能天使の右腕   作:答えてくれドルフRO

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メンタルダメージ #とは





1-3:介入行動

 

 

 

 

 

 一方、第3部隊は。

 

「スコーピオンたちとの連絡が途絶えた…………?」

 

「うん。識別信号もないし、通信も通じないんだよ。バラライカたちが簡単に死ぬとも思えないけど……」

 

「困りましたわね……G43、スコープで確認できませんか?」

 

「えっ? うーん…………駄目だね。見える範囲には確認できないよ」

 

「これは指揮官にお伺いするしかありませんわね……指揮官、こちらStG44。応答願います」

 

 …………ピー。

 

『こちらHQ。第1と第2部隊の信号がロストしている、何があった?』

 

「ええ、正にそのことでご相談がありますの」

 

『相談?』

 

「先ほどまでは無線通信ができていたのですが、敵に囲まれた、という連絡を最後に通信が途絶えまして」

 

『…………』

 

「何が起きたか確かめに行きたいのです。スコーピオンたちの生死がわからない限りは……」

 

『…………駄目だ、許可できない』

 

「指揮官!」

 

『こちらもスコーピオンたちとの連絡が取れない。つまり、現状を誰も正確に把握できていないわけだ。そんな場所にお前たちを行かせるわけにはいかない』

 

「わかっています、わかっていますが……」

 

『……時にStG44。出合って最初に私が言った言葉を覚えているか?』

 

「【決して犬死にするな】……ですか?」

 

「その通り。人形は替えが利く存在(どうぐ)ではあるが、タダ(ガラクタ)でもない。お前の能力は使うべきときに使うものだ』

 

「だからスコーピオンたちを見捨てろと」

 

『そうだ』

 

「…………」

 

「StG44、あれを見て! スコーピオンたち(敵司令部)の方!」

 

「当然なんですの、MP40!」

 

「いいから!」

 

「何が…………な、何ですの!?」

 

「オーロラ、じゃないよね」

 

「こんな季節に見れるなんてデータはありませんわよ!」

 

「聞かれたってわかるわけないじゃん……」

 

『StG44、何が起きている!』

 

「し、指揮官……映像を中継します!」

 

『中継了解────何だこれは…………」

 

「全く未知の現象です。空に光…………鉄血がこのような兵器を開発してたなんてことは?」

 

『……本部からも聞かされていない。仮に、そうだとしたら相当まずい状況だ』

 

「ただの強襲任務がまさかこんなことになるなんて…………」

 

『考えるのは後だ。すぐに回収チームを向かわせる。それまであの()を監視しておけ』

 

「了解しました」

 

『…………それと、ドローンを現地に飛ばせ。何か見つかるかもしれない』

 

「…………! はい!」

 

 通信終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────鉄血司令部付近

 

 

 

「────スコーピオン、伏せて!」

 

「えっ?」

 

 激しい衝撃に襲われ、地面を転がる。

 

「うわぁ!? な、何!?」

 

「上の人形が、ビームを撃ったんですよ!」

 

「ビーム!? 最新兵器じゃん!」

 

「そう言ってます! あの人形、相当危険ですよ」

 

「えぇ……というか鉄血の十字砲火を受けて無事なんだ……」

 

 

 

 

 

「ゲホッ、ゲホッ……何が」

 

 自らに降り注いだ瓦礫をどけながら、スケアクロウは立ち上がった。

 診断プログラムを走らせ、自分の機能が無事なことを確認した彼女は状況の把握に努める。

 

(部隊の反応が……消えていく……?)

 

 すると、妙なことに、配下の信号が急速に消えていくのだ。

 

(グリフィンの仲間……いえ、ありえませんわ。完全に遮断しましたし……他は……)

 

 それは切り捨てた可能性。()()()()()()()()()()、確実に仕留めたと判断した相手。

 

(まさか…………)

 

 空を見上げる。

 

(まさか!)

 

 予想通り────いや、あって欲しくなかったというべきか。

 

 黒煙が晴れ。

 

 現れたのは。

 

 無傷で()に佇む、謎の人形だった。 

 

 

 

 

 

(綺麗────)

 

 その姿に一瞬、ここが戦場ということも忘れ、Vz.61は魅了され(引き寄せられ)た。

 

 白と青を基調とするカラーリングの服を身に纏った人形。

 

 それがVz.61の(カメラ)に飛び込んできた姿だった。

 

 無意識に分析し(焼付け)ようとする。

 

(あたしたち同様、人間に寄せた外見…………I.O.Pの新型?)

 

 見てわかる相違点は大きく3つ。

 光を纏っていること。

 胸部に翡翠色の水晶が埋め込まれていること。

 そして、奇妙な武器を右腕に()()していることだ。

 

(あの武器はよくわからない……銃? でも剣も盾もついてる……欲張りセットみたい)

 

 それは銃身の短い銃、腕よりも長い刀身の剣、腕部と連結した盾。そのすべてを融合させた複合武装。

 

(そしてビームが撃てる最新技術…………)

 

 

 

「……オン…………スコーピオン! 聞いてるんですか!」

 

 上を見上げる姿勢で固まった彼女を現実に引き戻したのは、相棒の声。

 

「……っ。あ、うん! 聞いてるよ!」

 

「まったく……呆けてる場合じゃないですよ! スケアクロウはあの人形に演算のほとんどを割いているみたいです。ダミーも動いてませんし、今のうちにここを離れますよ!」

 

「わ、わかったよ!」

 

 最後にVz.61が見上げたとき、人形の左腕に腕章のようなものが巻かれていた。

 

(部隊章かな? あれはまるで────)

 

 

 

 

 

(あんなゴミ共は放っておいてもいいのです。それよりも対応するべきは……)

 

 スケアクロウは頭上の人形の脅威度が、Vz.61たちよりも上だと判断した。

 

「まさかグリフィンに推進力もなく空を飛ぶ人形が……いえ、グリフィンが最新技術に使える予算はないはずですし、よしんば使えたとしてもそれは富裕層の防備にあてるでしょう…………なるほど、つまりあなたは私たちでもグリフィンでもない、第3の勢力」

 

 上空の人形は答えない。

 

「思い当たることがありますの。エージェントが言っていた人形の特徴に」

 

(部隊との連絡がつかない……まさかあの一瞬でやられるとは。エージェントが警戒するわけですわ)

 

 スケアクロウは現状の分析を行いつつ、今出来る最善の手を捜した。

 

「【頭上に輪を持つ翼広げた鳥】のエンブレム。天上人気取りの人形…………ここひと月で随分わたくしたちの工場を破壊してくれたそうですわね」

 

(恐らくわたくしではこの人形に勝てない……ならば出来るだけ戦闘データを集めるのが今の役目)

 

「その()()()()を致しますわ…………お覚悟を」

 

(部隊は駄目でもダミーの反応はある……ならば)

 

 スケアクロウとダミーたちは、ビットの銃口を人形に向けた。

 

「…………」

 

 それに対する人形の行動は。

 

(何……? 両手を広げて…………)

 

 胸の水晶が光る。

 刹那。爆発的に、人形の背後から光輝く物質が放出され始めた。

 緑色のそれらは人形からある程度離れると消えていく。その様子はまるで。

 

(光の……翼…………?)

 

 直接攻撃すればいいのにも関わらず、なぜそんな行動を取ったのか。

 

(威圧行為のつもりですの? そんな子供騙しに…………!)

 

 スケアクロウはダミーとビットに攻撃を命じた。

 しかし。

 

「なぜ動かない……? 反応しなさい、ビット!」

 

 崩れ落ちるダミーとビットたち。

 

(まさか…………ジャミング? いや、これは────)

 

「あぐっ…………!」

 

 一拍遅れて、スケアクロウも膝をついた。

 

(これは……電脳を焼ききろうと……EMPの類、ですわね…………)

 

 スケアクロウは様々なシステムに異常が発生していることに気づいた。IFFも、離れた味方との連絡も機能しない。完全な孤立。

 

(なるほど、あの光はそういう機能が……なんという演算能力…………)

 

 彼女は遠距離特化の戦術人形である。攻撃手段はビットのみであり、それが封じられたということは丸腰も同然だった。

 

(このまま電脳を焼ききるのか……それとも…………)

 

 すると人形は光を放出したまま、静かに地面へ降り立つ。スケアクロウに近づきながら、右腕の武器を(ガン)モードから(ソード)モードに移行させた。

 

(ビームも撃たない……? なるほど、光の放出には相当な演算と……電力を使うようですわね……)

 

 激痛に苛まれる頭を抑えながらも、思考をやめない。それはただ、後に遭遇するであろう仲間たちのため。

 

「…………まだ抵抗するのか」

 

 不意に、人形が声を発した。

 

(話しかけてきた……? わたくしを警戒しているのか、それともただの甘いAIなのか……あるいは)

 

「人間の奴隷に……成り下がった人形の言葉は……聞かないようにしていますの……」

 

(もし、この人形が……焼ききるのではなく……わたくしを斬るのであれば……)

 

「…………そうか」

 

 短く答え、スケアクロウの前に立つ。そのまま剣を振りかぶり────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………わたくしたちの、勝ちですわ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

「任務、完了」

 

 人形に飛び掛かったところで、鉄血工造製品番号SP65『Scarecrow(カカシ)』の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。グリフィンの2体は、戦闘の影響で瓦礫だらけになった道路を歩いていた。

 

「うう、頭が痛いよ」

 

「空に光が現れてから、演算領域に負荷が掛かってますね……」

 

「今は見えないけど、あの人形がやったのかなぁ?」

 

「鉄血なら始めに使ってるよね、たぶんそうでしょ……」

 

「滅茶苦茶なことしてくれたよほんと……電子戦モジュールさえあればなんとか出来たかもしれないのに」

 

「無い物強請りは仕様が無いですよ。それに、私たちじゃメモリが足りませんって」

 

「うー。マップにもノイズが走ってるし……あとどれくらい?」

 

「合流地点Cまでなら残り300mといったところ……」

 

「もうちょっとかぁ」

 

「それにしても……」

 

 PPSh-41は道端に倒れて動かない鉄血人形を見た。損壊状態の激しいものから、形自体は保っているものまで様々。

 

「私たちは運がよかったのかもしれませんね……」

 

「鉄血兵は単純な電脳構造だし、すぐ焼かれちゃったのかな……?」

 

 PPSh-41は頷いた。

 

「それとスコーピオンがケーブルを持っていて助かりました。まさか負荷を均一化できるなんて……」

 

「あはは、StG44から1本貰ってたんだ。司令部で使うかなって思ったからさ」

 

「まったく、準備がいいのか違うのか……」

 

「だって、ペーペーシャって重そうだもん。担いで歩きたくないし」

 

「なっ……誰が重いですか、誰が!」

 

「えぇ~? あたしは()()()としか言ってないよ? そっか~、ペーペーシャって()()()()んだ~」

 

「この…………!」

 

 PPSh-41の顔は赤く染まった。

 

「ああ! 痛いって、叩かないでよ!」

 

「ふんっ、知りません!」

 

「暴力反対だぁ────」

 

 

 ガサッ。

 

 

 Vz.61の聴覚モジュールが足音を捉えた。

 

「……聞こえた?」

 

「ええ……」

 

「せーのでいくよ」

 

「はい」

 

「「せーのっ」」

 

 振り向くと。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 大きな刃を右手に携え、死神が近づいて来ていた。服は少し煤けているも、ほとんど外傷はないようだった。

 

 

 

 

 

「あちゃぁ……スケアクロウは駄目だったみたいだね」

 

「どういう喋り方なの、それ」

 

 人形との距離は100m弱。すぐに対応を決めなければならない。

 

「まぁまぁ。さて、どうしようかなぁ」

 

「逃げても」

 

「追いつかれるだろうね~」

 

 奴は戦闘をした上で追いついたのだ。性能が低下した2体では、走っても振り切れる自信がなかった。

 

「それじゃあ……」

 

「あたしがやる。ペーペーシャは先にみんなと撤退して」

 

「でも……」

 

「大丈夫だよ♪ あたしが負けるわけないじゃん、すぐ追いつくから!」

 

「…………わかりました。骨は拾ってあげます」

 

「今、負けないって言ったよね!?」

 

「だって……」

 

「もう、いいから早く行く!」

 

「うん…………」

 

(さぁて……やれるだけやるかな!)

 

 仲間を見送り、Vz.61は人形の前に立ちふさがった。

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 ある程度近づいたところで、両者は向かい合う。

 

 先に口を開いたのは人形。

 

「お前たちは、何者だ?」

 

「何者……って、誰かわからないのに襲い掛かってきたの?」

 

「…………」

 

「呆れた……あたしたちを知らないってことは、やっぱり鉄血じゃないんだね」

 

 Vz.61は息を吐いた。

 

「あたしたちはグリフィンの人形部隊だよ」

 

「グリフィン……? 鉄血じゃないのか」

 

「鉄血はあたしたちの敵だよ!」

 

「だがお前たちもまた、理解していない…………駆逐する」

 

 走りだした人形。

 

「なんでそういうことになるのかな!?」

 

(ほんとに融通利かないじゃん~!)

 

 悪態を付きながら、両手に携えたVz.61(半身)のトリガーを引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…………!」

 

 Vz.61は歯噛みする。

 

(全然効いてない! あの剣盾、どんな装甲してるのさ!?)

 

 Vz.61は元々個人防御武器(PDW)ともあって、弾装の装弾数が20発と多くない。それは二丁持ち(トゥーハンド)になっても変わらず、短期決戦が最も望ましい形である。しかし、鉄血の過剰砲火を耐えうる装甲に、.32ACP(拳銃弾)は威力不足のようだった。

 結果。

 

(弾切れ!? 予備のマガジンはもうない…………なら!)

 

 次は腰の焼夷手榴弾を手に取り、投げつけた。

 

(いくら優れた装甲だからって、戦術人形は電子機器の集まった精密機械……燃やされて無傷はありえないよね!)

 

 放物線を描いたソレは人形の下へ無事にたどり着き、発火する。

 

「…………!」

 

(今気づいたって遅いよ!)

 

 しかし。

 

(…………だから何で傷ひとつないのさ!)

 

 炎を振り払いながら、人形はVz.61の方へ突き進んでくる。若干ホラーな光景だ。

 

(ないとは思うけど、下手に回避してペーペーシャを追われるのは最悪…………)

 

 弾は撃ちつくし、手榴弾も使った。残るは自分の体のみ。

 

(やるしかないよね、あたしが!)

 

 彼女は徒手格闘の構えを取った。

 

「…………」

 

「…………」

 

 片や待ち構え、片や接近しつつにらみ合う両者。彼我の差は縮まり、やがて互いの間合いに入る。

 

「…………ッ!」

 

 先に仕掛けるは、剣のリーチを生かした人形。出力に任せた爆発的な踏み込みから剣の一閃。

 

(やっぱり速い……! でも、大型の武器なら……剣筋も読める!)

 

「!?」

 

 最小限の動きで避けたVz.61に、人形の表情が初めて動いた。

 

(前髪数本……ギリギリだったけど!)

 

「せいやあっ!」

 

「…………ッ!」

 

 懐にもぐりこんでの拳打。狙いは胴、それも水晶だ。

 

(あからさまなコアの居場所……狙わない手はないんだよね!)

 

 戦術人形は銃をメイン武器としているが、ほとんどの人形はサブアームも所持している。それは拳銃だったり、ナイフだったり、斧だったりと、人形によって個人差が出る。

 そしてVz.61の場合は、体術(CQC)がサブアームの代わりだった。

 

 剣を振り終えた後の硬直を狙った一撃。明らかな直撃コースだ。

 

(なんで!?)

 

 しかし、Vz.61は目の前で起きた光景が現実とは思えなかった。一方で電脳はそれが事実だと伝えてくる。

 

(変態すぎる動きだよそれ…………!)

 

 その人形はあろうことか、地面すれすれで()()して攻撃を回避したのだ。さらに流れるような動作で反撃を繰り出す。

 

(こんの……っ!)

 

 突き出した拳を即座に引き戻すことは困難を極める。人形のスペックなら不可能ではないものの、今回は演算を圧迫する()()に足を引っ張られた。

 

 地面に何かが落ちる。

 

 それはVz.61の片腕であり、断面から流れる人工血液であった。

 

 とはいえやられたままでは終われない。Vz.61は無理な演算で生じた、電脳を焼かれる痛みを無理矢理耐え、回し蹴りを叩きつけた。

 

「!?」

 

 これには驚いたのか、人形の動きが一瞬硬直。剣盾に防がれたものの、一撃を与えた。

 戦術人形の電子筋肉は製造目的上、人間よりもパワーが高く設計されている。そんなものを正面から受ければ、傷はなくとも相応の運動エネルギーが生じる。

 人形が後ろに飛ばされる形で、両者の距離は離れた。

 

「あ~、今のも駄目かぁ…………結構篭めたんだけど!」

 

(しっかし、恐ろしい剣だよ。外骨格ごと斬られちゃった)

 

「…………」

 

「ねぇ、なんも話してくれないの? 君が何者なのか興味あるんだけどな~」

 

(まっ、ペーペーシャが逃げ切るまでは時間を稼がなきゃね…………)

 

「…………」

 

「あ、あたしはスコーピオンって言うんだ~。サソリって名前だけど、毒はないよ~?」

 

(そういえば、何でビームを撃たずに近づいてきたんだろ……?)

 

「…………」

 

「うーん。あたしから話したほうがいい? それじゃあ────」

 

(というか……割と聞いてくれてる?)

 

 両者とも警戒態勢を解かないまま、奇妙な空気が流れた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 PPSh-41は息を切らしながら、合流ポイントへ走っていた。

 

「急が、ないと……速く……!」

 

 倒れそうになる体を無理矢理立ち上がらせ、ひたすら前へ、前へ。

 

「もう、少し……!」

 

 最後の角を曲がり、たどり着いた彼女は────

 

 

 

「嘘…………でしょ…………」

 

 そこは、瓦礫の山だった。

 かつて建物だったそれに、赤い液体や機械の残骸が押しつぶされている。

 PPSh-41はふらふらとそれらに近づいた。

 

「同志…………」

 

 僅かに面影を残す部位(パーツ)を見つけ、拾い上げる。

 

「どうして」

 

 出撃前には笑いあっていた仲間が、物言わぬ機械になる。これもまた、戦術人形の日常。

 不意に、スケアクロウの言葉がPPSh-41の電脳でリフレインした。

 

 

『先ほどから小賢しく無線を飛ばしていたようですが、あなた方が最後なのですわ。それでは、さようなら────』

 

『あなた方が最後なのですわ』

 

『あなた方が最後────』

 

『あなた方がサイゴ────』

 

『サイゴ』

 

『サイゴ』

 

『サイゴ』

 

 

「…………っ」

 

 頭を振り、煩い声も振り払う。

 こみ上げるモノを抑え、目元を拭った。

 幸い、彼女たちのメンタルモデルは無事なようだった。それらを回収し、震える足を叩いて立ち上がる。

 

「…………」

 

 疑う余地はない、味方は全滅しているのだ。 

 そこで、彼女に選択肢は2つあった。

 すなわち、現時点で任務の継続は不可と判断し逃げるか。あるいは、まだ敵と戦う唯一の仲間を助けに行くか。

 無論、逃走したほうが生存率は高い。同時に散った同胞のメンタルモデルも持ち帰れる。合理的だ。

 ならば彼女の下す決断は────

 

 

 

 

 

「指揮官、ごめんなさい。でも、いかなきゃ……スコーピオン…………!」

 

 それでも仲間を失うわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近は音楽を聴くのが楽しくてさ~。50年くらい前の作品群が最近見つかったんだけど、これがいい曲ばかりなんだよね~。あ、気になるなら今データ送ろっか?」

 

(そろそろ逃げてくれたかな……さ~て。あたしはどうしよ)

 

「…………」

 

 変わらず、両者に流れる奇妙な空気。

 それも、唐突に終わりを告げる。

 

 

「スコーピオン!」

 

 

 背後から聞こえた、聞こえるはずのない声にVz.61は一瞬、気を取られた。

 

(ペーペーシャ!? なんで戻って来たの!?)

 

「…………!」

 

 それを見計らっていたかのように、人形は走り出す。

 

(しまっ……まさか待ってたっていうの!? これを……!)

 

「こんのっ」

 

 慌てて立ち塞がった。

 剣と拳。

 両者が交差せんとした刹那。

 

(っ!? 蹴った右足が制御を受け付けない……そうか、電気信号が届いてないんだ! あの剣盾にも細工がっ!)

 

 彼女は体制を崩し、肩膝をついてしまった。

 

「…………」

 

 明確な隙。どうやら、見逃してくれないらしい。

 

(やられるっ────)

 

  

 

 

 

「スコーピオンそのまま!」

 

 

 

 

 

 連続した破裂音。

 

 

 

 

 

「…………!」

 

 銃口から放たれた鉄槍は標的に直撃するも、その体を貫くこと能わず。

 

「今のを防ぐんですか…………」

 

「馬鹿! どうして戻ってきたのさ!」

 

 それでも戦術人形が無事な足で飛び跳ね、相棒の側に転がり込む時間は稼げた。

 

「うるさい! ちょっと黙ってて!」

 

「なんであたし怒鳴られるの!?」

 

 PPSh-41は敵を見据える。本体はともかく、銃弾を防いだ剣盾すら無傷。

 

「…………」

 

 人形もこちらに体を向け、攻撃姿勢に入ろうとしていた。

 

「わたしだって……」

 

 その気迫に負けぬよう、1歩前進する。仲間の前へ。

 

「そんな、無茶だよ! どうして逃げてくれなかったの……!」

 

「みんなやられちゃってましたよ……!」

 

「だったら、ペーペーシャが帰らなきゃいけないじゃん!」

 

「嫌です!」

 

「なっ…………」

 

「さぁ、私はここです! 来るなら来なさい!」

 

「ッ」

 

 その言葉に呼応するがごとく、奴は弾けた。砕ける地面。遅れて響く音。

 

「これでも喰らえ!」

 

 接近する敵に投げたのは手榴弾。それを着弾寸前で銃撃し、起爆させた。爆発と破片が降り注く。煙で姿が消えると、銃撃を始めた。

 

 

 

(そんなのアイツには効かない! だから逃げて欲しかったのに……!)

 

 Vz.61は動かない体を殴りつけた。

 

(くそっ、なんで動かないの……! このままじゃ…………)

 

 PPSh-41の体が貫かれ、擬似血液を撒き散らしながら破壊されていく────

 

(そんなの、そんなの嫌だ…………!)

 

 演算が導き出した未来の光景に、Vz.61の感情モジュールが慟哭する。

 

 

 

「っ、やらせはしません……」

 

 煙から飛び出す影は、やはり無傷。

 

「私が……」

 

 撃ち続ける。たとえ弾かれようと、撃ち続ける。

 

「絶対に……」

 

 ソイツは刺突の構えに入った。

 

「仲間を……」

 

 刃が迫る。そして。

 

「守るんだから…………ッ!」

 

 ボルトストップ────弾切れだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 xxxxx

 

 

 

「次はそこに出たか」

 

 

 

 xxxxx

 

 

 

 

 

 

 

 






フォーリン★エンジェルすこ



この章はあと2.3話。
オリ主君の会話がほぼ句読点とかいう……

おかしな言葉(主にミリタリー系)がありましたらご報告ください
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