テセウスの魔棲物   作:倉木学人

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変愚やってて遅くなりました。


ヒロアカで好きなキャラは心操君です。


第14話 サイクロンブラックキャット

 一回戦の障害物競走と、二回戦の騎馬戦を終え。

 暫定トップの成績を誇る少女、ローンは他の1-Aの女子たちと同じくチアガールの服を着ていた。

 近くで本職のチアガールのお姉さんたちがパフォーマンスしているが、それとは特に関係がない。

 

 これは八百万が峰田の口車に乗せられた結果だった。

 曰く、先生の命令でチア服を着ろと。

 もちろん、実際そんな規則はないのだが。

 

(母さん、父さん。見ていますか。僕はいったい何をやらされているのでしょうか?)

 

 緑谷出久、人生、色々あった。

 どこにでもいる無個性な少年だった緑谷は、悪の組織に改造されて美少女(ローン)になり、学校の体育祭でチアガール服を着せられている。

 こんなこと、誰が想像できるのだろうか。

 この様子をテレビで見ているであろう、緑谷母はどんな心情なのだろうか。

 

 

 閑話休題(まあそれはそうと)

 

 

 雄英体育祭もいよいよ大詰め。

 最終競技は、残った生徒同士のタイマン勝負だ。

 ルールは天下一武道会方式で進められる。

 

 ローンは土俵の上で最初の対戦相手、心操人使と向き合った。

 

「よお。無個性。力を得た気分はどうだ?」

 

 明らかな挑発に、沈黙で応じる。

 

 心操人使、個性『洗脳』。

 説明する必要もない、凶悪な個性だ。

 

 その個性の詳細は、犠牲者である尾白から情報を受け取っている。

 洗脳(こせい)の発動条件は話に応じること。

 この場でのうかつな発言は敗北を意味する。

 

「ああ。そう警戒しなくていい。たく。こっちは個性抜きで純粋に話がしたいってのに、これだから面倒くさい」

 

 陰険そうな彼が、いらつきを見せる。

 その様子は、上手くいかない駄々っ子のように見えるが。

 何故か、それにとって既視感を覚える。

 

「今からの戦いで『洗脳』は使わないから安心しろ。そもそも今使ったらフライングだしな」

 

 彼はとんでもないことを言い出す。

 このタイミングで洗脳の個性を使わないことはフェアではあるだろうが。

 

「試合で使わない? 手加減とは随分余裕ですね」

「ああそうだな。随分と。余裕が出来た」

 

 試合を通じて、個性を使わないとなると尋常ではない。

 個性が基本唯一無二のものである以上、その個性を使わないとなると彼に何が出来るというのか。

 

「あの人の御蔭で、ようやく、冷静になれた」

 

 そんな状況だというのに、彼は随分と涼し気だった。

 大勢の観客が注目している中で、深く深く落ち着いていた。

 

「あの人?」

 

 何故だか、その言葉からは不安を感じる。

 彼自身が不安を感じるだけでなく、何故か彼女にとっても不安を感じる。

 

「俺はお前と同じだ。叢雲さんと、あの人に会った」

「ッ!」

 

 それの脳内に、すれきった神経質な少女と。

 傍で大爆笑する狼女の姿が浮かんだ。

 

「お前と一つ違うのは。俺は叢雲さんでなく、あの人の手を取った」

 

 その時は忘れるはずもない。

 それはあの二人から異なる契約を迫られ。

 提示された中で己の道を貫いた。

 その結果が、今のそれの姿だった。

 

「ああそうだ。あの人から伝言を預かっている」

 

 まさか、彼も似たような契約を迫られたのか?

 そう思う間もなく、目の前の彼は語りだす。

 

「これは『試練』だ。過去に打ち勝てという『試練』だと、あの人は言った」

 

 彼の見た目には、そこまでおかしい所はない。

 逆立った髪形に、暗い顔立ち。

 個性社会においても、それなりに普通の姿。

 

 そんな彼が、普通の人間が放ってはいけないプレッシャーを放っている。

 

「人の成長は、未熟な過去に打ち勝つことだ。―お前もそうだろう?」

 

 ”緑谷出久”?

 最後にそう小さく、聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいた。

 

 

 

**

 

 

 

 スタジアムの中央に設置された舞台は、狭くも広くもない。

 ちょっと個性で吹っ飛ばしてやれば、すぐに場外になりそうで。

 遠距離タイプの個性が有利とか、そういうことは起こらないであろう。

 

 そんな上で、対戦者同士での殴り合いが行われていた。

 これは観客が望んでいた個性同士のぶつかりあいではないが、これはこれで可笑しくはないはずの光景。

 

 しかし、そんな観客の中で、動揺が広がり始めていた。

 心操人使は明らかに、一回戦と二回戦で見せたのと異なる”力”を見せていたのだから。

 

『ど、どういうことだぁ!? 普通科の心操人使! ここまで強いとは誰が予想したかあ! というかマジでどういうこととだあ!』

 

 実況を行っている教員(ヒーロー)のシャウトが響き渡る。

 

 アルベヒト・ローンは改造人間である。

 その馬力は大型タンカー並みで、雄英内でもトップクラスの攻撃力と防御力を併せ持つ。

 それは参加者なら誰でも知っていて、試合を見てきたものならある程度察せられる程に力強い。

 しかし、打ち合いの中で彼女は苦悶の表情を見せていて、一方の心操は涼しげだ。

 

ここで、それと殴り合える彼の異常性が際立っていた。

 

『落ち着け、プレゼントマイク。あの強さには何かしら”タネ”があると見ていい』

『というと? 包帯ミイラ男』

 

 試合状況に対し。

 実況席側のもう一人、ミイラ男こと1-A担任の相澤先生が解説を行う。

 

『心操人使。個性『洗脳』。資料によると雄英高校ヒーロー科を受験したが、実技試験により不合格となった。つまり、本人の身体能力はここまで高くないはずだ』

 

 相澤先生が、手元の資料に目を移し。

 淡々と事実を語っていく。

 

 洗脳の個性と聞き、ある人は嫌悪を覚え。

 また、ある人は実技試験に受からないはずだと納得した。

 

 だが、その情報は彼の強さに繋がらない。

 

『あの異常な強さの原因と考えられるのは。そうだな。彼の個性に関するものしかないだろう。しかしそれならば何故、受験の時に使わなかったという話になる』

『そ、それもそうだ! となると、その理由はなんだ?』

 

 プレゼントマイクが、やや無理やりにでも相槌を打っていく。

 

『恐らく、使用には厳しい制限がある”切札”なんだろう。体育祭(ここ)なら入試以上に人目につく。切札をここで切るのは、恐らく目的は宣伝ということか』

『な、成程』

 

 やや無理のあるが、ある程度は納得できる内容だった。

 しかしその論理には租があることを、対峙するそれはちゃんと見抜いている。

 

(先生も。イカサマだと思っている。でも、タネには至れていない、か)

 

 それの頭の中にドーピングという言葉が過る。

 ドーピング、簡単な例を挙げるなら薬物の使用などだが。

 

(体育祭のイカサマなんて、リスクが大きすぎるから無いはずなんだ。バレなくとも目立ちすぎるし、一時的に得た力では、ヒーローは続けられない!)

 

 雄英体育祭にイカサマはなくはないが、そこまで多くはない。

 この試合は全国放送されていて、そんな中でイカサマがばれたら大恥だ。

 

 またこうして放送されているのは、各自が自分を売り込むためのものである。

 イカサマでこの場を勝ったとしても、はたしてヒーローとして通用するのだろうかという問題が待っている。

 

「よそ見する余裕があるのか?」

 

 と、考え事をしていたのだが。

 彼の鉄拳が唸る。

 

「ぐ。ぐううぅ!」

 

 吹っ飛ばされ、大きく後ずさるが。

 咄嗟に出したアンカーで係留し、場外にはならない。

 

(強い。かっちゃんたちよりも! あの時の、脳無ぐらいに!)

 

 信じられないぐらい一撃一撃が重いのだ。

 そんな細い体から、どこからそんな力を出しているのかと問い詰めたくなる。

 

「チートって、つまらないよな。楽しいのは最初だけで、すぐに飽きてしまう」

 

 敵はその手を緩め。

 こちらに囁いてくる。

 

 その意図は良く分からないが。

 こちらと話をしたいのだろう。

 

「やはり、ズルなのですね」

 

 悔しいが、こちらに相手の攻撃を捌けるだけの技量はない。

 相手の提案に乗っかる事になる。

 

「身体改造を不正とするなら、だ。この話は、お前にも突き刺さるんじゃないかな」

「う」

 

 乗っからなかったほ方がよかったかもしれない。

 身体改造を受けたことは、それに後ろめたさがある。

 

「お前は。ヒーローになるためには手段を選んではいけないと思うか?」

 

 その言葉を受け、思い浮かべるはやはりオールマイト。

 彼には手段を択ばない、という言葉は似合わない。

 

「それは、違うでしょう」

「ああそうだ。違うんだ」

 

 彼はやれやれ、と言った仕草を取る。

 それとしては息を整えるのに忙しいのに。

 

「ヒーローなら選ばなければいけなかったんだ。『洗脳』なんて強力な個性を持っておきながら、そんなことにも気づかなかったのさ」

 

 しかし、なるほど一里ある言葉だ。

 ヒーローなら選ぶべきだと。

 

「個性もこの力も。正直、手放したい気分だよ。その分、ローンはいいよな」

 

 ヒーローには多くの選択を突きつけられる。

 その中で、多く、苦しむことになるだろう。

 それでも彼らは選ばなければならない。

 

「聞いたよ、あの人たちから選択しなかったんだってな。俺とは大違いだ」

「何が、違うというのですか」

 

 勿論、彼らが常に良い選択ができるとは限らない。

 そして、正解というのは選んでみるまで分からないものだ。

 

「お前の力には良くも悪くも”責任”がない。それが、お前が勝ち得た成果だ。だが、俺が選んだのはは真に自業自得だ」

「確か、に、そうかもしれませんね」

 

 自分が選んだ選択は賢かったのだろう。

 しかし、そこに後悔は感じないでもない。

 言われた言葉に、思わず、そう思ってしまう。

 

「俺は。ただただ、自分を呪うしかないということだよ。この気持ちが分かるか?」

「―八つ当たりですね」

「ああそうだ。こんなのは八つ当たりだ」

 

 彼はそこで完全に手を止める。

 

「俺は。ただ、誰かに話を聞いてほしかっただけさ。悪かったな」

 

 そこから彼は再び動き始める。

 そして、その強さはだんだんと苛烈さを増していく。

 

「私をっ、舐めるなッ!」

 

 溜まらず、といったように。

 彼女の身体から大量のガスが辺り一面にばら撒かれる。

 吸っても多少の害しかないようだが、目的はそれではないだろう。

 

「煙幕か。古典的だな」

 

 彼が、気合を入れて一撃を入れると。

 その風圧だけでガスは全て吹き飛んだ。

 

 そして、それはそこで気づいた。

 ここまで見れば、彼の異常な力の正体に勘づき始めたのだ。

 

「貴方が。なぜその力を持っているッ!」

「ああ。気づいたのか。流石だな」

 

 そうだ。

 その力の正体に、勘がいいものは気づくのだった。

 

 

「全く、そんな力。どこから持ってきたんだか。恐らく”この世界”のではないのでしょうね」

「へえ。彼女、そんなこともできるのか」

 

 

 ボックス席で叢雲がため息をつき。

 校長席から根津がカップを片手に興味深いと観察する。

 

 

「むううぅうッ!」

(あの力。しかし、あいつも”二つもち”なのか?)

 

 

 観客席でエンデヴァーの炎が唸り。

 控室で轟焦少年が困惑する。

 

 

「これは。どういうことだ」

「おやおや。おやおやおやおや」

 

 

 テレビの向こうで死柄木が殺意を向け。

 そして、何処ともない深淵でオール・フォー・ワンが嗤うのであった。

 

 

「その力は。まさか、オー」

 

 相対する彼女がその先を言わんとしようとする所で。

 渾身の蹴りにより、壁まで吹き飛ばされる。

 

「か、かはっ」

「それ以上は喋りすぎだ。悪いがあの人との契約があるんでな」

 

 場外によるK.O.

 呆然とする観衆たち。

 

 心操人使はそんな中を、出口へと向けてゆっくりと歩いて行った。

 

 

 

**

 

 

 

 選手用の通路を、心操人使は歩いていく。

 そうすると、通路を誰かが塞いでいる。

 

 その姿は筋骨隆々、ポーズは自信満々。

 しかし、その表情はとても苦い。

 

「オールマイト。”私が来た”とは言わないのか?」

「心操少年」

 

 あの力を見せた以上、こうなることは分かり切っていた。

 これで良かったのだろうか。

 少年はそう思わずにいられない。

 

 

 

「―何故君が、その力を持っている?」




この番外編もあと二話ぐらいかな。
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