襲い掛かろうと腕を振り下ろしてきた巨人に向かって、彼女は普段の彼女であれば出すことのない速さ、そう、目にも留まらぬ速さでうなじを切り落とす。
「調子に乗ると痛い目に遭うぞ。まぁ、調子に乗ってなくても、どの道そうなるがな。」
そんな言葉を意味も無く巨人に吐き掛ける。と、その直後、一瞬ガクッと体が落ちた。
「・・・ガス欠、か。」
呟いた瞬間、ガスを吹かすのを止め、重力に従って落ちる。視界に入ったのはすぐそこまで迫っている一体の巨人。彼女は、それを見て小さく鼻を鳴らし、また呟く。
「あ~ぁ、外に出るのは久しぶりだったのに。体が持たないなんて、つまらない。まぁ、死なれちゃこっちも、本人も・・・人類も、困るからね。時間稼ぎくらいやっておかないとな。」
彼女が取り出したのは信煙弾。またっく残っていないガスを使って怪我する事無く地面に降り立ち一番近くにある樹の下に歩んでいく。振り返り、迫ってきていた巨人の眼に向かって、信煙弾を打ち込む。素早くもう一つの眼にも打ち込む。相手は7m級ほど。タイムリミットは1分前後。馬の走る蹄の音が聞こえる。
力なく樹の根元に座り込む。ただ、眼から放つ獣のような殺気は一瞬も緩めることもなく、巨人がもがいている様子を見ていた。そんな巨人が後ろからうなじを切り取られ、地面に倒れこむのを暫く見ていた後、静かに眼を閉じた。
~森にて~
俺はライの言う通り、森に向かった。もう何が最善策なのかわからない。そうだ、まず信煙弾だ。・・・あぁ、解らないんだよ。全部、全部が。なんで俺はあいつが死ぬかもしれないのに、こんな場所に居るのに冷静なんだよ。
「・・・ずっと変わってねぇな。」
さっきまで晴れていたが、気がつけば冷たい雨が降り始めていた。
待つこと数十分ほど。丁度いいことに、ガイルやオルオの班と信煙弾を見て駆け付けた本陣のリヴァイ兵長という名前だったか、とにかく、殆ど同時に来た。
皆、ライが居ない事に気が付くと俺に何があったのか次々聞いてきた。いや、違う。一人だけ違かった。リラン・・・あいつは誰よりもライの事を心配しているはずなのに、何も聞いてこなかった。ただ、泣きそうなのを必死に堪えているのか、小刻みに揺れていた。それから、大きく息を吸ったかと思うと、呟くように言った。
「皆さん、静かにしてください。」
突然、何も聞こえない静寂の空間になる。
「ライが・・・ライが生きている可能性は、どんなに小さくてもあるの?」
正直俺は返答に困った。〝生きている〟そう思っているはずなのに・・・なのに、どこかで〝もう死んでしまっている〟ようなきがしたからだ。
ただ、自分の不甲斐無さを呪いながらうなづくしか無かった。