BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第二章 結城友奈は勇者である
第16話 引き寄せられた時代


『…やっちゃったかも…』

 

 零花は途方に暮れていた。

 

『…どうしよう。どうしたら戻れる…?』

 

 位相システムの使用中、唐突に『声』が聞こえてきた。本来であれば位相システムの使用中は行きたい時間・場所以外のことを考えるのは大変に危険なのだが、なぜかあの時に聞こえてきた『声』には気になってしまいそちらへと意識を向けてしまった。

 

 結果は見ての通り。位相システムのバグのような状態で魂だけが別空間に取り残されるハメになった。

 

『…とにかく!まずはここがどこかを把握しよう。周囲に目立つものはないかなぁ~』

 

 『魂』とは物理現象や物には基本的に干渉できない。零花は木や電柱をすり抜けながら浮いて移動していると結界に向けて伸びる大型の橋を見つける。

 

『でっかい橋だなぁ…。橋の名前は…『瀬戸大橋』?』

 

 どうやら四国から出てはいないことだけはわかる。しかも明け方か、太陽が水平線に見える。

 浮遊しながら近くの街へと移動し、今がいつの時代かを把握する。

 

『…神世紀298年。確か私が向かいたかった時代は神世紀300年のはずだから…二年前、か』

 

 二年前…?うーん、未来の情報ってやたらとピンポイントに情報が残ってるわりには他の時間に関しては全然情報が残ってなかったんだよね。

 

『あっ、でも確か…』

 

 一人だけ早死にしてる勇者がいた気が…。その時代なのかな?

 

『とりあえず、どこかしら行ってみないとねぇ…』

 

 ふわふわ、フラフラ…と浮遊霊のごとく漂いながら移動する。『勇者』は学生に多いからとりあえず学校を見つけることができればその周辺を張っていれば見つけられる。

 そうして浮遊すること数時間。ようやく、それらしき建物が見えてきた。

 

『《神樹館》…?』

 

 見た目は会館といった方が正しい気はする。しかし、小学生くらいの子ども達が次々と駆けていくことから小学校なのだとわかる。

 

『このあたりで待つしかないか…。結界が展開されたりしたら一緒に取り込まれると思うんだけどなぁ…』

 

 子ども達が登校し終わったのか、会館の方から鐘が鳴り響く。一人、鐘が鳴り響く中を走っていったようだけど遅刻かな?

 

 ──待つこと数十分。空間が揺らぐような感覚とともに景色が一変する。

 

『──樹海化。やっぱりこの時代にも勇者は居るんだ!』

 

 ──なら、私を呼んだ声の主も『勇者』なんだろう。

 

『とはいえ、勇者はどこかしら?』

 

 高く浮遊してみると最初に見ていた大橋の方へと誰かが跳んでいくのが見えた。いそいでそちらへと意識を向けると風景が一瞬にして大橋へと移り変わる。

 

『あら、便利!』

 

 切り替わった風景はちょうど『勇者』がバーテックスと接敵するところのようだ。

 

『あれは…水瓶…だったかな?』

 

 ずんぐりむっくりの身体の両脇に水の珠を従えるバーテックスはゆっくりと橋を進んでいる。どうやらこの時代のバーテックスの侵入路はこの橋しかないらしく、見渡してみても星屑の姿は見えない。

 

『これなら下にいる勇者達でも問題ないかな』

 

 楽観視していた私の前で始まった戦闘は──連携も何もあったものではなかった。

 

 勢いよく飛び出した赤色の勇者はバーテックスから弾き飛ばされたかと思えば顔に水球をぶつけられ、しかもその水球は頭を覆ったままに制止している。

 遅れて駆けてきた紫色の勇者と水色の勇者が攻撃を仕掛けているがバーテックスの表面に小さなキズこそつけるものの、侵攻が遅くなる様子はない。

 

『…う~、やきもきする~!』

 

 そばにまで下りて大声をかけてみたが三人そろって私には気がつかない。どうやら今の私には彼女達に干渉する術が無いらしい。

 そうこうしているうちに水球を丸飲みするという荒業を披露した赤色の勇者と、紫色、水色の勇者とともに稚拙ながらも連携?っぽいものでバーテックスを退けた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ──浮遊霊状態になってから早十数日。

 

 彼女達についていくつかわかったこと。

 赤色の勇者の名前は三ノ輪 銀(みのわ ぎん)。どうやら大層なトラブル体質のようで毎日何かしらのトラブルに巻き込まれている。それでもへこたれないほどのタフネスは有しており、三人の中では先陣を切っていける強さを持つ。

 

 紫色の勇者の名前は乃木 園子(のぎ そのこ)。おそらく若葉さんの直系の子孫。ぼんやりほわほわマイペースを崩さないがここぞという時の閃きには目を見張るものがある。あと、わりと物怖じしない。

 

 水色の勇者の名前は鷲尾 須美(わしお すみ)。実直な性格らしく堅苦しい感じはするがそれ以上に責任感の高い様子が見受けられる。弓という、使いにくい武器でも正確に敵を射抜く腕前には舌を巻くし、他二人の連携を考えて動く立ち回りはさすがの一言。

 

 私はどうやらこの三人の『誰かの』『どこかの』タイミングの声に呼ばれたらしく、干渉できるのもそのタイミングからだとわかった。

 ──なぜわかるか?だって、あの手この手で干渉してみようとしたけど空振りに終わったから。仕方ないからこの子達の日常を眺めながらその時が来るのを待っている状態。

 

『はやく戻らないといけないんだけど…。兄さん、心配してるよねぇ…』

 

 できるだけ早く追いつくつもりだから、待っていてほしいなぁ…。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -side:奏-

 神世紀300年。無事に到着した山岳の中腹で奏達は早速トラブルに見舞われていた。

 

「奏、まずいぞ!零花さんが目を覚まさない!」

「…なんだって?」

 

 若葉の声に地面に寝かされた零花の様子を探る。

 

「これは──。ゼロ!」

『…やはり来ておらんか?』

 

 虚空から龍が姿を現す。こちらはため息をついている。

 

「原因はわかるか?」

『転移の最中、『声』が聞こえるとか言い出してな。そちらへと手を伸ばしておったから魂がそちらへと引かれたのかもしれぬ』

「…返ってこれると思うか?」

『わからぬ。が…、十日以上たっても戻らぬ場合はお主とともに探しに出るしかあるまい』

「そう、だな…」

「奏、零花はどうなってるの?」

 

 不安そうにしている勇者達に現在の状況を簡単に説明する。歌野や水都は顔を青くしているが、こちらがあまりに落ち着いているからか、若葉達はあまり悲壮な感じはなかった。

 

「そうなると、我々はどうする?」

「ゼロ、ここは神世紀の何月くらいなんだ?」

『少し待て──2月、だな。やはり、こちらも少々引きずられているようだ』

「2月、か。確か、バーテックスの最初の出現時期は…」

『4月の末~5月の頭だったと記憶している』

「なら──拠点の構築と情報収集に専念しよう」

「当てはあるのか?」

「拠点についてはある。情報については…悪いが人海戦術でいくしかない」

「まあ、勇者であるタマ達なら情報収集くらいならできるだろ」

「タマっち先輩ってそういうの苦手そう」

「なっ、杏。おま、言ってはならんことを──!」

「とりあえず、拠点の確保が最優先でいいのね?」

「ああ。こいつ寝かせとかないといけないしな。さて、移動するぞ。零花は──」

「私が背負うわ。みーちゃん、悪いけど私の荷物お願い」

「うっ、うたのんの荷物、なんか重いんだけど…」

「あー、家庭菜園とかできたらいいなぁ、って種とかいろいろ入ってるから」

「私が手分けしよう。ひなた、すまないが刀を預けてもいいか?」

「はい。預かりますね」

「じゃあ、いくぞ~」

 

 零花を背中に背負い、山を下る。視線をわずかに上に向ける。

 

(どの時間にほっつき歩いてるかしらんが、とっとと返ってこないと承知しないぞ、バカが…)

 

 背中に背負う相手に想いを馳せつつも奏は勇者達を引き連れて一路、街へ向けて歩き出す。

 

 

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