魔入りました! 千雨さん   作:ちみっコぐらし335号

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 一挙放送→魔入間原作に手を出した結果、普段千雨魔改造SSをカキカキしている者として、これはやらねばならぬと思った(使命感)




魔入りました! 千雨さん

 

 長谷川千雨(ちさめ)、十四歳。

 所属、麻帆良(まほら)学園女子中等部三年A組。

 兼――――――――悪魔学校バビルス一年問題児(アブノーマル)クラス。

 

 

 オタクな知識に明るくて()()()()()()()()()()()()()()の平々凡々な人間を自称する千雨が、何故魔界の悪魔学校に入学してしまったのか。

 

 そして、何故大勢の悪魔たちの前でフリフリの衣装を着て煌びやかなステージに立とうとしているのか。

 

 

 話は少々…………いや、かなり前まで遡る――――――。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 元々千雨の暮らしていた麻帆良学園は、下は幼稚園から上は大学院まで無数の校舎を持つマンモス校である。

 生徒数は数知れず。文字通り学校関連施設だけで一つの街を形成している化け物学校だ。

 

 そんな麻帆良学園では年に一度、全校合同の学園祭が催される。『麻帆良祭』と呼ばれるこの学園祭(イベント)では、三日間の開催期間で億単位の金が動くだの千葉県の某人気遊園地以上の動員数になるだのといった話がまことしやかに囁かれていた。

 それらの噂の真偽を確かめる気は千雨にはなかったが、『麻帆良祭は外部から多くの人間が訪れる巨大市場』ということだけは疑いようのない事実である。

 

 三日間、混沌の坩堝(るつぼ)になる麻帆良学園。

 

 大勢が楽しむ祭りのさなか、人知れずとある陰謀が渦巻いていた。

 『魔法使いによって秘匿(かく)されている魔法の存在を世界中に公表(バラ)しちゃおうぜ☆』というとんでもない計画である。

 そう、魔法や魔法使いは実在していたのだ。

 

 一応、犯人側には『世界平和のため』とかいう大層なお題目があったらしいが、そんなことをされては非常識、特にファンタジーな事物が嫌いな千雨は堪ったものではない。

 

 しかも主犯格は全員千雨のクラスメイトだったのだから尚更頭が痛い。十歳で魔法使いな担任教師(ネギ・スプリングフィールド)とかロボ娘な同級生(絡繰茶々丸)とかで既にいっぱいいっぱいなのに。

 なお、件のロボ娘・茶々丸は敵側だった。あと、自称『未来から来た火星人』で『担任教師(ネギ)の子孫』を名乗る魔法使い、表向きは天才留学生の超鈴音(クラスメイト)が黒幕だった。属性過多過ぎだろお前。

 

 祭りの影で密かに繰り広げられていた、世界の行く末をかけた世紀の戦い(バトル)――――――に、何の因果か『気』も『魔法』も使えない一般生徒(パンピー)の千雨は巻き込まれた。誠に遺憾である。

 

 そして、すったもんだの末に『魔法を暴露する(超鈴音)』一派は十歳の魔法教師(ネギ・スプリングフィールド)に敗れ、『魔法の秘匿を守る(麻帆良学園側)』勢力が勝利した。

 大変不本意ながら千雨が力を貸したのだから、勝ってもらわなければ困るのだが。

 

 当然、大半の参加者たちはそんなトラブルがあったなどと知る由もなく、この年の麻帆良祭は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 麻帆良祭終了から数日後。千雨は一人、『図書館島』を訪れていた。

 

 図書館島とは、麻帆良学園に存在する『島が丸ごと図書館』という巨大施設である。

 内部には数々の蔵書が収められており、戦前の稀書・奇書の類も多数。一般生徒では立ち入れない地下深くまで延々と書架が乱立し、書架の水没等の過酷な環境下であっても蔵書の経年劣化は皆無に等しい。

 当たり前だが、この図書館島も魔法(非常識)の産物である。一緒に聞いた話では『魔法の本』も眠っているのだとか。

 

 授業以外ではなるべく近づきたくない場所だが、今回千雨にはとある目的があった。

 

 千雨が中身の感触を確かめるようにポケットを探ると、一枚のカードが指先に触れた。

 その正体は、先日の麻帆良祭にて手に入れた『仮契約(パクティオー)カード』。ざっくり言うと魔法使いとの契約によって発行される、魔法のアイテム(アーティファクト)が使えるようになる魔法の(すごい)カードである。

 他にも様々な機能があるが、詳しく考えると頭痛が酷くなるのでこちらの話は一旦脇に置いておく。

 

 千雨が手に入れたアーティファクトの名は『力の王笏』。

 一見、魔法少女のステッキ(ただのオモチャ)のようだが、精神をダイブさせインターネットに直接干渉することもできる、ネット関係に特化した代物である。

 趣味のブログが高じてか、()()()()()()()()()()()()()も身につけていた千雨。その持ち前の()()()()とアーティファクトを駆使して、千雨は先日の戦いに貢献した。

 

 そして、アーティファクトと共に千雨が使えるようになった存在が『電子精霊』である。

 ネズミかハムスターのような外観をしており、ネットにアクセスできる自我のあるナマモノ、と千雨は認識していた。

 

 初対面で『電子精霊千人長七部衆』と名乗った通り七匹いる精霊たちは騒がしく、ここのところ千雨を辟易とさせていたが、ふと思い至ったのだ――――――『自らの運営するブログに応用できる、コイツら関連の知識があるのでは』と。

 

 非常識はごめんだが、今までの日常生活でも麻帆良祭でも散々振り回されたのだ。

 精霊だか何だか知らないが、迷惑料代わりに利用できるものは使ってやろうという魂胆で、千雨は図書館島にやってきた。

 

 魔法使い(ネギ先生)との契約の儀式として、乙女の接吻(キッス)を代償にしたのだ。安く買い叩かれてたまるか。

 

 さて、図書館島に到着したのはいいが、仮にも魔法絡みの内容。

 本があるとすれば、それは授業にも使われる上層ではなく、中層から下層だろう。

 

 上層部分(一階周辺)は基本的に目の前の蔵書量にただ圧倒される程度だが、中層以降は侵入者用のトラップがわんさか仕掛けられている。

 本質的には図書館内部を移動するだけなのに『図書館探検部』なる部活があるぐらいだ。図書館島は下手な迷宮よりよっぽどダンジョンめいている。

 

 当然一般人、かつ帰宅部の千雨が何の備えもなく突入すれば普通に死ねる。というか確実に死ぬ。

 

 そのため千雨はまず電子精霊を用いて、図書館探検部のデータベースから内部の地図(マップ)をダウンロードさせた。

 いくらバイタリティに溢れる麻帆良生とはいえ、地図(マップ)は魔法とは無関係の学生が作成したもの。完全とは言い難いが、少なくともこれで中層までは行けるだろう。

 

 あとは装備品の準備だ。

 懐中電灯やロープなどを荷物にまとめ、電子精霊の実体化用に電子機器の予備バッテリーを用意して、千雨は内部に突入した。

 

 突入後、割と順調に事は進んだ。時間はかかったが、魔法書も収められている奥の区画に到着したのだ。

 最奥部にはまだ遠いが、物理的な攻撃魔法の呪文などとは関わりないためこの辺りで見つけられるはず。

 

 ここまで千雨が来られたのは、地図の存在は勿論だが、電子精霊の存在も大きかった。

 先行させた電子精霊にトラップがないか確認させたり、自分は安全圏に退避した上で、電子精霊たちに敢えてトラップを起動させたり…………多分、千雨一人では地下二階すら到達出来ずに諦めていた可能性が高い。

 

 目的地到着後、千雨は電子精霊たちにめぼしい書物を捜索させ、ついでに自分の所まで持ってこさせていた。

 別に彼らをこき使っているわけではない。素人で一般人の千雨が下手に手を出すと危ないからだ。

 遠目で見ている今も本棚の陰から矢が飛んできたり、床が抜けたりしている。ここは忍者屋敷か。

 

 これは安全上仕方のないことなのだ。

 だから……そう、千雨にはコイツらを手駒としてこき使ってやろうという気は()()()()ない。

 

「ちう様ー、それらしい本を持ってきました!」

 

 書籍を抱え、ふよふよと近づいてくる一匹の電子精霊(ネズミモドキ)

 

 電子精霊にはそれぞれ『ねぎ、きんちゃ、はんぺ、こんにゃ、だいこ、しらたき、ちくわふ』とおでんに因んだ名前が付けられている。

 おでんネタにしては名前が不自然に途切れているのは『四文字』という文字数制限のせいだ。半角カタカナ等と同じく、濁点半濁点も一文字としてカウントされている。今時時代錯誤も甚だしいが、容量不足だというのだからどうしようもなかった。

 

 あと、名前のセンスについては同級生に聞いてほしい。名付け親は千雨の同級生で、千雨自身は命名にノータッチなので。

 もしも千雨が名付けていたら、『ああああ』や『1』、『A』などの適当極まりない名前になっていた可能性が高い。

 どちらのネーミングがマシかは神のみぞ知るといったところか。

 

「何々…………『電子戦の基礎』? 大したこと書かれてねーじゃねぇか」

 

 千雨はパラパラとページを捲ると、溜め息を吐きながら本を閉じる。

 

 電子精霊どころか、ごくごく普通のパソコンのプログラミングレベルの話しかなかったのだ。

 初っ端から当たりを引けるとは考えていなかったが…………さすがに中身が残念すぎる。何でこんな地下に収められているのかは…………多分、文中に『魔法』や『精霊』などの単語が並んでいるからだろう。

 

 機密情報の割に、中身のない内容だった。

 

「はい! 二番手しらたき! いい感じの書物行きます!」

 

「そーゆーノリはいらん。いいから寄越せ――――『よくわかる現代魔法~プログラミング編~』? ふぅん…………」

 

 ペラペラと紙を捲る音が響く。

 

 先ほどより、千雨の求める情報に近い系統の本だ。

 しかし、千雨の持つ知識以上の物はなく、今一つパッとしない。目新しいものがないとでも言うか。

 初心者の入門書としては悪くないのかもしれないが、千雨には得る物がなかったため、サラッと読み流してしまった。

 

 元々、図書館島に来る前に、一通りのことは検索してきたし、電子精霊自身からも簡単なレクチャーを受けた。

 そもそも、実働一回目から激戦で、否が応でもその辺は叩き上げられている。

 

 では何故千雨がわざわざ図書館島まで足を運んだのかというと、昔ながらの裏技など、電子化されていない重要情報があるのではと睨んだからだ。

 

 しかし、これは期待外れかもしれない。そも、技術や情報は日々更新されている。

 魔法の世界もその辺は現実世界と変わらないのか。妙な所で夢がない。

 

 もしかしたら先日マホネットとやらをつついて入手したものが、一番レア度の高い情報だったのかもしれない。

 千雨は段々、そう思い始めていた。

 

 因みにその内容は、魔法世界にある某国家の情報戦部隊がテロリストの電子ハッカーとバトった時の記録である。

 十分過ぎるほどの国家機密(ヤバいネタ)だが、千雨はその辺りの感覚を一時的に麻痺させてしまっていた。日頃から他人から炎上ネタをすっぱ抜いたりしていた上に、初戦が世界の命運を賭けた戦いだった弊害か。

 千雨が後で気付いたら『何で非常識に染まってんだ自分』と噴飯物の事案である。

 

 その後も電子精霊たちは足繁く千雨に本を届け続けたが――――

 

「ちう様! これならどうでしょう!」

 

 電子精霊(こんにゃ)が持ってきた本のタイトルを確認すると大きな文字で『備えよう! 電子ハッキング』と書いてあった。

 

 恐らく魔法使いの家庭用のものだろう。怪しいメールが届いたら開くな、URLをクリックするな、迷ったら何もせず専門家を頼れ、ということと似たような内容が延々と綴られていた。いや、当然文言は違うのだが。結局、ハッキング対策はどこも似通った対策になるのか。

 無論、千雨が得るものはない。

 

「ちう様ちう様ー」

 

 次いで手渡されたのは『よいこの電子戦』。

 丸っこい文字が並び、可愛らしい絵柄の絵本。

 だのに描かれているのは騙し騙されのドロッドロな抗争。昼ドラも真っ青な三角関係。一体どの層に向けたものだ。

 

 物語が二転三転し、やけにドラマチックな展開で、これはこれで読み応えがある。

 だが、これは千雨の望む物ではない。

 

 元あった場所に返却させた。

 

 因みに、先ほどから電子精霊たちが呼んでいる『ちう様』とは千雨のことである。

 その由来は、千雨がブログで用いているハンドルネームで、それ以外の用途はない。

 大人気ネットアイドルの『ちう』と同じなのはあくまでも偶然なので、両者の関係はない。

 そう、()()だ。だから、関係ないったらないのである。

 

「『魔法世界におけるプログラミングの重要性』!」

「重要性を説くばっかで実物の話に全く触れてねえ! 駄文! 次!」

 

「『電子精霊の生態』!」

「ほぉん、新規契約には役立つのかもしれないな。で、お前らはお払い箱でいいのか?」

「いやです!」

「なら働け」

「サー、イエッサー!」

 

「アンカーちくわふ! こちらをどうかお収めください!」

「『電子精霊のきもち』。契約者は精霊に優しくしよう――――って、テメーらの願望ダダ漏れだろーがッ!!」

 

 叫ぶと同時、バンと本を投げつける。

 本は大切に、なんて今後は口が裂けても他人には言えそうにない行為である。

 というか、これだけ本が山のようにあるのにハズレしか引いていないのは何故だ。

 

 大声を出したおかげか、少しだけ冷静になった千雨。

 

 本に当たっても事態は変わらない。

 図書館島の蔵書のおかしさは、ここを管理している魔法先生のせいである。

 つまり、麻帆良が全部悪い。

 

 本を拾いに行こうかな、と視線を上げた時、

 

「あ」

 

 つい、声が漏れる。

 先ほどの本を投擲した衝撃のせいか、何かが書架から落ちたのが見えたのだ。

 

 床に落下したのは――――一冊の古びたハードカバー書。

 

「…………何だこの本?」

 

 何の本か覗き込んだが、書名が読めなかった。

 

 日本語は勿論のこと、英語でもないだろう。千雨の英語の成績は特段優れているわけではないが、英語か否かの判別ぐらいはできる。

 そもそも現行のアルファベットですらなさそうだ。

 西洋魔法によく用いられているというラテン語やギリシャ語か、と思ったが――――

 

「データベースに該当言語なしです」

「一般目録にも見当たりません」

「魔法の書物の類かとー」

 

 と口々に電子精霊が言う。

 

 さすが麻帆良、正体不明品(そんな物)まであるのか。

 二割関心、八割呆れながら、千雨は古本を元あった書架に戻そうと手に取った。取ってしまった。

 

 魔法の品(ひじょうしき)に、安易に手を出すべきではなかったのに。

 

 

 

 

 

 そうして――――気づいた時、既に千雨は魔界に迷い込んでいた。

 

 屋内にいたのに、何故か屋外、それも明らかに麻帆良ではない場所。というか現実とは思いがたい風景に、しばし呆然となる千雨。

 

 そして、カチコチに固まっていた千雨を轢きかけた馬車に乗っていたのが悪魔のサリバンであり、その孫(ということになっている)人間の鈴木(すずき)入間(いるま)だった。

 

 混乱する千雨を見て事情を察し、すぐにここが『魔界』であると説明し始めたサリバン。

 幸いだったのは、彼らが下校途中だったということだろう。馬車内で簡単な説明を受けながら、千雨は即座にサリバンの邸宅まで連れて行かれた。

 

 この時の千雨には知る由もないが、魔界の大多数の悪魔にとって、人間は『存在しているかわからないけど何かすげー食い物』である。

 もしもそのまま外に放置されていたら一体どうなっていたことやら。

 

「――――気付いたら魔界(ここ)にいた、か」

 

 千雨の対面に座るのは悪魔、サリバン。

 禿頭に角が二本、まあるいレンズの眼鏡のせいで視線は読めない。好々爺然とした御仁であるが、悪魔である。

 

 そう、悪魔。魔法使いだけでも頭が痛いのに。

 

 当然、千雨は魔界だなんて危険で非常識な場所に長居したくない。

 こちらからもアレコレと情報を開示し、何とか帰る方法がないかと訊ねたのだが、

 

「うん、()()()()無理だね」

 

 肩を落としそうになったが、彼の含みを持たせた言い方に千雨は気づいた。

 

「『すぐには』ということは――――」

 

「君が言ったように、そのカードに感じる微かな繋がりを辿れば、元いた場所に君を帰してあげるのは不可能ではないだろう」

 

 だが、とサリバンは言葉を続ける。

 

「人間界への干渉は禁じられている」

 

 重苦しい声に息が詰まりそうになる。

 あまりの重圧感。しかし、サリバンの後ろに立っている入間の存在に千雨は気持ちを持ち直す。

 

 そうだ。こいつ、間違いなく一度は()っている。そこを攻めれば、あるいは…………。

 何らかの譲歩、ないし保障がなければ千雨とて引き下がれない。何せ、自分の命に関わる問題なので。

 千雨は必死だった。

 

「でもあなた、一度やってますよね? なら、二回やるのも同じでは?」

 

「うーん、でも君の場合は微妙に運命が捻繰れているからねー」

 

「…………それ、私がひねくれ者って意味ですか?」

 

「まー当たらずとも遠からずというか。ともかく、膨大な魔力と繊細な術式が必要だから、すぐには帰せないってこと」

 

 魔関署にバレたくないしね! あ、滞在中の衣食住の保障はするよ。その代わり入間くんの相手になってね。

 と、手をヒラヒラさせるサリバン。

 

 この口振りだと、魔界には人間界との関わりを制限する組織があるのだろう。『魔関署』というのが組織の名前か。

 

 しかし、どうもこの悪魔、ノリが軽い。

 いや、悪魔だということはこれっぽっちも疑っていないのだが。

 

 答えは一つしかない。

 

「――――わかりました」

 

「おや、やけに素直だね?」

 

「こちらが頼んでいるわけですし」

 

 悪魔相手にそのぐらいの対価なら、甘んじて受け入れるべきだろう。

 向こうにも生活がある。彼らが原因というわけでもないのに、それを無理やり破壊させるのは、いくら悪魔相手でも気が引けた。

 

 そう、今回の事態は千雨の自業自得に近いのだ。

 あの時図書館島に行かなければ。如何にもな怪しい本に直接触れなければ――――。いくら後悔しても手遅れなのだが。

 

 ともあれ、衣食住の保障は得られた。

 だから、帰れるまでしばらくの辛抱だ。

 

「オッケー。それじゃあ、そうと決まれば早速準備だ」

 

「あの…………準備って、何の?」

 

「うん? そりゃあ学校の」

 

「はい?」

 

 まさか魔界に人間の学校があるのか――――と思いきや、入学先は悪魔学校・バビルスだという。

 在校生は疎か、教師やその他関係者全員が悪魔だ。

 

 当然、千雨は拒否しようとしたが、

 

「入間くん目立ちたくないって言ってたしー、友達多い方が入間くんが楽しいだろうからー」

 

 終始『入間のため』と口にするサリバン。

 その後ろで入間がペコペコ頭を下げているのが見えた。

 なるほど、何故魔界にいるのかは不明だが、彼はよほど悪魔(サリバン)に可愛がられているらしい。

 

 そして何となくだが千雨は彼のタイプを察した。

 彼は生粋のお人好し、かつトラブルメーカーだ。

 

 ちょうど麻帆良学園で教師として修行中の魔法使い、ネギ・スプリングフィールドが似たようなタイプだった。

 毎度トラブルによるストレス被害を被っていた千雨にはわかる。このタイプは本人の意識・無意識に関わらず、周囲を引っ掻き回していくのだ。

 

 サリバンは早速、使用人らしい悪魔のオペラと一緒に、千雨転入のための算段を始めていた。

 既に彼の中で千雨が悪魔学校に入るのは確定事項なのだろう。力関係的にも否とは言えない。

 

 悪魔のサリバンは勿論恐ろしいが、入間への溺愛っぷりを見るに、入間とのトラブルも厳禁だろう。

 

 こうして千雨の、サリバン(とついでに入間)のご機嫌を伺いながらの魔界生活が始まった。

 

 

 因みに、千雨にとっての第一関門は食事だった模様。

 むしろ何故このゲテモノにしか見えない料理をムシャムシャと平らげられるんだ、入間は。

 

 

 

 

 

 悪魔学校(バビルス)での日々は、麻帆良学園に負けず劣らず、騒動の連続だった。

 

 

 まず、サリバンが理事長を勤める悪魔学校(バビルス)に『転入』と称して入学させられた千雨。

 周りは入間以外、全員が悪魔だ。

 悪魔学校に向かう直前、人間の匂いを消すという特殊な香水を振りかけられながら『人間だとバレたら食べられちゃうかもしれない』と入間に聞かされ、千雨の心臓は縮みあがった。

 ちょっと待て。命の危険があるとか聞いてない。

 

 半端な時期の新顔となれば、当然注目は集まる。つまり千雨は、目立ちたくない入間の代わりに耳目を集める囮なわけだ。

 ここでの千雨は入間の親戚、つまり理事長(サリバン)の関係者という設定だった。

 まあ『入間と親戚』というのは種族的な意味では間違っていない。人間は二人しかいないし。

 

 入間と同じ『問題児(アブノーマル)クラス』に組み込まれた千雨は、想定通りそこそこ悪魔たちの関心を集めた。

 が、それ以上に入間が目立つ事態が多発したため、千雨がスケープゴートの役割をどれだけ果たせたかは不明だった。

 

 

 千雨は初授業の前に、ナベリウス・カルエゴ監督の下、使い魔召喚をやらされることになった。

 イレギュラーな『転入生』に対応し、十段階ある悪魔としての位階(ランク)を測るためだという。

 

 使い魔召喚について、入間から事前に『うっかりカルエゴ先生を使い魔にしちゃった』と顛末を聞いていた千雨。

 設定上の親戚とはいえさすがに二人連続で同じことが起こっては怪しまれるだろう、と千雨は何とか電子精霊を使い魔だと誤魔化した。

 

 因みに、厳粛を旨とするカルエゴに誤魔化しが効いたのは、千雨を心配した入間が側で見守っていたおかげである。『悪魔が使い魔にされる』という前代未聞の恥辱を思い出すこともあり、カルエゴは入間に並々ならぬ感情を抱いていた。

 

 なお、千雨の位階(ランク)は『(ベト)』になった。未確認の魔獣=電子精霊が評価された結果らしい。

 先日『(ベト)』に昇級していたという入間とお揃いである。

 

 

 魔術が使えないと人間だとバレるかもと聞き、急いで入間の持つ『悪食の指輪』と同じ魔力を貯蔵できる道具をサリバンに用立ててもらったり。

 入間に付き合って魔具研究師団(バトラ)に入ったはいいが、師団(バトラ)唯一の先輩であるアミィ・キリヲが『悪魔学校(バビルス)をぶっ壊す』とんでもない計画をしていて、それを食い止めるために奔走したりもした。

 

 麻帆良祭といい、師団(バトラ)披露(パーティー)といい、つくづく企てに巻き込まれる千雨であった。

 

 

 なお、千雨がストレス解消のために執筆していた、オフラインストレージのブログ記事は増え続けた。

 

 





 ネタバレは悪い文明! 粉砕する!
 ということで、ネタバレ防止のため来週に続く!!

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