やだやだ原作には勝てませんねえ。
4/12 ちょっと修正
―時はヴィラン襲撃より遡って。
わざと薄暗くした病院の一室。
道士服を着た狼女が慣れた手つきで机の上のタロットを弄る。
手で虹をさっと描くと、軌道にはカードが並んでいる。
「雄英にヴィランが攻めてくる」
並んだカードを一枚どうぞ、とローンに示す。
その様子を叢雲は片眉を吊り上げ。
うさんくさそうにしながら見つめていた。
「本当なのですね」
「ああ。私の占いは100%当たる。分かりやすく説明すると、サー・ナイトアイの個性を技術で再現したものさ」
狼女は相手に選ばせた一枚のカードを裏返す。
そこには、ラブリーな動物たちの死体とその上に立つポップな骸骨が描かれていた。
大アルカナ十三番目のカード、死神の逆位置。
それは終わりと誕生を意味する。
「サー・ナイトアイと同じって、それはもう個性なのでは?」
「失礼な。これは私のれっきとした努力の成果さ」
(この姿やスタンドでなくとも、そっちを教えれば良いのに)
数多のスタンドの”DISC”を持つ女、フォックスハウンド。
彼女持つのスタンドは、優れた技術がスタンドに昇華されたものも含まれている。
運命に縛られるジョジョ世界の法則を学び、彼女は運命を見通す力を持つに至ったのだ。
「で、やっこさんたち。授業中にオールマイトを殺害しようと来るんだが。お前さん、それで死ぬぜ」
死ぬほど有能だったジョジョ世界の占い師たち。
彼らは運命という言葉に関して、絶対的な確信を持っていた。
その予言は同一世界であれば確実に的中する。
「死ぬ。ですか」
「ほら、生命線が短いし死相も出てる。ここまで明らかな奴も珍しいな」
若い彼女だが、死というものに大分近い存在だ。
自らの消滅を考えても、身を投げることはなかった故。
死ぬ、といわれてある程度は思うところがある。
「それって、この子に運のパラメータが0なことに関係している?」
「ああ。少年は言わば、胎児のまま外に出てきた赤子のようなものさ。生きているのが不思議なぐらいだね」
人間は良くも悪くもその能力に縛られる。
艦の擬人化による身体を持つ彼女は、その経歴を無視できない。
つまりの所、彼女の行動の結果は”裏付けがない”という事に収着する事になる。
「今回を乗り越えてもダメという風に聞こえるのですが。どうにかできませんか?」
彼女としても、死は怖くはないが困ることである。
何しろ、それは何もまだ成していないゆえに。
「私がしてやれんこともないがね。少年のローンとしての認識を上げれば、多少はマシになるだろうが。オススメはできんよ」
「う」
それは、あの深淵のような人格を呼び起こすことを意味する。
それとしても、今でも表面上が大分侵食されている自覚はある。
これ以上はちょっと遠慮願いたいところだ。
「話を続けるが、襲撃予定地は
ネットから手に入れた地図と。
どこから手に入れたのか、雄英内部の地図に赤ペンで書きこんでいく。
彼女の予言は真偽がどうであれ、決して無視はできまい。
犯罪予告は普通に警察案件だからだ。
「私は、どうすればいいですか?」
「少年をここに配置する。とびっきりの大凶だ」
カルト宗教の祖、ケンゾーの”暗殺風水”。
それは安全地帯と危険地帯を見分ける技術である。
吉なら安全、凶なら危険といったように。
「私に死ね、と」
視界の良い場所に描かれる、”大凶”の丸マーク。
今までの話をまとめると、自分はそこで死ぬように聞こえる。
「そ。覚悟を決めな」
「ちょっと待ちなさい。保護者として流石にそれは見過ごせないわ。てか、アンタが死になさいよ」
「ヒーローでもない一般人が表立って関わるなってさー。けらけら」
超越者二人が直接出向けば、問題はあっさり解決するだろう。
だが、この二人にはそれをする背景がない。
そして何より、ローンの死は確定しているのだ。
まずはこれが問題だろう。
「良く聞け、二人とも。ここは運命が強すぎる。誰かが占領しないと生徒が踏んじまうんだ」
彼女にとって運命とはどうしようもないパワーである。
決まった運命からは逃れる事ができず、抗えばより酷くなる。
重要なのは、それを知った上でどうするか、だ。
死ぬと死ね、似た言葉ではあるが、この二つには大きな差がある。
「だから、ここを死守しろ。これは他の誰かじゃ任せられん。それが出来ればお前は英雄さ」
時は進んで、USJ襲撃事件の直後の校長室。
これまでの会話を思い出し、叢雲はため息をついた。
(あの駄犬。そう言ったら、あの子が止まる訳ないじゃないの)
茶と菓子を面白くなさそうにつまむ。
彼女の傍らには、赤黒い細見のロボット(?)が護衛している。
ロボットは人ひとりが入ってそうな大きさで、感情を見せることなく静かに佇んでいる。
「今回の件は、あってはならないことだ」
「あなた方が責任を感じる必要はないわ」
校長の根津が、感情が読み取りづらいネズミの表情で呟く。
叢雲はそれに頷いて、同情する。
「空間能力者が相手にいる以上、誰がやったって最初から負けよ。本来なら空間系って国や企業が囲うべき人材なのに。たとえアイテムボックス系でも」
「その点は同意だがね。君たちにはアカギ君がいるとはいえ、アレはかなり珍しい個性さ。あそこまでのは、恐らく世界でもオンリーワンと言っていい」
ヴィランによる、USJ襲撃。
それは少なくない衝撃を各方面に与えることになった。
嫌が応でも、現体制の弱さを露見させることとなったのだ
「それに脳無という怪人だ。オールマイト級というだけあって、恐らく対応できるヒーローはほんの一握りだろう」
オールマイトの現状を考えると、恐らく彼でも苦戦したであろう。
早い話、ワープの個性で脳無のような戦力をもっと投入されていたら負けていた。
損害を与えたいなら黒霧だけで事足りるし。
そうでなくても脳無を適当に暴れさせるだけで死者がたくさん出たのだから。
つまりワープの個性が色々と反則な以上、負けはほぼ確定だった。
負けなかったのは、単に相手の目的がハッキリ分かっていたからに他ならない。
「これが単なる”経験値稼ぎ”に過ぎないということが驚きだよ」
ワープ能力を持つ黒霧、オールマイト級のフィジカルを持つ脳無。
それと比較すると、死柄木という存在はあまりに弱かった。
そして、彼が”先生”と呼ぶ存在。
それらが意味すること、つまり相手の目的は死柄木のレベリングであった。
故に今回は相手に適当に暴れてもらって、お帰り願うことになった。
こちらに損害はあったが、結果だけは大体予定通りの結果だ。
「そういや、そのご自慢のオールマイト達はどうしたの?」
そういえば、トップヒーローが学校にいるのに。
彼はその時、何をしていたのだろうか。
「ああ。丁度、同時期にライバル連合と名乗る敵が現れてね。彼らはそっちの対処に追われていたんだ」
今回のUSJでの授業は男女別で行われていた。
女子がUSJで授業を受けている間、男子はオールマイトと別の授業を受けていたのだ。
そしてその際に、謎の襲撃が起きたのだ。
「あまりにタイミングが良すぎるんで、君らの関係者と思ったが。何か知らないかい?」
「ちょっと失礼するわ」
叢雲は耳のアレを動かして、遠くとの通信を取る。
目標はUSJ方面。
「アカギ。只今、参りました」
そうすると、アカギが炎を伴って飛んできた。
それこそワープのように、一瞬の出来事である。
「ご苦労様。大丈夫そうだった?」
「ええ。轟沈状態、と言うべきでした。スタンドも消滅していたので間違いないでしょう」
「そっか。その程度なら蘇生できるわね」
両手には動かないローンを抱きかかえている。
切断された身体はくっついているが、眼は開きっぱなしであった。
「あの。指揮官様ぁ? アカギは今からでも、学生としての身分を放棄してもよいのですが」
突如、アカギがやや媚びる声色で提案する。
今回の件で、何か思うところがあるようだが。
「二度も言わせないで。貴女は学生の身分を乞い、私はそれを許したのよ。学生の手を借りないといけない程、私たちは困窮しているの?」
「失礼しました」
しかし、それはピシャリと止められる。
「貴女やあの子もそうだけど。いくら強くても、選択肢の無い人間が怖いとは思えないのよね」
「うぐ」
「選べない人間、か。良い言葉だね。あの連中にも言ってやりたいよ」
アカギはばつが悪そうにしながら。
本題に入ろうと、通信を介したひみつの会話を始める。
(で。アカギ、ライバル連合って?)
(ライバルオールスターでしたわ。Dr,マシリトや赤カブトといった、少年ジャンプ黄金期の悪役という意味で、ですが)
授業中に突如現れた、ヴィランではない”強敵”たち。
世紀末覇者ラオウや柱の男エシディシ、双子座のサガといった強敵は、優秀なヒーローの卵たちでも苦戦を免れなかった。
ヒーロー側がある程度疲弊した所で、彼らは霧のように去っていったのである。
(そんな面白そうなことをやるのは、あいつしかいない。”
(恐らく、ヒーロー側の経験値として配置したのかと)
(この世界に神やゲッター線の類がいないからって好き勝手やってるな)
いらん気を効かして、ヒーロー男子たちのために用意したのだろう。
本人に問い詰めれば、あいつらも戦う運命にあった、とか抜かすのだろうが。
「ライバルの件はそうね。私の方から、あのおっぱいワンワンをこってり絞っておくわ」
分かっていたことだが、彼女は完全な味方という訳でもない。
恐らく面白さのためなら、なんだってする。
問題は、例えそうであっても敵でも味方でも何でもないという所である。
何度目かも分からぬため息をついた。
「今回の被害は最小限に抑えられた。あの子は蘇生予定で、明日には授業も復帰できる。そのことを今は喜ぶべきね」
とはいえ、今回の件で死人は出なかったことになる。
これで死人が出ていたのなら、もっと酷い事になっていただろう。
そういった意味で、ローンはよくやってくれた。
「ありがとう。とはいえ、私は責任者だ。少なからず責任を負わねばならないさ」
「じゃあ叢雲から”圧力”をかけるわね。あの資料を」
それまで押し黙っていた護衛が、叢雲達にタブレットを手渡した。
校長は唸りながら、そのページをめくっていく。
「全てを採用できる訳ではないが。これは特に反発が大きそうだ」
「それでこそ、でしょ」
そのページには無骨な人型ロボットと。
郵便マークのアイコンが紹介されている。
「対個性ロボットの”センチネル”と全自動警備システムの”サッチー”。やっぱりこういうのの反発は大きいのかしら」
「僕としては、抵抗はないさ」
「ロボットの採用は難しいというけど。やっぱり嫌悪感が強いんだ」
根津校長の個性は”ハイスペック”。
頭脳派であり、正面切っての戦闘は苦手である。
その分、何でも使えるものは使う姿勢を持っている。
とはいえヒーロー側なので、本当に何でも、という訳にはいかないものだ。
「単なる我儘だよ。誰でも使える武器がヴィランの手に渡ったらどうするんだ、だとか。人間じゃないと信頼できないってね」
「家畜としての自覚が無いなあ」
人間社会に溶け込んではいるものの、この場にいる全員は人間ではない。
彼らからすれば、人間は愚か極まりない存在だ。
「私たちはヒーローという存在に甘えているのさ。人材不足の怠慢を、少数精鋭だと言い張ることでね」
「まるで、神風が十回くらい吹けば勝てるとでも言うつもりなのかしら。ヴィランとの戦い、勝てなさそうね」
そして、愚か極まりないからこそ脅威に値する。
彼らは人間に対して恐怖すら抱いているし、人間に媚びている。
「やっぱ。ヒーローもヴィランも廃止しなきゃな」
叢雲がぱらぱらと手元の電子書類をめくる。
めくったページには”キーン法案”と書かれている。
「流石の僕も、そこまでは協力できないぜ」
「別にいいわ。あなたはただ、そこで見ていればいい。私たちにはそれだけで十分よ」
そこで、傍らに控えていたアカギがうっとりとため息をついた。
「ヒーローやヴィランがいない世界、ですか。ある意味理想ではあるのですよね」
「不満?」
まさか、と。
アカギは酷薄に笑う。
「どんなに形を変えようと、人の世から戦いはなくなりません。その中で、
しかし、その表情を途端に一転させる。
その表情は優しさに満ちた物憂げだ。
「しかし、ヒーローの廃止は緑谷少年の願いと相反するのでは?」
「別にそうでもないでしょ? 彼の願いもちゃんと叶えるつもりよ。約束したんだし」
緑谷少年の願いはオールマイトのようなヒーローになること。
この願いはヒーロー業の廃止と矛盾するはずである。
だが、叢雲の中では全く矛盾していないと考える。
「ヒーローが居なくなった世界で、最高のヒーローになる。そして彼は、個性やらヒーローの仕事なんかじゃない”本当に欲しかったもの”の正体を見る。それってきっと素敵なことよ」
その世界なら確かに最高のヒーローになれるのだろう。
何せ、他にヒーローがいないのだから。
「彼、絶対止めようとするでしょうね」
「悪いけど。この件に関しては、貴方達の立ち入る余地はないの」
叢雲は露骨にそっぽを向く。
「子供が戦わないといけない程、私達は落ちぶれていないわ。貴方たちは貴方たちだけのために戦いなさい」
「ああ。良い言葉だ」
とはいえ彼女達にとって、人助けは本当に慈善事業でしかない。
助けた奴を利用しようとか、そういう思想は一切なかった。
利用するとしても、全てが終わってから。
その時にまた、改めて聞くのだろう。
「これで人間は変われるのだろうか?」
**
静かな夜の街にひっそりとたたずむ小さなバー。
その建屋の中で男二人、黒霧と死柄木は息も絶え絶えに伏せていた。
「どうなってるんだ。先生。オールマイトには会う事すら叶わなかったぞ」
二人の傍らには、電源だけ入ったカラオケマシーンが何処とも知れない場所と通信している。
黒い画面は何も映していないが、スピーカーから声が聞こえてくる。
『ヒーロー側に、こちらの作戦を見抜いていた人物が居た。あまり驚くことではないさ』
先生と呼ばれる彼こそはオール・フォー・ワン。
個性が現れた初期の頃から生き続ける、裏社会の伝説的ヴィランである。
かつてオールマイトと争って敗北し、今は復讐の機会を狙っている。
『とはいえ、ヒーローの無力さは十分に示したんだろう?』
スピーカーから優しい声色で語り掛ける。
死柄木は少しの間、押し黙った。
「ああ」
『失敗しても大丈夫。次の君なら、もっと上手くやれるさ』
二人の関係は、まさに理想的な先生と出来の悪い生徒の関係である。
やったことが犯罪でなければ、どんなに美しかったことだろう。
『まて、儂の脳無はどうした?』
そこで、異常に気付いた別の声がスピーカ-から聞こえる。
「おい、黒霧。脳無はどこにやった」
ようやく事態に気付いた死柄木も黒霧につっかかる。
ついさっきまでそこにいたはずの、脳無の存在がいつの間にか消えているのだ。
「は。いえ。私は先ほど起きたばかりでして」
「とぼけるな。先生とお前以外に誰ができると言うんだ」
当然、この場にいる人間は限られるわけで。
死柄木の推測もあながち悪いとは言い切れなかった。
『あの場にいたヒーローの個性かな?』
(流石はオール・フォー・ワン。半分は当たってるよ)
いつからかは知らないが、死柄木の服に小さく折りたたまれた紙がひっついている。
これこそがあらゆるものを紙にするスタンド”エニグマ”の能力。
フォックスハウンドはその能力で自身を紙にし。
USJで待ち伏せすることで、ここまで付いてきたのだった。
(脳無を”エニグマの紙”にするのは簡単だったぜ。恐れを知らぬ者はノミも同然よの。当たり前だよなぁ)
彼女の目的は、ヴィランサイドの情報収集。
後は適宜、必要だと感じたものをひっこ抜いていくつもりだった。
(さあて。漫画家活動もいいが、私もそろそろ仕事すっかね)
ヒーローとヴィラン、その両者の戦いは。
こうして誰もが予想しない形で終わり始めようとしていた。
打ち切りエンド。
これ以降は描くつもりがあったけど。
いつも通り気が向いたらか。