BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第5話 勝手気ままな精霊

「若葉ちゃんは何を考えているんですか!」

 

 若葉の部屋に勇者5人とひなたが集まっていた。ベッドに寝かされている若葉は顔をひきつらせながらも必死に壁の方へと向いている。

 火傷のあるお腹の上には火蜥蜴が乗っており、先ほどから聞こえる怒号にも気にせずに寝息をたてている。その火蜥蜴を千景と珠子はつついているが、火蜥蜴は起きる気配はない。

 

「彼とは敵対しないように最初に言ったはずですよ!」

「…そ、そうは言うがな、ひなた。あんな訳のわからない話をされて傍に置いておくのも怖くはないのか?」

「まぁまぁ、ひなたさん。若葉さんの言い分もわからなくはないんです。実際問題として、奏さんは私達にほとんど何も説明していないに等しいんです」

「…そう、ですね」

 

 本人は説明した気になっているが、聞かされた側からすれば何の説明にもなっていなかったとも言える。

 わかっているのは『彼が途方もつかないほどの未来から来た人間だということ』『宿している力は勇者など比にもならないほどの強さを持っていること』。奏に関してわかるのはせいぜいがこの辺りだけだ。

 

「でもさ…。あれだけ強いなら若葉ちゃんをサクッと殺しちゃっててもおかしくないのにどうしてそうしなかったんだろ?」

「彼が言っていた通り、未来での戦いに私達が必要だと考えているのだと思います。だからこそ、彼からはこちらに危害はくわえてこないでしょう。今回のようにいきなり挑みかかったりしないかぎりは…」

 

 ひなたのジト目から若葉は顔を逸らしたままだ。

 

「こいつ、動かないな」

「よく寝てるわね」

「あの、タマっち先輩、千景さん。仮にもその子精霊なのであまりイタズラしすぎない方がいいと思うんですけど」

「大丈夫だって。ほら、これだけ触っても何もしてくる気配ないんだぞ」

 

 頬のあたりをブスブスと突っつく珠子に火蜥蜴を眺めていた千景はいつの間にか薄目を開けてこちらを見ている火蜥蜴に気づく。

 おもむろに大きく口を開けた火蜥蜴は突っつく手に噛みついた。

 

「…あ」

「・・・」

 

 噛みつかれた珠子の動きが止まる。火蜥蜴の口の端からはわずかに火が漏れているからたぶん手が焼かれているのだろう。

 

「うぇああああ!あっちぃいいぃぃぃ!!」

 

 火蜥蜴が珠子の手をくわえて放さない間、部屋の中は阿鼻叫喚になった。

 

 ───数分後。

 

 火蜥蜴の口の中で右手を焼かれた珠子は杏の膝枕で倒れている。大火傷してもおかしくない焼き方だろうに、右手には火傷の痕がまったくない。

 当の火蜥蜴は若葉のお腹に乗っかったまま再び寝息をたてている。

 

「千景だって一緒に突っついてたのになぜタマにだけ!?」

「やり過ぎるからよ」

「珠子の手を焼いていた時だけ熱かったぞ…」

「ま、まあ、無事で良かったよね?」

 

 膝枕で倒れていた珠子が起き上がると他の勇者達も若葉に向き直るように半円に座り直す。

 

「…で、だ。タマ達は話し合ったんだけどさ。今は大社から若葉に仮のリーダーをしてもらってるじゃないか」

「うん?まあ、そうだな」

「正式に若葉がリーダーになってもらった方がいいんじゃないかって話がまとまったんだ」

「…私でいいのか?」

 

 若葉の言葉に全員が頷く。

 

「そう、か。わかった。不肖、乃木若葉。『勇者』のリーダー、引き受けさせてもらう」

「よろしくね、若葉ちゃん」

「頼むぞ、若葉!」

「よろしくお願いします、若葉さん」

「お願いね、乃木さん」

「これからもよろしくね、若葉ちゃん」

「ああ。みんなも、よろしく頼む」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ──あれから数日。バーテックスの襲撃は途切れており、若葉達は日々勉学や修練に明け暮れる中、奏は丸亀城から城下町を眺めていた。

 

「のどかだねぇ…」

 

 足下にはあれからもなぜか火蜥蜴が居座っている。普通であれば、精霊達は奏に力を貸してもせいぜいが一日二日程度。

 この火蜥蜴みたいに一週間近くに渡って居座るというのは奏にとっては珍しい状況といえる。

 

「お前さんは珍しいやつなのかもな」

『・・・』

 

 しゃがみ込んで頭を撫でていると火蜥蜴がおもむろに入口の方へと歩きだす。そこへ若葉達が帰ってくる。

 

「おっ、火蜥蜴がいるじゃないか」

 

 火蜥蜴を見つけた珠子が手を伸ばす…が──

 

『───っ!!』

 

 火蜥蜴は口から火を漏らしながら大きく口を開けて珠子を威嚇する。その様子に珠子は目に見えて落ち込んだ。

 

「うぅ…。なんでタマにだけこいつは凶暴なんだ…?」

「なんでなんだろうねぇ」

 

 友奈が手を出すと頭を撫でさせている。燐光が散っているのは喜んでいるかららしい。

 

「最初にからかいすぎたんでしょう…」

 

 千景は側を通り抜けて自分の席へと座る。すると火蜥蜴は千景へと近づき、軽快な動きで千景の膝の上に乗った。

 

「…下りなさい」

 

 千景が抱えて下ろすが、イスに座り直すと膝へと上ってきた。そのまま膝の上で丸くなる。

 千景の顔がなんともいえない顔になっている。その様子を見ていた奏は笑っていた。

 

「ずいぶんと気に入られているようだな、郡さん」

「…この子、どうにかしてもらえる?」

「好きにさせてやってくれないか。そもそも、精霊がそうやって自分から人へと近づく方が珍しいんだ」

「貴方の精霊でしょう?」

 

 千景が抱き上げて床に下ろすがすでに見上げている。千景がイスに座ればまたよじ登るだろう。

 

「うーん。それは正確な状況じゃないな。そいつは確かに俺に力を貸してくれる精霊だが、俺と契約しているわけじゃないからさ」

「どういうことですか?その精霊は奏さんについているんですよね?」

「伊予島さんの疑問ももっともだな。…そもそもの話、俺は君達五人とは違い正式な『勇者』ではない。これはいいよな?」

「はい…」

「乃木さんには説明したが、俺が『勇者のような力』を使うには三つの条件をクリアする必要があり、その内の一つが俺に力を貸してくれる精霊か神様が近くにいることだ。そして、この近くにいるやつは毎回同じである可能性は実はとても低い」

 

 全員の視線が一度火蜥蜴に集まり、再び奏へと戻る。

 

「いや、言いたいことはわかるよ?ただまあ、基本的に精霊とは契約していないから留まるかどうかは精霊や神様の機嫌ありきなところなんだ。そいつが実際に長くいるけど俺に力を貸してくれるかはまた別の話で…」

「どういうことだ?こいつって力を貸すために留まってんじゃないの?」

「うーん、土居さんの言いたいこともわかるんだけど…。基本的にはあちこちうろちょろしてる。しばらくしたら帰ってはくるけど、顕現状態を維持してるのはそいつなりに何かあるんだと思うが…」

「ふむ…。精霊にも個性がある、ということか」

 

 そうこうしているうちに窓から火蜥蜴が落ちていく。どうやら千景の頭に登ろうとしていたのか、千景が思いきりぶん投げていた。

 

「…あいつ、千景のこと気にいってんのかね」

「傍迷惑な精霊よ…」

 

 肩で息をしている千景になんとなく全員が肩を叩いていた。

 

 

 

 ───その夜。

 

「…なんでいるのかしら」

 

 千景の部屋の片隅。クッションに座るように火蜥蜴がいた。しばし睨み合うようにお互いを見つめていたが、千景はため息をついてベッドへと寝転ぶ。

 

(明日にでも引き取ってもらうしかないわね…)

 

 目を閉じていても気配だけは感じることができた。しばらくはクッションのあたりにいた気配はゆっくりとこちらへと近づいてくる。

 

(……っ)

 

 掛布団をまくりあげると火蜥蜴が脇腹あたりでまるくなっている。

 

「なんなのよ…」

『───』

 

 火蜥蜴は訴えかけるようにこちらを見ている。千景は再びため息をつくと掛布団をおろした。

 

「なんか、いいや…」

 

 いろいろと諦めて目を閉じる。火蜥蜴のいるあたりだけとても温かく感じた。

 

 

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