※この作品は英霊が生きていた当時そのものではなく、当時の再現ドラマを英霊当人が演じるものです。再現ドラマなので多少の誇張や差異はあるかもしれません。ご了承ください。
ゴルゴン三姉妹――末の娘メドゥーサは美しい髪の美少女だったが、姉のステンノとエウリュアレはちょっと特徴を記すのが躊躇われる感じの女だった。愛されるために存在するアイドルとか、決してそんな感じの少女ではなかった。メドゥーサと違って女神アテナに呪われる前から蛇頭だったり怪物顔だったりして、全然モテなさそーなタイプだ。
だがサーヴァント当人による再現ドラマなので、最高に美しいステンノ様と、最高に可愛らしいエウリュアレ様がその役目をなさっている。故に最高に美しい姉と最高に可愛らしい姉と表記せざる得ない。
で、メドゥーサはアテナを軽視してアテナの神殿でポセイドンとハッスルした(あるいはポセイドンに
そして自慢の髪を蛇に、美しい顔も見るものを恐怖のあまり石化させる化け物フェイスに変えられてしまったのだ。
おかげで人目のある場所で暮らしていられるかとなり、西の果てにある洞窟へと移り住んだ。そこは元々ステンノとエウリュアレが住んでた洞窟である。こうして三姉妹の共同生活が始まった。
ステンノとエウリュアレは、醜い姿となってしまったメドゥーサを哀れみ、そして変わらず愛し続けた。
「メドゥーサ! メドゥーサ! 洗濯は終わったの!?」
「はいぃっ! 今やってます上姉様!」
「駄メドゥーサ! 部屋の隅に埃が溜まってるわよ!」
「はいぃっ! 洗濯がすんだらすぐに掃除します下姉様!」
…………愛し続けたのである。
メドゥーサはシャンプーばっちりサラサラキューティクルヘアーをなびかせながら、姉に忠実に働いていた。蛇頭の設定は忘れろ。
体格が小さくてお美しいステンノ様は、洞窟暮らしに辟易として乾いた笑みを浮かべており、体格が小さくて可愛らしいエウリュアレ様は、貧乏暮らしに辟易として無表情になっている。
Fateじゃ結構いい感じの神殿に住んでましたもんね。
「まったく、なぜ私達がこんなところで暮らさないといけないのかしら。ねえ?
「それもこれも駄メドゥーサがアテナの天罰を受けたせいよ。酷い巻き添えよね、
念のため言っておくと、原典のステンノとエウリュアレはお互いの事を「私」と呼び合ったりしません。でもFateのステンノ様とエウリュアレ様は「私」と呼び合いますし、再現ドラマだって伝えてあるのに呼び方を改めてくれません。そういう女神なんです。
こうした毎日を平和に送りながら、可哀想なメドゥーサは姉達から慰められたりしていました。
「メドゥーサを慰めればいいのね」
「メドゥーサ、慰めるからこっちへ来なさい」
超、上から目線で命令する姉様ズ。
洗濯を終えたメドゥーサはいそいそと姉様方の元へやって来た。
絶対イジメられる……そう確信して、無駄にデカい図体をおどおどさせながら。
ニッコリ。ステンノスマイルとエウリュアレスマイルによって後光が生じ、人間の男がいたら確実に魅了される光景が現れる。
一方、メドゥーサは怯えていた。これからいったいナニをされるのかと、それはもう産まれたての子鹿のように震えていた。
「ああ、可哀想なメドゥーサ。頭を撫でて上げましょう。いい子いい子」
「ッ!?」
「可愛いメドゥーサ、私達だけはあなたの味方よ。背中から抱きしめて上げましょう。よしよし」
「ッッッッ!?!?!?!?」
なでなで、むぎゅむぎゅ、なでなで、むぎゅむぎゅ。
小さくて柔らかな手のひらが、キューティクルヘアーをソフトタッチ。
小さくて柔らかな肢体が、ムチムチボディを背中越しエンブレイス。
美しーい姉妹愛がハニーシロップのようにトロトロと注がれて、メドゥーサちゃんはリンゴのように真っ赤になって感極まっている。
「あ、ああああ、あ、あ、あの、あのの」
「なぁにメドゥーサ」
「どうしたのメドゥーサ」
あえて、二人の姉は妹の耳元に花びらのような唇を寄せて、スウィートブレスを吹きかけながら甘く甘く囁いた。
「こっこ、ここ、これはいったいどういう辱めなのでしょうかー!?」
「あら、私達は仲良し姉妹でしょう?」
「神話の通り、こうして仲良くして何の問題があるのかしら」
マジか。神話の自分、こんなコトされていたのか。
メドゥーサは脳髄を蕩けさせながら、二人の姉に洞窟の奥へと誘われていく。
「さあ、今日もいっぱい働いて疲れたでしょう? ベッドに入ってお休みなさい」
「子守唄を歌って上げるわ。ぐっすり眠るのよ、メドゥーサ」
マジか。神話の自分、幸せすぎるでしょう。
メドゥーサは夢心地で夢の世界へトリップ完了。一点の曇り無くハッピーエンドでした。
暗い暗い洞窟の中、ステンノとエウリュアレは笑みを深くして妹を見守る。
それはもう笑みを深くして。唇で三日月を描くようにして。
「あらあら、駄メドゥーサったら、すっかり寝入ってしまったわ」
「この後の展開忘れちゃったのかしら」
説明しよう、メドゥーサは寝込みを襲われて死ぬ。
首チョンパされて死ぬ!
Fateのように巨大怪獣ゴルゴーンと化してスーパー神話バトルとかしない。
実写映画のように侵入者に気づいて戦闘とかもしない。
哀れにも寝込みを襲われて!
全然気づかないまま!
首を落とされて!
死ぬ!
「スヤスヤ……ふふふ、上姉様……下姉様ぁ…………ムニャムニャ」
死ぬ!
首を落とされて!
全然気づかないまま!
哀れにも寝込みを襲われて!
そんなこんなで夜になって、西の果ての洞窟に一人の若者がやって来ました。
彼の名はペルセウス。
Fateだと成功した慎二だとか言われたり、カルデアに来たら殺すとメドゥーサさんに嫌われたりしている、割と残念な英雄っぽいぞ。
でも原典の彼は優しくて気安い好青年なんだ。
彼もまた神々から宝具レンタルしまくっており、もう神々のテコ入れで勝利確定の布陣である。
まずは戦の女神アテナからは剣と盾を、ついでにヘルメス神の空飛ぶサンダルも貸してもらいました。冒険始まって早々に空飛ぶアイテムとかRPG舐めてんの?
道中で出会ったニンフも親切にしてくれて、メドゥーサの首を入れるための袋、さらには冥界の王ハデスから兜を借りてきてくれました。この兜をかぶると姿が消えてしまうのです。
ところが洞窟にやって来たペルセウスは、姿をくらますマントを羽織っていました。
兜だって言ったろオイ。
駄目だこいつFate/Prototypeのペルセウスだ。
さて――マジモンの英雄が原典準拠の暗殺ムーブをする事になりました。アサシン適正もバッチリです。足音を立てないよう忍び足で洞窟を進み、ベッドで眠るメドゥーサを見つけました。
Fateのメドゥーサなので魔眼で見られないと別に石化とかはしないのだけど、ここは再現ドラマの都合上、彼は律儀に盾を掲げてメドゥーサの姿を映し見ました。
そうしてとうとう不死殺しの剣ハルペーの届く距離まで忍び寄ると――――。
「!?」
そこには、頭をシーツでグルグル巻きにされて呻いているメドゥーサの姿が!?
しかも胴体を鎖でグルグル巻きにされていた。アンドロメダ姫でもここまで縛られてないぞ。
困惑して思わず盾越しではなく直接メドゥーサの姿を確認しようとしてしまい、慌てて姿勢を崩さぬよう踏ん張った。
暗い、静かな洞窟に――――ペルセウスの足音が響く。
直後、天井から網が降ってきた。
「うわっ!?」
ハデスのマントで姿を隠していても、肉体が消えた訳ではない。網はペルセウスにかぶさってその輪郭を大まかにあらわにさせ、同時に動きを封じ込めた。
カツーン、カツーン。ふたつの足音がペルセウスを挟むようにして近づいてくる。
「あらあら、メドゥーサの頭が見当たらないわ」
シーツで頭をグルグル巻きにされているからである。
「それに動いてもいない、死んでしまったようね」
鎖で縛られて動けないだけである。
「つまり次は、メドゥーサの仇を討とうと私達がペルセウスに襲いかかるシーンね」
「今の私達はサーヴァント。不服な事に戦う力を持ってしまっているの」
アサシン、ステンノ。特技は男性ぶっ殺す宝具。
アーチャー、エウリュアレ。特技は男性セイバー超絶ぶっ殺す宝具。
ペルセウスは男の子!
「ちょ、ちょっと待った! 僕まだメドゥーサに指一本触れてないんだけど!?」
「何を言ってるの? 首が無くなってるじゃない」
「シーツでグルグル巻きにしてあるだけだろ!?」
「そうかしら? 暗くてよく分からないわ」
メドゥーサの首が切り落とされ、頭が無くなっている事に気づいたステンノとエウリュアレは、大いに嘆いたとも、ペルセウスに復讐しようとするも透明兜と空飛ぶサンダルのせいで逃げられてしまったとも言われている。
とりあえず後者の通り、ステンノとエウリュアレはペルセウスに攻撃しようとするようだ。
…………網にかかって動けないでいるペルセウスに。
最高に美しいステンノ様は! ペルセウスに向かってハート増し増しウインク!
最高に可愛いエウリュアレ様は! ペルセウスに向かってハート増し増しスナイプ!
「
「
「うわぁぁぁ! 僕のハートがラブラブ☆キューン!?」
男は死ね! 容赦なしの二重奏がペルセウスに炸裂!
哀れ男はインフレダメージを受けて一撃でノックアウト。心不全を起こしてビクンビクン。
「…………手応えは無かったわよね?
「ええ。これは襲撃者に逃げられてしまったようね、
二人がそう言うと、人間一人分のふくらみのある網がズザザザザと地面を滑り始めた。再現ドラマなので裏方スタッフさんが画面外から紐で引っ張っているのです。網の中身は岩肌でガリガリ削られて酷く乱暴な扱いだけど、裏方さんバーサーカーだから仕方ないね。
こうしてペルセウスのメドゥーサ退治は、大成功のうちに終わったという事になった。
――――二人は洞窟に戻ると、メドゥーサを縛り付けていた毛布と鎖を剥ぎ取る。
一応音は聞こえていたためメドゥーサは状況を大まかに把握してはいた。
「あ、あの……これは……」
ニッコリ笑顔、スマイル・オブ・ザ・ステンノが答える。
「再現ドラマは無事終了よ。お疲れ様、メドゥーサ」
「まさか私のために……」
優しい眼差し、アイ・オブ・ザ・エウリュアレが答える。
「駄メドゥーサとはいえ、貴女がいないと困ってしまうわ」
「し、下姉様……」
二人の姉は親愛を寄せるようにして、メドゥーサの顔へと近づいていく。
最愛の姉の笑顔が、眼差しが、自分へと近づいてくる――――それだけでもうメドゥーサは幸せいっぱい胸いっぱいで、感情が溢れ出しそうになった。
そしてとうとう、互いの距離がゼロになり――――――。
カプッ。
カプリ。
「え゛」
上姉様と下姉様の濡れたように輝く唇が、溢れ出したばかりの鮮血によって紅く濡れた。
具体的に言うとメドゥーサの首筋に左右から噛みついたのだ。
「ふふふっ…………やっぱりメドゥーサの血は相性がいいわね。ちゅうちゅう」
「首を落とされてしまったら、鮮度が下がってしまうわ。ちゅうちゅう」
「かっ……身体目当て――――!?」
説明しよう、Fateのゴルゴン姉妹はみんな揃って吸血種。
メドゥーサは美少女の血が好きで、ステンノとエウリュアレはメドゥーサの血が大好きなのだ。
可憐な花びらのような唇を、淫らな赤に染めて生命をすする姉二人。
甘美なる刺激に陶酔して頬を紅潮させる妹一人。
「ひぃぃ~~~~! 結局こんな扱いなんですねー!?」
と嘆きつつも、内心満更でもないのがメドゥーサという生き物のサガであった。
こうして仲良し☆ゴルゴン姉妹の夜は更けていきましたとさ。
「…………これ、邪魔しない方がいいよね」
裏方さんに洞窟の外まで引きずり出されたペルセウスは、メドゥーサ退治を終えたので飛んで帰りました。帰り道で鎖に縛られたアンドロメダ姫を見つけて助けて結婚したり、母の元に帰って母に言い寄ってた王様を石にしたり、故郷に帰って実の父親を事故死させたりした後、ギリシャ英雄には珍しく幸福な一生を送ったのです。
ただし聖杯戦争に呼ばれてハードモードやらされる。迂闊に英雄になると大変、みんなも気をつけようね。
CAST
メドゥーサ役――メドゥーサ(ライダー)
ステンノ役――ステンノ様(アサシン)
エウリュアレ役――エウリュアレ様(アーチャー)
ペルセウス役――ペルセウス(プロト)
裏方スタッフ――アステリオス(かわいい)
私はステンノ様とエウリュアレ様を書きたかっただけなのかもしれない。
実際、神話の通りにメドゥーサ暗殺されたらステンノ様とエウリュアレ様はどのような反応をなさるのだろう? 茫然自失とするのか、泣き喚いてしまうのか、遺体にそっと寄り添うのか。
色々考えた結果ペルセウスは犠牲になったのだ……美しい姉妹愛の犠牲にな……。