BRAVE HISTORY-勇なる物語-   作:揺れる天秤

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第7話 模擬戦

 教室の中で授業を聞いている珠子は眠そうに欠伸を噛み殺していた。

 

(眠い…。昨日はなんだかんだと疲れたからなぁ…)

『───』

(ん…?なんか視線を感じる…)

 

 視線を感じて珠子は顔を上げる。そこには首を傾げる水乙女が珠子を見つめていた。

 

「…確か、昨日御剣さんのところに現れた精霊、だっけ?」

『・・・』

「…えーと、なんでタマを凝視してるんだ?」

『…クスクスクス』

「──えっ?」

 

 目の前の水乙女が笑い出した──と思った途端、珠子の顔を突如水のヴェールが覆った。

 

「ぐっ、ガボォッ?!」

 

 一瞬にして酸素から水に切り換えられて珠子は焦る。水をどうにかしようと手を伸ばすが水なんか掴めるわけもなく、手は水を貫通して自分の顔にしか触れられない。

 

(し、死ぬ…!っていうか、こいついきなり何を──)

 

 それも束の間、水のヴェールはあっさりと消滅した。怒りに震えるままに珠子は立ち上がる。

 

『クスクスクスクス…!』

「テメェなぁ」

「…怒りたい気持ちもわかるがな、土居さん。今は何の時間だろうか?」

 

 水乙女の後ろには肩を教科書で叩く奏の姿。今は奏が『勇者』達に勉強を教えることになったために組まれた特別な授業の真っ最中だった。

 

「…あ」

「疲れているのはわかるが、堂々と居眠りしてんじゃねぇよ!」

 

 ずぶ濡れになった頭を教科書で思いきり叩かれた珠子は勢いそのままに着席するしかなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「くっそー…。何もあんな全力で叩かなくてもいいだろ…」

「いやぁ、さっきのはさすがにタマっち先輩が悪いと思うよ」

 

 昼休み。御飯を食べながら先ほど叩かれた場所をさする珠子に杏は呆れた様子で返事を返す。

 

「せっかく御剣さんが勉強を教えてくださっていたのに、それを聞いていなかったのはタマっち先輩ですよ」

「それはそうなんだけどさ…」

『・・・』

「…つーかなんでお前はそこにいるんだよ?」

 

 珠子の食べているうどんの器の縁に水乙女が座っている。器の中を見ている。

 

「…あげねーからな?」

『・・・』

「・・・」

 

 うどんを一本、箸で水乙女に与えるときちんと両手で持ってかじり始める。最初の一口からは勢いよく食べ始めたので気に入ったようだ。

 

「こうやって見ていると精霊って可愛いよな」

「タマっち先輩、なんで火蜥蜴にあんなに嫌われたんでしょうね」

「本当になー。まあ、確かに弄りすぎた気がしないでもないけどなー」

『・・・』

「はいはい。食べたいだけ食べろー」

 

 うどんをもう一本渡すと黙々と食べ始めた。

 

「…さて、飯終わったら昼からってなんだったっけ?」

「確か、模擬戦だったはず──御剣さん込みの」

「あの人の強さってどうなんだろ。身体能力とか高いのか?」

「この前丸亀城の外壁でロッククライミングしてるのは見たことあるかも」

「…なんとなくだけどあの人いろいろとアホなことしてるよな」

 

 うどんに満足したのか水乙女は器の隣で寝ていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 丸亀城の木の上に若葉は立って周囲を見渡している。

 

「…さて、久しぶりの模擬戦なんだが。今日の範囲は城の敷地内という話だしすぐに出会うことはないと思うが…問題はひなたの開始前の説明だ」

 

『今日の模擬戦ですが、御剣さんの参戦と他に戦いに紛れ込んでいる存在がいますから気をつけてください。彼等も勝利者の権利目当てに参戦したらしいので』

 

「…今思い返してみて思うがいったい誰が参戦しているんだ?」

 

 ひなたは『彼等』と言っていたから複数なのはわかるが普通には戦いに出ない人ということだろうか?

 

「大社から誰か参戦してきているとかではないよな?」

『・・・』

「・・・」

 

 気がつくと水乙女が近くに浮いていた。視線が合った気がしたので見つめていたが、水乙女は両手をこちらへと向けて──!?

 

「くっ!?」

 

 木から飛び降りた一瞬後、木の上部が水によって両断される。生大刀を構えながら水乙女へと向き直ると再び両手を構えている。

 

「まさか…参戦してるのは精霊ということか!」

『クスクス…』

「これは、確かにやりづらい相手だな!」

 

 若葉が水を避ける。威力はウォーターブレードクラスで木くらいなら易々と切り裂いている。

 

「バーテックスより質が悪いぞ!」

『クスクスクス…』

「さて、どう対応する、か!?」

 

 頭を上げようとした頬を何か掠める。瞬時に生垣へと飛び込むと水乙女が水で盾を作り出して矢を止めていた。

 

「あれは、杏の矢か。位置は把握できないように逐次変えている感じか…」

『…ムゥ…』

 

 水乙女が矢に貫かれた──と思った途端に水が落ちる。

 

「代わり身か…。あれを倒すにはなかなか手を焼きそうだが…」

「よう、乃木さん」

 

 振り返ると奏が座っている。

 

「なぜこんなところに?」

「いやぁ…。なんでか知らんけど精霊達に追い回されててさ。さっきようやく土人形(グノーム)を撒いてきたところ」

「土人形?」

「ああ。水乙女(ウンディーネ)火蜥蜴(サラマンデル)土人形(グノーム)風燕(シルフィード)の四体が参戦してる。あいつら、どうやら何か上里さんに吹き込まれたようなんだよな…」

「そもそもなんで精霊が四体に増えているんですか」

「火蜥蜴と水乙女がこっちに顕現状態を維持してるせいか寄ってきたんだよ…」

「…大変そうですね」

「いや、模擬戦に参加させる上里さんよりはマシだと思う」

「確かに…」

 

 生垣から顔を出すがあちこちで剣戟のような音が響いたりしているが、姿は見えない。

 

「どこでやり合っているのか──なんで俺に切先を向けるのかな乃木さん」

「そもそも御剣さんも参戦メンバーでしたね」

「ああ、確かに…。とはいえ、今は──逃げた方がいいな!?」

 

 二人が見上げた先には白い鳥が見下ろしている。その前に真っ白になるほど圧縮されている風の塊が見えて──

 

「じゃあな、乃木さん!」

「くっ──」

 

 走り出した奏とは別方向へと駆ける。白い鳥は瞬時に奏へと風の塊を向けて撃ち出す。

 

「なんでお前ら、俺ばっかり狙うんだよー?!」

『───!!』

 

 白い鳥が咆哮を上げて奏の方へと飛び去っていく。

 

「今日の模擬戦は油断していると死にかねないぞ…」

 

 すでに周囲は破壊痕だらけで精霊達が手加減していないのがよくわかるありさまだった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 ところ変わって、千景は杏と戦っていた。飛来する矢を切り落としながら距離を詰めようとしている。

 

「くっ…。なかなか距離が詰まらない」

 

 杏はバックステップを踏みながらも的確に千景の足下へと矢を射抜いてくる。必然、鎌で弾くとどうしても移動速度は落ちてくる。

 

(無理をすれば踏み込める。でも、たかが訓練。そこまでするべきなのかしら…)

 

 矢を弾きながら千景は一度足を止めた。深く息を吸い──吐き出す。

 

(──違う。訓練だからこそ、手を抜くのは間違いね。訓練でしないことを本番でできるわけないのだから!)

 

 千景が身体を深く沈める。鎌を身体で隠すように後ろへと構え、右足を後ろへと滑らせる。

 千景の構えに杏は初めて背中を向けて駆け出した。

 

「──ゲームの真似だからできないだろうけど」

 

 千景の身体が地面を滑るように駆ける。開いた距離を瞬く間に詰め、杏と並ぶ瞬間──

 

「ここっ!!」

「──っ」

 

 千景の振るった鎌が杏の前髪を揺らす。寸前でかわされたが千景はすでに鎌を上段から振り下ろす体勢だ。

 

「取っ──」

「──私の、勝ちです」

 

 鎌が手元からすっぽ抜ける。鎌の刃に横合いから何かが当たったのは手の痺れから把握するが…

 

「なにが…!?」

「ゲッ…!?」

 

 見えたのは旋刃盤を放つ構えを取った珠子。どうやら体勢を崩した杏を狙い打とうとしたところのタイミングがかぶり、旋刃盤で鎌の腹を叩いたといったところだろうか。

 だが、千景は杏に向かって身体を投げ出すような体勢だ。鎌が無いのは仕方ない。拳を握って殴る姿勢を取る。

 

「…っ?」

 

 視界の端に何かいる──と判断する前に千景の顎を何かが殴り飛ばした。

 薄れゆく意識の中で、千景が最後に見えたのは自分に向かって手をかざす土人形と珠子に向かって威嚇している火蜥蜴の姿だった…。

 

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