BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第14話 未来行きの準備-part.1-

 第二次四国侵攻から数日。

 体調もすっかり回復した奏と零花は若葉達とともに教室のイスに座っていた。

 

「ご迷惑をおかけしました」

「すまなかった」

「いや、二人ともに元気になってくれて私達としては一安心といったところだ」

「…で、ですね。私達は奏さんとのお約束で未来へ行くことが決まっているのですけれど、早速向かうという認識でいいんですか?」

 

 ひなたの質問に奏は首を横に振る。

 

「いや、さすがに今日今からすぐにでも、ってわけじゃない。荷物の準備とかもあるだろうし」

「それに、一息に私達の未来へは行かないよ。途中でもう一時代、勇者達がいる時代に寄るから」

「まだ集めるということなのか?」

 

 若葉は驚いたようにこちらを見る。

 

「ああ。勇者は一人でも多いに越したことはないと思ってる。俺達がわかっている勇者達を全員連れて帰ることができれば、カミサマだって倒せると信じているさ」

「それに、みんなは見たくないかな?みんなが繋いだ未来にいる、勇者の姿」

 

 零花の言葉にソワソワし始める者がチラホラ。

 

「もちろん、未来の勇者達が力を貸してくれるかはわからないけどな。でも、お願いはするつもりだ」

「…わかった。私達に否やはない。奏や零花がそう決めているのなら、我々はついていくだけだ」

「…ありがとう」

 

 若葉の言葉を聞いて、奏は嬉しそうに笑う。

 

「出発はゼロのエネルギー充填時間からみて2日後。それまでは各々、荷物の用意とかいろいろと準備をしていてくれ」

 

 奏の言葉を最後に、その場は解散となった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -side:珠子-

 寮の部屋へと帰ってきた珠子は早速荷造りを始めていた。

 

「うーんと、着替えは当然として…。テントにカセットコンロ、寝袋と毛布、あとは何要るかなぁ…」

「タマっち先輩は何を用意してるの?」

「ん~?基本的にはキャンプ用品。未来に行ったとしてきちんとした場所で休めたりするのかわからない以上、用意しとくに越したことはないと思ってさ。そういう杏は何持っていくつもりなんだ?」

「本とか、あとは簡単な食べ物?」

「いや、さすがに飯はなんとかなるだろ…。でも、確かに何用意したらいいのかってよくわからないよなぁ」

「それより、タマっち先輩は気にならない?」

「何が?」

「『カミサマ』っていう存在」

 

 珠子の手が止まる。確かに未だに説明されていない。

 

「私は最初はバーテックスの別称かなにかだと思っていたの。だけど、奏さんは必ずバーテックスと『カミサマ』は呼び分けていた」

「確かに、な」

「それに、勇者システムのアップデートもそう」

 

 杏が手元を見下ろすのは奏と零花によってアップデートされた『勇者システム』の入っている端末。

 杏が確認できているかぎりでも出力は三割は増え、防御面に至っては一部を精霊に肩代わりしてもらえるようになっている。その分、勇者から精霊に与えるものが増えていたりもするようだ。

 奏の説明では『精霊に供物として食べ物とか与えるとかでも代用できる』と言っていたことから、精霊の定義が未来のシステムでは少し扱い方が変わっているようである。

 

「うーん。だけど、奏さんのことだしそのうちちゃんと説明してくれるだろ。今までだって隠し事しながらもあれだけ命をかけて戦ってくれてたわけだし」

「それは…うん。わかってるつもりなんだけど」

「まあ、杏がいろいろ考えてるから不安に思うのはタマもわかってるつもりだ。だけど、今からわからないことばっかり考えても疲れるだけだと思うぞ」

「タマっち先輩ってこういう時は前向きだね」

「いいじゃん。奏さんがどうして説明しないのかなんて考えたところでわかるわけないし。あの人はあの人なりにいろいろ考えて説明してないだけかもしれない」

 

 本当は珠子自身聞き出したいとは思っている。だけど、隠しておかないといけない『何か』があるのかもしれない。だから、珠子はあえて聞こうとは思っていない。

 

「さて、タマの準備は終わったし、杏の準備手伝うぞ」

「えっ?いいよ。一人でもできるから」

「いいから部屋いくぞー」

「ちょっ!?タマっち先輩?」

 

 どこにあろうとも、なにがあろうとも、珠子は杏を護る。これだけは絶対に変わらない。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -side:千景-

 部屋へ帰るといつでも出られるように用意してあったリュックの中身を再確認する。

 

『……』

「そういえば、貴方もついてくるの?」

『シャア…』

「そう。向こうでもよろしく」

 

 隣に寄ってきたのは火蜥蜴。すっかり千景の部屋の住人になっている。千景自身、火蜥蜴が居ないと物寂しく感じるようになってしまって、愛着というものはわりと簡単に芽生えるものだなと思う。

 

「…バーテックスとの戦いが終わる時代へ行くって話だけど…」

 

 今から考えて約三百年後の未来。どんな世界になっているのかわからないが、そこで自分は果たして戦えるのか…。

 

『───…』

「ん…、なに?」

 

 火蜥蜴が近づいてきたかと思うとこちらの膝頭に頭を擦り付けてきた。その頭を撫でると燐光が浮かぶ。火蜥蜴なりに心配してくれているのだろうか。

 

「ありがとう」

『───』

 

 無言で寄り添う火蜥蜴に千景は小さく笑う。

 

 ───と、玄関のチャイムが鳴る。

 

「…誰かしら?」

 

 玄関を開けるとそこには──

 

「ぐんちゃん!」

「高嶋さん、どうしたの?」

「遊びに来たよ!」

「…別に構わないけど、準備は終わっているの?」

「当然だよ。ほら」

 

 友奈の背には少し大きめのリュックがあった。

 

「持ってきたの…?」

「えへへ…。なんか、待ちきれなくって」

 

 遠足前の子どもだろうか?部屋の中へ招き入れると友奈が見えたところで火蜥蜴が近づいてくる。

 

『シャアァ…』

「火蜥蜴、お出迎えに来てくれたの?ありがとう~」

 

 友奈は足下まで近づいてきた火蜥蜴の顔を挟むように掌を当てて揉んでいる。燐光は散らないし、迷惑そうに眉間にシワを寄せているので喜んではいないようだ。

 

(むしろ、あんな風に嫌がることもあるのね…)

 

 いつも撫でたりすると燐光を飛ばして嬉しそうにしているので眉間にシワを寄せるような嫌がる姿は見たことがなかった。

 

「高嶋さん。火蜥蜴、なんか嫌がってるように見えるのだけど…」

「えー?そんなことないよねぇ~」

 

 一向に止めないので火蜥蜴はされるがままだ。喜んでいる時は必ず燐光が飛ぶから千景から見れば嫌がってるのはわかるのだが…。

 

(それでも土居さんの時みたいに反撃しようとはしないのね…)

 

 嫌がる素振りは変わらないが反撃には移ろうとはしない。火蜥蜴なりに何かしら線引きがあるのだろう。だが──

 

「高嶋さん、それくらいで。やり過ぎると怒るから、その子」

「うーん、わかった」

 

 友奈の手が離れたら火蜥蜴は素早い動きでベッド下奥深くへと逃げていった。

 

「あっ、逃げちゃった」

(かなり嫌だったのね…)

 

 ベッド下に逃げ込みはしたが奥からは紅い眼が見えている。警戒態勢といったところだろう。

 友奈がベッド下を覗き込むと威嚇するように鳴き声が響いてきた。

 

「なんか警戒されてる…」

「あれだけしたらあの子でも警戒すると思うわよ」

「嫌だったのかな?」

「珍しく眉間にシワを寄せてたから、たぶん…」

「ごめんね~、火蜥蜴」

 

 友奈の声にわずかばかりの警戒心の混じる声を返してきただけで火蜥蜴は出てこない。後で少しご機嫌を取ってあげた方がいいかもしれない。

 

「高嶋さんは、未来に行くことにどう思ってるの」

「どうって?」

「不安とか、ないの?」

 

 自分は不安だ。約束した時はそこまで思っていなかったが、いざその時が近づくにつれて心の中で不安が膨らんでいく。

 

「私は、怖い…。奏さんから渡されたアップデートのシステムを見た時から震えが止まらない…」

「ぐんちゃん…」

「だって、少なくともこれだけの力が必要なバーテックスがいるということ…。今回の大侵攻ですら全員が全力を出して防いだような状態で…。それより強いのが相手に──」

「ぐんちゃん!」

 

 いつの間にか友奈が目の前に立って自分の手を両手で握りしめていた。

 

「不安なのは、私も一緒だよ。でも、みんなで行くんだからきっとなんとかなる。私はそう思ってる」

「高嶋、さん…」

「大丈夫。ぐんちゃんは、私が護るから!」

 

 友奈の瞳は強い意思が輝いている。自分には無い、一本芯が通った瞳。

 

『…シャアァァ』

「…火蜥蜴?」

『グルル…』

 

 いつの間にか火蜥蜴もベッド下から出てこちらの足下に寄り添っていた。こちらを見上げる瞳には『自分も護る』とでも言いたげな眼をしている。

 

「…ありがとう、高嶋さん、火蜥蜴」

 

 千景は友奈を抱きしめる。

 

「わっ、ぐんちゃん?」

「高嶋さんが私を護ってくれるなら、私は高嶋さんを護るわ。火蜥蜴、その時は力を貸して」

『シャアァァ!』

 

 『任せろ』と言わんばかりに声をあげる火蜥蜴。友奈を離すと火蜥蜴を抱き上げる。

 

「不安もある。恐怖も、ある。…でも、高嶋さんや火蜥蜴がいるなら、頑張れる気がする」

「うん。頑張ろうね、ぐんちゃん!」

『シャアァァ!』

 

 恐怖は消えない。不安は残り続けている。でも、自分を護ろうとしてくれている者の分くらいは、頑張ろう。

 

 ───そう思えるようになった。

 

 

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