BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第13話 紋章術

 戦いが終わっていないというのになぜか終わったかのような雰囲気になってしまい、とりあえず円陣を組んで作戦を練り直す。

 

「とりあえず、どうする?」

「うーん。兄さん『紋章術』使って一掃しない?」

「…確かに使えば一掃はできるだろうが、撃つまでにどれだけの時間がかかると思ってる」

「でもここには勇者が6人もいるんだし無理じゃないよね?」

「だが…」

「奏さん、紋章術ってなに?」

「…俺達の時代のオーバーテクノロジーの一つだ。勇者システムとはまた違う技術体系をしているんだが、こちらはまだ使える人が多かった」

「それを使えばあのバーテックスをどうにかできるのか?」

 

 見つめる先にはすでに進化体が数体見えている。その奥──星屑を吐き出し続ける大型の進化体が一つ見えている。

 

「ああ。紋章術にある禁術体系の中に遠距離砲撃できるのがある。俺一人では使えないが零花とゼロがいるなら話は変わる」

「まあ、問題はさっき私が使った『雷神の鎚衝』クラスにチャージ時間がかかるから」

「となると…5分はいるわね」

 

 零花についてきていた歌野の説明に勇者達はそれぞれに頷きあう。

 

「わかった。その5分、私達が稼ぐ。奏さんは零花さんとともに準備を!」

「さーて、遅参したからには大活躍しないとね!」

「いくぞ、みんな!!」

 

 若葉の号令に合わせて勇者達が前線へと駆ける。勇者達を見送る形となった奏と零花は──

 

「…さて、託された以上は失敗できないな」

「腕が鳴るよ!」

 

 二人は背中合わせに立つと零花は右腕を、奏は左腕を前に向ける。

 

「詠唱、間違えんなよ?」

「兄さんこそ、忘れてたら許さないからね?」

『どうでもいいがとっとと始めてはどうだ?』

 

 

 

 ★

 

 

 

 -side:若葉-

 義経の力が残っている若葉は一人先行していた。星屑達が包囲を完成させようと両翼に広がり始めていたのに気づき、いち早く片翼を抑えるべく駆ける。

 

「いくぞっ!」

 

 ──気合い一閃…!

 

 光の軌跡が尾を引く速度をもって星屑達を次々と斬り捨て、時には足場とし、止まることなく駆ける。

 

「まだまだ…っ!」

 

 着地した瞬間にわずかに体勢が崩れる。そこを進化体の一体、蠍の尾が振り下ろされ──

 

「させるかっ!!」

 

 尾に絡みつくのは鞭。尾が勢いよく引っ張られ、蠍形がバランスを崩して転倒する。

 

「助かった、歌野さん」

「まだまだ止まらないよ、っと!!」

 

 蠍形に向けて連続して鞭が振るわれ、バラバラに破壊した歌野は鞭で星屑の一体を捕らえて振り子の要領で宙を舞う。

 そのまま宙に身体を放り出した歌野は鞭を縦横無尽に振り回して星屑を次々に叩き落とす。

 

「すごいな…」

 

 思わず見上げていた若葉は、反対側で響いた轟音に目を向ける。そこには──

 

「タマに任せタマへ!!」

「力を貸して、一目蓮!!」

 

 珠子の巨大旋刃盤が走り抜け、討ち漏らした星屑を精霊の力を降ろした友奈が薙ぎ払う。

 

「タマちゃん先輩!上です!」

「なにぃ!?」

「させないよ!!」

 

 珠子の上に現れた鳥形の進化体は友奈が殴り飛ばして無理矢理軌道を変えた旋刃盤が両断する。

 

「ナイスだ、友奈っ!」

「タマちゃん、それ、そのまま振りおろして!」

「よっしゃあぁぁ!!」

 

 珠子の雄叫びとともに上空へと上っていた旋刃盤がそのまま振り下ろされる。射線上にいた星屑、進化体をまとめて薙ぎ払った。

 

「…凄まじいな、友奈と珠子は…」

 

 若葉は再び空を駆けながら星屑を斬り裂いていく。数が減ってきてはいるように見えるが、やはり一番奥にいる進化体をどうにかしなければジリ貧なのには変わりない。

 

「奏さんの方には護衛役を置かなかったが、大丈夫だろうか…」

「そういう余計なことを考える余裕はあるのね」

 

 若葉に並走するように七人御先を使った際の外套を纏った千景が姿を見せる。

 

「二人の近くに私の分身を三人配置してるから早々抜かせはしないわ。まあ、前線で狩れば関係ないのだけれど…」

「そう、だな。しかし、千景はそういったことにもちゃんと判断できるんだな」

「バカにしているの?」

「いや、今のは言い方がまずかったな。私は今更ながら防衛戦力のことに思考がいったが千景は最初から判断して配置してくれていた」

「…用心深いだけよ」

「それでいいと私は思う。私みたいなのが二人いるよりは私と千景がいる方が杏のいう『戦略』とやらは広がるだろう?」

「…本当に、柔軟になったわね…」

 

 星屑が下がっていく。しかし、それは数が減ったからではないようだ。

 二人の視界の端には今までに見たことのないほどの光が集まっていくのが見える。

 

「そうか。あれが──」

「二人の言ってた、『切り札』ね」

 

 

 

 ★

 

 

 

 -side:奏-

 星屑の群れと進化体の再度の侵攻にも勇者達が圧される様子はない。付き出した腕に光が集まっていくのを見ながら、隣に立つ零花を見る。

 

「しかし、白鳥歌野…だっけか?めちゃくちゃ強いな。普通に精霊降ろさずに若葉並の機動力とか──」

「あー、うん。歌野の『勇者システム』はすでにアップデートしてあるから…」

「あー、なるほどな。俺やお前と近しいシステムになってるなら相当なロスは無いはずだし、そうなったら精霊を降ろさずにあの強さにも納得がいく」

「むしろ兄さん側の勇者五人のアップデートが終わってないことに私は驚いたよ?」

「仕方ないだろ…。俺が最初に少しやらかしたのもあるがなかなか信用されなかったんだ。そういうお前はスムーズだよな」

「まあ、諏訪が陥落寸前で歌野が最期の特攻に行く前に援護したからね。最初から信頼度はほぼMAXだったよ」

「俺の方はそういう感じじゃなかったからなぁ…」

「でも、この戦いが終わればみんなにもアップデートできるでしょう?」

「…たぶんな」

『お前達。エネルギーは溜まったが撃たんのか?勇者達が待っていると思うのだが』

「…早く言えよ」

『なにやら重要そうな話をしていたのでな』

「後でもできるからいいんだよ。──いくぞ、零花」

「はーい!」

 

 二人の周囲に燐光が舞い始める。

 

「「其は神を穿つもの、神霊の深奥に至るもの。万物を詠う、万象を語る。あまねく編纂を纏いて万の神を屠る力。この身で唱うは人智覇闘の神術──」」

 

 二人の詠唱に合わせて様々な色の光が二人を中心に渦巻いていく。光が閃光のごとく強い光を放ったと同時──

 

「「『紋章神砲(ヴァルドトラウテ)』!!」」

 

 引き絞った腕を二人が同時に前へ突き出す。虹色の閃光が結界を照らす。光の射線上にいた星屑は光に触れた途端に消滅し、奥に控えていた大型の進化体に光が直撃する。

 数瞬、進化体は光に抗っていたように見えたが光が進化体を貫き、1拍遅れて進化体が崩れるように光へと解けて消える。

 

「やったな…」

「なんとか、なったね…」

 

 二人で拳を当てる。瞬間、二人は地面へと崩れ落ちた。

 

「あ、あ…れ…?」

「…ははっ。零花も、なんだかんだと、無茶、してたん…だな」

「あ、あはは…。緊張が、解けちゃった、かも…」

「…まあ、大、丈夫…だろ」

 

 うつ伏せに倒れた二人の視界の端で結界がほどけていくのが見える。それを見届けながら、奏と零花は意識を手放した…。

 

 

 

 ────どれくらい眠っていたのか…。

 

 頬に当たる風を感じながら奏は目を開ける。そこにはこちらを覗きこむ千景の顔があった。

 

「…ようやく起きたみたいね」

「…なんで千景が膝枕を?」

「仕方ないじゃない。貴方達が光を撃ったと思ったら二人そろって倒れるからこっちは大騒ぎだったの」

「あー…」

 

 『紋章術・禁術終式(ついしき)『紋章神砲』』

 本来であれば紋章術師数百名の命を燃やし尽くして放つ紋章術の中でも使うべからずに分類されている言葉通りの最終術式。

 

「俺達はゼロがいるから命を使う必要は無いんだけどさ。それだけのエネルギーを二人だけで扱うからな。身体への負担は普通の終式の比じゃないんだ」

「そんなもの、よく使う気になるわね…」

「最善手だと思ったからな」

「…今後はそういう無茶をする時は必ず相談して。私達は生きた心地がしなかったんだから」

「…悪い」

「わかれば、いいわ」

 

 少しの間、二人の間に沈黙が訪れる。

 

「…あっ、零花は?」

「彼女ならあっちで白鳥さんと藤森さんがみているわ」

「藤森?」

「藤森水都。長野の巫女だった人らしいわ。結界の外で待っていたみたい」

「…ようやく、みんなを救えたわけか」

「よかったわね」

「…ああ。死ぬかもしれん目にあってよかった気はするよ」

「そう…」

 

 結局、遅れてこちらへと戻ってきた若葉達と合流するまで、奏は千景の膝枕を堪能することとなった。

 

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