テセウスの魔棲物   作:倉木学人

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「異世界で技術チートって、誰が考えたんだろう。1970年のアメリカには既にあったみたいだけど」
「さあ? クリストファー・コロンブスじゃね?」


第7話 兵装最適化

 オールマイトが教師に着任。

 

 あのオールマイトが。

 スーパーマンな肉体を持った彼が。

 それでも妙に似合う銀行マンスーツを着て教壇に立っているだなんて!

 

 その衝撃にクラス中は湧きだった。

 あの世の中を舐め腐ったような態度の爆豪ですら、熱意を浮かべた表情を見せている。

 国民的ヒーローのその影響力は計り知れない。

 

 教師としての彼の初授業は、戦闘訓練。

 授業を受けるべく、皆が演習場へと向かう。

 

 その際、皆が着るヒーローコスチュームのお披露目となった。

 あくまでも初期案のものであり、今後もずっと着続けるわけではない。

 人によっては”これ着て外出るのか”と当人が疑問に感じるデザインだったりする。

 それでも皆、各々の衣装を喜んで着用していた。

 

 かのナポレオン・ボナパルト曰く、人は着た服と同じ人間になるという。

 彼らはヒーロー見習いに過ぎないが、今日ばかりは紛れもないヒーローだった。

 

「なあ、ローン、さん。その服」

「何ですか」

 

 普段は物腰柔らかいそれは、今日に限って不機嫌そうだった。

 周囲には衣装の露出に困っている女子もいるが、彼女はそこまで露出しているわけでもない。

 とはいえ不機嫌な理由も、その恰好を見れば周りもある程度察するのであった。

 

「すごく、悪役っぽいです」

叢雲(スポンサー)の意向ですよ。ほっといて下さい」

 

 黒い長袖の服。

 金髪にゲルマン系の雰囲気。

 それに象徴的な”十字架“があれば、B級映画で御馴染みのある存在を 思い浮かべることだろう。

 

 彼女の豊かな身体も合わさって、まんま悪の女幹部のようだった。

 ダーク系のヒーローもいるにはいるが、というかポリコレ的に大丈夫なのだろうか。

 

 この服は着たくなかったのに。

 そう思いながら思いにはせる。

 

 

『これが、貴方の希望するコスチューム? 何これ、ふざけてるの?』

『若き日のオールマイトって感じだな』

 

 ヒーロー科のコスチュームは、個人の要望が反映される。

 とはいえあくまで意見だけであり、好き勝手に決めるのは精々最初ぐらいだ。

 ヒーローは人気商売故に、大抵の場合はコスチューム専門のデザイナーがつくのが通例だ。

 

『却下。センスの欠片も感じないわね』

『そんな! 何がいけないんですか!』

 

 それは実質的な保護者である二人に、自らのデザインをまず提出したのだが。

 

 Vサインの触覚。

 はためくマント。

 口元に笑顔のような模様。

 

 青年時代のオールマイトを模した初期案を、その段階で拒否されていた。

 

『あのね。色々とツッコミ所はあるんだけどね。せめてマントは止めときなさいよ。危ないから』

『カッコいいじゃないですか。マント』

『そうね。カッコいいでしょうね。うん』

 

 ヒーローといえば、マント。

 それは騎士道の頃から続く、古き時代からの習慣である。

 理解はできることなので、叢雲は大きなため息をついた。

 

『アメリカのダラー・ビル*1ってヒーロー知ってる? 彼、銀行お抱えのヒーローだったんだけど。マントが回転ドアに引っかかって、銀行強盗に射殺されたのよ』

『オールマイトが付けなくなったのってまさか、そんな理由が。でも』

 

 勿論、マントの実用性は低い。

 付けたところで特にメリットがある訳でもなく、ただ当たり判定が増えるだけなのだ。

 そんな理由により、ヒーローのマントはマジックテープ式で止めるのが通例である。

 

『憧れなのは知ってるぜ。だが、憧れは理解に程遠い。それでいいのか。少年』

『何がですか』

 

 にやにや面を隠さない狼女。

 フォックスハウンドが頬杖をつきながら問いかけてくる。

 

『オールマイトは間違いなく天才さ。幾つものフィギアやTシャツなどのグッズを生み出した価値の創造者。じゃあ、それに続かんとするお前は何だ?』

『!』

 

 お前はただのパクリ野郎だと言われ、流石にむっとくるものはある。

 とはいえ、それも言いたいことは分かるのだ。

 

『爆豪少年を思い出せ。彼は何と宣言していたのか覚えているかい?』

『オールマイトを、超えるヒーローになるのだと』

『そうだ』

 

 オールマイトに憧れ、ヒーローになる。

 難しい夢ではあるが、随分とありふれてはいる故に。

 自分はこのままだと凡才止まりだ。

 

『時代の流れは残酷さ。オールマイトも、いつか通用しなくなる時が必ず来るぜ。そのポジションを継ぐにはどうしたらいいか常に考えろ』

 

 

 回想が終わり。

 一気に現実に引き戻される。

 

(この服で、”ローン”以外の何になれって。それに結局、この服を着る理由はないのですが。うう、妙に馴染んでいる感じが)

 

 今日の授業は屋内での戦闘演習。

 20人の中で10組のタッグを組み、さらにヒーロー側とヴィラン側に分ける。

 ヴィラン側は爆弾の模型を防衛し、ヒーロー側はそれの確保を目指すのだ。

 

「ローンちゃん、よろしくね!」

「よろしくお願いしますね。お茶子さん」

 

 ローンと組んだのは麗日お茶子。

 個性”無重力”の持ち主で、やや小柄で丸顔。

 やや控えめながらも雄英に受かるだけの元気を見せる少女である。

 

「しかし、ヴィラン側。ですか。うん。かえって好都合かもしれませんね」

 

 自分の指揮官みたいに悪役ぶる趣味はないのだけど。

 そう思いながら現状に微笑む。

 

「良い作戦を思いつきました。私がか、いえ。爆豪君を止めます。お茶子さんは飯田君をお願いします」

「へ? それはいいけど。この場合、協力した方が良くないかな」

「まずは協力します。その上で分断しましょう」

 

 ヒーロー側の相手は、爆豪と飯田の二人。

 二人にとってそれなり、あるいはそれ以上の関係のある人物である。

 入試の関係で、両方側ともそれぞれの個性は認知していると見ていいだろう。

 

「状況は、私たちが若干不利です。ヒーロー側二人は、攻撃的な性格と個性ですからね。爆豪君は”爆破”、飯田は”エンジン”の個性。どちらも高い攻撃力と機動力を持つ優秀な個性です。私は盾役ぐらいならできる個性ですけど、私たち二人の機動力はどうしようもないのがこの場合痛いですね。二人の押せ押せな気質もあって積極的な行動が予想されます、攻められる側としては厄介でしょう」

「そ、そうだよね」

 

 それなりどころか、割とガチな解説が始まる。

 

「ですが、今回は私たちにも利点があります。爆豪君は私が何とか止めるしかありませんが、飯田君は前持った対策をしやすいかと思います」

 

 とはいえ、ヴィランにあってヒーローにないものもあるのは事実。

 

 それはこれからの作戦を説明した。

 

「え、それってやっていいのかな?」

「私たちはヴィラン側ですからね。少なくとも、始めの一回は通ると思いますよ」

「うーん?」

 

 少女は若干の難色を示すが、そこまでの反対という訳でもないようだ。

 お互いに話し合い、作戦を練っていく。

 

「爆豪君と飯田君かあ。強敵だなあ」

「大丈夫です。いざという時は”実行”をお願いします。最悪でも引き分けに持ち込めますので。これもヴィランの強み、ということでしょう」

 

 さて、オールマイトの合図により訓練が開始され。

 一方の爆豪・飯田ペアはというと。

 

「待ちたまえ! 相手の実力は未知数だ。もっと良く作戦を練るべきだろう!」

「うるせえぞクソ眼鏡! 端役の分際で俺に指図するんじゃねえ!」

「言わせておけば。いい加減にしろ!」

 

 女子二人と比較して仲はあんまり良くはなかった。

 喧嘩しながら廃ビルの中で歩みを進めている。

 

『爆豪、感じ悪っ!』

『あれではどっちがヴィランなんだか。分かったものじゃないですわね』

 

 ちなみに、互いのペアの様子は観客側から丸わかりである。

 他の生徒たちは、アイツ等ある意味で大物だなとか思っていて。

 オールマイトも、今はそれを咎めることなく苦笑している。

 

「あぁん?」

「む」

 

 いい加減ウザいし振り切って突撃しようか、とか爆豪が思っていたが。

 曲がり角を曲がった所でそれを見た。

 

「こんにちは、今日は素敵な一日になりそうですね」

 

 彼女は今日見た服装のままだ。

 飯田はその様子に、少し違和感を覚えた。

 戦闘時の彼女は、あの物々しい装備を付けていたはずだが。

 それを展開している様子でもない。

 

「だって、こんなにもいい天気なんですから」

 

 これから始まるであろう戦闘に対して、笑顔を浮かべている。

 そして手でクイっと爆豪を挑発する。

 これは演習に過ぎないはずだが、フェアプレーのスポーツを心がけるようにも見えない。

 

「上等だ、三下が!」

「待つんだ! あれは明らかに罠だ!」

 

 こちらを誘っている、と分かった上で爆豪は突撃する。

 罠があろうが関係ない、それを踏みつぶしてこそNo.1ヒーローだ。

 彼にはそれだけの自信と実力があった。

 

 そうして腕を振りかぶり―

 

「一発目は右の大振り。そう来ると思っていましたよ」

 

 見事にその腕を掴まれた。

 

「な、何だ。と?」

 

 相手の動作では掴める攻撃ではなかったはずだ。

 爆豪はそれと相対したことがある訳ではないが、相手のスピードでは対応できないと感じていた。

 なのに、掴まれた。

 

「つーかまーえた♥」

 

 ”完全に熟知している”ならば話は別だからである。

 そのまま綺麗に背負い投げを決める。

 

「がはっ! ッ!」

 

 やはり、遅い。

 状況を的確に判断し、彼は正しく受け身を取った。

 そうすると、それを目があった。

 

「―ゃん。ずっと貴方を追いかけていた。でも、ようやくここまで追いつけました」

 

 その言葉自体は爆豪には届かなかった。

 

 何故なら、未だ彼は掴まれていた故に。

 それの背から錨や係留索、鉄パイプなどが伸び、彼をさらに縛っていく。

 

 そうして嫉妬に狂ったような鈍くくすんだ目が彼を上から覗いていた。

 

「なめ、るなあああああああ!」

 

 そうして見下されて、黙っている彼でもない。

 彼は自らの両腕に集中させ。

 彼の個性を使い、全力で”爆破”した。

 

 その衝撃で、建物自体が大きく揺れた。

 

 爆豪克己、個性”爆破”。

 両手からニトロを生み出して、それを着火させる個性である。

 

 彼はヒーローからスカウトが来る程の個性の持ち主だ。

 爆発による攻撃力はもちろん、爆風を使っての移動もこなせる。

 爆発させる本人も爆発に耐性があるため、こういった個性にありがちな弱点もない。

 分かりやすく、戦術的に使いやすく、何より制御がしやすい。

 数ある個性の中でも、特に”優秀”と言える個性だった。

 

「爆豪君! 大丈夫か!」

 

 飯田が大声で叫ぶが、返事はない。

 建物の一部が爆破され、二人は下の階へと落ちていったようだ。

 足場も崩れて、様子をうかがう事はできない。

 だが、戦闘音はかすかに聞こえる。

 

(状況が把握できないが。このままでは、不味い! 僕達としたことか、後手に回っている!)

 

 分断されてしまったこと、分かっていて防げなかったこと、それらを悔やむ気持ち。

 それらが渦巻く中、彼は自らの足で走り出した。

 もう一人の敵であるお茶子を探して。

 

 

**

 

 

「く、そが!」

「これで、ようやく二人っきりになれましたね」

 

 それは大技を撃って若干息を整えている爆豪と相対した。

 

 彼女は大きな装備を展開していた。

 飯田少年が入試見た時よりも一層大きく見えるそれ。

 それは意思をもって唸るように周囲を見渡した後。

 これから始まる戦闘に対して喜びに震えていた。

 

『小林辛子か?』

『すげぇ』

 

 ギャラリーの生徒が好き勝手言う中。

 オールマイトは笑顔を浮かべながら、内心ちょっと冷や汗を掻いていた。

 

(私もヒーローをやって長いが、あのような”個性”の持ち主は始めて見るぞ!)

 

 自らの手足となる器官がある、という個性は珍しくない。

 だがそれを体に内蔵して、しかもそれ自体が生きて独立しているようなのは大変珍しいと言うべきか。

 

 そして何より、それは良く分からない奇妙なエネルギーに満ちているのだ。

 

―ククク。少年、力が欲しいか?

 

 それの脳内で、過去の映像が再生された。

 自分が生まれ変わったあの病院で、あの印象に残る笑顔が見える。

 そして、自分に何かが突き刺さった。

 

―きゃっ。何を?

―これまでの見世物料としてくれてやるよ。スタプラ級とまではいかないが、お前さん達との相性は良いだろうさ。

 

 自らに刺さったDISCを見ると、それには貨物船の一室が写っている。

 船には何故か、場違いな一匹のオラウータンがいた。

 タバコに火をつけ、ぶかぶかのキャプテン服を着て、器用にルービックキューブのパチモノを回している。

 彼女の視線に気づくと、その生物は一冊の英和辞書を取り出した。

 

―成長性が無い分、それを使いこなすのは至極簡単さ。ちゃんと一回、力に溺れてみな。

 

 指し示したページにはこう書いてある。

 

strength[スト"レ"ングス]

①力、元気、勢い、助け、強度、強い、強さ、強硬。

②大アルカナ8番目のカード。挑戦、強い意志、秘められた本能を暗示する。

 

―さて。ロブ・ディケンズの舵取りで、どこまで航海できるかね。

「素敵な戦闘にしましょうか?」

 

 彼女の背後から、様々な艤装がゆっくりと飛び出し。

 それらが爆豪へと襲い掛かった。

 

*1
アメコミ”Watchmen”に登場するヒーロー。元スポーツマンの善良な青年だった。




**

個性、幽霊船(偽)。

本作における出久少年の個性のようなナニカ。
原作主人公にKAN-SENのデータと艦娘の身体、それらにスタンドという闇鍋の化身。
ナチス拷問船の擬人化。

船の装備をまるで自分の身体のように扱うことができる。
一般的な船の艤装はもちろん、重巡洋艦の主砲まで自由自在幅広く対応している。
ついでに水中に浮かぶことができる。

八百万百の”創造”とはほぼ相互互換の関係にある。
八百万は物理に縛られるが、こちらは本人の精神力に縛られる。
それ故に出力はこちらの方が上だが、具現化までワンテンポ必要な八百万よりさらに遅い。

固い重い遅いが揃った自己完結型の個性。
元が過酷な環境で運航する船だけあって、鈍足だが非常によく耐える。
誰と組んでも良いが、裏を返せば誰と組んでもイマイチ。
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