BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第18話 合流

 荘厳な建物の中にたくさんの人々が喪服を着て一人の少女を見送りに来ていた。

 棺に納められているのは『三ノ輪銀』。勇者として人々のために戦った少女はいま、多くの人々から見送られるところだ。

 

『なんていうか、自分の御葬式を見てるってスゲー不思議な気分なんだけど…』

『ごめんね。すぐに未来に向かえたらいいんだけど、そう簡単にはいかなくてさ』

『いいって。少し複雑なだけ』

 

 そんな風景を半透明の零花と銀は祭壇近くから見ていた。二人を知覚できる者はいない。

 

『…銀、辛くない?』

『うーん。多少はね。でも、一番辛いのは須美と園子だよなぁって。私はやりたいように貫いた結果だけど二人は一方的に助けられたあげくに私を死なせちゃったわけでさ…』

『まあ、それは仕方ないよ。銀がしなきゃ、三人そろって死んでただろうし』

『うん。わかってるつもりなんだけど…。だけど──』

 

 銀が見つめる先には銀を想って泣き叫ぶ一人の少年。

 

『家族のことまで、私は考えてなかったって思い知らされた気分で…』

『ごめん。なんでかはわからないんだけど二人とは離れた位置に移動できなくて…』

『ううん。あれは…、あいつの必死の想いは私が零花さんについていくって決めた以上は背負わなきゃいけない想いだから』

 

 少年を見る銀の瞳は強い輝きを帯びていく。まるで、その『想い』を魂にまで焼きつけるように──

 

 葬式が進んでいく中、一瞬の違和感を感じた。

 

『なに、今の?』

『須美と園子がいなくなった』

『…ってことはバーテックスが現れたみたいだね。私は銀の存在に引きずられてこの時代に迷い込んでるから、銀が結界内に入れないから入れないのかも』

『須美と園子、大丈夫かな…』

『大丈夫、だと思おうよ。銀が命をかけて守ったんだから』

『うん』

《やれやれ。ようやく見つけることができたぞ》

 

 聞こえた声の先。零花の隣に龍の姿のゼロが出現した。

 

『ゼロ!』

『…だれ?』

『…ふむ。勇者の魂とはなかなか稀有な存在よな。して、零花。お前は何をバカなことをしたと思っている』

『ごめんね?でも、銀が仲間になってくれたんだよ!』

『そういう問題ではない』

 

 ゼロに噛みつかれて頬を引き伸ばされ、悲鳴をあげる零花を見て銀は笑う。そんな銀をゼロは真正面から見る。

 

『お初に御目にかけよう。我はゼロ。零花の二心同体の神様と言っておこう』

『三ノ輪銀です。よろしくお願いします』

『かしこまらんでもよい。お主の話しやすい話し方で話してくれた方が我としても気を使わんですむ』

『いいん…んんっ、いいの?』

『構わぬ。銀には助力を乞う側ゆえな』

『わかった。ゼロ』

『うむ、それでいい。して、零花。未来に案内するが大丈夫か?』

 

 零花は噛みつかれていた頬を撫でながら──

 

『いいけど、よく捕捉できたね?』

『急に接続できるようになったので来ただけだ。おそらくではあるがお前を引き寄せた──なるほど。この勇者が原因か』

『そうだね。ところで、未来に行ってる人達はどんな感じ?』

『とりあえず情報収集しておる。そもそも勇者の出現時期とは少しズレが生じた。原因はお主だろうが…』

『えっ…。帰ったら怒られるかな?』

『素直に怒られろ。お前は気ままに動きすぎる』

『それで、あとはどうするの?』

『とりあえず須美と園子のその後をそれなりに見て行くくらいかな』

 

 数日、零花と銀とゼロは須美と園子を見ていた。

 勇者として強くなろうとする二人に銀は聞こえないとわかっていながらも応援に精を出している。

 

『そういえば、この二人って未来にいるのかな?』

『どうであろうか。噂ですら聞かなかったところを考えるに未来には二人は勇者をしておらぬ可能性はあるぞ』

『えっ、それ本当?』

『うむ。とはいえ、ここと未来では四国内というところは一緒ではあるが座標がズレている。場所がズレているから話を聞かんだけかもしれんな』

『そっか…』

『──さて、ではそろそろ向かうぞ。銀、零花』

『うん。いくよ、銀』

『わかった!』

 

 ゼロを中心に光が集まる。途端に身体が浮遊感に包まれる。

 

『──またね』

 

 光の中、銀は家族を最後まで見つめていた──

 

 

 

 ★

 

 

 

 ──目を開けると見たことのない天井が見えた。

 身体を起こして伸びをすると長い間眠っていたのがわかる。バキバキボキボキと鳴ってはいけないレベルで身体が軋む。

 

「───っ、はぁ。生身はやっぱり落ち着くねぇ」

「よう、バカ妹」

 

 声が聞こえた方を見ると襖を開け放ち、目だけ笑っていない奏が立っていた。

 

「おはよう、兄さん!」

「おう。1ヶ月も身体ほっぽりだしてどこほっつき歩いてやがった、ああん!?」

「ぎゃあああぁぁ?!」

 

 ──げんこつ一発。

 

 先ほどの身体が軋むような音とは違う快音を響かせて零花は再び布団に倒れる。

 

「──はあぁぁ。すっきりした!」

「『すっきりした!』じゃないよ!少しは加減してよ!」

「うるせぇよ。いきなり魂だけ行方不明になりやがって」

「ごめんね?」

「もう一発いくか?」

「なんだ。ようやく目を覚ましたのか」

 

 襖の向こうからゼロを伴って若葉が御膳を持ってきた。

 

「一時はどうなるかと思ったが問題なく解決したようでなによりだな」

「ご迷惑をおかけしました」

『腹が減っておるはずだ。杏が飯を用意してくれておったから食べておけ』

 

 御膳に載った和食に手を合わせて食べ始める。

 

「あっ、そういえば銀は大丈夫かな?」

『今しばらくは我の中で魂を保管している。そのまま放置していては劣化してしまいかねんし最悪霧散して天の階段を上がってしまいかねん』

「銀って誰だ?」

「三ノ輪銀って名前で、私が魂だけで行ってた時代の勇者の一人。肉体は葬式で火葬されちゃったから魂だけでついてきてくれたの」

「ふーん。そこまで稀有な勇者もいるんだな」

「新しい勇者の話か?」

「うん。肉体を得たら若葉も仲良くしてあげてね!」

「ああ、それは任せておいてくれ」

「ところで兄さん。他のみんなは?」

「今は情報収集の最中だ」

『何か新しい情報でも得たか?』

 

 奏は腕を組むと唸る。隣にいる若葉も眉間にシワを寄せて悩ましげな顔。

 

「正直なところ手詰まりに近い。この時代は若葉達が居た時代ほど大赦は勇者の存在を喧伝していないみたいでな」

「ただ、歴史的には勇者がバーテックスと戦っている事実はあるようだ。しかし、勇者の存在については大赦が秘匿でもしているのか一般市民レベルにはほとんど下りてきていない」

「そっか。銀の死のこともあっただろうし勇者に関する情報については詳しく知らさないようになっちゃったのかもね」

『とりあえず我は早急に三ノ輪銀の肉体を製作ののちに零花へと戻ろう。いつまでも離れておるわけにもいくまい』

「そうだね。お願いね、ゼロ」

 

 あっという間に御膳の分を平らげた零花は立ち上がり伸びをする。

 

「あ~、やっぱり身体ガタガタだ~。しばらくはリハビリだなぁ」

「だったら、お前。銀ってやつの身体が出来上がったらでいいから大赦に探りを入れてきてくれないか?」

「大赦の本山はわかるの?」

「さすがにそこまでは秘匿されてなかったからな。それに、少し気になることもある」

「気になること?」

「ああ。今後の俺達にも関わりそうなことだ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 そこは荘厳な建物の中。大赦に連なるとある建物の廊下をその男はスルメをくわえながら書類を見て歩いている。

 

「やっぱり早い目に準備しとくに越したことなさそうだよなぁ」

「ここに居ましたか」

 

 書類から視線を上げた先には一人の神官が立っていた。男はスルメを手に取り、笑みを浮かべた。

 

「意外だな。たいていの神官は俺のところには顔を出そうともしないってのに」

「そうですね。貴方が最古の神の直系と聞きましたがそのような雰囲気が無いからでしょう」

「言われちまったな。そこまでまっすぐ言ってくるやつの方が珍しいがな」

「貴方の研究はどうですか」

 

 神官の問いに男は楽しそうに笑う。

 

「ああ、もうすぐ試作機ができあがる。だが、誰に預けるかは決まってないがな」

「それでしたら、私が推薦させていただいても?」

「へえ、意外だな?あんたらにとって俺の研究は卑下するものと聞いていたが」

「そうですね。しかし、有用であることは確かです。力をお貸しください」

「いいぜ。ただ、せめて一度は顔を拝ませろよ。これからは『共犯役』なんだしよ?」

「──わかりました」

 

 神官が仮面を外す。その顔を見て、男は笑みを深めた。

 

「ああ、なるほどな。あんたなら納得だ」

「そうですか」

「ああ。今日からよろしく頼むぜ安芸」

「そちらこそ、頼みますよ御剣 葵(みつるぎ あおい)

 

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