BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第一章 乃木若葉は勇者である (前)
第1話 拾われた勇者


 目を開けて最初に見えたのは木の天井だった。

 

「…さて、私は今、どこにいるんでしょうか?」

 

 身体を起こすとそこはどうやらどこかしらの御堂かなにかの中のようだ。扉のような場所は開いており、外からの光が入ってきている。

 

「とりあえず、外に出ましょう」

 

 外に出ると光に目をすがめる。光に目が慣れるとそこは高台のような場所らしく、階段を下っていく先に湖のようなものが見えている。

 

「うーんと…。聞こえますか?」

 

 声をかけると何も居ないはずの空間から返事が返ってきた。

 

『どうかしたか、零花』

「あっ、ちゃんと返事ができるんですね、ゼロ」

『…うむ。この世界は神気に溢れている。ここにあればそのうち姿見も取れるようになるだろう』

「本当?ということは転移は間違いなく成功したってことだね」

『ああ。だが、それにしては妙に静かすぎる。何か起きておるのかもしれん』

「うーんと…。ゼロ、『勇者システム』は使える?」

『ああ。問題なく機能しよう。『位相システム』はエネルギーが足りんがな』

「いきなり使わないよ、あんな物騒なもの」

『だがな。あれを使わねば他の可能性にアクセスできん』

「うん、わかってる。でも、使用承認には兄さんもいないといけないし」

『確かに。やつはどこだ?』

 

 周囲を見渡したり御堂の中を見返すが他に人の姿は見受けられない。

 

「予想通り、別の場所に出ちゃったみたい」

『まあ、予定していた時間軸には二ヶ所に勇者がいたはずだからな。仕方あるまい』

「うん。兄さんならきっとなんとかするでしょう」

『さて、こうしていては埒があかん。確かにここには神気があるが、こうして分けてもらうばかりでは私自身申し訳ない』

 

 先ほどからゼロに向かって光の粒子のようなものが神像から流れているようだが、どうやら大社の大神から神気が流れ込んできているらしい。

 

「だねぇ。とりあえず勇者か巫女を探そっか」

 

 御堂から出ると階段を下りだす。しかし、数段下りないうちに下から誰かが駆け上がってきた。

 

「うん?」

「えっ!?」

 

 巫女服を着ている少女はこちらを見やると足を止めた。

 

「貴女は…いったい…」

『ほう?この娘、私の力を関知しておるようだ』

「えっ?そうなの?」

『うむ。となれば、こやつは勇者の巫女であるのだろうが…』

 

 

 目の前の巫女を見ようと視線を下げた向こう側に何かが見えた。視線を落とさずにそちらへと視線を向ける。

 

「あれは──」

『ふむ、なるほど。侵攻中であったか』

「ゼロ」

『わかっておる。とはいえ、目の前の相手も忘れずにな』

「えっ?ああ…」

 

 巫女も自分の見ていたものへと目を向けていた。手を組み合わせて祈っているようにも見えた。

 その巫女の肩を叩いて、その者──結城 零花(ゆうきれいか)は笑いかけた。

 

「大丈夫だよ。このために私はここに来たんだろうし」

「えっ?あの、貴女は…」

「私は結城 零花。貴女にわかりやすく伝えるなら──勇者だね。いくよ、ゼロ」

『さて、誰を受けるべきか…』

 

 零花は身体を縮めてバネのような跳躍を持って空中へと身体を飛ばす。

 

「うーんと、大天狗でいこっか」

『転移後いきなりの全力は大丈夫か?』

「平気だよ。身体の許すかぎりは全開で暴れよう。あれは──『敵』なんだから」

『──よかろう。示してみせろ、零花』

「うん。『開花』!」

 

 零花の身体を一瞬、光が包む。光が晴れるとそこには勇者服を身にまとい、腰に刀を差した姿で現れた。

 

「全力でいくよ!『満開・昇華(しんかい)』!」

 

 再び光が零花を包む。光の中から割るように翼が姿を現し、その姿はお伽噺に出てくる天狗のような服に身を変え、背中に現れた翼を羽ばたかせてその場所へと飛翔していく。

 

 湖の近くまで来るとその異形は明らかに大きかった。都心のビルくらいはありそうな巨体から何かを撃ち出している。

 撃ち出している先には全身を血で染めながらも闘志を捨てずに立ち向かう少女がいた。

 

「助けるよ、ゼロ」

『大太刀だが、大事ないか?』

「問題なし」

 

 腰から刀を抜く。が、それは鞘から抜かれていくと到底鞘には収まらない刃渡りをしていた。

 

「さあ…、退け。頂点に座すもの(バーテックス)よ!」

 

 翼で空を打ち、零花は疾風のごとき速さで得物を振るう。集まってきた白い蟲のような物体をただ一振で幾体も両断していく。

 

「───」

「うん?」

 

 大空を駆けながら敵を薙ぎ払っているうちに地上にいた勇者が何かを叫んでいる。

 

「ゼロ、聞き取れる?」

『本体を斬らないかぎりは際限なく湧くようだ。あの大型をどうにかする必要がある』

「了解!」

 

 空中で体勢を立て直し、大太刀を上段に構える。

 

「火の位。一刀両断!」

 

 身体を前に倒す、ただその一動作でトップスピードに乗る。相手が狙い撃ってきたものすら捩じ伏せて──その一刀を振り抜く。

 

「──どう?」

『…うむ。核を破壊できたようだ。崩壊していく』

 

 巨体が崩れていくのを横目に、零花は地上へと降り立つ。そこへ、先ほどの勇者が駆け寄ってきた。

 

「君は、いったい…」

「はじめまして。私は結城 零花といいます。つかぬことをお聞きしますが、貴女は白鳥 歌野さん、で間違いないでしょうか」

「えっ、そうだけど?」

「よし。きちんと来れていたようでなにより。まずは諏訪の大社まで下がりましょう。話はそこで致します」

「…うん。わかった」

 

 傷だらけの歌野を抱えて階段を上り、大社が見えてきたところで先ほどの巫女が駆けてきた。

 

「歌野!」

「みーちゃん、無事だったようだね!」

「歌野の方は大丈夫なの!?」

 

 歌野の身体は全身切り傷だらけで端からみれば血塗れなのだ。

 

「えっ、ああ、うん。全身傷だらけでどこが痛いかすらわからないくらい痛いけど…生きてるから」

「うん。…うん」

「さて、とりあえずみーちゃんに手当てを任せるとして──貴女のこと、聞かせてもらえる?ここ、長野に他に勇者がいたというのは聞いたことないけど」

「はい。説明致しますが、まずはそちらの手当てを優先しましょう。私と、ゼロの説明はいろいろと複雑なので…」

 

 大社の中で傷を手当てしながら零花は自分という存在、ゼロのことを説明する。歌野とみーちゃんこと藤森 水都は口を開けて聞いていた。

 

「───これが、私という存在の全容になります」

「遠い、本当に遠い勇者の末裔、ってことか」

「でも、どうやって…」

「まあ、いろいろと制約はあるのですけど私達の時代には過去遡行──いわゆるタイムトラベルが可能な技術がありました」

「へえー、いいね。好きな過去に行けたりするの?」

「…いいえ。基本的には多大なエネルギーの起こる時間──今のような動乱の時代にしか飛べません」

「なるほど。あまり便利なものでもなさそうだね」

「しかし、神様…ですか」

 

 水都の視線の先にはゼロが鎮座している。

 

『この姿が気になるか?』

「ああ、いえ…。私自身、この諏訪の神様に選ばれて巫女をしていますから、神様にはいろいろと思うところもありまして…」

『なるほどな。だが、その諏訪ももう長くはもちそうにないな。先ほどから大社の神像より我に力が流れてきている』

「えっ!?」

『…ふむ。心得た』

 

 しばらく神像の方を眺めていたゼロは軽く頷くと二人へと向き直る。

 

『諏訪の大神より力の全権及び其方(そなた)らを頼まれた。このまま諏訪の大地と共することも汝らは思うておるのかもしれぬが、神同士の約定だ。申し訳ないが其方らを死なせるわけにはいかなくなった』

「それは…、私達としてはありがたい話だけど…。えーと、転移ってのでどこかしらの世界に飛ぶの?」

『否。そうできればよいが『位相システム』の起動には零花以外にももう一人の承認がいる。まずはそちらと合流する必要がある』

「居場所はわかっているんですか?」

「はい。この世界において、勇者が現存する場所は諏訪ともう一つしかありませんから」

「なるほどね。四国、か。さっきお別れの連絡を入れたところなんだけどなぁ…」

 

 苦笑いしながら頭をかく歌野に水都も苦笑で応える。

 

「まあ、死んだはずの人が生きて姿を現せば相手も喜ぶのでは?」

「まあ、確かに。乃木さんとの論争にも答えは出せなかったことを考えればこれは僥倖ね」

「もう…、歌野ったら…。あの、よろしくお願いします」

 

 水都が歌野と頭を下げる。が、ゼロはそれを嫌がるように首を横に振った。

 

『頭など下げてくれるな。我々としても其方らをどうやって説得するか悩んでおったところなのだ。問題なくついてきてくれるというのであれば、是こそすれ否などとは申さぬ』

「むしろこちらこそありがとう。簡単なことではないと思っていましたから」

 

 一人と一柱の返事に二人は頭を上げる。

 

「だって、二人がいないと私達はここで奴等に負けるしかないわけでしょ?だったらついていって力をつけることもありじゃないかな、ってね」

「少なくとも諏訪の大神からもついていくようにさっき神託が下りましたから。私達にはついていった方が多くのメリットがあります」

『ならば、よいのだが…』

「なんていうか、ゼロ様って神様らしい威厳って無いね?」

「こら、歌野!」

 

 歌野の頭をはたく水都にゼロは苦笑する。

 

『よいよい。我に大神と同じ格を持てと言われても我が困るところだ。そもそも、零花と我は別物に見えるがその実は二心同体という状態だ。零花が居らねば我は存在が叶わぬ。故に、土地に根ざし、人に力を与えてきた国津神達とは根本的に存在が違うのだ』

「それは、どういう…」

「表し方は歴史によっても言葉が違うから一概にはいえませんけど、いわゆる半神、半分が人間で半分が神様の存在を言います。神様が人々に密接に関わる時代には幾分か居たらしいですけど。日本でわかりやすいのは天皇がその神様、天津神の血族とは言われていたとは見たことはあります」

「ふぅん。でも、そういったお話は今はいいや」

 

 歌野が立ち上がる。二人と一柱から見上げられると──

 

「今はとにもかくにも四国へ向かいましょうよ。行くべきところは決まっているのなら、行動あるのみよ!」

「…うん。そうですね」

 

 水都と零花も立ち上がる。零花の肩にゼロが駆け上がってきた。

 

『道中に寺社仏閣があれば可能な限り寄ってもらいたい。残っているとは思わぬが、できうるかぎりの神気を回収しておきたい。この時代の神気はとても心地よい』

「オッケー。じゃあ、簡単な旅支度したら、向かいましょうか、四国!」

 

 こうして、零花は歌野と水都を連れて四国へと向かい始めた。

 

 

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