Fateで学べないギリシャ神話   作:水泡人形イムス

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アキレウスとパトロクロスはお墓の中までズッ友だょ

 ※この作品は英霊が生きていた当時そのものではなく、当時の再現ドラマを英霊当人が演じるものです。再現ドラマなので多少の誇張や差異はあるかもしれません。ご了承ください。

 

 

 

 ――――トロイア戦争。

 ギリシャ中の英雄が集い、そして散っていく壮大な叙事詩。

 気高き英雄譚のひとつを今、解き明かそう。

 

 ギリシャ連合軍のトップ、アガメムノーンがクソコテだったせいで確執を起こしてしまったアキレウスは、トロイアとの戦争に参加せず自陣に引きこもっていた。息子がニートになって激おこに至ったモンスター・ペアレンツこと母テティスは最高神ゼウスに猛抗議。さすがのゼウスもあまりの剣幕にたじたじで言われるがままになった。最高神ってなんだ。

 おかげでギリシャ軍は神の横槍によって色々デバフかけられて連戦連敗の大劣勢に陥った。

 神々はホント最低だな……。

 

 しかしされど、アキレウス一番の大親友であるパトロクロスはギリシャ軍を哀れに思い、自陣の軍船にてシカト決め込むアキレウスに頼み込んだ。

 ちなみにどれくらい大親友かっていうと、ギルガメッシュに対するエルキドゥくらいである。

 

「アキレウス! 我が友、アキレウスよ! どうかお前の鎧兜を私に貸してくれ!」

「パトロクロス! 突然何を言ってるんだ? 父ペーレウスから授かった俺の鎧兜をお前に?」

「ああ、そうだとも。お前の鎧兜に身を包んで戦場に出れば、皆、アキレウスが参戦したと勘違いするだろう。それは味方に勇気を与え、敵に恐怖を与えるだろう」

 

 それは戦場に決して出ようとしないアキレウスに対する最大限の、そして最後の譲歩であった。

 アガメムノーン王との確執をなんとかしようと今まで説得を繰り返してきたのがパトロクロスである。そんな彼がとうとう、アキレウスは戦場に出なくていいと言ったのだ。

 代わりに自分が出るからと。

 故郷からトロイアまで、いついかなる時も支え合い、笑い合ってきた親友の頼みとあっては、出来る限りかなえてやりたいのがアキレウスの本音だ。

 

 それにこれはチャンスでもあった。

 最強の英雄アキレウスの武勇伝は敵味方に知れ渡っているが、それに引き換え、相棒であるパトロクロスの名は添え物でしかなかった。だがそれは決してパトロクロスの武勇が情けない訳ではない、アキレウスがあまりにも強すぎるためのものだ。

 だがパトロクロスが一人で戦場に立てば、アガメムノーン王もビックリする大活躍をするのは間違いない。親友の武勇を轟かせる事ができる。

 アキレウスは快諾しようと思ったが、ふと、ある疑念が脳裏をよぎった。

 

「しかし、うーん…………お前に鎧兜を着せていいものか……」

「どうしたのだアキレウス、私を信用できないのか」

「まさか。お前の腕っぷしを一番よく知ってるのはこの俺だ。お前なら大アイアスやディオメデスに勝るとも劣らない武勇を立ててくれるだろうさ」

「ならば友よ、私を信じて鎧兜をどうか」

「けどなぁ……」

「いったいどうしたというのだ。言いたい事があるならハッキリ言ってくれ」

 

 親友の不安そうな声色を受けて、アキレウスはとうとう胸の内を明かした。

 

 

 

「お前…………女だったりしないよな?」

 

「…………………………………………ほえ?」

 

 

 

 幼き頃からずっと一緒に育ってきた親友の言葉を、パトロクロスは初めて理解できなかった。

 アキレウスは困ったように頭を掻く。

 

「いや……だってよくあるじゃん。男の英雄だと思ってたのが、実は女だったっての」

「いや……何の話だ」

「セイバー(青)とか、セイバー(赤)とか、セイバー(赤の)とか、セイバー(桜)とか」

 

 しかも同じ顔だ。

 そりゃカルチャーショックを受けるだろう。こいつさてはカルデア帰り――!!

 

「何を言ってるんだアキレウス! 気でも触れたか!?」

「だってよぉ、Fateだぜ?」

「そうだけども!」

 

 聖杯戦争が起きたら女体化鯖が一人はいると思え。それがFateである。

 複数いる事もある。それもFateである。

 

「お前、女にしたらいかにも受けそうなポジションしてんじゃねぇか」

「してない! している訳がないだろう!」

 

 大英雄に尽くす健気な親友。

 男の友情の素晴らしさは否定しないが、女の子がやったらヒロイン度が凄まじいよね。

 

「俺の大ファンのイスカンダルだって、影武者は女だったぜ? 俺の影武者をやろうっていうパトロクロスが女だったとして、そう不自然な展開じゃあない」

「不自然だろ!?」

 

 不自然だろうか。

 古代ギリシャの哲学力が試される。

 

「だいたいそれを言うならアキレウス! 女装エピソードのあるお前の方が疑わしい!」

「ナニ言ってんだ。女装エピソードならあの雄の中の雄、ヘラクレスにだってあるぜ?」

「そうだけども!!」

 

 狂化前のヘラクレスはガチ美形なので女装映えしそうではある。

 あの体格と筋肉を除けば。

 

「我が父も参加したアルゴノーツの一員、ディオスクロイの双子だって片方女だったらしいぜ」

「…………親世代からの実例を出すのは卑怯だぞアキレウス」

 

 ちなみにトロイア戦争の発端となったヘレネーのお兄さん達である。

 世界一の美女であるヘレネーはそりゃもう数多の男から求婚され、求婚者同士で争いが起こらぬようオデュッセウスがこのような提案をした。

 

 ――――ヘレネーに何かあった時は全員で助ける! 友情!

 

 結果、ヘレネーがトロイアの王子パリスにNTRされたため元求婚者大集結――それがギリシャ連合の正体である。

 アキレウスは求婚者ではないので他人事なのだが、パトロクロスは求婚者だったので誓いに殉じねばならないのだギリシャ男子的に考えて。

 なお、この約束を言い出したオデュッセウスはペーネロペーという妻にゾッコンLOVEとなっており、今更ヘレネーのためとか言われてもなぁ……と参戦を渋り、気が狂ったフリをしてやり過ごそうとした前科がある。友情ってなんだ。

 

「ではパトロクロスよ、お前は間違いなく男だと言うのだな? 男装美女とかではなく!」

「当たり前だ! だいたい水浴びの時にお互い裸を見た事だってあるだろう、性的な意味でなく」

 

 性的な意味があったらそれはもう友情ではない、愛情だ。

 その方が絆が強い気はするけど。

 

「Fate独自の味付けをされた訳ではないのだな!?」

「Fate未登場キャラは原典風だよ! バニラだよ! もう台無しになってるけどな!」

 

 バニラ、要するに標準的という意味である。

 パトロクロス(バニラ味)である。

 

「すまないパトロクロス、お前を疑ってしまって……」

「分かってくれたかアキレウス」

「もしお前が女だったら、俺は女を身代わりにした卑怯者になってしまうのではと不安になってしまった。魔が差したんだ、どうしてだろうな」

 

 アキレウスは頭を抱えながら苦悩を吐き出した。

 パトロクロスはぶっちゃけお前もう戦場に出なくていいから飯食って酒飲んでぐっすり眠って休んでろと言いたい気持ちを抑えつつ、いたわるように、あるいは誤魔化すように言葉を返す。

 

「そういう唐突な思いつきは、たいてい神々の仕業だ。気に病むな」

 

 実際、トロイア戦争は神様電波を受信して行動を決めさせられる人間がいっぱいいた。

 トロイア王なんかそのせいで丸腰で敵陣まっただなかにやって来てアキレウスに会いに来たりしている。他のギリシャの将に見つかっていたら捕縛間違いなしだった。

 人間の意志ってどこにあるんだろう。

 

「そういう訳で、私がお前の鎧兜を借りる事になんら問題はないのは証明された。友よ、鎧兜を貸してくれるな?」

「ああ。俺の代わりにたっぷりと武名を馳せてくるがいい」

 

 こうしてアキレウスは自慢の鎧兜を親友に預けた。

 当然男性であるパトロクロスにとってサイズもそう差は無く、問題なく装着を完了する。

 遠目から見れば、彼の姿は紛れもなく英雄アキレウスである。

 

「では、行ってくる」

 

 これが悲劇の始まりだと知らず、パトロクロスはアキレウスの戦車へ乗り込み――――。

 

 

 

「アァァアアァァァァァァキレウスゥゥゥウウウウウウウ!!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

 

 

 空から降ってきたトゲ付き鉄球がパトロクロスを叩き潰した。

 おお! いかに鎧兜が頑丈でも、圧倒的質量攻撃を受けたら中身はぺしゃんこさ!

 哀れパトロクロスは血飛沫を上げながら情けない悲鳴と共にノックアウト!

 

「パトロクロスゥゥゥゥゥゥ!?」

 

 これにはアキレウスもビックリ。こんなの脚本にない!

 再現ドラマをぶち壊したのはどこのどいつだ。みずからの行いを棚に上げて、アキレウスは軍船の上から襲撃者を睨んだ。

 残骸と化した戦車へと歩み寄ってきたのは銀色に輝く髪の女戦士。

 

「フシュルルル……今の手応えはアキレウスではない…………だが匂うぞ、アキレウスの匂いがプンプンする………………そぉこぉかぁぁぁあぁあぁあぁっ」

 

 冥界の底から響くような声で、ケルベロスすら恐怖に身をすくませるような恐ろしさで、アマゾネスは怨恨を吐き出しながらギラリとアキレウスを睨み返した。

 ドキリと、怒り以外の感情を呼び起こされながらアキレウスは呟く。

 

「ぺっ……ペンテシレイア!?」

 

 彼女の出番は本来まだ先である。

 パトロクロス死亡、ヘクトール死亡、ペンテシレイア死亡、アキレウス死亡、大アイアス自殺、パリス死亡――Fate関係者に関する今後のトロイア戦争の流れはだいたいこんな感じである。

 ロー・アイアスの本家本元さんが自殺した理由? ……触れてやるな。

 

「なんでここに…………って、来てるよな、再現ドラマなんだから」

「あの時の戦いを再び出来ると聞いた! 今こそ雪辱を晴らしてやるぞアキレウスゥゥゥ!!」

「……で、素直に出番待ってる訳ねぇよな。バーサーカーだし……」

「■■■■■■■■――――――――ッ!!」

 

 言語能力すら喪失して襲ってくる怒りの狂戦士、アマゾネスバーサーカーペンテシレイア!!

 軍船を壊されてはたまらないと、アキレウスも地上に飛び降りて応戦の構え!

 おお! 神話の戦い、当人をキャスティングしてここに再現される!

 

 

 

   ドカッ バキッ グシャッ ドゴォッ バコーン

 

 

 

 再現なのでペンテシレイアは負けた。

 というか素の実力が違うから仕方ない。それにアキレウスって踵以外は不死身だし。

 

「くっ、ううっ…………アキ、レウ、スゥゥゥ……」

「悪いな……詫びのためなら殺されてもいい、とは思っちゃいるんだが…………再現ドラマだし」

「ま、またあの言葉を……我が戦士の誇りを辱めるというのか…………おのれ、おのれぇぇぇ」

「そこまで再現する気はねぇよ。だが、自分の心にも嘘はつけない」

「やめろ……やめろぉぉおぉおぉ……!」

 

 ボッコボコにされて地に伏しながら、ペンテシレイアは怨嗟に満ちた眼差しを猛獣のように歪める。戦士として戦い、敗ける。それはいい。戦いとはそういうものだ。

 だがアキレウスは、事もあろうにアキレウスは。

 美しいと――――ペンテシレイアを戦士ではなく、女として称賛した。

 そのような侮辱、許せるものか。

 

「待て、そこまでだアキレウス」

 

 再びアクセル全開で過ちに踏み込もうとした男を止める声、それは戦車の残骸から聞こえた。

 ハッとして振り向いてみれば、頭から血をピューピュー流しながら立ち上がるパトロクロスの姿があった!

 

「生きていたのかパトロクロス!」

「この鎧兜が無ければ即死だった……」

 

 神々がペーレウス王に与え、そしてアキレウスへと継承された鎧兜は伊達じゃない。

 なおこの後、パトロクロスの仇討ちのためヘファイストスからもっと凄い鎧兜をもらう予定である。ただでさえ不死身なのに神様防具だらけというご贔屓っぷり、それがアキレウス。別にそれらが無くても強い、それがアキレウス。

 

「パトロクロス! お前が無事である事がこんなにも喜ばしいとは! お前を喪ったと思った時、俺は悲しみというものを心底思い知った。例え父ペーレウスを喪おうと、例え我が子ネオプトレモスを喪おうと、お前を喪うほどの悲しみには及ぶまい!」

 

 実際、こんなような事を言います。

 別に父や子を軽んじている訳ではないのは、名誉を示す際に父ペーレウスの名を出す事からもよく分かるものです。つまりそれほどまでにパトロクロスという親友の存在は重く、掛け替えのないものなのです。

 

 葬式もめっちゃ盛大にやります。生贄に犬とか馬とかも捧げます。ヘクトールの遺体も引きずり回します。葬礼競技とか言って競技大会も開きます。

 なおアキレウスの葬式はさらに派手に行われる模様。どれくらい派手かって言うと大アイアスが自殺するくらい派手。

 

 そして男の友情は最高潮を迎え、熱き包容を交わす。

 そりゃもうガッシリと、暑苦しいほどに抱きしめ合う。

 これぞギリシャ男子の友情ってもんだ。

 ちなみにパトロクロスは自分とアキレウスの遺灰は一緒に埋葬してくれとか頼むし、アキレウスも実際そうしてもらうし、友情が重い。お互いに。

 

「アキレウスよ、ペンテシレイアとの決着をつけるべきは今ではないだろう。ひとまず動けなくしたのだから、我々は我々の成すべき事をしよう」

「ああ……行くのか?」

「行くとも。お前の鎧兜と、戦車を借りて――――」

 

 そう言いながら身を離した途端、ガシャンと音を立てて鎧兜が割れ落ちた。鉄球の直撃を受けて限界寸前だったところに、アキレウスとの力強い包容がトドメとなってしまったのだ。

 ついでに言えばアキレウスの戦車もバラバラに砕けており、三頭の馬は困ったようにブルブルといなないている。こっちの鉄球の直撃を受けたもんなぁ、仕方ないよなぁ。

 ダラダラと額から血を流しつつ、パトロクロスは硬直した。

 こんな有様でアキレウスの代わりに戦場に出るとかちょっと無理っぽい。

 それになんだかさっきから頭痛がする、吐き気もだ。気分も悪くなってきた。ペンテシレイアの奇襲を受けたのだから重傷ですんだのはむしろ幸運と言える。

 至近距離ゆえ親友の体調を察したアキレウスは、友情に報いるべく意を決した。

 

 

 

「分かった。俺の振りをするパトロクロスの振りを俺がしよう!」

 

「何を言ってるんだアキレウス。いやマジで」

 

 

 

 しかしそうしないと話が進まない。

 アキレウスはパトロクロスから盾を取り返すと、槍を握りしめて戦場に向かって駆け出した。ギリシャ最速の健脚に負傷済みのパトロクロスが追いつける道理もない。

 置いてきぼりだ。

 

「――――パトロクロス様、パトロクロス様」

 

 と、そんな彼に話しかける声。

 それはアキレウスの戦車を引く三頭の馬のうちの一頭、神馬クサントスであった。

 神馬なので人語を話せます、ブヒヒン。

 

「おお、クサントス。どうした?」

「ペンテシレイアが何か書状のようなものを握っています」

「書状?」

 

 そういえばペンテシレイアがいるのだった。

 大人しいと思ったら気絶していたようで、その手にはクシャクシャに握りしめられた文らしきものがあった。目を覚ましやしないかと注意しながら、恐る恐るそれを回収してみると――――。

 

 

 

『坐骨神経痛がつらいので早退します byヘクトール』

 

 

 

 パトロクロスを殺す予定の宿敵からの早退メールだった。

 もしかしたらパトロクロスではなくアキレウスが来てしまうと察知しての軍略かもしれない。

 結局Fateキャラな時点で最初から再現ドラマなんて破綻していたかもしれない。

 頑張れ、敗けるな、パトロクロス。

 君の戦死は近いぞ!

 

 

 

 CAST

 アキレウス役――アキレウス(ニンジン味)

 パトロクロス役――パトロクロス(バニラ味)

 ペンテシレイア役――ペンテシレイア(アマゾン味)

 クサントス役――クサントス(桜肉味)




 アキレウスが誓いを立てる時「我が父、我が母、我が友の名に懸けて」と言ったりするのは、同じ墓に入るくらい超仲良しだったパトロクロス君が親友だったからです。
 二人の友情が伝わったのなら幸いデス。
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