BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第3話 四国の勇者

 ──バーテックスの防衛から一日が経過して…。

 

 丸亀城の一室。勇者達の教室に勇者五人と巫女が一人。そして、昨日の青年と烏がいた。

 

「さて、まずは改めて自己紹介を。俺は御剣 奏。信じられない話をしますが、この時代から約千年くらい先から来た、未来の人間です」

 

 五人は疑り深く青年を見ていたが、巫女の少女だけはため息をついていた。

 

「つまり、貴方が『存在しない一』という人、ですか」

「…どういう意味だ?」

「昨日、樹海化が解除されてすぐに神託が下りました。『神を従える者が現れた。彼の者とは敵対するな。彼の者は『存在しない一』であり、今の者達が束になっても相手にならない。我々にも干渉できない』と」

「神様から御墨付きをもらえるとは光栄だね」

「…というわけです、若葉ちゃん。彼は敵ではありませんし、進んで敵対するわけにはいかない相手になります」

「そうか。…まあ、昨日は助けてもらった立場だしな」

 

 勇者の五人のうち一人が立ち上がる。

 

「私は乃木 若葉(のぎ わかば)だ。一応、この四国の勇者のリーダー役(仮)に就任している」

 

 隣に座っていた一人が勢いよく立ち上がった。

 

「私は高嶋 友奈(たかしま ゆうな)!特技は、格闘技!」

 

 その場で型を披露してくれる隣から──

 

「…郡 千景(こおり ちかげ)よ」

 

 静かな声が響いた。すると若葉から見て友奈とは反対側に座っていた一人が立ち上がる。

 

「タマは土居 球子(どい たまこ)だ!だが、お前は気安く『タマ』と呼ぶのは許さないからな!」

 

 その隣で静かにこちらを見ていた最後の一人──

 

「私は伊予島 杏(いよじま あんず)です。昨日は、ありがとうございました」

 

 そして、奏の隣から若葉への隣へと並ぶように歩いていった──

 

「そして、私は上里 ひなた(うえさと ひなた)といいます。昨日の戦い、皆さんの助力には感謝します」

 

 全員の自己紹介を聞いていた奏はウンウンと頷き。

 

「よろしく『四国の勇者』。いやぁ、しかし《天火の戦人(てんかのいくさびと)》、《鬼神の担い手(きしんのにないて)》、《七影の闇者(しちかげのあんじゃ)》に《絶対の守護者(ぜったいのしゅごしゃ)》と《智啓の参謀(ちけいのさんぼう)》か。まさか御目にかかれるとは思ってもみなかった。そして──《始まりの巫女(はじまりのみこ)》にも」

 

 ズラズラと並べられた二つ名にその場にいた全員が固まる。ギギギギギ…と油の切れた人形の首のように若葉の顔がこちらを見ていた。

 

「な、なんだろうか。今の呼び名は…」

「うん?俺の時代に残っていた『大赦』と呼ばれる組織のデータベースからサルベージされた当時の四国の勇者について書かれていた報告書?…のようなものに書かれていた名だ」

 

 実は正確には報告書ではなく何者かの日記の一部であることは判明しているのだが、奏はその辺りについては知らない。

 

「…で、できれば名前で呼んでもらえると…」

「うん?ああ、大丈夫だ。二つ名など呼ばれた日には悶え苦しむハメになるのは身に沁みている。ただ、感慨深かったから、つい─な…」

 

 深々と頷く奏を横目に若葉達は顔をつき合わせる。

 

「なんとかしてあの二つ名を葬れないだろうか」

「えー?カッコいいよ?」

「…高嶋さんが良いなら私は構わないけど」

「二つ名。良いよなぁ!あの中から選ぶにタマは《絶対の守護者》か。いい響きだな!」

「…でも、できればどうにかしたい、ですね」

「…一応それとなく大社の方に話を通してみますね」

「頼んだ、ひなた」

「おーい。密談は俺のいないところでやった方がよくないか?いや、ほとんど聞こえなかったんだけどさ…」

 

 それぞれの席に戻ると奏は教卓に腰を下ろす。

 

「さて、まずは俺がどうしてこの時代に来たのかを説明した方がいいわけだよな?」

「そう、だな。私達にも関係してくるのであれば聞いておくべきだろうな」

「ああ、最終的には大きく関わってもらう予定、なんだが…。まずはちょっと歴史のお勉強だ」

 

 教卓から下りると黒板に年代表を書き始める。

 

「まずは今の時代。『西暦』という時代の終焉。世界が神々によって(ことわり)から崩壊させられるところから──」

 

 黒板に描かれるは『西暦2018年』

 

「正直な話をすると、俺達の時代から見てこの時代の情報は実は断片的にしか残っていなかった」

「なぜだ?」

「わからない。ただ、大赦と呼ばれる組織のデータベースからわかっているのはこの年にバーテックスが本格的に動き、7月の末に諏訪が陥落。諏訪の巫女・藤森水都と諏訪の勇者・白鳥歌野は戦死したと伝わっている」

 

 奏の言葉にひなた達に驚きが広がる。若葉だけはきつく目を閉じているから知っていたのだろう。

 

「まあ、そちらは手を打ってあるしあいつならなんとでもするだろ。最悪、ゼロもいるしな」

「──えっ」

 

 今度は若葉だけが驚いている。

 

「詳しいことは言えないがな。ただ、俺達だって過去に来るのに当時の情勢を知らないまま来るわけにもいかなかった。だから、できるだけの手は打ったさ」

 

 そう。二手に分かれるのは当初の予定通り。唯一読みきれていなかった出現場所の賭けにも勝った。二人なら必ず救えるだろう。

 

「俺達がこの時代でわかっているのは──勇者の生き残りは四国だけということだ。あと、その生き残りも一人だけだったらしいけど、その辺りの情報は当時の時点で廃棄されたか抹消された可能性が高いという話だ」

「ま、待ってください!一人だけって…」

「それも定かじゃないって。残ってる情報からわかるのは『人類は辛勝したかわりに四国以外を失った』ということぐらいだった。その後、時代は『神世紀』という時代に移行することはわかっている」

「…というか、四国以外を失ったって何が起きるんだ?少なくとも今は本州とか見えてるぞ」

 

 球子の言葉に奏は窓に視線を移す。海を隔てた先にわずかに陸地が見えているが、あれが日本本州なのだろう。

 

「さあなぁ。どういう経緯を踏んだら四国以外が失くなるのかわからないが、相手は神様だ。わりとなんでもありな存在だからな」

「うーん…」

 

 腕を組んで唸る球子を尻目に黒板には『神世紀』を書く。

 

「『神世紀』…この年代の初期から中期にかけては四国の平和な情勢を語るものが遺されていた。なんだかんだとこの歴史は三百年ほど続いたようだ。そして、神世紀300年に六人の勇者の力によって神の干渉を退けて人類は世界を取り返したらしい」

「300年か…。途方もない話だな…」

「──で、貴方はそこから更に千年は先の未来から来ているんですよね?」

「ああ。問題はここからだ。神世紀以後の歴史は明確には残っていなかった。理由は不明。ただ、わかっていることは───『天より降りたる神(バーテックス)』は神世紀の以後は現れてはいないということ。『勇者』の力は俺達の時代へ進むまでの間のどこかしらで失われたということ」

 

 奏の書いた年表を見ていた勇者達は各々意見を交わしている。そして、不意に千景が手をあげる。

 

「それで、結局のところ貴方は私達に何を望むの?」

「ああ、それなんだが…。たぶん、どこかのタイミングで身内がここに合流する手筈になっているんだ。それ以後に正確な話をすることになるとは思うが…」

 

 奏は一息つく。

 

「──俺達とともに時間旅行についてきてほしい。そして──『カミサマ』を討つ手伝いをしてほしい」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 奏が居なくなった教室で若葉達は話し合っていた。

 

「…どう考える」

「タマ達があいつの話を信じるかどうかってことか?」

「それもあるが…。ついていくのか、ということだ。おそらくだが、あいつはいくつか重要な話をせずにいる」

「そうだね。そもそもどうやってつれていくのかも言わなかったし」

「ええ。今の状態ではどうとも言えないわ。乃木さんだってそう思ってるから私達に聞いているんでしょう?」

「ああ。だが、早晩答えは出しておくべきだ──が、正直なところ私もなんと言えばいいのかわからない」

 

 全員が考える体勢に入ってしまう。しばらく黙っていたが…。

 

「とりあえず、今は保留しませんか?」

「ひなた…」

 

 軽く手をあげたひなたの方へと全員の視線が集まる。

 

「彼の話では後から合流する予定の方がいるという話ですし、それまでは彼にも戦っていただいて判断するというのはどうでしょうか。昨日の状況を見るかぎり、彼も『勇者のような力』を使えるようですし」

「…皆はどう思う?」

 

 全員からは特に反論もない。

 

「わかった。とりあえずは保留して、しばらくは彼にも戦いに出てもらおう。彼のいう『身内』が合流してから改めて話を聞き、その上で答えを出そう」

 

 それぞれに頷きあって1つの答えを出した『勇者』はそれぞれに教室から出ていく。

 その中で、若葉はただ一人──強い意志を秘めた目をしていた。

 

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