「ただいま!!」
「お帰り。って、大樹、何そんなに慌ててるの?」
市の中心部にほど近い住宅地、その一角に建てられた赤い屋根が特徴の自宅に帰ってきた大樹は。
キッチンで夕食の準備をしている母親の声を他所に、急いで二階の自室に向かうと、大慌てで学生カバンを置き、制服から私服に着替える。
そして、準備が整うと、大樹はリビングでくつろいでいた柴犬、愛犬の"コア"を散歩に連れていく準備を始める。
「あら? 散歩?」
「そ、そう! ちょっと公園にコアを散歩に連れてってくる!」
「気をつけてね」
リードを付けて、必要な物が入ったお散歩バックを片手に。
実際はハロを探させるのだが、序に散歩も兼ねるという、半ば事実の嘘で母親に怪しまれずにコアを自宅から連れ出す事に成功すると、大樹は、早速いつもの散歩コースでもある、近くの大きな公園へと向かった。
時間帯から多くの子供が遊んでいる公園は、池や遊具などが敷地内に存在し、日々多くの人々に利用されている公園である。
そんな公園にコアと共にやって来た大樹は、コアの散歩をしながら、早速公園内でハロが落ちていそうな場所の目星をつけ始める。
「あ、鈴谷さん、こんにちは」
「やぁ、花梨ちゃん、こんにちは」
「ワン!」
「ワンッ!」
とその途中、大樹は顔見知りの子と邂逅を果たす。
コアの友達で、この公園でよく散歩している大型犬、名前をフランダースと。
その飼い主で市内の小学校に通う、
「コアちゃんのお散歩ですか?」
「うん。花梨ちゃんは、もう終わった感じ?」
「はい」
互いに尻尾を振りじゃれ合うコアとフランダースを他所に、他愛のない会話を交わすと、程なく大樹はシャクティとフランダースと別れ、本来の目的を果たすべく公園内を歩き回り始める。
「うーん。この辺りなんてよさそうだな」
そして、暫く公園内を歩き回り、ハロが落ちていそうな雑木林の一角に目星を付ける大樹。
「いいか、コア。ハロって言う、丸くて硬いものを探してくるんだ、いいな?」
「ワフ?」
「分かってんのかな? ……ま、大丈夫だろ。よし、探してこい!」
「ワンッ!」
ハロを探してくるようにコアに言いつけた大樹は、若干の不安を覚えつつも、リードを外し、コアを雑木林の一角に解き放った。
刹那、忠犬コアは、主人である大樹の言いつけを実行する様に、雑木林の奥へと姿を消した。
それから暫くして、コアが口に何かをくわえて戻ってくる。
「ワン!」
「確かに丸いけど……。これ、野球ボールじゃないか」
だが、大樹の差し出した手に置いたのは、どう見ても野球のボールであった。
「これじゃなくて、もっとこう、光沢を放ってるというか……」
「ワン!」
と、コアは再び雑木林の奥へと向かって走り出すと、再び姿を消した。
そして、暫くしてから、再び口に何かをくわえて戻ってきた。
「ワン、ワン!!」
「確かに光沢放ってるけどさ……、これ、水晶玉」
だが、またしても、大樹の欲しているものとは別のものであった。
「はぁ……。やっぱハロが落ちてるなんて、そんな都合がいい事なんて、そうそうある事じゃないのかな」
半ば諦めムードが漂う中、大樹は、三度目の正直を信じて、三度コアを解き放つ。
そして、暫くすると三度、口に何かをくわえて戻ってきた。
「ん?」
徐々に近づくコアの口にくわえられたそれを目にした大樹は、徐々に胸の高鳴りを覚える。
「ワン!」
そして、差し出した手に置かれたそれを見て、大樹の表情が一変して笑顔に変わった。
「こ、これは、紛れもなくハロ!! コア! よくやったな! お手柄だぞ!!」
「ワン!」
緑色の小型球形のそれは、紛れもなくハロであった。
念願のハロを手に入れ、喜びに沸く大樹は、功労者のコアにも、その功労を称えるべく目一杯撫でてやる。
「よし、これでハロは手に入ったし、急いでホワイトベースに行かないと!!」
そして、大樹は再びホワイトベースに戻るべく、足早に自宅へと戻るのであった。
自宅に帰り、母親にハロを拾った事を悟られない様に散歩の後片付けを終えた大樹は。
二階の自室に戻ると、勉強机の秘密の場所に隠してある貯金箱から一万円を取り出し財布に入れ替えると、再びホワイトベースに向かうべく自宅を後にしようとする。
「あら大樹、どこ行くの?」
「え、っと。……ちょっと、コンビニに」
「もうすぐ晩御飯だから、なるべく早く帰って来るのよ」
「はーい、じゃ、行ってきます!」
自分自身のお金で買うのだから、母親から反対される訳ではない筈だが。その時、大樹は素直にモビルスーツを買いに行ってくる、とは言えなかった。
こうして、ハロの事をバレないように隠しながら、適当な嘘で誤魔化し自宅を出た大樹は、はやる気持ちが現れるかのように、全速力でホワイトベースに向かった。
そして、市内が夕焼けに染まる中。
再びホワイトベースの前までやって来た大樹は、走って乱れた息を整えると、ホワイトベースに入店しようとした。
「ん?」
だが、入店する直前、大樹は、店内で誰かが怒鳴っている事に気が付く。
その声は、安室のものではないので、おそらくお客さんだと思われるが。
「え?」
それでも、引き返そうとせず、自動ドアを潜り店内に足を踏み入れた大樹が目にしたのは。
フルフェイス式のヘルメットを被り、緑色の宇宙服を連想させる服装に身を包んだ、体型と声からして二人の男性が、レジカウンターの安室にからんでいる光景であった。
「だから、等価交換だって言ってるだろうが! このガフランは凄いんだぞ! 滅多に手に入らないモビルスーツなんだぞ! だから、そのガンダムタイプのパーツ一式と交換しろ!」
「滅多に手に入らないかどうかは知らないが、そんな物々交換、ウチじゃ受け付けられませんよ! パーツが欲しいのなら、ちゃんと現金を持ってきてください!」
どうやら、怪しい格好の男性二人は、二人の後ろに控えているガフランと呼ばれたドラゴンの様な外見をしたモビルスーツと、レジカウンター奥の棚に置いてある
「何だと! そんな事を言うのなら、黙っちゃいないぞこら!」
「ガフラン!!」
刹那、頑なに交換を拒む安室の態度に堪忍袋の緒が切れたのか。
男性の合図と共に、突如ガフランがレジカウンターに飛び乗り、安室に対して威圧し始める。
「っ!?」
「くくく、どうだ、交換する気になったか!? 素直に交換に応じた方がいいと思うぞ?」
「だ、駄目だ! そんな交換、応じる訳にはいかない!!」
「ムキーッ!! 強情な奴め!! そんなに言うなら、少し痛い目にあってもらおうか!」
本来、モビルスーツには、人間に危害を加えない様に、モビルスーツ三原則なる行動制限が設けられている。
その一つに、"わざと人間を傷つけてはならない"との内容がある。
ただ、直接傷つける事は出来なくとも、間接的に傷つける事は可能だ。
「ふふふ、覚悟し……」
「ま、待て!!」
「ん? 何だぁ?」
安室の身が危険だと直感的に感じた大樹は、彼を助けるべく、大声で待ったを掛けた。
「だ、大樹君! 危ないから逃げるんだ!」
「で、でも、それだと安室の身が」
「僕の事はいいから、早く……」
「何だ、このガキ!?」
「おいガキ、お前、俺達が
「え!? お、
それは、巷を騒がせていたりいなかったりする、"自称"、極悪非道な悪の秘密結社である。
ただし、その活動内容は、食い逃げや無断予約キャンセル、更には公共トイレのトイレットペーパー窃盗等々。その大半は、極悪非道と自称する割には、実に下らないものばかり。
その為、世間一般的には何処か愛嬌のある集団として認識されていた。
「こ、このガキィッ!! 俺達のエレガントでスマートな悪行の数々を下らないだと!!」
「許さんぞ!! 先ずはお前から痛い目にあってもらう!!」
どうやら大樹の思惑通り、二人の注意を自身に向ける事には成功したものの。
余計な一言から、火に油を注ぐ事にもなってしまったようだ。
OZOZ団の団員二人は、鼻息を荒くしてじりじりと大樹に迫る。
「……ん? お前、よく見ればハロ持ってるじゃないか!?」
「え?」
「丁度いい!! おいガキ! お前のモビルスーツと俺のガフランでガンダムファイトだ!!」
と、OZOZ団の団員の片割れが、大樹がハロを持っている事に気が付くと。
彼は、ガンダムファイトを提案した。
自慢のガフランで大樹のモビルスーツを完膚なきまでに叩きのめし、合法的に大樹の鼻をへし折ってやろうとの考えからだ。
「あ、その……。実は俺、まだモビルスーツ持ってなくて」
「……、へ?」
「まだハロだけしか持ってないから、G・フレームとパーツをこの店に買いに来たんです」
「……、ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁっ!!」
しかし、大樹の口から語られた内容に、OZOZ団の団員は更に怒りを露わにした。
どうやら、自分達の事を更に馬鹿にしたと感じたようだ。
「えぇい! もうこうなったら、やっぱりその体に痛い思いをしてもら……」
「ははははっ!!」
「!? な、何だぁ!?」
そして、当初の予定通り、痛い目に合わせようとしたその時。
不意に、OZOZ団の団員二人の足元に、トランプカードが突き刺さる。
刹那、謎の笑い声が店内に木霊した。
「だ、誰だ!? し、正体を現せ!!」
「よかろう!」
そして、次の瞬間、店内に靴のかかとが鳴る音が響く。
その音の発信源へと視線を向けると、そこには、店の奥から白いタキシードに白いシルクハット、そして、白いシンプルな仮面をつけた謎の男性が現れた。
「皆で守ろうこの世の平和! 根絶しましょうブーイング! 華麗なる大怪盗! 怪盗ソレシタラ・ブーイング、只今参上!!」
そして、決めポーズと共に名乗り口上を見事に決めた怪盗ソレシタラ・ブーイング。
それに対して、OZOZ団の団員二人は、早速怪盗ソレシタラ・ブーイングに噛みつく。
「平和守ろうとか言いながら怪盗って、それ思いっきり矛盾してるだろう!」
「大体なんだよその名前、ふざけてるのか!?」
「ふ、そんな恰好をしている君達に言われたくはないな!」
怪盗ソレシタラ・ブーイングの言葉に地団駄を踏むOZOZ団の団員二人を他所に、怪盗ソレシタラ・ブーイングは、大樹の方へと近づく。
「少年!」
「は、はい!」
「これを使いたまえ!」
そして、怪盗ソレシタラ・ブーイングが大樹に手渡したのは、G・フレームとRX-78 ガンダムのパーツ一式であった。
「あの、これは……」
「さぁ、急いで組み立てるんだ!」
「は、はい!」
怪盗ソレシタラ・ブーイングの声が何処かで聞いた事のある声だと思いながらも。
大樹は、言われた通りG・フレームにRX-78 ガンダムのパーツを取り付けていく。
そして、核となるハロを、コクピットハッチから装着すると。
最後に、モビルスーツ所有者登録及び管理の為のアプリをスマートフォンにダウンロードする。
怪盗ソレシタラ・ブーイングに教えてもらいながら、手続きに従い必要事項の入力を完了すると、大樹は最後に、はいの表示をタップした。
刹那、ガンダムの胸部ダクトから僅かな煙が輩出されると、ガンダムのデュアルセンサーに光りが宿った。
「んぁ? こ、ここは?」
そして、初めて自分自身の相棒となるモビルスーツを起動させ、喜びに沸く大樹を他所に。
何処か生意気そうな、だが内に頼りがいのあるものを感じさせる少年の声で、ガンダムは、自身の置かれた状況を尋ねた。
「あ、ここはホワイトベースって玩具屋さんで、俺はお前のパートナーになる鈴谷 大樹、よろしくな!」
「私は怪盗ソレシタラ・ブーイングだ!」
とりあえずここが何処で、目の前の二人が何者かは理解したガンダムであったが。
同時に、怪盗ソレシタラ・ブーイングについては、突っ込まないでスルーするのが無難であるとも理解するのであった。
「おいこらー! 俺達を無視すんなぁーっ!!」
と、その時、今まで何故か大人しくしていたOZOZ団の団員二人が、再び大声で自身の存在を主張し始めた。
「なぁ、あの二人は誰だ?」
「あれはOZOZ団って言って、いい年して悪の秘密結社を名乗ってる恥ずかしい大人だよ」
「は、恥ずかしいって言うな!!」
「我らはエレガントでスマートな悪の組織だ!」
大樹の一言にバイザーの奥の素顔を真っ赤に沸騰させるOZOZ団の団員二人。
「その減らず口!! ガンダムファイトで滅多打ちにして! もう二度と喋れない様にしてやる!!」
そして、ガフランのパートナーである団員が、再びガンダムファイトを申し込んだ、次の瞬間。
「合意と見てよろしいですね!!?」
店内に、再び謎の声が響き渡った。
その謎の声に一同が声の主を探すべく視線を動かしていると。
不意に、店内に展示していた、等身大の巨大ぬいぐるみの中から、汚れ一つないまっさらな白いシャツに真っ赤な蝶ネクタイ、黒のズボン姿と言う出で立ちのダンディな男性が現れる。
想像の斜め上を行く場所から姿を謎の男性が現した事に、一同は驚愕せずにはいられなかった。
「だ、誰だお前は!?」
「これは失礼。
OZOZ団の団員の質問に対して、丁寧に自己紹介を行ったミスター・アキモト。
自己紹介が終わると、彼は、自身の職務を果たすべく、再び口火を切った。
「改めまして、このファイト、合意と見てよろしいですね!?」
「勿論!」
「ふん、ガキ、コテンパンにしてやるよ!」
「それではこれより、ガンダムファイトを開始したします! ルールは簡単、互いのモビルスーツを戦わせ、先に相手の機能を停止させた方の勝利です! 勝者は、敗者からパーツを一つ取ることが出来ます! 双方、準備はよろしいでしょうか!?」
ミスター・アキモトの了承確認に、互いに同意した旨を示す両者。
「それでは! ガンダムファイト、レディー……」
「あぁ、ちょっと待った!」
そして、ミスター・アキモトがファイト開始のコールを行おうとした刹那。
突然、怪盗ソレシタラ・ブーイングから待ったがかかる。
「何か?」
「お店の中でのファイトはお店の方に迷惑がかかる。ここは、外に出てファイトをするのが賢明と思うが?」
「……それもそうですね。では、外に出て改めて仕切り直しです」
コールを途中で止められ不機嫌な様子のミスター・アキモトだったが、怪盗ソレシタラ・ブーイングのいう事は最もなので、一同を店の外に誘導し始める。
こうして、店先に出た一同は、各々仕切り直すべく、気持ちを切り替える。
「うぉほん! それでは、今度こそ!!」
ミスター・アキモトも一拍置くと、自らの手を高らかに振り上げ。
「ガンダムファイト、レデーィィィィッゴォォォォォォォッ!!!」
コールと同時に、その手を振り下ろした。
「よし、先手必勝! ガンダム、ビームライフルで攻撃だ!!」
コールと同時に、大樹はガンダムに指示を与えるも、何故かガンダムは指示に従おうとしない。
「おい何やってるんだよ!? ビームライフルだよ、ビームライフル!」
「んな事言ったってよ、そんなの持ってないぞ?」
「……え?」
そこで大樹は気付いた。
組み立てて起動させる事にばかり意識が向いていた為、武装のパーツを持たせる事を忘れていた事を。
「あ、あの、今から武装持たせる事って……」
「一度試合が始まったら、その間は、如何なるパーツ交換も武装の変更等も認められません!」
大樹は恐る恐るミスター・アキモトに尋ねてみるも、結果は予想通りのものであった。
「おい、どうすんだよ!」
「え、えっと……。そ、そうだ、頭部のバルカン!」
「弾入ってねぇぞ!」
ガンダムに言われ、スマホの画面を見てみれば、そこには、頭部バルカン砲残弾ゼロとしっかりと表示されていた。
「武装もねぇ、バルカン砲の弾もねぇ! なーにやってんだよ! この間抜け!」
「な! 間抜けだと!? それがパートナーの俺に言う言葉か!」
「ふん、こんな間抜けなパートナーなんて、俺は願い下げだね」
「俺だって、こんな可愛げもない憎たらしい奴が相棒だって分かってたなら起動させなかったよ!」
「んだと!? このキュートでラブリーな俺様に可愛げがないだと! なら、そう言うお前は阿呆面だ!! やーいやーい、あーほーづーらー!!」
「言ったな! この馬鹿ガンダム!!」
「馬鹿だと! 馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ!」
そして、口論から始まった大樹とガンダムのいがみ合いは、とうとう取っ組み合いの喧嘩に発展してしまう。
「いでで! いで! この、やったな!!」
「だー! 俺様のチャームポイントのブレードアンテナを引っ張るんじゃねぇ!!」
頬を引っ張ったり、額のV字型ブレードアンテナを掴んだりと。
収まるどころかますます激しさを増す大樹とガンダムの喧嘩。
怪盗ソレシタラ・ブーイングの落ち着かせようとする声も空しく、一向に止める気配がない。
「お、おい!! 今はガンダムファイト中だぞ!!」
そんな、試合そっちのけで喧嘩をする大樹とガンダムの様子を目にし、堪らず試合相手のOZOZ団の団員が声を挙げた。
「お前なんか起動させなきゃよかった!!」
「俺だって、もっとカッコよくて頼りがいのあるやつがパートナーならよかったよ!!」
「こら、無視するなぁーっ!!」
だが、そんなOZOZ団の団員の声も、大樹とガンダムの耳に入っている様子はなかった。
「くそー!! 人を何度もコケにしやがって!! ガフラン! あの生意気な奴らを叩きのめせ!!」
そして、OZOZ団の団員の指示に従い、ガフランが動き出す。
内蔵式の武装を持つガフランは、両掌に備えたビーム・サーベルでガンダムを串刺しにすべく、一歩また一歩と、ガンダムのもとへと近づく。
一方、ガンダムは、ガフランが近づいている事に気付く素振りもなく、大樹と取っ組み合いの喧嘩を続けていた。
「今だ! やれ!」
「ガァ!!」
「今こいつと勝負してんだ! 邪魔すんなーっ!!!」
そして遂に、ガフランがビーム・サーベルの間合いまで近づき、ガンダムを串刺しにするかと思われた、その時。
喧嘩の邪魔をされると思ったのか、ガンダムの強烈な右アッパーが、ガフランの頭部を直撃した。
「んなぁ!?」
強烈な右アッパーを受けて吹き飛ぶガフラン。
そして、固いアスファルトの道に叩きつけられると同時に、ガフランの頭部から、ガフランに装着されていたハロが強制的に排出される。
それは、ガフランが機能を停止させた事を意味していた。
「ガフラン、機能停止!! よってこの試合、大樹選手とガンダムの勝利となります!!」
「あ、あれ?」
「ん? 何だ?」
「いつの間にか、勝っちゃった……」
「何だかよく分かんねぇが、勝ちは勝ちだ、ははは!!」
ミスター・アキモトから高らかに勝利を告げられ、漸く喧嘩を止めた大樹とガンダム。
人生初めてのガンダムファイトが、勝利の実感もなく終わったことに釈然としない大樹を他所に。
ガンダムは、とりあえず勝利した事に満足の様子であった。
「では、敗者は勝者にパーツを一つ差し出してください」
「ふ、ふ、ふざけるなぁ!! こんな試合認められるかぁ!!」
一方、敗者となったOZOZ団の団員は、この敗北が到底納得できず。
パーツ譲渡を促すミスター・アキモトに食って掛かる。
「判定は絶対です。さぁ、パーツを一つ、差し出してください」
「うるせぇ!」
と、ここまで溜まりに溜まったイライラが爆発したのか。
OZOZ団の団員は、遂に手を出し、ミスター・アキモトの顔を殴ってしまう。
「……殴りましたねぇ?」
「っ!」
すると次の瞬間、ミスター・アキモトの目が怪しく光った。
「ガンダムファイト国際条約第九条! レフェリーに暴力を振るってはいけない! ……違反者には、ペナルティを課させていただきます!!」
刹那。
夕焼け空の彼方、まるで軌道上から地上へと降り注いだ一筋の光は、寸分違わずミスター・アキモトの顔を殴ったOZOZ団の団員の首元に突き刺さった。
そして、次の瞬間には、首元に何かが突き刺さったOZOZ団の団員は、全身に痙攣を起こし倒れてしまう。
「ひぃ!?」
相方が謎の光、おそらくミスター・アキモトの言ったペナルティを受けて倒れた様子を目にした、もう一人のOZOZ団の団員は。
慌ててガフランの脚部パーツを大樹に手渡すと、倒れた相方と機能停止したガフランとハロを両脇に抱え、逃げる様にその場から去っていくのであった。
「では、
そして、自身の職務を果たしたミスター・アキモトも、満足した様子でその場を後にする。
「少年、初勝利おめでとう! 少々腑に落ちないと言いたげだが、兎に角、勝利は勝利だ! だが、この勝利に浮かれる事無く、気を引き締めて、相棒のガンダム君と共に精進してくれたまえ! ……では、私もそろそろお暇させてもらおう。さらばだ!」
最後に、白いマントを翻し、華麗に去っていく怪盗ソレシタラ・ブーイングを見送ると、店先に残された大樹とガンダム。
「なぁ、そう言えばさ。結局、怪盗ソレシタラなんたらって、何者なんだ?」
「さぁ? 何者なんだろう?」
と、大樹とガンダムは、今頃になって怪盗ソレシタラ・ブーイングの正体を疑問に思うのであった。
「あ、そうだ! 安室さん!」
刹那、大樹は何だかんだあってすっかり忘れていた安室の事を思い出し、再びホワイトベース店内に足を踏み入れる。
「安室さーん! 安室さーん!!」
「や、やぁ、大樹君。怪我は、なかった、かい?」
すると、店の奥から、何故か肩で息をする安室が姿を現した。
「あれ? 安室さん、何だか苦しそうですけど?」
「あ、いや。君がOZOZ団の注意を引いてくれている間に、急いで店の奥に逃げたものだから、少し息が、ね」
と言う割には、先ほど全速力をしてきたかのような様子だが、大樹は、この件に関してそれ以上質問する事はなかった。
「あ、そうだ、安室さん。ガンダムのG・フレームとパーツ一式、怪盗ソレシタラなんたらって変な人が……」
「怪盗ソレシタラ・ブーイング、正義の味方の事だね!」
「え、あ、はい。その怪盗の人が勝手に持ってきて、勢いで組み立てて起動させちゃったんですけど……。代金の一万円、今お支払いします!」
成り行きとはいえ、ちゃんと代金を支払うと告げた大樹に対し。
安室は、優しい口調でその必要はないと告げた。
「大樹君がOZOZ団を撃退してくれたんだ。それは、そのお礼としてプレゼントするよ」
「本当ですか!?」
「あぁ、本当だ」
「やったー! やったぞガンダム!!」
「ん? 何かよく分かんねぇけど、ま、兎に角、おうよ!」
状況をよく理解できないが、兎に角大樹と喜びを分かち合うガンダム。
「あ、そうだ。改めてだけど、これからよろしくな、ガンダム」
「ま、しょうがねぇな。おう、よろしくな、大樹」
大樹が差し出した手をガンダムは握り返し、改めて、二人は互いにパートナーとしての第一歩を踏み出すのであった。
そして、再びホワイトベースを後にすると。
ガンダムを連れ、試合に勝利して手に入れたガフランの脚部パーツを小脇に抱えながら、日没間近の中を家路につく大樹。
「……あ! そうだ。母さんにガンダムの事、なんて説明しよう」
その最中、大樹はふと、母親にガンダムの事をどう説明しようか、頭を悩ませるのであった。
「なぁ、大樹の母ちゃんって、そんなに怖いのか?」
「怒るとね。でも、優しい時はとっても優しいんだ」
「ふーん。なるほどな」
一方、ガンダムの方は、楽しい事、悲しい事、苦しい事も面白い事も。
様々な体験をすることになるであろう、これから始まる新しい環境に、少し心を躍らせるのであった。
本作品をご愛読いただき、本当にありがとうございます。
怪盗ソレシタラ・ブーイング……、一体どこの超大型新人なんだ……。