赤城さんこんな役割ばっかじゃな、とか思いました。
あ、今作はUSJ編まで書くことにしたんで。
今後ともヨロシク。
3/9 無個性の人数の所を修正。独自設定系のタグを追加。後でもっと弄るかも。
3/15 細かい表現を少し修正。
深い深いデータの深淵。
そこは死の世界、ここは喜びもないが悲しみもない。
ずっとここで眠りたいくらいには心地いい。
だって、何も考えなくたって許されるのだから。
―いい加減、起きなさい。もう起きても良い頃でしょ。それとも、”飲まれ”ているのかしら?
誰かが呼んでいる気がする。
誰だろう。
でも、どうでもいい気がする。
―ふざけているの? 忘れたとは言わせないわよ、私は貴方の手が必要なの。いい加減起きなさい。
誰かが僕の力を必要している?
そうだ、僕は。
でも、僕には。
―まだ貴方の人生は始まってすらないのに? たく。しょうがないわねえ。ヒーローになるんじゃなかったの?
そうだ。
僕はヒーローになると決めたんだ。
そのためにはどんな困難でも乗り越えてみせると。
戻らなきゃ、あの苦痛に満ちた現実に―
「ぐええ! ギブ! ギブギブ!」
それが目を覚ますと、目の前には苦悶に満ちた女の表情がドアップで映っていた。
良く見なくとも、自分の手が相手の首にかかっている。
「あ」
「イヒ、ヒ。危うく残機が一機、減るところだったがな」
知らず知らずのうちに、腕に力が入っていたようだ。
開放された狼女は笑顔だが、息も絶え絶えだ。
恐らくあちらは、こちらの顔を覗いていただけなのだろうが悪い事をした。
「おはよう。貴方、気分はどう?」
ここは窓一つない閉ざされた個室の中。
銀髪の少女がぬらりと姿を現す。
次ぎ会う時は仲間となってからと、少女は言っていた。
今はその時だ。
立ち上がり、自分の身体を見た。
この黒い服と素足は見え覚えがある。
よく覚えてないが、夢で出会った少女のそれと酷似している。
かつて少年だったそれにとっては、見覚えがあるが自分のものではない身体。
今のそれにとっては、見覚えはないが自分の身体。
「どうしてローンを作ったんですか?」
「アカギ」
アカギにとっては、この状況が理解できない。
わざわざ
他にもっと選択肢があっただろうに。
そんな中、少女がピシャリと言い放つ。
「私達ね、親御さんに言ったのよ。変わらない態度で接してあげてって、ね」
向けられた言葉に思わず息を飲む。
「私たちが実践しないで誰がやるっての?」
「ええ。流石ですわ、指揮官様。深き愛の御方」
「私は愛なんて知らないわ」
起動したてのそれは朦朧とする意識の中。
やがて、耳に入った言葉から生み出したうわごとを呟いた。
「し、き。かん?」
それはAdmiral Hipper次級、架空ドイツ巡洋艦”Roon”。
遠い昔に破棄された計画段階の存在が、こうだったらいいのになと実在になった姿である。
人を改造して仲間とする、自身を悪と称する侵略の魔人。
彼女はセイレーンが提供したKAN-SENデータを元に、艦娘として再構築した。
ほかならぬ少年の身体を依代とすることで。
何故、わざわざ人の身体を使ってそんなことをするのか。
そんなことも、今はどうでもいい。
無個性の人間を集めての人体改造。
そのことが、ようやく理解できた瞬間だった。
「私は、指揮官には従いません」
”正気”を取り戻したそれがとった行動は拒絶。
しかし相も変わらぬ行動にも、叢雲が特に反応することはない。
「前にも言ったけど。好きにしなさい。こちらから勝手に支援するし」
「止めないのですか?」
それに対して、ふんと小馬鹿に鼻を鳴らすだけだった。
「あのね。その姿で何処へほっつき歩くつもり。この辺りは私たちの敷地内だけど、外は違うのよ」
「あ」
「手続きもまだ半ば。事後処理は手慣れているから私たちに任せなさい」
かつて少年だったそれは、今は少女の姿。
姿が変われば、今までの身分は使えるかどうか怪しい。
それでも一人で生きていける、と言えるほど逞しくはない。
「私に歯向かうんだったら。まずはトップヒーローぐらいなってみなさいな。それくらいの立場でないと話にならないわよ」
言っていることも正論で、しかも明らかにこちらに利があるとなれば。
こうした中では悔し気に黙っている事しかできなかった。
「あーあ。視点が違いすぎて話になってねえ。仕方ねえっちゃ仕方ねえが。こりゃ成長に、まだ時間かかりそうですかね」
「この子は優秀よ。言ったら理解してくれるもの」
成長系主人公は成長しないと弱いのである。
賢い故に力に任せて突撃することもできない。
無力故に状況が分からない程頭が悪いわけでもない。
最初から最強なチートバグ系やなろう系主人公ではない悲しき欠点だった。
「ともかく、私は一旦帰りたいのですが」
「今はダメよ。親御さんならすぐそこにいるでしょ。何か予定でも?」
「? 受験生ですから、学校に行かないと。まだ日数が足りてませんし」
中学三年となると高校受験が控えている。
それは超個性社会となった日本においても変わらぬイベントである。
目指すは当然、雄英高校ヒーロー科。
一流ヒーローの登竜門とも称される超難関高校。
勉強を怠って受かるほど生易しい所ではない。
個性関係のごたごたで少々遅れたが、そろそろ本気出さないとヤバイ時期ではある。
「ああ。大丈夫よ。
これは見せたほうが早いわね、と言って。
少女はミニタブレットを取り出す。
「ほら。これ、証拠の動画」
「え。何、これ」
そこにはいつもの教室のいつもの風景。
自分も含めて、とくに変わったところのない様子が映し出されている。
「う、嘘だ」
問題は、明らかに先にいっている授業内容と動画に書かれた日付。
そして、自分はここにいるということ。
自分のように当然のごとく居座っているこいつは誰なのだ?
周りの人間も特に違和感を指摘することもない。
それは、自分がいなくたって世界は回り続けているとでも言わんばかりの―
「あ。泣き崩れた」
「指揮官様。自分の居場所に別人が居座っているって、普通にホラー映画ものよ」
「親御さんには言っているのに」
「子供にとって学校はそれだけの価値があるのですわ」
頭から煙が上がり始める。
あまりの情報量に脳の電気系統がショートしだした。
中三の少年に何を見せているというのか。
自分も手を貸したこととはいえ、貸した手が間違ったかなと狼女は思わないでもなかった。
「受験生なら、まずは体調に気を付けなさい。今はさーズウィルスが流行ってるから学校や塾の利用は厳禁よ。狭く篭った空間は危険すぎるわ」
「わ、わかりました。うう」
そこで妙にずれた手が差し伸べられ。
こうして暫くの拘束がお互い合意の上で決定したのだった。
**
場所を改めて、今度はより人通りの多い病院の一角。
どこでも見るようなカラフルな髪の色をした若い女性が多く見える。
ここで彼女たちは事務的な手続きの他。
腕や足の神経がちゃんと繋がっているかなどの検査をしている。
その中でそれは流されるまま黙って検査を受けていた。
それが必要なことであるとは分かっている故に。
「うーん。変ね」
叢雲はタブレットを見ながら何やら唸っている。
傍らではアカギが何かを言いたそうに尻尾を揺らしながら、その様子を静観していた。
「お前たちからしたらKAN-SENはやっぱ奇怪に見えるんか」
「いや。そっちは想定通りなのよ」
狼女が手元のノートに疾風のごとく描写しながら質問をする。
それに少女は深いため息をついた。
「仕様書通りすぎて気色悪いわ。こっちを馬鹿にするような。エラーが全くない、こう完成して下さいと言わんばかりの、面白くない嘘ばかりのうすっぺらな結果」
悔しいけど技術はあちらが遥か格上ね。
そう言って少女は顔を上げる。
「そうじゃなくて。私たちは無個性の人間を集めているのだけど。妙に集まりが悪いのよね」
身勝手な従僕たる彼女たち艦娘は、自分達の主人となる人間を求めている。
人類の幸福と根絶を掲げる彼女たちは今日も絶好調、という訳でもないようだ。
「何か知らない?」
「いえ。特には」
あまり好印象ではないが、今や少年は彼女たちの仲間である。
特に思い当たることもないので、素直に答える。
「質問を変えるわね。無個性って統計通り、本当に総人口の二割を占めているの? それならば貴方の近くにもそこそこの数が居たはずよ」
無個性とはあまり日の目を見る存在ではない。
個性が現れた時代に”個性”は迫害対象であったが、今は完全に逆転している。
一応、差別はしていけないと国の憲法で定められているものの、それが完全に守られているかは怪しい所。
「そういえば言われてみれば私の小さい頃でもそんなに多くはありませんでした、個性の発現が三歳までだとしても少し不自然ですね」
数は少ないとはいえ、全人口の二割となればそこそこの人数である。
個性が多数を占める以上、少数派は浮くはずだ。
見た目で判断しにくい個性がある以上、無個性が個性持ちだと偽ることもできるだろうが、それにしても?
周囲に聞こえないかぐらいの音量で、そんなことを小さくつぶやいた。
「他の無個性の人も、特に知らなかったんだって。大規模な無個性の自助グループがあるかと思ったのだけど違うみたいだし。自殺かと思ったけど、それは遥かに少ない。でも、身元不明者や失踪率は個性が現れる前と後では大違い」
少女がわざとらしく考えるそぶりをして歩く。
「おかしいわよね。私たちが見つけられない二割の人間、どこに行った?」
彼女たちの目線の先は、狼女と九尾の狐。
「二人は何か知っているのね」
「さて、どうしてだろうにゃあ。どうしてだと思う?」
狼はにやにやとした表情でこちらを試してくる。
「アカギの全ては、指揮官様のお望み通りに。とはいえ、指揮官様も検討がついているものとアカギは愚行しますが」
「まあ、想像はつくけど。私たちは元人間だし、考えることは大体一緒よね」
「まさか」
そこで、それの青白い肌がさらに白くなった。
どうやら、言わんとしたことを理解したようだ。
「私たちの他にも、無個性を集めている悪ーい奴がいるんでしょ?」
「正解ー」
疑問は解決したが、清浄な空気が一気に淀む。
「研究をするならば、比較対象として無個性は良い
普通、薬などの実験をする場合は異なる実験動物を用いるのが基本である。
だが、人間以外の動物に個性が現れるケースは極稀だ。
であるならば、個性の実験には人間を使うのが最も合理的だ。
そして個性のない人間は、あらゆる個性の基準となる存在である。
こればかりは個性持ちに任せることができない役割なのだから。
「そ。企業レベルでやっている奴は殆どいないが。中小レベルで良くある話なのさ」
とはいえ、無個性にとって嬉しい事実ではない。
君は良いモルモットになれるね!
なんて言われて喜ぶ人間はそういないのだ。
だが余程、手柄に飢えていれば別かもしれない。
無個性の地位は低い。
ちょっとばかり消えても、ニュースにならないのであれば?
無個性の人間がヴィランになってもしょうがないのであれば?
ならば、どうしようもなく彼らの進路は決まってくるのではないか。
「そいつらはさ。例えばどういうことをやってるの?」
「お前と同じことをやってる奴がいるぜ。それも大昔からな」
「私と? そこまで一緒なの?」
少し、叢雲は考える。
停滞しきったこの社会、終末思想やテロリズムに取りつかれる人間はそれなりにいるだろう。
それがこの社会における
「それでも、まさか人類絶滅までやるって奴はいないでしょうけど。ということは、無個性の個性化とか?」
緑谷少年のように、個性に振り回される人間はどうしてもいるのだろう。
この社会は、それをコントロールできていない。
というかコントロールできる社会の方が稀なのだが。
もしそんな中に、個性をコントロールしたい人間、あるいは出来る人間がいるのならば。
「そうさ。私らみたいに、個性を奪って与える奴がいる」
まさに、それは神様から授けられたような力だ。
あまりにも有用すぎるし、実際引手数多に違いない。
そういう手段であれ、そいつは世界的な新興宗教の祖ぐらいなれるだろう。
「そんな。おとぎ話みたいな話なのに。こうも実在するなんて」
一般的な認識としては、誰もが聞いたことはある程度の噂話だ。
あったらいいな、でもあるわけないよねといった類の。
少年もネットで見たことはあったのだ。
しかし実在するならば、もっと広まってもいいはずではある。
そう、いつだって真実は闇の中に。
世間に蔓延るのは、どうでもいい罵詈雑言ばかり。
「そいつらって、生きているの? 聞いた感じ、大分初期の人間じゃないの」
「ああ。大物は今も生きている」
「へえ」
普段はやる気のない目が、いつもより輝く。
「興味深いわね。個性の無個性化はこの世界における最大の課題なの。是非ともそれを研究したいわ」
それが出来れば、もっと仲間が増やせる。
実用化には様々な困難があるだろうが。
それでも光明が見えたと、彼女は嬉しそうだ。
「ぶっちゃけ捕獲できそう?」
「お前か私なら十分だろうな。大物は少なく見積もってオールマイト級だ」
「となると、他の艦娘たちには荷が重すぎるわね。私が出向かなきゃ、か。まずは調査を依頼していい?」
「俺はURだぜ。報酬は高いぞ」
「いいわ。私たちの誰を所望?」
「それもいいが、セイレーンの技術を私にも寄越せ。それが前金だ」
「監視はつけるわよ」
「いいぜ。妥協してやる」
超越者二人は獲物を見つけて楽しそうにする。
ケーキを目の前に、どう切り分けよっかなーと相談するように。
「何かとんでもない人たちに巻き込まれたような気がします」
「すっごく今更ね。こういう人たちだから諦めなさい」
新米二人は、それに入ることができず。
ただ遠巻きに眺めているだけだった。
*没ネタ*
「一流ヒーローとそれ以外の三下を分けるものは何か。分かるか? 一流の人間は失敗からの立ち直りが早いのさ。だからこそ良く折れるし、その度に強くなれる」
「許さない。あいつら絶対に許さないんだから」
「ああ、提督。加賀さん。赤城は今、あなたたちの元に逝きます」
「カッチカッチカッチカッチ、チーン。フフッ」
「なんでお前ら全員、致命傷を負っているんですかね…」