この章が終わりさえすれば、本当に当作品は完了となります。
早く終わらせなきゃ。
第17話 La Pucelle
◆ぼくのように すぐれた えいゆうの
アイディアにみちた わがままに だまってついてくれば
しあわせになれるのに…。
◆ゼイゼイ ゼイ ハー ハー。
◆どうして そんなふうに ちっぽけなあたまと
なさけない からだと
よわよわしい こころで
じたばたと あがきながら いきようとするのかなぁ?
―MOHTER3 第八章 ”なにもかも 何もかも”より
**
敵《ヴィラン》と言っても、その括りは非常に大雑把であり。
世の中には様々な人物がいる。
ある者は昼間から堂々と犯罪を実行し。
またある者は闇へ、ただ闇の中へと潜っていった。
その中に、ステインと呼ばれる敵《ヴィラン》がいた。
この男は
そのことから”ヒーロー殺し”とも呼ばれている一級の危険人物だった。
「ハァ。お前は、雄英高校のアカギ、だったか?」
「著名な犯罪者に名を覚えてもらえて光栄ですわ」
彼は保須市の路地裏に潜み、自らの獲物を探していたのだが。
そんな中、彼女は自分から彼の領域へと踏み込んできたのだ。
彼女が彼と相対したのはそう不思議なことではないだろう。
未だヒーローではないが、その卵である。
彼女が敵退治に向かったとしても、例え制服姿であろうと。
薄暗い闇と鼓動するように、九つの尻尾が揺らぎ。
彼女の姿は周りの背景にも悪くはなく、中々妖しかった。
「まあいい。お前にとって、”
彼は敵とはいえ、理念があった。
自分は、無差別に殺人を繰り返すような人物ではないと思っている。
彼の思想は、”腐りきったヒーローの粛清”。
この返答のいかんによって、その手の忍者刀は振るわれることになる。
「単なる
彼女の答えは簡潔だった。
そして彼にとって、それだけでも無視できないものであった。
「なん、だと?」
「ヒーローでないと、全力で暴れられないですものね」
彼女はクスクスと笑い。
そして、面接の練習でもしていたかのように言葉を選んでいく。
「”戦い”こそがアカギの人生なのよ。ヒーローになれば、社会の中で合法的に傷つけあえる。それだけが、アカギがヒーローになる理由ですわ」
暴力を振るいたい。
ただそれだけの理由で、ヒーローになりたいとは。
世の中にヒーロー多しといえど、彼女のような動機は中々稀であろう。
勿論、褒められたものではない。
「き、キサマは」
ステインはその全身を震わせていた。
彼にはオールマイトという理想のヒーローが居て、ヒーローの名を汚す輩が許せないのである。
そして目の前の女の
だが、何をすればいいのかは彼の中でハッキリしていた。
「殺す」
言葉より先に、行動に現れていた。
刀が全力で振るわれる。
「あらあら。私も同じことを思っていたのー」
しかし、怒りの一撃は容易く躱される。
そうしてアカギは大げさにやれやれとおどけるのである。
「でも、勘違いしてはいけないわ。狩るのは私達で狩られるのは貴方」
彼女が大きく天を指すと、その腕から光が打ち上げられる。
光はピュリリと音を立てながらどこまでも上がっていき、やがてはポンと消えた。
(信号弾、か?)
それは地図に刺したピン、自分の位置を周囲に知らしめるもの。
あまりヒーローらしくはない行動だが。
自分たちの位置を知らしめるというのは、味方に欠ける彼にとって大きく不利に働く行為だ。
だが彼は応援など待たない。
すぐにケリをつける。
そう思った瞬間、
『システムチェック終了。起動完了。ターゲットを視認。これより排除を開始する』
女性オペレータの声が、警告も兼ねて大きく辺りに響く。
赤黒いデザインの人型ロボットが、砂煙を上げながら狭い通路に展開し。
武器である重火器と剣を構えた。
**
「愛、愛。愛! アカギの愛は無敵よ! アハ、アハハ。アハハハハ!」
『報告。敵、能力上昇を確認。次なるイレギュラーへの修正を求む』
彼は市街地の中で戦いながら。
自らの情報と、目の前に現れたヒーローとを照らし合わせる。
ヒーロー名『ハスラーマン』。
個性『
弱小ヒーロー達の寄合い団体である『レイヴンズ・ネスト』のリーダーでもある男だ。
その個性により、ロボットを自由に遠隔操作することが可能とされ。
ロボットを用いた危険地帯での救助活動を主なヒーロー活動として行っている。
直接身を投げないためか、民衆からの人気は低いが。
最近では企業群に重宝されてるようだ。
彼もまたステインの理想には程遠く、唾棄すべき存在だ。
「お喋りな奴らだ。ハァ」
単なる戦闘ロボットなど、ステインの相手にはならないはずだ。
数多のヒーロー達を返り討ちにしてきたその実力は伊達ではない。
とはいえ目の前のコレは、距離をとっての援護射撃に徹されると中々厄介だった。
次々と撃ち込まれる目潰し閃光弾やゴム弾を丁寧にさばいていく。
そして、前衛を務めるのはフィジカルお化けであるアカギである。
個性は使ってないようだが、単純に戦闘能力が高い。
相手は素手同然にも関わらず、刃物を持ったステインと互角かそれ以上の動きを見せている。
ここで思い浮かべるのは、この国No.2のヒーローである”エンデヴァー”。
あれもステインにとっては嫌悪すべき存在だ。
どうしてどいつもこいつも、力あるものはヒーローの”自覚”というものがないのか。
「あらら?」
とはいえ、付け入るスキがない訳ではない。
ほんのちょっとだが、刃がアカギの身体に傷をつけた。
そして、ほんのちょっとでいい。
個性『凝血』。
彼は相手の血を舐めることによって、相手を麻痺させるとができる。
条件はやや厳しいが、タイマンなら一撃必殺を発揮する個性だ。
一対一でいったん麻痺させれば、後は煮るなり焼くなり好きにできる。
そうして忍者刀の血を舐めた瞬間。
彼は思いっきり噴出した。
「うげ! ま、不味! オエゲホゲホッ!」
「いやん。身体に傷がついてしまいましたわ」
彼は人の血を舐めることには慣れていたのだが。
思わぬ”異物”を飲み込んだ故に吐き気を催していた。
この感覚は、彼にも覚えがある。
「お前、人間じゃないのか?」
「失礼ね。でも肯定してあげる」
感覚は、血の通っていないロボットなどを舐めたものに似ている。
普通は、いかなる個性を持っていようと人間がそのような反応を出すことはない。
つまりは、目の前の女は人外のそれ。
「何故、敵の前に態々姿を現すのか、ちゃんと意味を考えてごらんなさいな」
「確実に。仕留める自信があるようだな。ハァ」
彼にとって、この状況はひどく悪い。
相手はロボットと人外。
どちらも彼の個性の効果がない相手だ。
「
『愛。戦術的な意義は分析不可能と判断。作戦への支障を認む』
「うーん。つれませんわね」
この状況において、彼は極めて冷静である。
総合力は相手が明らかに上、切り札は封じられ。
おまけに援軍の可能性がある。
言うまでもなく、状況は不利。
「ま、貴方はお仲間と”傷の舐めあい”でもしてているのがお似合いよ。赤黒血染」
そして、恐らく初めからこちらの”タネ”が割れていたのだろう。
この戦闘は全く偶然ではない、必然だった。
初めからこちらを知っていた上で、メタを張って狙い撃ちしている。
(コイツら。ハァ。どこまで俺の個性を、いや事情を把握している? 名前が割れているということは、完璧に知られていると見たほうがいいな)
情報が割れてしまった以上、他のヒーローにも自分の情報は知られることになるだろう。
これからの活動は、もっと慎重になる必要があるな。
彼はそう内心で舌打ちをした。
「非常に遺憾だが。ハァ。ここは引かせてもらおう。俺はお前たちのような人間未満の畜生共に負けるわけにはいかない」
コイツらを殺してやりたいのは山々だが、彼の理性が引くべきだと判断する。
引くことは敗北ではない。
倒れなければ、まだやり直せる。
「あら。残念ね。もっと遊びたかったのだけど。仕方ないわね」
『抵抗は無意味。お前も間も無く
彼は撤退するが。
相手はそれ以上、何故か追ってこない。
その代わり、ゾッとするほほ笑みで彼を見つめている。
「お前たちはいつか殺す」
「”お前はもう死んでいる”と返しましょうか? アカギが仕留めれないのは癪ですけど!」
『作戦終了。”Je parle à un homme mort”』
彼は、捨て台詞だけを残して逃走する。
畜生どもの言葉など、いちいち聞いてられない。
しかし、あいつ等だけは何としてでも仕留めなければならぬ。
彼は如何に相手を不意打ちするか、そう憎悪しながら逃走していく。
街中の闇へ向かって走り続ける。
そうした故に、彼は闇に潜んでいた”深くて黒い霧”に気づかなかった。
**
「う。ここ、は」
ステインは意識を覚醒させる。
どうやら、いつの間にか気絶していたらしい。
見慣れない場所だ、一見するとヤクザ風の事務所のように見える。
身体を動かそうとすると、縄のような何かで縛られているようだった。
信じられないことだが、彼はいつの間にか捕まってしまっている。
だが、警察に捕まったという風にも見えない。
「こんにちは。ヒーロー殺し、ステイン。それとも本名の赤黒血染と呼んだほうが良いかしら?」
「誰だ?」
目の前には高級そうなソファに座る、小柄だが成熟した少女。
目の前の少女の風貌で、彼の知識に該当するものはいない。
ヒーロー、あるいはヒーロー関係者ではないようだが。
「私は叢雲。アカギの保護者であり、ヒーロー事務所”レイヴンズ・ネスト”の支援者でもあるわ」
その正体はヒーローの背後、つまりは企業関係の政治屋連中と当たりをつける。
民衆と同じく彼にとって非常に気に食わない連中だ。
「貴方の動画を見たけど。貴方、熱があるわね」
彼女はテレビの方に顔を向ける。
そこにはステインに無許可でアップされている動画が映っている。
「主義主張は無茶苦茶だけど。人を惹きつけるその熱、私たちに無いものだわ」
「無茶苦茶だと?」
自分の理論が無茶苦茶だと言われて、彼は黙ってはいられない。
殺気を向けるが、一方の彼女は慣れたものか涼し気だ。
「貴方は、オールマイトを量産できたら良いと思う? あなたの理想のヒーローのね」
そこで、彼は押し黙る。
量産できるならいいとは思うのだが。
嫌な響きだ。
量産という言葉が何となく癪に障る。
「オールマイトの個性は、世代から世代に”受け渡されて”きたもの。まず、その”受け渡す”個性を探し、それを何世代も受け渡し続け。そうしてやっと出来るのが、オールマイト」
彼女はテレビの出力を変え、プレゼン画面を映し出す。
何かの発表資料だろう。
そこには、オールマイトの個性の概要について簡潔にまとめられている。
「コストに見合わないよね」
小さくため息をつく。
彼女のプレゼンも、それに合わせてバツマークで装飾された。
「それが本当として、それがどうした?」
彼はオールマイトの個性を知らない。
彼女の言っていることも、本当のことだとは限らない。
しかし彼にとって、個性の有無は関係ない事だ。
「俺は成すべき事を成す。ヒーローとは、精神だ。キレイ事でなければならない」
「動画を見るに、貴方のそれって少数精鋭を目指すものでしょ? かの戦争でも私たちはそれで負けた。またそれを繰り返そうっての?」
「世の中に必要なのは真の英雄だ。正しくなければ価値はない」
「オールマイトの功は認めるけど。他のヒーローにそれを求めるのは酷でしょうに。貴方が社会やオールマイトの何を知っているというのよ」
彼は雄弁に理想を語る。
一方で、彼女は淡々とした態度で己の態度を示す。
「まあ、貴方の”やっていること”を見れば、社会やオールマイトの為じゃないのは明らかよね」
「俺は―。ッ!?」
なおも熱く語ろうとする彼の身体に電流が走り、一瞬だが大きな苦痛を与えた。
「ああ。私や貴方の理論なんてのは正直言うとどうでも良くってね。優れた理論家が優れた実践家である必要はないわ。その逆もまた然り」
彼女の手にはいつの間にか、大げさでわざとらしいリモコンが。
切るの忘れてたわ、と彼女はこぼした。
「私たち、”現在を壊す”という点では分かり合えると思うんだけど」
「ハァ、ハァ。何がしたい?」
「いくつか質問を。それ次第で貴方の処遇を決めようと思うわ」
彼女はリモコンを自分の隣に置き。
姿勢を組みなおして彼に相対する。
「一つ目。困っている人を助けることを誓える?」
ステインは少し考える。
彼は誰にも屈するつもりはない。
とはいえ、相手の意図は今一つ掴めないでいる。
仲間になれと誘っているのか?
「答えはイエスかノー。どっち?」
「ああ」
彼は誰かの助けになるというならそれはそれでいい。
これでもヒーロー科に所属していたころもあったし、非合法の
彼の行動は今も昔も、世の中を良くしようと思っての行動だ。
「二つ目。貴方が傷つけてきた人と、その遺族たち。彼らは現状、困っている人だと思うけど。彼らを助ける事が出来る?」
「アイツ等は屑だ。助かる資格はない」
彼は多くのヒーローを殺し、また再起不能の身体にしてきた。
だが実行の前に、確認を必ずしてきた。
だからこそ彼は言える、彼らにヒーローの資格はなかったと。
「最後に。人の失敗を抉るのはそんなに楽しい?」
そんな彼だからこそ、これらの質問は理解できないだろう。
「何を言っている?」
「じゃあ、こう言い直そうか。なんで人の失敗が許せないの?」
それは、彼がヒーローではなくヴィランたる所以。
失敗を恐れる故に、失敗を犯し続ける者。
その本質を、彼女は的確に突く。
それが藪蛇だと知りながら。
「何故、許せる! 腐りきったアイツらの醜態を見て、どうして許そうと思える! この社会にヒーローを。ヒーローを取り戻さなければならない!」
「ふむ」
彼の憎悪の炎が燃え上がる。
彼らを許してはいけない、彼らを罰せなければならない。
その炎こそが彼を動かしている原動力であり、いずれは実を結ぶことになるのだから。
「せっかく捕まえたのだし、仲間にするか悩んだけど。貴方、駄目ね」
その燃え上がる炎をじっと見つめながら。
彼女は冷たく判決を下す。
そして、小さくため息をついた。
「私たちの仲間に、弱者に不寛容な者はいらないの」
もはや、相互理解は不可能。
相手は超えてはならないラインをとっくに超えてしまっている。
交渉の余地はない。
「あいつ等が弱者だと? ヒーローの本質を忘れた拝金主義の屑共が弱者だと? 仮にもヒーローを務める者が弱者などとは笑わせる」
「成程。アカギとニーナに”怒りに狂っている”と言われるだけはあったということか」
彼女はこの結末をある程度予測していた。
だが、それでも問わねばならなかった。
「ハァ。結局、どうするつもりだ? 警察にでも突き出すか。それともここで殺すか?」
「あら残念ね。私たち、殺しはしない主義なの。」
彼女の表情に熱はないが、穏やかではある。
あちらに怒りはない。
「でも、分かっているでしょう。帰ることは出来ない。私が
そして、彼もまた人に分かっている質問をして生きてきた故に。
彼は思想ではなく、自らの行動で罰せられることになる。
「私刑か。ハァ。やれよ」
それは非合法であろうが、彼がとやかく言う権利はないだろう。
自分を殺していいのはオールマイトだけだと思っていたが、こうなっても仕方はあるまい。
たくさん殺したのだ、殺されもするだろう。
彼は、この結末を受け入れようとしていた。
「は?」
ただし、ここからは彼の予想範囲外だ。
突如として、彼の縄が解かれ。
部屋が虹色に光り始める。
光は気色悪いうねりを上げ、渦を形成していく。
そうして、彼女と彼の間に距離がだんだんと出来始めていた。
「ま、待て。何なのだこれは。お前は、何をするつもりだ!」
「よき旅路を。ヒーロー殺し。もはや、その名で呼ばれることはなくなるでしょうけど」
二人の距離はだんだんと広がりを見せる。
彼は彼女に近づこうとするが、広がりはさらに加速する。
「”旅行に行くなら、どこに行きたい?”」
そうしてステインの姿は、光の彼方へと消えていった。
渦はすぐに収束し、元の事務所の姿へと戻った。
ただし、そこに彼の姿はない。
暫くすると、誰かが部屋の扉をノックする。
叢雲が入りなさいと声をかけると。
ポニーテール姿の女、スウィフトシュアが控えめに入ってきた。
「指揮官。ヒーロー殺しさんは、どうされました?」
「異世界送りにした」
久しぶりに力を使った。
そう呟く彼女は日常業務が終わったように涼し気だ。
「ヒーロー殺しのことなら心配ないわ。彼がこの世界の人と会う事はもうないでしょう」
「そう、ですか」
叢雲は部下から目を背け、部屋に飾ってあった天球儀を眺める。
天球は自動的にくるくる回り続けている。
その動きに一切の不備はない。
「この場合、彼の扱いはどうなるのだっけ?」
「彼がここに居たのは非公式ですし、行方不明扱いになるかと」
「そう」
嬉しいかと叢雲が聞くと。
部下はそんなことは、と遠慮しがちに答える。
「何と言ったらいいでしょうか。その、過程が目的になっている人というか。そんな人でしたね」
「アレも弱者とはいえ、他人にも妥協できないのはなあ。惜しいけど、流石に手元に置けないわ」
今回のステインについてはどうしても描きたかった話の一つでした。
「私は一応
*オリヒーロー紹介*
ヒーロー名:ハスラーマン
本名:新名・ラールセン
個性:(なし)
ハスラーワンのパチモン。
元ネタはもちろんアーマードコア。
無個性であることを隠してヒーローをやっていたが、ある日に活動の限界を迎える。
そんな中で、叢雲グループに拾われた経緯を持つ。