BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第9話 病室の約束

 進化体を撃破してから一日。ひなたは大社からの呼び出しで本部へと足を運んでいた。

 

「急な呼び出し…。もしかしたら先頃にあった神託に対すること、でしょうか…」

 

 進化体を撃破した夜。ひなたは神樹様からの神託によって近日中にバーテックスによる大侵攻が起きることを知らされていた。

 

「最近は奏さんがみんなと力を合わせているようですし安心はしているんですけど…」

 

 それでもひなたの中に不安は常にある。巫女である自分はどこまでいっても一緒には戦えないのだ。帰りを待つというのも怖い。

 

「大侵攻…。はたして、私達は乗り越えられるのでしょうか…」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ──三日後。樹海化した中で勇者達と奏は目の前の光景を眺めていた。

 

「おーおー。これは確かに『大侵攻』だな」

 

 視界どころか結界の境界線を望めないほどの星屑の群れ。現状、進化体の姿は見当たらないがそれでもこの数は異常な光景としかいいようがない。

 

「これなら火蜥蜴の力を借りれた方がよかったんだがなぁ…」

「あの子なら私の部屋のすみっこで丸くなってたわよ」

「郡さんに近づくようになってから火蜥蜴、神石見せても興味を示さなくなったんだよな。仕方ないから水乙女の力を借りてるけど…、水乙女の力は防衛向きではあっても殲滅力は無いからこういった戦いではジリ貧な気がする」

 

 本来ならばこれほど同じ精霊から力を借り続けること自体が奏にとってはほとんど経験が無いのだが。

 

「だったら、御剣さんには神樹様の防衛をしてもらって前線を維持しつつ戦う、といったところでしょうか」

「そうだな…。いくぞ!」

 

 若葉の声に千景と友奈、珠子が続く。奏は後方からウォーターカッターを主軸に、前線を抜けてきた星屑を杏とともに次々と射ち落としていく。

 どれくらいたっただろうか。戦線がわずかに後退し始めていることに杏が気づく。

 

「千景さんや友奈さんが囲まれて…」

「いや、問題はそっちじゃない。乃木さんが突出し過ぎている」

 

 前線の中で、千景と友奈はお互いの背を守るように戦い、珠子は遊撃として縦横無尽に駆け回っている。

 しかし、戦線の一翼を担っているはずの若葉の姿が見えていない。

 

「あのバカ。見える範囲にいないと後衛が援護できないだろうが!」

「どうしましょう!?」

「…郡さんと土居さんの戦線を下げさせろ。中堅を俺が一人で支えるから、高嶋さんに乃木さんの援護に向かってもらう。…かなりの博打にはなるが」

「…わかりました。こちらは任せてください」

「頼む!」

 

 奏はヴェールを纏って飛翔する。星屑の群れを見下ろせる位置から大量の水を生み出して千景や友奈の周りにいる星屑を一時押し流す。

 

「郡さんと土居さんは一度、中後衛位置まで退避!中堅は俺が支える。高嶋さん、乃木さんの姿が見えないんだ。彼女を探して下がらせてくれ!」

「わかりました!」

「高嶋さん一人で行かせるの?!」

「無理に前線に戦力を集中して神樹が落ちれば本末転倒だ。防衛に徹しつつ勇者の安全を優先する!」

「…っ、わかったわ」

「いってきます!」

 

 奏が開けた道から友奈が最前線へと飛び出していく。その背中を見ながら、奏は歯噛みする。

 

「──っ。来いよ、バーテックス…。お前らは、ここから先には行かせねぇ!!」

 

 勇者達が後方へと下がることをバーテックスが見逃すはずもない。先ほどまでとはうってかわって攻勢を強めてきた。

 いくら奏が四国の勇者達よりも強い力を有しているとはいえど、数の暴力に対しては対応し続けるのには限界がある。

 

「くっ、そ…」

 

 腕から、足から、血が流れる。食らいつかれるのだけは避けているがそれもいつまでもつかはわからない。

 

「状況の打破には使うしかない、か…。伊予島さん!神樹への流れ弾はそちらで防いでくれっ!」

「何をするつもりですかっ!」

「このままじゃジリ貧だ。切るつもりはなかったが──」

 

 奏は懐から新たに神石を取り出す。石を砕くと奏の身体に何かが流れ込み今までとは別格に近い力が放出される。

 

「神石の重ね掛け。俺にも精霊にも莫大な負担をかけることになるが──」

 

 右手を構える奏の周囲を星屑が食らいつかんと口を開いて突っ込んでくる。

 

「──威力は、未知数なんでな!!」

 

 後方にいた杏達から見えたのは星屑の群れが巨大な津波によって結界の外へと押し流されていく光景だった。津波に抗おうとした星屑は津波そのものに呑み込まれ、光へと還っていく。

 津波が消えた時には、星屑の九割近くが結界内部から消失していた。

 

「す、すごい…」

「あれが、御剣さんの切り札…」

「…おい、御剣さん、どこだ?」

 

 珠子の声に千景と杏も周囲を見渡す。自分達のいる場所から少し離れたところで、元の姿に戻った奏が倒れている。

 

「御剣さん!」

 

 杏が駆けていく中で、樹海化が解除されていくのを千景と珠子は見ているしかなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 『ICU』とついている扉の近くの大窓から中に横たわっている友奈の姿が見える。若葉自身も全身のあちこちに包帯を巻いていて、満身創痍のありさまだ。

 

「──なんでこんなことになったのかわかる?」

 

 声の方へと視線を動かせば同じように包帯を巻いた千景や珠子、比較的傷の少ない杏。

 

「わかっている。私の無鉄砲な突出が原因だ」

「違うわ。なんでそうなったのかがわかるかって聞いているの」

「それは…」

「貴女は、バーテックスへの憎しみを晴らそうとして戦ってる。だから周りが見えていないし私達のことを気遣いもしなかった」

「違う!私は──」

「…気遣うことは私もあまりしてないから言えないわね。でも、今回全員が生きて帰ってこられたのは間違いなく御剣さんのおかげよ。あの人が自滅覚悟で力を使ってくれたから私達は生き残れた」

「若葉さん、考えてください。今回のような戦闘をしていけばいつか誰かが犠牲になります」

 

 千景達が背を向けて歩いていく。若葉は窓越しに友奈を見つめて──

 

「だが、どうすればいいと言うんだ…」

 

 

 ★

 

 

 杏と千景はICUからは少し離れた病室へと入る。そこにはベッドに座る奏がいた。

 

「御剣さん!起きていて大丈夫なんですか」

「おう。別に肉体的には大したケガとかしてないしな。念のために精密検査するとかで入院の運びになっただけだし」

「それでも、倒れたことは事実よ」

「…ん、まぁ、な…」

「…御剣さん、貴方はどうしてそれだけの危険な橋を渡ろうとしているのですか?」

「なんのことだ」

「ごまかさないでください。『神石』による精霊・神様の力の行使。これが何のリスクもなく行われているとは思えません」

「…精密検査ってそっちの検査だったか。失敗したなぁ」

 

 奏は伸びをすると座り直す。

 

「いいだろう。聞きたいことは遠慮なく聞いてくれ。少なくとも『神石』に関することは答えられるかぎりは答えよう」

「では…。精霊や神様から力を借りる──これが基本であり、よほどのことが無いかぎりは同じ精霊や神様から力を借りることはない。それはなぜなんですか?」

「まず、『神石』は説明した通り『神気』が結晶化したものだが当然ながら俺の身体・精霊や神様にも負担がかかる。俺が一日中に二回までと限定してはいるが、実際問題として二回目を使えば俺の身体はなかば自壊に近い損壊を受けることになる」

「「なっ…」」

「連続して力を借りない理由は単純に精霊などは本来であれば『神石』ほどの高エネルギーを何度も受け取れる格を有していないはずなんだ。この世界の精霊達は俺の知る精霊とは何かしら違うところがあるようだが…」

「…それって…。間違ったら死ぬってことじゃ…」

「ん?ああ。少なくとも24時間中に二回使えば半死までは確実にいくな。でも、言い方は悪いが本来であればバーテックスのような存在に俺みたいな元一般人が挑むには埒外の力に頼るしかない。それが、自分の寿命を確実に縮めかねないとしてもな」

 

 杏は予想していたところよりもはるかに危険な橋を渡ろうとしている奏に戦慄していた。勇者よりも数段上の力だとはいえ、リスク的にみれば数段上どころの話ではない。

 

「…どうして、そこまでの危険を犯して私達とともに戦うんですか。確か、若葉さんと戦った時は二回目だったはずです」

「あの時は使っている時間が短かったからな。それなりに博打ではあったが。それと目的は最初に言ったはずだがな。俺達と未来で共に戦ってほしいのさ」

「それだけの力がありながら、ですか?」

「ああ。これでも全然足りないんだ。借りられるものならいくらでも借りたいくらいさ」

「…そう、ですか」

 

 杏は目を閉じて思考をまとめていく。考えついた思考に幾度か自分で自答してから──

 

「わかりました。次に来るだろう大侵攻。これを防ぎ切れたのなら、私は御剣さんとともに未来へ行きます!」

「…いいのか?」

「はい。私は、決めました」

「そう、か。ありがとうな、伊予島さん」

「それで、一つだけ条件をつけます」

「なんだ?」

「名前で呼んでください。私も、そうします」

「ああ。わかったよ、杏さん」

「はい。まずは、大侵攻の時はお願いします奏さん」

 

 握手を交わす二人は視線が合うと小さく笑う。

 

「──それで、私はいつまで蚊帳の外にいればいいのかしら?」

「──っ!」

 

 ジト目の千景を見て、杏はすぐさま手を引っ込める。恥ずかしくなったのか、そのまま病室から駆け出してしまった。

 なんとなく気恥ずかしい奏は頬をかいている。

 

「…私も」

「うん?」

「未来ってやつ、行ってあげてもいいわ」

「…あらためて聞くけど、いいのか?」

「ええ。その代わり、次はきっと決戦になる。だから──背中を任せていいかしら、奏さん?」

「…っ!ああ。期待してくれていいぜ、千景さん」

「…千景でいいわ」

「それなら、俺も奏でいいよ。まぁ、呼びやすい呼び方で呼んでくれ」

「ええ。わかったわ」

 

 軽く手を上げると千景は察してハイタッチを交わす。握手はさっきのこともあってなんとなく気恥ずかしかったからだ。

 

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