テセウスの魔棲物   作:倉木学人

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ヒロアカ見返して思ったんですが。
解説役が主人公って珍しいっすね。
大体そういうのは背景キャラに任せるものだと思ってましたけど。

3/15 ちょっと修正。
4/11 大型ロボの設定ミスを修正。あと、表現の一部を変更。


第6話 大物狩り

「実技試験があると聞いたけど。当然、勉強するよね」

 

「は、はい」

 

「他にどんな勉強法があるかは知らないけど。ここで演習していきなさい。アカギ」

「はっ。ここに」

 

「演習頼んだわよ。前衛は必要?」

「はい。まだその域にも達していないかと。指揮官様のために、このアカギこそが一人前の兵士にしてみせますわ」

「人殺し長屋の訓練か。程ほどにね」

 

「はい?」

 

 

 

**

 

 

 雄英高校の入試は筆記と実技に分けられる。

 筆記は某灘高程という訳ではないが、それでも地方公立トップクラス程度には難しい。

 そして何より問題は実技である。

 

 実技試験は、仮想敵(ヴィラン)退治。

 公開評価は、倒したロボットの質と量が点数に加算され、これに非公開かつ偏見による救助ポイントが加算される。

 これが雄英高校を登竜門と呼ばれる理由だった。

 

 個性が強ければ受かるのかと言えば違う訳で。

 そもそも個性が強すぎれば周囲から危険視されるのだ。

 そういった人間は力を抑えざるを得なくなるか、あるいは社会から疎外される。

 伸びる芽も伸ばす環境が無ければならないのだ。

 

 何より個性社会とはいえ、平和ボケ社会である。

 戦闘訓練など受けるはずもないただの中学生に戦えというのは無茶な話なのだ。

 個性社会において衰退した武術を学べば多少はマシになるだろうが、それでも践には程遠い。

 雄英に受かる学力・個性を持っていたとしても、ここで躓く人物が殆どである。

 

 結構高めの学力と、そこそこ有用な個性を持ち、有事への対応力を持つ。

 しかも、以上を持ち合わせた中三ときた。

 そんな人材はごく一握りの恵まれた人間であり、中々居ないのが現状なのだ。

 

 

「ハハッ。いやあ今年は豊作だねぇ」

 

 

 街中を模した”演習会場B”を見ていた試験官の先生たち。

 彼らはあまりの光景に、お通夜のムードでその映像を見ていた。

 その受験生の異様な姿に、一人を除いて一同唖然とするしかなかったのだ。

 

『や、やめるんだ。もう死んでる、じゃなくて。もう試験は終わってる! 大人しく手を放してその場で待機するんだ!』

『終わってない! まだ終わってません! この! ここまで私の手を煩わせるなんて!』

 

 時間切れで動かなくなった超巨大ロボットに熱い死体蹴りを続ける、自分の背丈数倍の装備を背負う少女。

 試験官でも無いのに親切にも不正行為を止めようとしているアスリート服眼鏡の青年。

 その周りを囲むの壊れた幾つもの仮想ヴィラン。

 そして、唖然した表情でそれらを遠巻きに見つめる小柄な少女。

 

大型敵(ゼロポイント)に立ち向かった受験生は過去にもいたが。まさか、最後まで戦い続けた奴がいるとは思わなかったぞ」

 

 今回用いている仮想ヴィランロボは危険ではあるものの、人死にが出てはいけないので攻撃力はかなり抑えている。

 とはいえ大型ロボに関しては妨害目的故に防御力が高い。

 逃げたほうが良いと公式で推奨するのは何ら間違いではない、分かりやすい無理ゲーではあったのだ。

 プロヒーローであっても立ち向かうのがせいぜいで、撃破はトップヒーロー級でないと厳しいくらいには難敵である。

 

 ビルより大きいそれに対して5分間も戦い続けるのは。

 無謀を通り越して異常としか言いようがなかった。

 

「また、叢雲の”被験者”か」

 

 叢雲グループとは、近年になって目覚ましい復活を遂げた財閥系企業である。

 

 かつては誰もが知ってるけど、今は大したことない程度の中堅グループだった。

 そんな中、現会長であるタンス・ニ・ゴーン氏の主導の下に”ムラクモ・ミレニアムプラン”を強行。

 日本史上類を見ない大リストラ及び人事異動を行った。

 

 こいつら終わったな、と誰もが確信する中。

 グループは幾つかの小企業を吸収合併することで活路を見出そうとした。

 

 倒産した日ググールを元に立ち上がったIT企業”スカイネットワークサービス”。

 地域と共に発展する会社”アンブレラ製薬”。

 物質主義の新興宗教を母体とする精密機械系”システムアルファ・コンプレックス”。

 

 これらの企業は次々と革新的新技術を開発し、叢雲グループは再び大企業へと返り咲く。

 そして、停滞した個性世界に新たな光を与えたのだった。

 

 ただ、日本経済に多大な貢献をする一方で、多くの雇用と安定を壊してきたのも事実である。

 そしてそれを打ち消すように福祉事業を過剰なまでに推進した事もあって、現在まで苛烈な批判に晒され続けている。

 

 福祉支援として個性が与えられた”被験者”が、それなりにいるとはヒーローたちも聞いているのだが。

 彼女たちを学内で見たことはあっても、平均どの程度の強さがあるのかは知らない。

 

「彼女、アレを視認した瞬間突撃しましたよね。立ち向かうにしても迷いがなさすぎでは」

「ヒーローっつーか、バーサーカーかよ」

 

 誰がつぶやいたか知らないが、恐れを含んだ言葉だ。

 叢雲重工からの実験体で、ヒーロー科以外に入学した人物はそれなりにいた。

 しかし、ヒーロー科を受験したのは今年で二人目だった。

 

 去年受験したアカギは、”誰よりも早く先手を射ち、十分なヴィランを撃退した後で救助に専念する”という最適解のような行動を起こした。

 結果、異常な成績を叩き出したが、”この結果は不正があったのでは”と大いに議論されることになった。

 しかし、”こいつを落としたら他全員を落とさなければならなくなる”という理由により無事合格となった経緯を持つ。

 

 去年と比べればこの結果は十分大人しいが。

 そのことが今回の議論を呼んだ。

 

「無個性の人間が、ここまで強くなれるのか」

「どうなんだ、彼女。合格にしていいのか?」

「点数自体は既に十分合格の範囲だ。彼女を落とすには合理的な理由に欠けるね。そもそも、この議論も合理的ではない」

「そもそも、あれは本当に個性なのか? 試験への持ち込みは最小限のものしか認めれていないはずだぞ」

「落とすとしたら、救助ポイントがマイナスであればでしょうけど、落とすにはあまりに惜しいかと」

 

 無個性の人間がヒーローになれない訳ではないのだが。

 一般に無個性をヒーロー科として取ることはないと言い切れる。

 主な理由は二つで、将来性の無さと職業ヒーローが問題となる。

 

 現実として、個性は鍛えれば強くなるし放置すれば弱くなる。

 当然、無個性であれば鍛える余地がその分無くなるのだ。

 個性以外に費やしたとしても、限界を感じて挫折することが殆どだ。

 

 そして職業ヒーローは、人気商売だということがある。

 ヒーローたちは当然ながら、その個性がアイデンティティなのだ。

 ヒーローが差別をする訳ではないが、顧客は間違いなく個性で見てくる。

 

 それに無個性でヒーロー活動をやるならば、別にヒーローじゃなくてもいいのだから。

 元とはいえ無個性のヒーローという存在は、否応なしに彼らの”根幹”を揺さぶる存在なのだ。

 

「すごいよね。彼女」

「校長」

 

 校長と呼ばれた他の人影より数段小さい影が、楽しそうに笑う。

 この場で一番小さく、そして一番偉い彼は。

 この状況を何よりも良しとしていた。

 

「いいね。彼女、間違いなくこれからの時代の渦になるよ」

 

 傷で片目しかないつぶらな瞳で、そう呟いた。

 

 

**

 

 

 雄英高校ヒーロー科(とその他の過程)。

 超巨大なキャンパスに超重大なセキュリテイ。

 何もかもが超ド級の高校なのだ。

 

 入学初日、それは制服に身を包み。

 先輩の先導で学内を案内されていた。

 

「ここが1-Aよ。場所が変わってなくて良かったわ」

「わああ!」

 

 それは夢への第一歩だった。

 自分が世界を滅ぼす者の手先となったとか、隣にいる妖怪変化から散々しごかれたとか。

 そういうことも今はどうでも良かった。

 彼女はこれから始まる生活に夢を膨らませていた。

 

「では、放課後に会いましょう。式神を渡しておくわ。緊急時にはこれで連絡しなさい」

「はい!」

 

 半分聞いちゃいなかったが元気に返事し。

 元気に窓のない扉を開けた。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないのか!」

「あ”あ”!? てめえどこ中だよ、端役が!」

 

 中には委員長でもないのに委員長然とした眼鏡の少年と。

 姿行動が不良にしか見えない、首席合格の少年が言い争いをしていた。

 それと複数の生徒たちがそれぞれ話をしている。

 入ってきた彼女にはまだ気づいていないようだ。

 

(かっちゃんとこうして、ここに来ることが出来たなんて!)

 

 彼女は今、再び自分の幼馴染である爆豪勝己(かっちゃん)と会えたことに感激していた。

 自分はこうして変わってしまい、暫くの間会う事が出来なかったが。

 全く変わってない彼と、今ここに同じ立場で会えたのだ。

 そのことがこの上なく嬉しかったのだ。

 

「む。君はあの時の」

「はい。私、ローンといいます」

「飯田天哉だ。これからお互い頑張ろう!」

 

 非公式の救助ポイントがあるというのを後から周囲に知らされ。

 それでもこいつ受かってしまったのか、とか思っていたが。

 見た目に表す事なく、紳士的に眼鏡少年は対応した。

 まあ、そういうのは試験官の先生が判断することだしね。

 

「かつての私には、個性がなかったのですが。まさかこうして皆さんと学べる日が来るなんて。まるで夢でも見てるみたいです」

「無個性。ということか? しかし、君は」

「元、ですよ。叢雲(重工)さんたちの協力の御蔭で、人工的に個性を得ることが出来たんですよ」

「成程。すごい技術があったものだな」

 

 元無個性だと言われても、そういう個性なんだなと普通に受け止められていた。

 彼らはキャラはそれぞれ異なるが、どいつもこいつもスクールカーストの最上層に立っていた人間である。

 例えば爆豪にとって、自分以外の人間は等しくモブキャラであるように。

 爆豪は入ってきたそれのことを全く気にしていなかった。

 

「ローンちゃんって外国の子なの? 金髪メッシュもそうだけど、めっちゃ肌白いわね」

「生まれも育ちも日本人ですよ。名前(ローン)は単なる偽名です。他の実験体の子のプライバシーを守るために、隠れ蓑として協力してくれと言われまして。この名前を使っているんです」

「へー。なんか大変だね」

 

 分かる人が見れば、一発で分かる偽名だ。

 とはいえこの場合、隠す事に意味がある。

 

 彼女にとって、自分の過去は一切恥ずべきものはないのだが。

 ”車を一台盗めば元がバレるけど。複数台盗めば分からなくなる”というピートたけし理論は、善良な彼女に納得できるものだった。

 よって偽名で通すことに納得していた。

 

「た、頼む! オイラをギュッと強く抱きしめてくれ!」

 

 と突然、サザエさんヘアーの小柄な少年が飛び出し。

 自己紹介もすっ飛ばして変な要求をしだした。

 

「うん? 私とハグしたいですか? いいですよー」

 

 変な要求だなとは思ってはいたが。

 特に困る事もないのでそれは対応に応じていた。

 

 こう、優しく、ぎゅーっと。

 

「フオオオオオオオオッ!」

 

 ふざけ半分で、まさか要求が通るとは思ってもいなかったが。

 今まで味わってこなかったその柔らかい感触を全身で味わっていた。

 こう、赤子の頃を思い出すような。

 入学早々、もう死んでもいいかなとか少年は思っていた。

 男、峰田、天国はここにあったのだ。

 

「何やってんだアイツ等」

 

 男女問わず、そんな感じの目でそれを見ていた。

 一体何を見せつけられているのだろうか。

 こうして自己紹介はマイペースに進められていったのだが。

 

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 

 突如現れた無精ひげの男。

 彼は簡単な説教と自己紹介を済ませた後、全員に運動服に着替えるよう指示を出した。

 入学式をすっ飛ばし、いきなり体力テストを行うとのことだ。

 

 個性を自由に使ってもいいが、成績最下位は除籍処分。

 もちろん除籍は合理的虚偽であるのだが。

 それでも見込みの無い奴は切り捨てる、という雰囲気は十分に伝わっていた。

 

 これが雄英高校ヒーロー科である。

 

(ハンドボール投げ、33500m。50m走、7.7秒。立ち幅跳び、150cm。反復横跳び、30回。駄目だ、まだまだ個性を上手く扱えてない)

 

 担任の合理的虚偽に気づかないまま、それはかなり焦っていた。

 力は無個性の時よりも遥かに上がっているが、足回り関係はやや低下しているぐらいだった。

 演習や実技試験でも悩んでいたことだが、どうも解消できそうになかった。

 

 そうしていく中で周囲は個性を使い、どんどん驚異の記録を打ち立てていく。

 

「それでも、力ならッ!」

「うお!」

 

 本来握力を図るために用いるのではない、実験で用いられる一番強い測定器を選んだのだったが。

 ばきっと鈍い音と共に、少女の握力で完全に分断された。

 大きなセンサー部分が重力に従い、落ちてバラバラに散っていった。

 

「そ、測定不能」

 

 測定器で測れないほどの力。

 もちろん、クラス内最高記録更新である。

 

「お。いいね、その手があったか! こうして俺の電気で壊しちまえば」

「力なら勝てると思ったのに」

「ねえオイラさっきギュッとされてたけど。もしかして危なかった?」

「少なくとも、僕は御免願いたい所だな」

 

 とはいえ、測定不能はこのクラス内で珍しいものではない訳で。

 結果として、彼女はクラス内最下位という記録で落ち着いたのだった。

 

 

 合理的虚偽に皆が惑わされる中。

 担任は乾いた眼をそれの資料に向けていた。

 

(やはり、か。見た目は任意発動型。しかし、”抹消”では何も消える様子がない。”アルベヒト・ローン”。こいつら、何者だ?)

 

 彼はアングラ系ヒーロー、イレイザー・ヘッド。

 やや限定的ながら個性を一時的に消去するという強力な個性の持ち主である。

 

 彼は不意打ち気味に、何回も彼女の個性を消そうとしたが。

 特にめぼしい変化は見当たらなかった。

 

 合理的ではないが、ちょっとした興味からだ。

 

「? どうかしましたか?」

 

 数回もしてれば、生徒もなんとなく気づくわけで。

 それから見つめ返される。

 

「去年、アカギの時も見たが。それは本当に個性なのか?」

「さあ? 個性を持ったことのない私には判断できなくて。先生には知らされていないのですか?」

 

 個性は生まれもった手足のようなもので、かつ何かと言われれば答えに窮するものだ。

 

 本物の個性じゃないから除籍、とかいう考えは彼にない。

 合理的思考を好む彼は、”使える”ことを優先的に考えようとする。

 一般人が書いた本物の絵画とモナ・リザの模写、どちらに価値があるかは明らかなのだから。

 

 大事なのは相応しいかどうか、だ。

 

「いや、悪かった。叢雲重工から話は聞いている」

「はあ」

 

 成程、合理的だ。

 そう思いながら、彼は思考を端へと追いやるのだった。

 

 

 

 




独断と偏見に基づく属性表。

秩序・善
理想の王、聖騎士タイプ。
この人物は進んで困難に立ち向かうことで、尊敬と称賛を得る。
その分独りよがりになりやすく、矛盾による気苦労が多い。
例:オールマイト

秩序・中庸
戦士、裁判官タイプ。
この人物は富と己の名誉の為に戦う。
文武両道のエリートで、プロ意識が高い事から常時頼りになる。
例:爆豪

秩序・悪
圧制者、死刑執行人タイプ。
この人物は自ら進んで悪徳を成す。
計画性と行動力に優れ、それなりの地位に立つ者が多い。
例:アカギ

中立・善
一般市民、看護師タイプ。
この人物は一見従順ではあるが、人とルールを天稟にかけると人を取る傾向にある。
意識しない大多数の人物はここ。
例:緑谷

中立・中庸
ドルイド、商人タイプ。
この人物は人や組織に左右されない強さを持っている。
誰にでも商品を売るし、誰からの喧嘩を買う。
例:フォックスハウンド

中立・悪
犯罪者、傭兵タイプ。
この人物は利己的な性格により多くの反感を得る。
簡単に裏切るが、仲間になるのも簡単。
例:死柄木

混沌・善
革命家、大馬鹿者タイプ。
この人物は己の善のために社会との対立も厭わない。
単なる皮肉屋、あるいは反逆者と捉えられるかもしれないが。
例:オール・フォー・ワン

混沌・中庸
友好的なエイリアン、無害な狂人タイプ。
この人物はとりあえず友好的なようだ。
言葉は通じなくても話は分かる。
例:

混沌・悪
異世界からの侵略者、災害タイプ。
この人物は悪を持って新しい秩序に成り替わろうとする。
明確な破壊の志向を持つ者が大半だが、中には何も考えていない者もいる。
例:叢雲
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