交代しながらの戦闘とはいえ、時間がかかればそれだけ疲労が溜まってくる。時には奏が前衛へと上がり、機動力と攻撃速度に物を言わせて敵のラインを押し込むことで休息時間を確保しながら戦っていたが──
「いよいよ本番といったところか…」
「そうですね…」
後方で敵の後方を見ていた二人の目に映ったのは進化体を形成し始めた星屑の群れ。すぐには来なくとも進化体が前衛と交戦を始めれば防衛ラインに綻びが生まれやすくなるのは自明だ。
休んでいた珠子が立ち上がって駆け寄ってくる。
「どうするんだ?」
「まあ、逆に考えれば星屑による物量戦法がこちらには通用しないとバーテックス側が判断したとも言える。この進化体を迎撃しきれれば戦闘が終わるとみていいはずだ」
「となると、全員で切札使うのか?」
「…それも一つ、かな」
「いや、安易に切るわけにもいくまいよ。まさかとは思うが切札を切らせることがバーテックス側の判断だったら全員同時に使うのは悪手だ。それに、あれはあくまでも切札。ほいほい使おうとするな」
「それは、わかってるんだけどさ…」
(とはいえ…)
ここから見えているだけでも進化体は四体。前衛が三人である以上、力押しになれば押し切られるのは確定だ。一度、前衛に下がってもらおうにも星屑の数は減少傾向にこそあれどまったくいないわけではない。
「俺も前衛に上がる。杏は後方からの援護の継続。珠子は念のために杏の護衛だ。あの足早な進化体が出てきた場合、杏一人だと対応しきれない可能性がある」
「気をつけてくださいね」
「タマにまかせタマへ!」
「じゃあ、いってくる!」
前衛のラインに割り込む形で前に出る。
「奏さん?」
「急に前に出てきてどうしたの?」
「進化体が見えはじめた。現状見えているだけでも四体いるから俺も前衛に回る。ここからが本格的な戦闘になる」
「なるほど!」
「…乃木さんが少し突出気味だけど…」
「…仕方ない。若葉の位置からなら進化体は見えているだろう」
☆
若葉は星屑が退いていくのを確認していた。同時に見えてきた存在に生太刀を構え直す。
「…いよいよ進化体か」
チラリと脇を盗み見ると進化体三体と奏達三人が交戦を始めたのが見える。若葉は視線を前の進化体に戻す。
「…こい。お前の相手は──私だ!」
蠍の尻尾のような一撃が振り下ろされる。若葉は最小限の動きで尻尾の攻撃を避け、一息で跳躍。進化体を尻尾の付け根あたりから両断する。
「これで…」
『まだです、若葉さん!』
杏の大声に若葉が振り返る。両断された進化体は鳥のような形状へと変わり二体へと増えている。
「分裂したのか!」
『タマにまかせタマへ!!』
珠子の声と同時に進化体二体が巨大化し炎を纏った旋刃盤に巻き込まれる形で吹き飛んでいく。
若葉が見た先には『切札』を使って姿を変えた珠子がVサインをしていた。若葉は苦笑しながらも手を振り返す。
「しかし、これはまずいぞ…」
振り返った先には星屑達が次々に進化体へと姿を変えていく様子だった。若葉の視界に見えるだけでも蠍の尻尾を持つのが二体、鳥型が三体。
いくら勇者の切札が高火力を発揮できるとはいえ限度はある。進化体で物量戦法を使われてしまえば防衛の難易度は星屑とは比べ物にならない。
「…それでも───」
今度は皆とともに『四国を護り抜く』と約束したんだ。ここで全てを諦めてやるわけにはいかない。
「──だから…力を、貸してくれ─」
若葉は駆け出す。星屑は若葉を食らわんと大口を開けて囲みこむように飛来している。
「──天駆ける武人《源義経》!」
変化は一瞬。戦装束に生太刀を構え、星屑を足場に天を駆ける。斬撃の閃光を軌跡に、進化体を瞬く間に斬り裂いて駆ける。
「まだまだぁ…!」
止まることなく星屑を足場に若葉は跳び回る。閃光の如く駆ける姿に──
「あれが若葉ちゃんの切札…」
「…だが、一時的には数は減らせても長期的にみれば無理があるわ」
「…仕方ない。俺がまた使うのが早いよな」
「「──っ!」」
神石を取り出した奏の手を千景と友奈が掴む。
「ダメよ。あれは私達とは比べ物にならないほどの負担を強いるのでしょう。決着が着くかわからない今の状況で使わせるわけにはいかない」
「ダメだよ、奏さん!一人が無理をするのを止めるために作戦を考えて戦っていたのに…」
「…だがな。これ以上の戦線の継続は勇者側には不利だ。若葉が力尽きればいよいよ押し切られる」
『──あまくみてくれるなよ』
若葉が近くに着地した。近くに見えていた星屑や進化体の姿は無く、結界の縁に星屑達が新しい進化体を準備しようと集まっているのは見える。
「私はまだまだ余力はある。そう簡単には力尽きるつもりもない」
「…そうはいうが…」
「それに、最悪の場合は千景、友奈にも切札を使ってもらう。私達勇者全員が切札を使ってなお、押し切られるというのなら奏さんのそれに頼るほかない。それまでは、それは本当に切札として置いておいてほしい」
確かにこれを使えば奏自身は神石の効力が切れると同時に戦線離脱してしまう。バーテックス側もいよいよ総力戦の様相を見せてきている以上、ここで一人が離脱するのは避けたいところだ。
「…ところで、友奈は何見てるんだ?」
「うーん。杏ちゃんが何か言ってるみたいなんだけど…」
全員が振り返ると杏と珠子が上空を指さして何か言っている。全員で指さしている空を見上げてみる。
「…何か見えるわね」
「あれは…なんだ」
「…何か聞こえてきたな」
『──…──・・─!』
「あれ、バーテックス辺りに落ちていってない?」
「だなぁ…」
奏はなんとなくではあるが見えているあれが何かわかってしまった。ため息しか出ないが…
「なんでため息をついたんだ?」
「たぶんだが、あの落ちてきてるやつが何かわかってしまった」
「わかるの?」
「ああ。あいつ、派手なことが好きだからな」
落ちてきている光から全員の耳に聞こえるほどに大声が響く。
『全てを、薙ぎ祓え──『
光が地面に落ちた──そう見えたのと同時に結界そのものが激震した。
「「「───っ!!!?」」」
奏以外の全員が悲鳴をあげる。結界そのものが揺れている今の状況を考えれば仕方ないとは思う。
「…あいつ、いい加減に手加減を覚えろと言ったろうが…」
『あはは…。零花って本当に加減しないよね…』
気がつくと一人の勇者が杏、珠子と一緒に歩いてきていた。
「…あんたが」
「はじめまして。諏訪の勇者、白鳥歌野です」
「…えっ?」
若葉がゆっくりと歌野へと近づく。
「貴女が、白鳥、さん…」
「ええ。久しぶり、乃木さん」
「──っ!」
溢れそうな涙を若葉は拭く。笑顔を浮かべると手を差し出す。歌野はその手を握り返す。
「力を貸してくれ、白鳥さん」
「ええ、大丈夫よ乃木さん。いいえ、若葉」
「ああ。歌野」
「…じゃあ、あの落ちてきた光って──」
光の辺りから誰かが跳んできた。
『いやぁ~、バーテックスもそろそろ諦めそうだよ。主力は今吹き飛ばしてきたからさ!』
現れたのは銀の騎士鎧にティアラ、肩に身の丈を遥かに超えた戦鎚を担いだ少女。
「…お前、もう少し加減しろ。結界を揺らすほどの一撃を振り下ろすな」
「いいじゃない。加減するような相手じゃないんだし」
「いや、バーテックスに加減しろって言ってんじゃないよ。四国を防衛の要でもある神樹の結界を揺らがすんじゃない」
「うーん。今の降ろしてる神様の力だと難しいんだけど…」
「それ、もしかして北欧の神様か?」
「うん。なんで使えるのかゼロもよくわかってないみたいだけど」
「…そうか」
「あの、奏さん。こんな状況で申し訳ないんですけど…紹介してもらっても?」
「えっ?ああ、そういえばそうだな。すっかり忘れてた。零花、自己紹介」
「えー、すごい投げやり…」
戦鎚を肩から下ろして地面に置く。戦鎚にもたれるように手を置いて──
「そういうわけで、はじめまして。私は結城 零花。ここにいる御剣奏の義妹で、勇者です。今日からよろしくお願いします!」
キュピーン!とでも擬音が鳴るような、目元でVサインをする。
ため息をつく奏になんと反応を返していいのかわからない四国勇者。一人お腹抱えて笑う歌野。
「…まあ、こういうやつなんだ。よろしく頼む」