-side:歌野-
「いよいよ、零花の言ってた未来行きか。心が躍るね、みーちゃん!」
「うたのんはテンション高いね…」
「逆にみーちゃんはなんでそんなにテンション低いの?」
高揚感溢れる歌野に対して水都のテンションは下降気味だ。
「うたのんは長野から出てもいつも通りだね。私は四国に来るまでに見てきた景色でだいぶ落ち込んでるよ…」
「…うん。まあ、そこはわからなくはないけど」
日本という中で街並みはそのほとんどが破壊されていた。残っている場所でも生存者などは居ず、唯一の救いとしては死体も転がっていなかったことぐらいか。
「世界中がこんな風で、四国は唯一…神樹様のおかげで大きな被害は出ていない。でも、零花さんの話だとこれから三百年はこのままってことだよ」
「そうだね。みーちゃんの不安もわからなくはないよ。でも、三百年後まで世界が続いていて、三百年後にはバーテックスは居なくなるのは歴史としてあるんならそこまで悲観する必要はないと私は思ってる」
「うたのん…」
「それでも、その先──零花の時代には人類が滅んでしまうかもしれない…。悔しいと思う。私も私の力が足りないばかりに諏訪が落ちてしまったことは今でも悔しい。でも、零花の時代は変えられるのなら私はそのためにも力を振るいたいの」
諏訪では力及ばず、四国においてもあまり戦えたとは言えない。救ってくれた零花のためにも少しは恩返しできるように頑張らなければならない以上、落ち込んでいる場合ではない。
「私は、もう後悔したくない。諏訪のように」
「うたのん…」
「だから──…?」
ふと、誰かに見られている気がした。見渡した先──部屋の隅に土の人形が行儀良く座っている。
「貴方は?」
『───(カリカリ)』
人形は床に文字を書く。
「グノーム?うたのん、知ってる?」
「いや、知らない。けど…」
人形はこちらを見ながら首を傾げる。コミカルな動きに見えるが、歌野はどこか
「なんか知らないけど、よかったら一緒に来ない?」
「ちょっ、歌野!?」
「いいじゃない?旅は道連れ、っていうくらいだし」
『───(コクコク)』
グノームは数回頷くと歌野に向かって腕を伸ばす。
「よろしくね、グノーム」
歌野はその腕を指先でつつく。人形のはずのその顔が──笑ったように見えた。
★
-side:若葉-
若葉は用意していた荷物の再確認を終えてベッドへと座っていた。
「いよいよ、だな…」
未来の四国。そこには何が待ち構えていて、未来の勇者とはいったいどのような人物なのか。
「…我ながら、現金なものだな…」
手が震えている。だが、若葉自身は未来へ行くことに恐怖はない。むしろ、どのような世界になっているのかすら楽しみで仕方ない。
「武者震いなど…。友奈達と模擬戦をした時以来だな」
今日は眠れるだろうか?考えても仕方ないことなのかもしれないが…──と、扉が軽くノックされる。
「ひなた、か?」
「はい。少し、お話できますか」
「ああ、構わない」
扉を開けた先にいたのはやはりひなただった。部屋の中へ招き入れ、冷蔵庫からお茶を取り出してお盆に載せて持っていく。
「それで、急にどうしたんだ?」
「…神樹様から神託が降りました。ただ…」
「神託が?」
「はい。どうやら彼らの力の及ぶ先にも神樹様がいるようなのですが、その神樹様からは力を借りることはできないから気をつけるようにとのことだそうで…」
「まあ、未来の神樹様だろうからな。しかし、神樹様も我々のことを気にしてくれているのか」
「…どうなんでしょうか。わかるのは、私達は未来へと行ってしまうと奏さんや零花さんから借りることになる『勇者システム』を使うことになりますから。今までとは勝手が違うのかもしれません」
「なるほど。それは考えていなかったな」
端末にはアップデートされた勇者システムが入っている。今まで以上の出力が出せるようになっているのは事実だが…。
「今更だな」
「若葉ちゃん?」
「今、ひなたが言ったことだ。私達は未来に行くことは変わらない。であれば、私達にできるのは未来で奏達にどれだけの力になれるかだ」
「…若葉ちゃんは強いですね。私は未来で何ができるかわかりませんし…」
「そういえばそうだな。巫女であるひなたや水都さんは何ができるか、か。その辺りは二人もわかっているはずだが…」
「ですけど、それも今更なのでしょうね。あの二人が私達を連れていくには何かしらの理由がある。そう思っておきましょう」
お茶を飲みながら若葉は考える。そうだ、確かに奏と零花は『勇者の力』が必要だとは言っていた。だが『巫女』であるひなたや水都のことはどう考えているのだろうか?
二人には戦う力はない。だが、二人が来ることに止めようとはしていないし、むしろ来てほしいようにも見えた。
(巫女には巫女の『何か』があるということか…?)
今考えたところでわかるわけがない。だが、若葉は隣に座るひなたを見ながら思考を回す。
(わからない。だが、きっと何かある。そう思って行動することにしよう)
──きっと、この意思がひなたを護ることに繋がっている。そんな感覚を若葉は感じていた。
★
-零花side-
──二日後。亀山城の前庭にそれぞれに荷物を持った全員が集まっていた。
「準備できているようだな」
「じゃあ、兄さん、ゼロ。始めようか」
「待て待て待て。前段階の準備くらいはさせろ」
奏は勇者達の周りを囲うように地面に紋様を書き込んでいく。
「何を描いているんだ、奏さん?」
「時空転移はいろいろと問題が多くてな。座標移動とはいえ、俺と零花のように転移位置が思い描いていた時間・場所からずれる可能性がある。俺と零花がずれてもなんとかできる方法はあるが、勇者組がはぐれたら──」
「…怖いことを言うな」
「だから、そうならないようにしておくしかないからな」
「それがこの紋様なのか?」
「ああ。これがあれば少なくとも強い縁で結ばれているもの達をはぐれさせることはなくなる」
紋様を描き終えると奏は手を軽く叩く。叩いた音に呼応するように紋様が輝く。
「これでよし。準備できたぞ、零花」
「よし。じゃあ、始めようゼロ!」
『まったく…。気が急いているぞ、零花』
零花を中心に巨大な魔方陣のようなものが広がっていく。広がりきった魔方陣の周りを奏が神石を一定の間隔で置いていく。
それに対して零花は言葉を紡いでいく。だが、若葉達にはその言葉を理解ができない。否、聞こえてはいるのだ。ただ、言葉として認識ができない。
「なんだ、あれは…」
「ああ、聞き取れないか?なんでも、神代の頃に使われていた言語らしくてな。俺も勉強こそしたが発音が独特なのか言い回しが特殊なのか、俺も何言ってるかまではわからなくてな」
「そうなのか?」
「ああ。まあ、安心してくれ。座標指定だとか総量計算だとかを神様の使う言葉に置き換えているようなものだ」
若葉達に自分が話している詞のことを兄さんが説明しているのが見える。
(さて、未来に行ったらどんな勇者がいるんだろう…。楽しみだなぁ)
───────
(…ん?)
───…、──…─
『どうした、零花?』
「何か、聞こえる…」
──ゅ…、…──…
『…心を揺らすな、零花!引っ張られるぞ!』
「──貴女は、だれ?」
───勇者は、──…
…─わ、ぎ…──
─…─?・★☆◆◇△○●□
「ノイズが、ひどい…」
ねえ、貴女は、だれ?
△★○□◆
───聞こえない。聞き取れない。
周囲の音が全て遠ざかっていく。だから、聞こえてくる音に向けて手を伸ばす。
「教えて!貴女は───」
───意識が、暗転する。
暗闇の中を落ちていく…。
深く、深く沈んでいく…。
───意識が浮上する。
「───…ん」
目を灼くような明るさに目を眇める。明るさに目が慣れたところで零花は身体を起こす。
「…ゼロ、兄さん…?」
周囲を見渡すが目当ての相手がいない。
「…?歌野、水都?」
いない。居るはずの勇者達の姿も見えない。
「───っ!兄さん、ゼロ!歌野!!」
そこにいるのは自分だけ。そして、自分の身体を見下ろして気づく。
「…透けてる」
太陽に向けてかざしたはずの掌は太陽を隠すことなく映していた。
☆第一章『乃木若葉は勇者である』(前)★
-END-