かっちゃんと一応の決着をつけるところまで書くつもりです。
2/25:ちょっと追記
第1話 All or Nothing
…違うね
確かに姿が変わっただけなら同じ人間だ。
だが、立場と財産と周囲の人間の態度が変われば…
もう別の人間なんだ。
―パワプロクンポケット5
**
今日はすがすがしい晴天だった。
少年の心とは真逆で、彼一人だけが世界から疎外されているかのよう。
焼けつく夕焼けも敵に回っている。
目の前に広がるのは、鉄コンクリートで作られた峡谷。
凝らして見れば、遠くに底が見える。
そこにたどり着くのは、そう難しいことではない。
ただ、身をその中に投げるだけでいい。
少年はビル屋上の”外側”にいた。
自らを支えているのは、自分の両手と両足。
手を離しさえば三点の固定ではなくなり、その場から零れ落ちることだろう。
それは糸の切れた人形のように終焉を迎えること間違いなしである。
『君は、ヒーローになれない』
誰かが、直接そう言った訳ではない。
だが、周囲の態度はあまりにも正直だった。
「”個性”がなくとも成り立つとは。とてもじゃないがあ、口にできないね」
緑谷出久は無力だった。
個性社会においては、無個性であることが個性的であるだけ。
それも所詮、全人口の2割を占める程度でしかない。
彼は夢見がちで諦めきれない。
そんな、どこにでもいる普通の少年だ。
彼には人を助けるだけの”
「夢見るのは悪い事じゃない。だが、相応に現実も見なくてはな。少年」
ヒーローでなくても、生き方はある。
ただ、あまりにも彼は若く、何より純粋すぎた。
少年には、ヒーロー以外の生き方を目指せなかった。
人間は生まれながらに不平等である。
それは彼が4つの時に知った真実。
そして少年は。
二度目の挫折を経験することになるのだ。
**
「『何をしているの』とは言わないけど。貴方、酷い顔ね」
気が付くと少年はビル屋上の内側にいた。
身動きできない宙ぶらりん状態で、制服のベルトが何かに吊られている。
良く見ると、デリッククレーンが少女の背中から生えていて。
恐らくは彼女が助けてくれたのだろうと思われる。
少年の身体を支えれる重心には見えないが、実際こうして支えている。
もしかしなくても個性関係だろう。
「あの。どうしてここに?」
ゆっくりとクレーンから降ろされて。
少年は改めて少女を見るのだった。
「下から見えたのよ。私も死にたいと思ったことはあるけど。困っている人は職業柄、見過ごす訳にはいかないの。不満かしら」
「い、いえ」
銀髪に、やけにスマートな痩せ気味の身体。
頭の辺りに宙に固定された耳のようなものがある。
むすっとした顔立ちは整っているが、紅眼はひどく淀んでいた。
少年が憧れる”彼”も画風が違っていたが。
彼女もそれ以上に、ナニカが違っているようだった。
「そうやって人をじろじろ見るのは感心しないわね」
少年はヒーローおたくではあったが。
彼女のようなヒーローは知らない。
それならば、彼女はヒーローではないのだろう。
「あなたは?」
「人を尋ねる時はね。ま、いいわ。教えてあげる」
ため息交じりに彼女は目線をそらした。
その動作に少年は、どこか共感を感じる所がある。
「
国家公務員や警備員の人かと思ったが。
それも違ったようだ。
叢雲重工とは、だれでも名前ぐらいは知っている。
機械メーカーであり、ヒーローと無関係というわけではないが。
「ここで話をするのも癪ね。食事ぐらいなら奢るわよ。もう一度飛び降りようとされても困るし」
連れてこられたはロイヤルホステス。
美味しいメニューを提供するファミレスであり。
気軽に行くにはちょっと躊躇う程度に高い。
少なくとも中学生である出久は、親に一度連れて行ってもらった記憶しかない。
「食べたいものは?」
「いえ、特には」
「じゃあ、オニオンスープとドリンクバー二つずつ。お願いするわ」
少年は食べる気分ではない。
とはいえ、この状況で断ることもできない。
望んだことではないとはいえ、命の恩人の好意である。
少女は席を少し立つと、ドリンクを両手に持って帰ってきた。
そして自分の方にブラックコーヒーを。
彼の方にカフェモカを。
そして、オニオンスープは最高記録的に美味しかった。
「自分の自己紹介は済ませたけど。貴方のこと何も知らないわね。話してみなさい。聴いてあげる」
少年は少しずつと語りだすのだ。
個性的な社会の中で、自身が無個性であること。
まもなく高校受験が控えていること。
そして、No.1ヒーローであるオールマイトと出会って話としたことを。
「へえ。貴方、無個性なのね」
彼が無個性であると知った人間は、それぞれ様々な反応を見せる。
軽蔑、激励、無関心、哀憫、あるいは―。
彼女は頬杖をつきながら、その話に相槌を打っていた。
片手には鉛筆が握られていて、断続的に軽いメモをとっている。
彼女の行動は、どちらかというと”観察”といったもの。
ペット屋に入って、これから買うハムスターの群れを見定めているような。
「つまり、あなたはヒーローを目指していて。オールマイトと出会って。その姿に幻滅したのね」
「違います! オールマイトは間違いなくヒーローなんだ!」
それは確かにショックだった。
世間に公表されていないが、彼は負傷により弱体化していたのだ。
だが、決して幻滅ではないのだ。
彼はそんな状況でも不敵に笑っていたのだ。
それでも、彼は確かにヒーローに違いないのだ。
今も、そしてこれからも、きっと。
「ああ。御免なさい。私、ヒーローが身近にいるって感覚に慣れないのよ」
「? そうですか」
彼女はややズレたことを言い出した。
この世にはヒーローがまっとうな職業として認められているのだ。
テレビやネットを見てれば、そう意識しなくとも簡単に情報が入ってくる時代であり。
現実のヴィランの犯罪に、容易く巻き込まれる時代でもある。
個性があれば当然だろうに、彼女はどこのお嬢様なのだろうか。
「どんな気分なのかしらね。漫画のヒーローが実在するって。『スーパーマンは実在します。そして彼はアメリカ人です*1』なんて」
彼女は微笑もうとしているように見える。
しかし、それは眼が全く笑っていない笑みである。
その姿は、この国で笑っていると言わない。
「じゃあ、個性を手に入れる手術があるって知ったらどうする?」
無個性でなくなれば、多少は状況が改善するのかもねー。
と、全くそう思ってなさそうな棒読みで付け加える。
「へ」
だが、少年にとって”ありえない”話だ。
何しろ、”個性”が世間に現れてから現在の科学は殆どと言っていいほど発展していない。
そんな個性の問題が、果たして科学で解決できるものなのか。
仮にあったとしても、”まとも”とは思えない。
「な、何を。でも、個性を与えるなんて、そんな話」
「これよ。あまり大きな声では言えないけど。国からの認可は受けているわ」
彼女はミニタブレットを取り出して、手元で操作し始める。
見せてきたのは叢雲重工グループのホームぺージ。
その活動内容の中に、”無個性の者への福祉支援”と書かれていた。
写真には無個性だと思われる女性の嬉しそうな笑顔が映っている。
そして、詳細はお問い合わせ下さい、とも。
「僕にも、個性を?」
世間一般では個性の使用が禁止されている以上、無個性であることが責められない。
だが、個性があるということが一般的であるこの世の中、無個性であることは不幸なことである。
最低限の人権が保障される以上、最低限の幸福や社会的援助が得られるべきだ。
―それが、個性的なことであっても?
「言っておくけど。個性があっても、ヒーローになれるかは別でしょ」
少女は険しい表情で。
手慣れたように溜め息をつく。
「個性はさしずめ、『無いと気持ち悪いが。あっても食えるわけではない』 と言った所かしらね」
「その通りさ。個性がなくたって、ヒーローが出来ない訳じゃない」
いるはずのない横からの声が聞こえ、少年は思わずその方向を見る。
白いメッシュの入った紺色の髪に、リクルートスーツ姿の女性。
スーツの上からでも分かる肉付きよしスタイルもよしで。
頭上にはとんがった耳がついている。
そんな大人の女性が、馴れ馴れしく少年の横に座っていた。
「奇遇ね、オオカミ先生。悪いけど仕事中よ。
「そうはいかんよ。健全な男子をたぶらかす悪い大人を見かけて。黙って見てはいられんさ。イヒヒ」
正面の少女はちらりと目を向けただけで、淡々と対応している。
横の女性は自信はたっぷりで、少年には出来ない獰猛な笑みをしている。
どうやら、お互い知らぬ仲ではないらしい。
「えと。あなたは?」
「私の名はフォックスハウンド。
そういって女性は、どこからともなく一枚のDISCを取り出した。
いかなる手品を使ったのか、何処から出てきたのか分からなかった。
DISCは奇妙なことに、フロッピーのごとく弾力があるようだ。
「よっと」
その手に持っているDISCを、あろうことか少年に突っ込んできた。
ぶつけられた何かしらの衝撃が走ると思いきや。
なんとDISCが彼の身体に貫通して突き刺さった。
「え、な、あ?」
その瞬間、少年の後ろに
人型であるが、人でない。
きらめく緑色をした帯状の人型で、大量のエネルギー弾を打ち出すことができる。
そしてその像は、生まれつき持っていた手足のごとく自由に動かせる。
その個性、いや。
このスタンドの名は―。
「は、”
「そらよっと」
「わ!」
また突然に、今度はDISCを引っこ抜いた。
すると像がどんどん薄れていき。
最後には先ほどの記憶と奇妙な脱力感だけが残った。
「おわかり? ま、私がこいつの同業者ってことは理解してくれたかね」
個性が得られた全能感と、それを失った拒絶感。
少年は混乱の極みにあった。
そしてと手に入った情報を必死にまとめようと。
ぶつぶつと独り言のように繰り返す。
「どうして」
その問いは、必然のもの。
どうして今まで助けてくれなかったとかではない。
だが、思うところはある。
「ん?」
「どうして、僕に?」
能力を与えることができるとしても、その意図がわからない。
個性因子に選ばれなかった少年は、今になって自分が選ばれたことに困惑しているのだ。
「私は事業の一環よ。あなたが偶々無個性だって分かったから、誘ってみただけ」
少女は暗に、他にも助けていると表現する。
大っぴらに言えないこともあるらしいが。
現にこうして助けてくれてはいる。
ある程度は積極的な行動であるようだった。
「私は、コイツのやり口に問題を感じたからさ」
こちらの意図はよくわからない。
ただ、少女と敵対しようとしているという感じはする。
あるいは味方面して、少年を騙すつもりなのかもしれないが。
「こいつの与える能力って、異形型の上に不可逆性だからな。私のは色々あるし。貸し与えるだけだから、気に入らなければ取出せる」
女性のいう事も、確かに一里ある。
個性を渡すということがリスクなのだ。
シャンプーを買う時だって、まず試供品を使って確かめるのが良いだろう。
そうした方が、リスクは遥かに少ない。
個性といえど、身体が変わることは大リスクである。
少女はそれに反論もすることなく、ただ当然とばかりに頷いている。
「別に、結論は急ぐ必要はないわ。これ、私の連絡先。気になったら、色々調べてみなさい」
少年の前に、一枚のパンフレットと名刺が渡された。
そうしてレストランの注文票をもって、この場から去っていった。
「私は会社勤めじゃないんでね。私のケー番を渡しておくぜ」
女性は少女のカップに手をやってから、紙ナプキン目掛けて何かを振りかけた。
振りかけた先には電話番号と精密なイラストが描かれていた。
この一瞬の内に、コーヒーを使って描いたのか。
まさか。
「じゃーね。少年。人生は長いんだ。ゆっくり悩むといい」
去っていく二人に対し、少年は何も言えなかった。
少年は自らの身を顧みずに他人を助けることができる。
そうでなければ、とてもヒーローなんて名乗れない故に。
とっさの行動ができるかは、ヒーローにとって何よりも大切なことである。
そして、彼は頭も悪くない。
筆記試験を受けて、どんな試験でも合格することが可能である。
そうでなければヒーローとして認められないのだから。
しかし、何故か。
”考えるより先に体が動かなかったのだ”。
自分はすぐにでも、助けを求めるべきなのかもしれないのに。
―僕は、どうしたらいいんだろう?
**
これは、最高のヒーローを目指す青春物語ではない。
人々に刻まれた、太古の忌々しい呪いの物語である。
*オリ主たちについて補足*
彼らは別作品の主人公ですが。
今作では脇役なので、今後あんまり補足しないつもり。
・叢雲
容姿:艦これの叢雲
出身地:現実 + 艦これ
属性:混沌・悪
能力:現実改変 + 集合意識(断固たる殺戮機械 + 独善的な奉仕機械 + 暴走する同化機械)
・フォックスハウンド
容姿:けもフレのタイリクオオカミ + プリコネのキャルちゃん
出身地:対魔忍アサギの平行世界
属性:中立・中庸
能力:ジョジョのスタンド全DISC
・???
容姿:
出身地:艦隊これくしょん
属性:秩序・悪
能力: