトリガーを引いたのだった。だが、至近距離から叩き込んだはずのビームは、シールドのたてがみの周囲に発生した空間の歪みに、すべて捻じ曲げられ、はじき返されてしまったのだ。
「エネルギー・シールド・・・・・!」
もちろん彼もその装備について知らなかったわけではなかった。シールドの戦闘データを入力したシミュレーターで、何度も対シールドライガーを想定した模擬戦闘を繰り返してきたからだ。
だが、目の前の実戦で体験したエネルギーシールドはシミュレーターや彼の予想を遥に上回る強靭さだった。さしもの彼も旧大戦を元にしたデータが、当てにならない事を忘れていたのだ。彼の愛機がその事を何より証明していたにもかかわらず・・・・。
それでも彼がひるんだのは一瞬のことだった。だが勝負はその一瞬でついていた。シールドライガーの必殺の牙、レーザーサーベルがセイバーの喉笛を噛み千切っていたのだ。
喉笛を掻き切られ、力なく崩れ落ちるセイバータイガー。その光景に部下たちは喚起の声をあげた。
だが当のハルフォードは静かなままだった。この勝利が紙一重だったことを誰よりも知っていたからだ。勝利の女神が微笑んだと言うより、死神に嫌われただけのことだったのかも知れない、とさえ感じていたのかもしれない。彼はひとり目を閉じ祈りを捧げていたのだった。
決着がついてから約2時間後、彼らは別働隊との合流に成功していた。幸いな事に別働隊は敵部隊と接触することなくここまでたどり着いたという。
先ほどの戦闘でコマンドを4機失ったものの、ほとんどの仲間が無事だった事に一同は安堵していた。
「後はこれ以上の犠牲者を出すことなく任務が遂行できればいいのだが・・・・。」
だが偵察兼定時連絡として派遣されたダブルソーダからの通信は彼らに衝撃を与えた。
「オリンポス山周辺の帝国軍が増強されつつあり。これ以上の戦線維持が不可能なため遺憾ながら我が軍は撤退を開始する。」
この通信に彼らは少なからず衝撃を受けていた。だが彼らはすでに覚悟を決めていた。敵中で孤立し場合によっては全滅してしまう事も、この任務が下った時から承知していた事だったからだ。
それに友軍から完全に見捨てられたわけでもなかった。愛機こそ放棄しなければならなかったが、任務が終了次第彼らを迎えにサラマンダーが派遣される事を伝えられていたのだ。
「諸君、これからが本番だ。目標は厳重に警護されている事は諸君たちも知っての通りだ。だが、何としても敵を排除し、目標を破壊しなければならない。そして全員無事に帰還して仲間たちと再会の祝杯をあげようではないか。」
士気あがる高速機動隊。だが、その時不気味な大音響と共に、大きな振動が山全体を揺るがした。その音はハルフォードの耳にはまるで悪魔が歓喜の声を上げたかのよう聞こえていた・・・。
初出 2002年3月1日