BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第6話 郡千景

 次の日、千景はバスに揺られてとある場所へと向かっていた。そこはかつて千景が生活していた村。

 千景はイヤホンをつけ、ゲームに没頭しながら──ふと足下に視線を落とす。そこにはなぜかついてきた火蜥蜴がいる。

 

 こちらへと出かけてくる前からこの火蜥蜴は自分の周りを常にうろちょろしていた。あげく、御剣奏に引き取るように頼みに行ってみれば彼の肩には一体の人魚のようなものが座っていて…。

 御剣奏より「火蜥蜴がしばらく俺のそばにいなかったから他の精霊が寄ってきたみたいだ。悪いとは思うんだけど、郡さん。火蜥蜴はしばらく見ておいてよ」などと言う始末だ。

 

「どうしてこの精霊は私につきまとうのかしら…」

 

 自分には精霊に気に入られるようなことをした覚えはない。そもそもこの精霊は何物なのか?

 上里ひなたに聞いてみたが「神樹様に属する精霊ではないようです。ただ、精霊の格としてはあまり高くないようで、神樹様もあまり気にしていないようですけど」ということだ。

 

「…まあ、面倒を見ろと言われたからしばらくは見るけど…」

 

 村に程近いバス停に降り、家へと向かう。チラホラと見える村人はこちらを見てなにやらひそひそと話している。

 千景は視界に入れないようにしながらイヤホンをつける。

 

 家に着くとそこはゴミ屋敷といって差しつかえない程度には荒れ果てていた。

 

「あの人は…」

 

 文句の一つでもつけてやりたい。そう思う千景の足下を火蜥蜴は通り抜け、いくつかのゴミ袋の臭いをかいでいる。

 

「…何をしているの?」

 

 しばらく臭いをかいでいた火蜥蜴はおもむろに一つのゴミ袋を丸呑みにする。モシャモシャと咀嚼し、呑み込んだのか口が小さくなると小さくゲップする。

 いくつか臭いをかいで、火蜥蜴の何かしらの基準があるのか再びゴミ袋を丸呑みにし始めていた。

 

「…まあ、いいか。綺麗にはなるだろうし…」

 

 一瞬止めようかと悩んだが勝手に食べ始めているのだし千景としては家が少しでも綺麗になるのならと止めることをやめた。

 

 和室へと繋がる襖を開けるとその奥で布団に寝転んでいる一人の女性。その傍の壁に背を預けて酒を呷る一人の男性。

 

「千景、帰ってきたのか」

「…このありさまはなに?まるでゴミ屋敷よ」

「すまないなぁ。ほら。俺もいろいろと忙しくて片付ける暇がなくてな…」

 

 どの口が…、と文句を吐こうとして千景は口を閉じる。言うだけ無駄だからだ。

 

 この人は家庭を省みることなどしなかった。自分本位で家族を見向きもしなかった。母親もそんな男を相手にすることもなく、日々遊び歩く毎日を送っていた。

 陰に日向に蔑まれていた子がいたことなど気にも止めることなく…。そんなだから、自分は何も感じないものとして生きてきたというのに──

 

「今さら…、家族ごっこなんて…」

 

 踵を返して玄関から出るとそこには多くの村人が集まっていた。口々に聞こえるのは「勇者」となった自分を讚美する言葉。

 

 ───わかっている。これはご機嫌取りだと。

 

 今まで自分に対してしてきたことから復讐されたくないがための手段だと。だから──

 

「──私は、価値のある存在ですか?」

 

 『もちろんよ。だって貴女は、勇者だもの』

 

 

 

 ☆

 

 

 

 樹海化の中。千景は大葉刈りを構えながら迫りくる『星屑』を眺めている。

 

「…で、なんで私の頭に乗っているのかしら」

 

 頭の上に乗っていた物体──火蜥蜴をつまみ上げて自分の顔の前に持ってくる。紅い瞳は千景を映しているが、その瞳からはどんな意思があるのかまでは読めない。

 

『…シュルル…』

「…貴方、鳴けるのね」

『…シュウゥゥ…』

「…なんでかしらね。なんとなくだけれど、貴方の言いたいことが伝わってくる気がするわ」

 

 わかってはいるつもりだ。でも、今までの『私』には価値なんてなかった。今の私は『勇者』だから価値があるのだ。

 『勇者』として戦い続けるかぎりは私の価値は失われない。

 

『・・・』

「…そうね。でも、今はそれでいいと思っているの」

『…シャァ』

 

 火蜥蜴のサイズが小さくなり、千景の左肩に乗る。その頭を指先で撫でると燐光が散る。

 

「ぐんちゃん、すっかりその子と仲良しだね」

「高嶋さん…」

 

 いつの間にか他の勇者達も集まってきていたようだ。当然、その中には御剣奏もいる。

 その姿は女性的なフォルムに水のヴェールをまとうように、少し浮いている。

 

「すごい姿ね」

「いやぁ、水の精霊…水乙女(ウンディーネ)の力を借りたらこんな感じになってしまって…。外観にここまで影響が出る精霊も珍しいんだけどなぁ」

 

 声も心なしか高い声に変わっていて、女性で通しても問題ない状態である。

 

「いいんじゃないか?『勇者』ってのは無垢な少女がなるものだって大社も言ってたぞ!」

「いやぁ、さすがに勘弁願いたい…」

「それにしても、本当に違和感ないですね」

「何も嬉しくないフォローだ…」

 

 珠子や杏の励まし?に奏はどんどん落ち込んでいく。

 

「さて、そろそろ来るぞ。みんな、気を引き締めろ!」

 

 若葉の言葉にそれぞれの神器を構える。星屑が一斉にこちらへと突っ込んできた。

 

 千景は大葉刈りで一度に数体を斬り捨てながら駆ける。視線の先には若葉がいた。

 

(同じ勇者なのに…、彼女とは差が開いていく…)

 

 若葉はその類いまれなる身体能力によって瞬く間に数十もの星屑を斬り捨てている。自分はそこまでの速さもなければ周囲を見渡せるだけの技量もない。

 

「…っ、ぐんちゃん!」

「──っ」

 

 槍のようなもので胸を貫かれた千景が結界の隙間へと落ちていく。身を乗り出して千景の落ちた場所をのぞきこむ友奈の左右に、先ほど貫かれて落ちたはずの──白い外套を頭からかぶる千景が降り立つ。

 

「えっ、ええ!?ぶ、分身の術?!」

 

 千景『達』は次々と星屑の向こうから槍のようなものを射ち出してくる進化体へと突っ込んでいく。途中、一人二人が貫かれるが、すぐに数を戻し、総勢七人の千景が鎌を振りかぶる。

 

「今の私を殺したいのなら──七人同時に屠ってみせろ!」

 

 七撃を連続して受けた進化体が崩れ落ちていく。

 

「大葉刈りは、全ての命を刈り取る鎌よ。あなたごときに、私は負けていられないの」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 戦いが明けた夜。千景の部屋には部屋主の千景以外に高嶋友奈と御剣奏の2人がいた。友奈は千景の隣に座っている。

 

「それにしても、今日のぐんちゃんは凄かったよね~」

「確か…『七人御先』だったか?」

「そう。七人同時に存在して、七人同時に殺られないかぎりは際限なく戦える私の『切札』」

「なるほどなぁ…『七影の闇者』とはよくいったものだ。あれは俺が対峙しても苦労するだろうな。精霊の引きによったら俺でも負けるかも…」

「あら?貴方みたいな強い人でもそういうこと言うのね」

「そりゃあ、簡単には負けない…とは言いたいけどな。俺の力は力を貸してくれる存在ありきだから、場合によったらすこぶる相性の悪いのに当たることだってあるさ。まあ、ここにある火蜥蜴や水乙女なら、そうそうに負けたりはしないだろうけどな」

「そういえば、水乙女の姿、綺麗でしたね!」

「高嶋さん…。そろそろ勘弁して。俺のライフもそう高くはないんだよ…」

 

 奏は顔が赤くなっているのがわかるので手で覆って伏せるしかない。奏自身、今までにいくつもの精霊や神様から力を借りはしたが姿が『女体化』したのは経験がない。

 

(なんだかんだと今思い返してみれば、女性的な精霊や神様からは力借りたことほとんどなかったんだよなぁ…)

 

 奏自身も今回ばかりはさすがに羞恥心の方が勝ってしまってまともに戦えたとは言いがたい。

 

「…まあ、いいや。──ところで、俺は郡さんに部屋に来てほしいって呼ばれたから顔を出してるわけだけど、俺に何か質問かな?」

「…そう。実は、この子について聞きたいの」

 

 千景が左手で撫でているのは丸まった火蜥蜴だ。勇者服の時は肩に乗れる程度のサイズダウンをしていたが、今は普段通りのサイズに戻っている。

 

「この精霊、今は私の傍から離れようとしないし気がついたら部屋に入り込んでいたり…。…まあ、それはいいの。問題は、御剣さんにとってはこの精霊は力を貸してくれる存在なのではないのかしら?」

「…うーん。とりあえず、俺の力、『神石』に関することを軽く説明するが…。『神石』っていうのは神様が使うとされる力──『神気』を特別な方法で高純度圧縮したものだ。極端な話、この石を今俺の肩に乗っている水乙女やそこにいる火蜥蜴にあげれば下位精霊から下位神ぐらいにはランクを上げられるだけの力がこの石にはある。もちろん、石の力を使い果たすまでの限定的なものだけどな」

「それって、バーテックスも強くなったりする?」

「…ああ。高嶋さんの言う通り、これはバーテックスの星屑が食えば一体で進化体くらいにはなるだろうな」

「…そんな力なのね」

「まあ、力の方向性は今は脇道だから置いておくとして…。精霊は俺に力を貸してくれた際に『神石』の一部を自身の力へと取り込んでいるんだ。火蜥蜴はその際に人間でいうところの『自我』を獲た可能性がある。もちろん、肩に乗っているこいつもそうだ。偶然か必然か、自分の意識とやらを持ったこいつらからすれば自分の興味の持てる存在の傍にとりあえず居たいと思ったんじゃないかと、俺は思う」

「それは、火蜥蜴は私に何かしらの興味があるってこと?」

「興味の内容までは、俺にもわからないけどね。自我持ちの精霊ってのは希少存在に近いから、俺の時代にはほとんど存在していなかったんだ」

「そう、なんだ…」

 

 火蜥蜴を撫でているとゆっくりと尻尾を振っている。

 

「俺から頼むことでもないんだけど、しばらくは火蜥蜴の自由にさせてやってくれないか。そいつなりに役に立とうとはしてくれると思うからさ」

「・・・」

 

 不意に頭を過るのは実家でゴミを丸呑みにしていた火蜥蜴。あれは火蜥蜴なりに何かしようとした結果なのかもしれない。

 

「わかったわ。しばらく…少なくとも火蜥蜴が飽きるまでは、私の方で世話をするわね」

「ありがとう、郡さん」

「お礼を言われるようなことでもないから…」

 

 気恥ずかしくなって目をそらした千景だったが、今まで静かに聞いていた友奈と目が合う。

 

「嬉しそうだね、ぐんちゃん」

「そう、かしら」

「うん。嬉しそうに、笑ってるから」

「…そうなのかも」

 

 火蜥蜴を撫でながら、千景は優しく目を細めているのを友奈と奏がニヨニヨと見つめていた。

 

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