テセウスの魔棲物   作:倉木学人

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ローン(μ兵装)とか出たし。
学園祭編とか面白そうかと少しだけ考えたけど。

そもそも私がそんなに学園祭好きじゃないやということで没になりました。


第19話 野生デュアリズム

 No.1ヒーロー、オールマイト。

 この国で最も有名な人物でありながら。

 その真の姿を知る者は非常に少ない。

 

 彼というヒーローは多くの人の助けが無ければ成り立たなかったのだが。

 皆が力を託し、しかし彼の傍から消えていく。

 

 ヒーローとは常に孤独である。

 

 しかし―、運命はそうならなかった。

 

「随分と久しぶりだなあ俊典」

「ええ、本当に久しぶりです」

 

 その日、オールマイトは二人のヒーローと非公式に会う約束をしていた。

 

 一人は老いてなお未だ衰えぬ老人。

 ヒーロー名、”グラントリノ”。

 知名度は全く無いがオールマイトの師であり、免許を持ったヒーローである。

 

「お久しぶりで。オール、いえ。八木さん」

「ああ。また会えるとは思わなかった。本当に嬉しいよ」

 

 もう一人はパリッとした白スーツと髪形をキッチリ整えた成人。

 ヒーロー名、”サー・ナイトアイ”。

 予知に関する個性を持ち、それ故にその詳細は秘匿されている。

 

 かつてはオールマイトの相棒を務めた男だった。

 そして、再びこうして会っている。

 

「すまない。私は。君に会わせる顔が無いと思っていたのだが」

「お気になさらず。私は当然の事を言ったまでですので」

 

 オールマイトは弱々しい身体をさらに弱々しくしているが。

 サーはというと、眼鏡をくいと整えるだけだ。

 かつては方針の違いから決別してしまった二人だったが、こうして再会できたのは良い事か。

 

「ともかく、二人とも随分と元気そうで何よりだ。ハハ」

「そういうお前さんは。思ったよりは元気そうだな?! 何かあったか?」

 

 オールマイトの関係者である二人は、オールマイトの状態を良く知っている。

 ある戦いにより、呼吸器官半壊・胃を全摘。

 そうした過去を持つ割には、オールマイトの身体は比較的健康そうだった。

 

「ああ。それはメールに書いてあったことにも関係するのだが」

 

 オールマイトはちらりと待ち合わせ場所である一軒家を見る。

 そこから見た感じでは、どこにでもあるごく普通の家にしか見えないのだが。

 何やら邪悪な気配がするような、そんな気がするのだった。

 

「貴方の”コピー”が現れたというのは本当なのか?」

 

 冷静さを保とうとしながらサーが問うた。

 傍らの老人も似たような雰囲気だ。

 

「ああ、間違いない。二人とも雄英体育祭は見ているでしょうが。あの裏で、私が実際に戦って確かめた」

 

 断定はしているが、オールマイトはいつにもまして弱々しい。

 彼がオールマイトの正体だと言っても、普通は信じられないだろう。

 

「心操少年の裏で。製造元と言うべき、手を引くものがいました。そいつは、(ヴィラン)ではなかった。それどころか、人間ですらなかった」

 

 その戦いの後、オールマイトは”コピーされた”少年から事情を聴いた。

 そうして知ったのは、奇妙な能力の冒涜的な使い手だった。

 

「人間ですらない? となると個性を持った動物?」

「恐らく、それに近いのだろう。少年から聞いたが、狼人(ワーウルフ)というらしい」

 

 狼人間、そういう個性の者もあるだろうが。

 それは純粋にそういう存在なのだろう。

 

「オオカミ、か。まるで御伽噺の存在じゃな」

 

 しかし、狼とは。

 日本の狼は個性発現の遥か昔に絶滅している。

 この場の三人の誰も、本物の狼など見たことはない。

 

「単なる(ヴィラン)であるならば、もっと話は単純だったのだろうが。正直に言って、どうするべきか決めあぐねている」

「行政に相談するべきでは?」

 

 個性を持った獣というのはそれなりにいる。

 しかし、一般に歓迎される者ではない。

 明確に人格というものを持った根津校長のような存在はレアケースで、普通は駆除対象である。

 

「それも考えたが。貴方達の意見を聞きたい。下手したら本当に彼女を敵に回しかねない」

「何だと?」

「何じゃと?」

 

 そう、普通の普通ならば。

 オールマイトに一層の集中が集まった。

 

「頼み事を、されたんだ。心操少年の面倒を見てほしいと。どうしても、断り切れなかった」

 

 オールマイトは、”彼女”と戦って負けたのだ。

 限界はすでに過ぎている身であり、いつか本当に動けなくなる日が来ると思っていたが。

 まさか、動物相手に負けるとは誰も思っていなかっただろう。

 

「貴方が悪に屈してどうするというのか!」

「も、申し訳ない。いや本当に」

 

 サーが思わず叫んでしまうが、それも仕方のことのないだろう。

 正義は悪に決して屈してはならない、そう言ったのはオールマイトなのだから。

 弱々しく弱音を吐く彼の姿は、彼の痛々しい真の姿より、より痛々しかった。

 

「しかし、貴方のいう事も間違いではない、か。彼のような人間を量産できるとしたら、いくら貴方と言えど、貴方だけではどうしようもない」

「むうぅ」

「成程。そのための我々であると」

 

 とはいえ、オールマイトがこうして相談してくれたのは嬉しいことだ。

 彼は、一人で何でも抱え込んでしまう癖があるのだから。

 洒落にならない問題ではあるが、だからこそ協力して取り掛かるべきだろう。

 

「この目で”彼女”とやらをを見極めなければならない、か」

 

 オールマイトを屈服させ、そして敵に回したくないとまで言わせる”生物”。

 サーは冷徹な仮面の下の中、静かに炎を燃やしていく。

 

「志村の意思を汚す者が現れるとは。けしからん」

 

 そして、老人もまたやる気をみなぎらせていた。

 サー以上にオールマイトの過去を、そして成り立ちを深く知る彼である。

 今回の件で思う事があるのだろう。

 

「彼女と話をしたが。身勝手ではあるが、随分と理性的に見えた。どうか気をつけて欲しい」

 

 そしてオールマイトが渋々家のインターホーンを鳴らす。

 すると、ほどなくして扉が開く。

 

「久しぶりだね。俊典。空彦」

 

 そこから現れた”人物”に、三人は目を丸くする。

 

 一番冷静だったのは、サー・ナイトアイだった。

 てっきりどんな化け物が出てくるのか身構えていたのだが。

 人間が出てくるとは、拍子抜けだった。

 

「ば、馬鹿な」

「本当にお前、なのか?」

 

 しかし、オールマイトとグラントリノの反応は劇的だった。

 目の前の光景が信じられず、完全に硬直する。

 

「志村!」

 

 ヒーローのコスチュームに身を包んだ勇ましい女性。

 ”ワン・フォー・オール”の七代目後継者、志村奈々。

 その人が、彼らの前に立っていたのだ。

 

 

**

 

 

 やがて三人は、立ち話も何だという事で家の中へと案内された。

 家は建てられたばかりのようで、染み一つなく綺麗である。

 

 家の中には、あの心操少年の姿もあった。

 オールマイト達の姿を見て、物凄く居づらそうにしている。

 しかし、噂に聞く狼女の姿はない。

 

 少年がお茶の用意をするが。

 皆が黙ったままであり。

 誰も茶や菓子に手を付けようとしない。

 

「彼女とはどういう関係で?」

 

 やがて、サーが沈黙の中から切り出した。

 彼女の事情を知らないのは恐らく彼だけ故に。

 単純に、彼女は何者であるか、と。

 

「彼女は、志村奈々。俺の元バディで、俊典の師匠。だった」

 

 受け継がれる個性、”ワン・フォー・オール”。

 オールマイトが彼女を師匠と呼ぶだけはあり。

 オールマイトの個性は、彼女から直々に受け継がれたものだ。

 

「にしては外見がおかしい。まさか、彼女は死んでいる?」

「随分と。昔の話だ」

 

 そして彼女はオールマイト以前の時代の、混迷期のヒーローでもあった。

 もし今生きているのならば、それなりの年齢のはずである。

 

 しかし、彼女の姿は写真から切り出したように若々しいままだった。

 それはオールマイトが立ち会った、いまわの時の彼女と寸分違わぬ姿である。

 

「本当に、お師匠なのか?」

 

 死者を蘇らせる個性というのは、ひょっとしたらあるのかもしれないが。

 しかし、こうしてまた会えることになろうとは思わなかった。

 

 様々な感情がオールマイトの中で渦巻くが。

 まず出てきたのは目の前の人物が本物かという当然の疑問。

 

「いや、正確には本人ではないらしい」

「ど、どういうことで?!」

 

 まさかの当人からの否定。

 どうやら彼女は死んだ人の姿を取っているが、死んだ本人ではないらしい。

 

「私は、”OFA”と共に受け継がれる記憶の一部。その幻影がこうして形になったものさ」

 

 見える人間に都合の良いイメージのようなものらしいよ、と彼女は付け加える。

 

「まさか、夢じゃなかったのか」

「どういうことだ、俊典」

 

 オールマイトが弱々しく唸ると。

 周囲の人間の視線が彼に集まる。

 

「お師匠から”OFA”を継いでから、ごく偶に。見知らぬ場所で戦うヒーロー達の夢を見る事がありました。その中には、お師匠の姿や。あの”AFO”の姿もあった」

 

 オールマイトが見るのは、今とそう変わらない街中の中で戦い続ける人たちの夢だった。

 

 外見も性別も様々だったが、”ヒーロー”であることは共通していた。

 彼らは戦い続け、そして何かを守り、その個性を託して死んでいく。

 

 そして夢の最後は常に巨悪”オール・フォー・ワン”と、その彼にどこか似たところのある男が対峙する所で締められる。

 

「しかし、あくまで夢。そのハズでした」

 

 彼には薄々勘づいていたことだった。

 ”受け継がれる個性”なんてものが他にない以上、オールマイトにはその夢が詳しく何かが分からなかったが。

 それは単なる夢ではなく、現実に起きたことの記憶であると今、はっきりと理解した。

 

「馬鹿な。そんなことが、個性にできるというのか」

「個性には無理だろうね」

「個性には?」

 

 個性には様々な可能性があるが、それでも限度はある。

 個性と共に意思を受け継ぐのはまだ理解はできる。

 だが、それを形にするなんてのは、間違いなく無茶苦茶な話だった。

 

「公にされる”個性”ではなく、公にはされない”怪奇”。あの女はその力を”スタンド”と言っていたよ」

 

 個性を持たぬ者には、この二つは同じものに見えるだろう。

 しかし、この二つには明らかに違う点が存在する。

 

「スタンド? 聞いたことない単語だが」

「そんなものが、存在するというのか?」

「あの狼女と。そして少年も、その使い手らしい」

「超能力や幽霊といった類のもの、だそうです」

 

 個性は公に公開されるが、スタンドが公にされることは決してない。

 つまり個性があったとしても、オカルトや魔法が信じられるか、という事であろう。

 

「もしや、オールマイト。貴方の身体の治療を”彼女”とやらに?」

「ああ。押し付けられる形だったが、ね」

 

 オールマイトが申し訳なさそうに頷く。

 彼としても治療を受けたい気持ちはあっただろうが、戦いに負けて気を失っている間に押し付けられたものだ。

 素直に喜べないのである。

 

「死者蘇生に、とうの昔に失われた臓器の治療。いったい、”彼女”とやらは何者なのだ?」

「たぶん、それを説明するために俺はここに居るんだと思います」

 

 皆の視線が、心操少年に集まった。




長くなったんで二つ三つに分けます。
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