でもそれっぽいよね楓さん。
斉藤信也と高垣楓の出会いは、一度目も二度目もステージと観客席であった。
面白いのは、それが前者と後者で二人の立場が逆であったという事だろうか。
祖母がアイルランド人で、オッドアイのクウォーター。
それに加えて女性としては高身長な事もあって、私はモデルとして生活していました。
とはいっても、いわゆるトップモデルには程遠くてそれこそモデル業だけでは食べていけません。
なので、ちょこちょことBARで祖母から教えてもらった歌を歌ったりする副業をやってたりしました。
じゃないと、お酒の肴に鮭も食べれないのです。
……お酒と鮭、それに肴と魚もかけてみたけど分かりにくいでしょうか。
だから、いつものように歌って帰り支度をした時に話しかけてきた人には本当にびっくりしました。
「私が……アイドルですか?」
「えぇ、高垣楓さん――貴方の歌に惚れました、貴方をプロデュースさせて欲しい」
キミと――世界を変えてみたいから。
その言葉はとても熱を持っていて、その人は真っ直ぐに私を見つめていて。
私、高垣楓は24歳の誕生日に、運命に出会いました。
運命……うんめい……ベートーベン……思いつきません、残念。
「――で、何で俺がその新人迎えにいかないといけねーんだよ」
『いや、返事はまだもらえて無いから新人未満だな。 なのでお客さん待遇でよろしく』
「うげっ……アンタ、俺がそういうの苦手なの知ってて押し付けただろ」
『雫がグラビアなければお願いしたんだけどな……まぁ、ライブハウスへの顔見せもあるんだから仕事の一つとして頑張ってみてくれ』
「簡単に言ってくれんな……」
能天気な電話越しの声に肩を落としながら俺は夕暮れの街を歩く。
途中で色々と視線を感じたりするのはいつもの事なので無視だ、伊達や酔狂でトップアイドルを目指しているわけじゃない。
自身の顔立ちが整っている事くらいの自覚は持っている。
そんな俺、アイドル候補生天ヶ瀬冬馬の最初の仕事は。
プロデューサー兼先輩アイドルの引退ライブ――正確には最後のライブ――に、スカウトされた一般女性のエスコートだった。
……明らかにアイドルの仕事じゃねぇだろう、これ。
プロデューサーから教えられた待ち合わせ場所には既にその人は来ていたようだ。
女性にしては高身長、しかしそれが不相応というわけでなくコーディネートもあるのだろうが不思議な雰囲気を放っている。
モデルの経験もあるとは聞いていたが、なるほど立派に街中で個を示していた。
埋もれないアイドルの素養というものはしっかりと持っているらしい、俺ほどではないとしても。
「すまねぇ、遅れたようだが……あんたが高垣、さんでいいのか?」
「あ、はい……高垣楓です。 えーと、その……貴方があのプロデューサーさんの言っていた」
「あぁ、あんたの案内を頼まれた……」
「鬼ヶ島羅刹さん」
「ヶしか合ってねぇじゃねぇか!! 天ヶ瀬冬馬だ!」
そうは見えなかったが一応年上だとは聞いていたのでさん付けをしたらこれかよ!
思わず突っ込んでしまった俺に驚いていた高垣さん、後で聞いたところプロデューサーがこう教えていたことが判明し、俺は奴を叩いた。
「一応芸名候補だったんだぞ」とプロデューサーは言っていたが却下だ、当たり前だろ。
「はぁん、アイリッシュパブで歌手やっててその時にプロデューサーにスカウトされたのか」
「はい、いきなりだったのでとてもびっくりしました」
「はっ、プロデューサーらしいっちゃらしいな。勢い任せなのは社長とどっこいどっこいだ」
プロデューサー、社長と同じ扱いをするといやな顔をするが猪突猛進っぷりは全く同じだと俺は思う。
特に所謂アイドルの才能というか、そういうのを見抜いた相手に対しては何が何でも引きずり込もうと……何か妖怪みたいだな、アイツ等。
案内はとうに済んでいて、今の場所は既にライブハウスだ。
本来ならチケットを買って更にドリンク料も必要なんだがここのオーナーとはプロデューサーが顔見知りらしくそのまま裏に回った。
ランクが低い内はこういうライブハウスの前座として名前を売るらしく、使えるライブハウスを増やす為にも顔つなぎは重要らしい。
らしいってのも、全部プロデューサーが自力アイドル業やり始めてから分かったことだからなんだが。
……俺が一人で始めたとして同じ事が出来ただろうか、なんてのは考えない。
そうならない為にプロデューサーが今こうしているのだから、俺はそれを受けてもっと輝きファンを魅了する事に力を注げばいい。
それが、アイドルというものだろう。
「……っと、何かわりぃな。 俺一人で喋っちまって、慣れてねぇんだ」
「あっ、いえいえ……あれ、アイドル候補生、なんですよね?」
「歌と踊りは磨いてっけど、そういうトークみたいなのは趣味じゃねぇんだ」
「……いいんじゃないでしょうか、そういうのも。私も、自己紹介とか苦手ですし」
「話が分かるようで何よりだ……プロデューサー! 連れてきたぜ!」
舞台袖の控え室、とは言ってもそれほど広くないライブハウスなので楽器の控え等も兼任している部屋に入る。
入ってから着替え中だったりする事も思いついたが、まさかそろそろ本番という状況でまだ着替え終わっていないというほどプロデューサーはルーズでは無いのでまぁいいかと思い直す。
実際、既に舞台衣装に着替えたプロデューサーは椅子でコーヒーを……っておい。
「何で舞台前にコーヒー飲んでんだよアイドルは歯も命だろうが!」
「いや、何か差し入れにあったから折角だし。 勿体無いだろ、ケニア出身の人が怒るぞ」
「その精神は別のトコで使えよ!」
「あっ! どうもどうも高垣さんようこそおいでくださいました!」
「聞けよ人の話を!」
「どうもプロデューサーさん、来ちゃいました」
「あんたもナチュラルに会話進めんな!」
……ほんの少しだけイラっときた、ほんの少しだけだけどな。キレてないっすよ。
「折角なんで、ライブ聴いていってください。 一応これでも先日ランクDになりましたので退屈はさせないかと思いますし」
それでもアイドルとしては最低限みたいなものなんですけどねー、と衣装に身を包んだプロデューサーさんは苦笑してた。
じゃあ、この盛り上がりは何なのだろう。
アコースティックギダーの軽快なイントロと、それに乗るフィドルの旋律。
いわゆるケルティックバンドの風と草原を感じるような楽曲に合わせたかのように、プロデューサーは謡いだす。
歌詞は有り触れているような、耳に心地よい前向きな歌詞。
それだって、流れるような旋律によって紡がれれば爽快感をかもし出すような歌声になる。
所謂テレビでみるようなアイドルのダンスは無いけれど、曲と歌詞で出来る風の雰囲気が何より聞いている私に躍動感を与えてくれるようで。
「ダンスは無理、ビジュアルだって平々凡々だって自虐しながら作り上げたのがこれだ」
となりの天ヶ瀬さんが、私の隣でじっと舞台を見ながら呟く。
その目は舞台を自分に刻み付けるような真剣さで。
「高校時代吹奏楽で、大学で演劇サークルやってたから肺活量と滑舌は人並み以上だって事、
それを売りにして軽快さと歌詞の紡ぎの難しいBPM高めの曲を作りフィドルをリード代わりに使って物珍しさも出した」
「それで、ようやくアイドルとして駆け出しのレベルになれたって、アイツは言ってたよ」
舞台を見ていた目がそこで初めて私に向く。
その目は先ほどまでプロデューサーさんと話していた私より年下の男の子の目ではなくて、一つのモノに真剣に取り組む職人の物だ。
「そういう世界だ、芸能界って奴は。とりえの無い奴が唯一の長所といえるものを最大限伸ばすようにして、それでスタートラインの世界なんだ」
「そんな世界で、アンタも俺も。 綺羅星になれるってアイツは言ってる、信じている」
歌はサビに入ったのだろう、フィドルとプロデューサーさんの声がハーモニーを奏でて、会場もそれに呼応するかのように盛り上がっている。
「だから、俺は頂点を目指す……アンタは、どうする?」
そういう天ヶ瀬さんの向こうには、きらめくステージで沸く会場に向けて大きく手を振っているプロデューサーさんの姿があって。
私の答えは既に決まっていた。
そうして一年、私はBランクアイドルになりました。
ここまで伸びたのは、プロデューサーさんが見出してくれたという自信が私を後押ししてくれたからだと思います……本当に。
私は、私の気持ちを表現するのが得意じゃないけれど。
その気持ちを、プロデューサーさんはきっと分かってくれているって思えるから。
冬の寒い都会の道。 好きな人に負ぶさって帰るこの道程は夢心地のようで。
ぎゅっと、彼に抱きつく腕に力をこめて、心地よい暖かさに包まれるように。
思い出すのは、あのライブの後。 喜ぶプロデューサーさんが契約書を取りに事務所へ衣装のまま向かってしまって、冬馬君と帰りを待っていたときの話。
『そういや、トップアイドルになったらアイツが何でも一個願いを叶えてくれるんだってよ。 アンタ、何願う?』
『……天ヶ瀬さんは、何をお願いしました?』
『今日の曲のカバー。んで、プロデューサーよりも完璧なヤツを作り上げる』
『じゃあ……私は。』
私がトップアイドルになったら。
「その時には、ちゃんと……お願いしますね」
「え、何か言いました?」
「なんでもありませんよ……ふふっ」
――あの日の曲を、貴方とデュエットしたいです。
Pの歌イメージは某ケルティックバンドの一曲から。それには歌詞ないですけどね。
名前挙げていいのか分からないのでぼかさせていただきます。
そして楓さんなのに駄洒落が思い浮かばないので割と難産でした。
次はなんだろう、及川さんか姉ヶ崎か……まぁ書けた方で。
あと、ウサミンのCDの歌詞製作には楓さん関わってるだろうなぁと聞いてて思いました。