テセウスの魔棲物   作:倉木学人

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重大な欠陥に気づいたので、暫く書くの止めます。
続けるかどうかは未定に。

5/19:最後の方を修正


第12話 シャイニーシェフ

 ヴィラン(+α)による雄英襲撃後。

 校長の的確な計らいにより、次の日の授業はおおよそいつも通りに行われた。

 

 担任の相澤先生が入院中だとか、警察による事情聴取だとかはあったが。

 それでもなるべく、いつも通りに行われようとした。

 

「クソが。どいつもこいつもシケた面しやがってよぉ!」

 

 とはいえ、1-A生徒たちの受けた傷は決して浅くはなかった。

 

 クラスメイトであるローンが真っ二つになった所を目撃した女子組。

 そして同時期別場所での襲撃を受け、その場で弄ばれるだけだった男子組。

 

 クラスの雰囲気は限りなく最悪に近い。

 

「峰田君。ほら、消しゴム落としましたよ」

「お、おう。ありがとよ」

 

 それでも彼らは、何とかいつも通りを過ごそうとしていた。

 元より、若いながらも自己犠牲は覚悟している身である。

 仲間が失われかけたことも、何とかの段階で持ちこたえていた。

 

「ローン君は、本当に大丈夫なのだな」

「ええ。暫く個性の使用に支障が出るようですが。それも後遺症なく回復できるそうです」

「そうか。それは何よりだ」

 

 相澤先生は、校医の回復個性により復帰予定にあること。

 そして被害者の一人であるローンは、次の日何事もなかったのかのように復帰している事もあって。

 彼らは少しずつだが日常というものを取り戻しつつあった。

 

 

 そんな次の日のこと。

 後遺症を残し、包帯ぐるぐる巻きになりながらも復帰した相澤先生からソレは告げられる。

 

「クソ学校っぽいもの来たあぁ!」

 

 雄英体育祭。

 個性の使用も前面に押し出した一大イベントである。

 テレビ放送も行われ、ここでの活躍は次の企業インターンに大きな影響を与えるとされる。

 

 憂鬱が吹き飛び、クラス中が和気あいあいとする。

 そして、その雰囲気はこのクラスだけのものではない。

 

 同じヒーロー科でありながら、襲撃の際に襲撃を免れた事を妬む1-B組。

 そして、ヒーロー科への編入を目論む普通科などの生徒たち。

 彼らは二週間後にある、1-Aとの戦いを楽しみにしていた。

 

 相澤先生を含む、彼らの保護者の誰もが浮ついた雰囲気。

 危険のない、健全なはずのスポーツイベント。

 

 

「待っていろ、緑谷出久。”俺”とは違った選択を選んだ男」

 

 

 そして、今回の出来事がさらなる混沌の幕開けである事を。

 今はこの場の誰も知らない。

 

 

 

**

 

 

 

 体育祭まで、二週間の猶予。

 その間、生徒たちは個々の時間を過ごしていた。

 時間の使い方は色々で。

 サポート科なら体育祭に持ち込む道具の作成、ヒーロー科なら個性の鍛錬といった所である。

 

『”(ストレングス)”を無くしたことは構わんよ。”やる”って言ったんだから、これぐらいは想定内さ。今回の戦闘の報酬として、復元もしてやる』

 

 今回は、そんな中の話。

 

 ローンは雄英襲撃の際、一時的に再起不能(リタイア)になったため。

 個性代わりに使っていたスタンドDISCを紛失してしまっていた。

 

 せっかく手に入れた能力を失い、どうしようかと途方にくれていたのだが。

 フォックスハウンドは大分寛容だった。

 

『ただ、すぐに元通りとはいかん。秀才の私でも、紛失したスタンドDISCを復活させるには時間がかかるんでな。スタンドが無いのは不便だろうから、このスタンドは”貸し”にしておくぜ』

 

 そうして借りだされた新たなスタンドのDISC。

 スタンドの能力こそ違うが、以前と同じようなことは出来るらしい。

 

『これも無くしても責めはせんが。命だけは大事にな。じゃないと、いつの日か、周囲との違いに壊れちまうぜ?』

 

 さて、力というのは手に入れれば使ってみたくなるもの。

 

 しかしどういうことか、今日は叢雲から呼び出されていた。

 それとしては身体とスタンドを使いこなす自主訓練に時間を使いたかったが。

 何故かこのタイミングで、路上生活者への炊き出しへと誘われたのだ。

 

(この時期にボランティアかあ)

 

 勿論、叢雲たちにも雄英体育祭のことは伝わっているらしいが。

 それでも、相手の対応は変わらないようだ。

 

『じゃあ、もっと勉強しなさい。学生なんだから』

(いや、確かに精神的な鍛練にはなるだろうけど)

 

 その上でボランティアも鍛練なのでは、と言われれば断れなかった。

 ヒーローには知識面といった精神的な成長も必要だろう。

 

(ここ、だ)

 

 待ち合わせの場所は、とある大きな公園。

 そこで、叢雲グループからの人員が待っているそうだ。

 

 ヒーロー社会となった今では、建物は壊される度にガンガン新しきものへと作り直される。

 しかし、未だ古い面影を残す場所というものはあるにはあるわけで。

 

 ”彼ら”の一部はその中で、ひっそりと住んでいた。

 

(随分と。古典的な公園)

 

 その公園内には、多くの男性が。

 身体は曲がり、清潔だがよれた服を着ている。

 一応見た目だけは個性的だが、一様にその表情は暗い。

 

(こういうのは。初めてだ。老人ホームとはまた違う)

 

 救いを求めている人、というのは見たことはあるが。

 ここまで多いのは、未だ会ったことがない。

 助けを求める人の群れに、思わず気圧される程に。

 

 ここの空気は、少年が求めていた輝かしいヒーローの世界ではないが。

 確かな何かを感じる場所だ。

 傍では白い服を着た男性などが大きな鍋を回したり、トレーを渡したりしている。

 

 そしてその近くにいたオバちゃんが、それが探しているのは彼女たちではないかと教えてくれた。

 

 視線の先には自分と同じように明らかに場違いな、若く端麗な女性が二人。

 彼女たちに周囲の人間は近づく様子がない。

 

 一人は軍風の物資をてきぱきと仕分ける、メイド服を着た女性。

 腰には何故か銃が二丁仕舞ってある、モデルガンだろうか?

 

 もう一人は自信なさげにテント下の机でPC作業をしている、ポニーテールの女性。

 彼女は周囲の視線に申し訳なさそうにしながら。

 

 と、それの視線に気づいたのか、彼女が近づいて話しかけてきた。

 

「あ。その。先日はどうもすいませんでした」

 

 出会ってすぐ、何故か謝罪された。

 

「はい?」

「貴方に危害を加えるつもりはなかったのですけど、私たち、意識が無くって。その、とにかく悪い事したから謝らないと」

 

 先日、という言葉に首をかしげる。

 当然だがお互い何も知らない初対面のはずだ。

 

「えーっと。初対面、ですよね?」

「スウィフトシュア。ここは私が」

 

 それの疑問に答えるべく、メイド服の女性が遮り。

 そして淑女に相応しく一礼する。

 

 だが、次の一言は意外なものであった。

 

「私達。先日、貴方様と交戦した脳無で御座います」

「う、嘘!?」

 

 それは1-AがUSJで敵対したヴィラン。

 脳むき出しで筋骨隆々の男怪人。

 

 しかしそれは、目の前の華奢な二人とは結び付くはずがない。

 

「この姿に関しては、そうですね。既に貴方様という前例があるのでしょう」

「! そうか指揮官の」

 

 叢雲は人間を改造し仲間へと取り込む同化機械。

 ローン自身も被害者であり、つまりこの二人も同類ということだろう。

 

「申し遅れましたが。私はシェフィールド。スウィフトシュアとは同一個体の関係でありました」

 

 英国における、タウン級巡洋艦”シェフィールド”。

 および、マイノーター級巡洋艦”スウィフトシュア”。

 二人はその二つの情報をもとに作られたKAN-SENだった。

 

「でも、二人?」

 

 とはいえ、それの疑問はまだ解消されていない。

 脳無は一人で、目の前のKAN-SENは二人。

 これでは釣り合わないはず。

 

「失礼ですが、貴方様は脳無という存在がどうやって作られたか御存知ないかと」

「はい」

「脳無とは、個性を与える個性と死体を用いた違法手術によって作られた、フランケンシュタインの怪物でございます」

 

 有名な創作の存在、フランケンシュタイン博士の人造人間。

 人間を作り出そうとした人間は、数知れないが。

 この怪物の主な特徴としては死体から作りだされた、という点が挙げられる。

 

「し、死んでる?」

「ええ。死んでました」

 

 この点において脳無はヒーロー社会における、フランケンシュタインの怪物だった。

 

「私たちはあの害虫。失礼、指揮官様の協力者に鹵獲された後、指揮官様の下で更生することとなりました。全ての”素材”が生きる事を望んだわけではありませんでしたが。少なくとも、私たちは生きる事を選びました」

 

 USJ襲撃後の脳無は密かに捉えられ、叢雲の手に渡った。

 脳無から複数の人間の情報が取り出された後。

 それらは人間としての生を何とか取り戻されたのだった。

 

「とはいえ、元通りにはなりませんでした。何せ、合成素材を分けてしまえば人の形をとどめてはいない訳で。故に」

「既にある素材にくっつけた。と?」

「ええ」

 

 叢雲は分解された脳無という死体達に死者蘇生を試みた。

 しかし、人間の断片から人体の全てを錬成することはしなかった。

 断片から再生した人間の意志を、セイレーン技術で生み出した意思の無い”駒”に張り付ける形をとったのだった。

 

「ヴィラン連合も、随分なことをしますね」

「末端の構成員の扱いとしては適切でしょう。他人事とは言わせません」

「うぅ」

 

 こうして見ると、ヴィラン連合も叢雲グループもそうやっている事は変わりない。

 人間を弄び、死体を冒涜しているという点に関しては。

 どちらも人間の法に裁かれるべきであろう。

 

「ですけど。指揮官は違うと思います。私たちは好きで脳無になった訳じゃないですけど。今の生は自分たちで選んだんだと思いますから」

 

 ポニーが揺れ。

 彼女は自分たちの長だけは違うと、必死に主張している。

 

「じゃあ、どう違うのか。ヴィラン連合について教えていただけますか?」

 

 ヴィラン連合については、それの関心事である。

 余計なお節介をするのはヒーローであるのだから。

 

「自ら面倒ごとに突っ込むおつもりですか。随分と愚かな事を」

「ま、まあ。このくらいならいいんじゃないかな? 私たち、大したことは知らないんだし」

 

 脳無も所詮、末端の構成員でしたから。

 そう前置きして、自身が知っている事を語り始める。

 

「きっかけは、本当に些細だったんですよ。ある日、無個性が理由で仕事を続けられなくなりました」

 

 彼らも元は無個性だった。

 だが、それでも必死に普通に生きようとした。

 それでも、彼らは自らの個性に足を引っ張られた。

 

「無、個性」

 

 職を失ったことも、大したことではない。

 空間系や電気系などの特定の個性が重宝されるように。

 無個性であることはそれだけで弱かったのだった。

 

「一度転べば、そこからは地獄でした。悪事に手を染める事は決してしなかったのですけど。でも、助けのヒーローは来ませんでした」

 

 無個性でも、立派に生きられると頑張った。

 しかし、その頑張りは認められなかった。

 それが何故なのかは、彼女たちには分からない。

 

 ただ彼らに助けの手はなく、落ちに落ちていった。

 

「ある日、治験の仕事ということで、紹介された病院に行きました。そこで殺され。私たちは帰らぬ人となりました」

 

 死んだ事も、彼らはただ悪いことをしようとしたわけではない。

 裏社会とつながっている医者に目をつけられ、そのまま利用されたらしい。

 恐らく無個性で弱かったことが、それだけ彼らに価値があったのだろうとのことだった。

 

「そこからヴィラン連合に所属、という事になったのだと思います。そこからは覚えていません。何せ、死んでいたのですから」

 

 ヴィランに殺された後、その死体は脳無の素材として有効活用されることになった。

 本人の意志とは関係なく、結果的にヴィランへと協力することになったのだ。

 自ら進んで脳無の素材となったものもいたらしいが、自分たちは違うと主張したい。

 

「私たちが知る事は以上だと思います。もう、ヒーローやヴィランと関わることもないのでしょうけど」

 

 どうすればよかったのか。

 それは彼女たちには分からない。

 ただ、彼女たちは差し伸ばされた手に従っているだけだった。

 

「指揮官には。本当に感謝しているんです。こうして仕事もくれて、個性もヒーローもヴィランもない社会を作ってくれるって確約してくれて。何より私たちを利用したりしないから」

 

 彼らはKAN-SENの身体を得て、それなりの力を得た。

 しかし、彼女たちが戦うことはもうないだろう。

 彼女たちはそれだけを望んでいて、叢雲もそれを認めている。

 

「私たちは、貴方のヒーローになりたいという夢を止めたりはしません。助けを求めている人たちは、まだ大勢いるのですから」

 

 彼女たちはヒーローを悪いとは思っていない。

 だが、良いとも思っていない。

 

「そう、ですか」

 

 彼らはヒーローをあまりに遠いと感じていたのだから。

 

「ただ。私たちの仲間に会ったときは、どうか優しくしてやってください。それだけが我々の望みです」

 

 

 

**

 

 

 ローンは煮えたぎる鍋の前で、木の棒を掻きまわしていた。

 料理が多少できるということで、今はその手伝いをやらされていた。

 

 そんな中、それは考える。

 

(ヒーローになる事と、人を助ける事。どっちが大切なんだろう)

 

 どちらかを選べと言われれば、それは答えれないだろう。

 勿論、どちらも大切だと言いたいのだが。

 

 それは確かにヒーローになりたかった。

 だが今、助けたいという思いについては疑問を感じている。

 

(こういう時、オールマイトならどうするのかな)

 

 オールマイトなら、どうにかして助けようとするだろう。

 恐らく、少年にそうしてくれたように。

 そして、少年もそうできるはずだ。

 

 だが―

 

『人を助ける事に憧れるんだったら警察官って手もある』

『”無個性”のくせに、ヒーロー気取りか、デク!!』

『そうですか、そうですか。あなたは。こんなのもののために。私はッ!』

 

 それはヒーローは全てを救えないという、どうしようもない現実に直面していた。

 そして、見えない所に救われない人間がいると想像するのは、ただただ辛かった。

 

(ヒーロー、やりづらい)

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