能天使の右腕 作:答えてくれドルフRO
本日は二話連投です。
ホワイトデー、皆さんはどの人形と過ごしていますか?
────グリフィン本部 会議室
G&Kの本部で、極秘に緊急会議が行われていた。
円卓に備え付けられたディスプレイが、ある人形の映像を流している。
イスに座る指揮官たちはそれを食い入るように見つめていた。
その中でも一際大きなイスに座るのは、社長のクルーガー。側に控えるのは上級代理人のヘリアンだ。
映像が一巡すると、クルーガーが司会の音頭を取った。
「手元に資料は行き渡ったな? 以上が、先日報告のあった人形だ」
「これは…………」
「推進力もなしに飛べるのか」
「規格外です。一体どこの会社がこんなものを」
「正規軍の軍用人形並みか、それ以上だぞこれは」
「ああ。おまけにツェナーの通信妨害だと? 鉄血の新兵器と言われたほうがまだ納得できるわ」
「だが鉄血にも攻撃しているぞ」
「だからわからんのだろうが」
それぞれの役員が憶測を言い、また反論し合っている。
「事態は非常に深刻だ。条約と鉄血のこともあって、この人形の調査に回せる戦力は多くない」
それもクルーガーの発言で収まりを見せた。
「軍には?」
「報告済みだ。既に会議が開かれ、対応についての議論も行われている」
「ふむ……もし軍が行動を起こすとき、我らはどうする?」
「無論、要請があれば協力する他ないだろう。この人形がG&Kの委託地区にいる限りは、な。そして、私はこの人形が昨今の襲撃事件を起こした犯人と見ている。既に我々へ武器を提供している工場がいくつか破壊され、無関係ともいえない」
「噂の【死神】か? ついにグリフィンにもやってきたわけだ……」
「何が【死神】だ、馬鹿らしい。たかだか人形に大層な名前をつけて怯えるなど人間のすることか」
「なんだと、ラグナ。お前の目は節穴か。今の映像を見て、お前の人形部隊で相手が出来るとでも?」
ラグナと呼ばれたのは壮年の髭を蓄えた男。
「ふん、たかがロートル人形が遅れを取っただけだろう。エリート人形を揃えた私に勝てぬ道理などない」
「貴様……」
「やめろ、2人とも。今はクルーガーさんが話している」
「ヘリアン……」
クルーガーは頷いた。
「その通り、今は我々がどう動くかだ」
「おお、そうですそうです。件の人形なら、備蓄倉庫や司令部を強襲してくる可能性もあります。最近は人類人権団体の活動も活発で、先日も我が司令部の備蓄倉庫が爆破されました。社長、いかが致します?」
早口でまくし立てるのは、神経質そうなメガネをかけた男。
「奴は人形の視界から消えることが確認されている、機械の監視はあまり役に立たないだろう。そうなると、人間が夜警に立つしかない」
「やはり最後は人ですか。また経費が増えますな……スポンサーは納得するでしょうか」
「してもらうしかあるまい。人形は優秀だがあくまでサポートなのだ」
「うむむ……被害が出る前に見つけるというのは」
「現実的ではないな。既に目撃地点周辺の調査を行ったが、見つかっていない」
「衛星や人形の調査は意味が無いと……ならば」
「消極的静観。情報が揃うまではこれしかあるまい。無論、こちらでも対応策は練っていく」
「……嵐はすぐに去って貰いたいところです」
「そのために軍がいるのだ。こんな時代とはいえ、向こうにも被害がでるのなら話は違う」
「去るのを待つのではなく吹き飛ばすと」
「もし目撃した場合は情報提供を頼むぞ」
「できれば出会いたくないですな……」
今度は資料を捲っていた男が口を開く。
「それで、そもそもこの人形は何者なのかね」
「ああ、今日の本題はそこだ。ヘリアン」
「はい」
ヘリアンは別の資料を配った。
「これは?」
「あの人形の予想スペックだ。ペルシカにこの映像を見せたところ、思い当たる節があるようだった」
「16Labの娘か。確かにアレなら何か手がかりを見つけてもおかしくはないな」
「そうだ。そこで部隊を向かわせ鉄血の残骸を回収、解析させた」
「それで彼女はなんと?」
「ああ────」
────回想 16Labの研究室
ディスプレイには撮影された映像と、解析結果が並べられていた。
それをペルシカが見て呟く。
「消えたかと思ってた……」
「ペルシカ、おい、聞いているのか」
「えっ? あ、うん。ごめんねクルーガー……ちょっと昔のことを」
「昔?」
「うん。私が90wishにいたころの話」
「それがあの人形と関係あるのか」
「ある……と思う。1回だけ、見せてもらったことがあるの」
「それはなんだ」
「太陽炉────
「太陽炉?」
「そう。重粒子を質量崩壊させることでエネルギーに変換する動力炉……しかも変換効率が100%だから、理論上は半永久的に稼働する…………」
「……それを作った者がいると?」
「うん。私も理論は聞かされたけど、ほとんど理解できなかった。私が作るなら、あと10年掛かるかな……コアは太陽炉の技術を少し使っているの」
「お前がそこまで言うか。その彼、リコリスとは別人か?」
「別人よ。私たちが90wishに入るより前から居たみたいだけど……」
「名前は?」
「────Dr.レイと呼んでいたわ。元々は崩壊液の研究をしていたらしいけど、それも本当なのかは」
「わからないか」
「ええ……ごめんなさい」
「構わん。お前に技術を話したというなら、手がかりを残している可能性も高い。それで、その太陽炉がどう関係する?」
「うん……太陽炉を搭載した戦術人形。それがあの人形かな……」
「つまり、ほぼ無限に動ける人形というわけか」
「理論上、だけどね……」
「ならペルシカ、そのDr.レイと連絡は取れないのか」
「彼は……その」
少し間をおいて「もう居ないの」
「居ない? どういうことだ」
「私がI.O.Pに逃げる直前、手紙が来てから、音沙汰なくて。研究施設も表向きはともかく、太陽炉に関しては極秘だったみたいでわからないの」
「しかしそれだけなら居ないとは言わんだろう」
「……その研究施設も、研究員も、私がI.O.Pに逃げた直後に全部消えたわ……当然、レイも」
「消えただと? 確かに当時は大戦中だったが────」
クルーガーの脳裏をある可能性がよぎった。それは、内務省系軍人だったクルーガーだからこそ初見で思い至ったこと。
「多分、クルーガーの考えてる通り。こんな技術、流出したら大変だもの……私も、今まで言えなかった。いえ、言わないように
「Dr.レイにか?」
「うん……」
「……手紙の内容は?」
「別れの挨拶と、まだ解読できない暗号の羅列よ……【
クルーガーはこめかみを押さえた。
「ひとまず、その件については置いておく。本題に戻るぞ」
「あ、うん……」
「この人形の予想されるスペックをお前の私見でいい、まとめておけ。話の通りなら10年以上前に作られたことになるが、性能は明らかに最先端だ」
「わ、わかった……」
「それと、この人形の呼称だ。何時までも名無しでは呼び辛い。何か聞いていないか」
「ああ、それなら────」
回想終了。
「ペルシカの発案で以後、当該人形は【
「また大それた名前を……嘘ではないのが憎たらしい」
「この資料にあるデータが本当なら、確かに革新的ですね……現在のエネルギー問題も解決できてしまう」
「軍が動くとは、なるほどこういうカラクリか。しかし、それならこちらで身柄を確保し、軍や政府に売ればより良い
「馬鹿、このスペックの人形をどうやって捕獲するっていうんだ、人形の天敵みたいな奴を」
「なに。たかが人形ひとつ、数で押し切ればよかろう」
「そのためにいくつ人形が壊れると思ってる。リスクとリターンが釣り合っていないぞ」
「その通り。現段階での手出しは無用。ただ、被害にあった場合の反撃は禁止しない。近隣の司令部と協力して対抗しろ」
「へいへい、社長様の言うとおりに」
「貴様……」
「よせ、ヘリアン。それで、今後対策するにあたって情報収集ができる指揮官は?」
クルーガーの言葉に快い返事をするものは居なかった。厄介事になるのが目に見えているからだ。とはいえ、今手をこまねいて他社に掠め取られるのも気に食わない。そんな気持ちもあって、それぞれがそれぞれの顔を窺っていた。
「生憎、俺は無理だな。鉄血との衝突範囲が増えてきてる」
「すみません、私も倉庫の件で……」
「なら、最初に遭遇したあの女に任せればよかろう。前線もひとつで暇をしているだろうからな」
「おお、それは妙案だ」
そうなるとこの
「他に代案もなし、か……」
クルーガーは息を吐く。
「本件はひとまずここまでだ。次は鉄血の新兵器についてだが────」
会議はもう少し続きそうだった。
────夜、Vz.61たちの宿舎にて
「ペーペーシャ、おやすみ~」
「おやすみなさい、スコーピオン」
人形たちは整備を終え、宿舎でスリープモードに入ろうとしていた。
宿舎は2体でひとつの部屋を利用しており、2段ベッドを採用している。ここは上がPPSh-41、下がVz.61だ。
(あぁ~、今日も色々あったなぁ~。あんな人形もいるなんて、世界は広いよね~。手足はひとまずパーツを変えれば動いたから安心したよ)
毛布の温もりに包まれつつ、Vz.61のメンタルはスリープモードに入っていく。
(さぁて、データベースにアップロードしなきゃ…………)
人形たちは擬似的な眠りに就き、夜の帳も次第に下りていった。
────ゴーン
────ゴーン
────ゴーン
(あれ……? ここ、どこだろ。家? 確か、あたしは宿舎でスリープモードに入ったはず……)
Vz.61のメンタルは目覚めた。しかし、そこは見知らぬ場所。目の前には初老の男が居た。
「ん? あぁ、早いな。おはよう」
「おはよう」
(え、この人誰? なんであたしに話しかけて…………)
「システムはどうだい? 順調に動いているといいんだけど」
「問題ない。ボディの方も馴染み始めている」
(まって、もしかして答えてるの……私? でも、こんな記録は……)
「そうか、そうか。それはよかった。ああ、朝食は出来ているよ」
「博士、また勝手に作ったのか」
「おいおい、老人の楽しみを取り上げないでくれたまえ。ほら、座って。食べようじゃないか」
「…………わかった」
(博士ってこのお爺ちゃんのこと? でも見たことないよ……)
────場面が切り替わる。
「お疲れ。シミュレートタイム更新だ、いい調子だよ」
「製作者の腕がいいからな。これくらい当然だ」
(嘘、【あたし】が戦ってたの、軍用人形だよね……? それをたった数分で……)
「ふふ、なんだか照れくさいね。そう言われると」
「博士、あなたはもっと誇っていい。俺はどんな人形にも負けない」
「僕は自分の仕事に誇りを持っているよ。それでも足りないかい?」
「ああ、謙虚すぎるくらいだ。自分が天才だと自覚していながら」
「確かに僕が作れないものはないだろうけど……僕以上の天才を知っているからね、どうも彼と比べてしまう」
「彼? 博士以上の天才がいるのか?」
「ああ、古い友さ」
(古い……友……? ううっ、頭が……痛い……)
────
────
────
────そして。
(今度は薄暗いところだ……I.O.Pの研究所? でもちょっと違うかも……)
「博士! なぜ、なぜこんなことを……」
「君はまだ世間の目に触れる時ではないのさ…………」
(あたし……閉じ込められてるの? 扉を叩いてる……)
「だからって……クソ、博士! お願いだ、俺に戦わせてくれ! 博士のために!」
「ふふふ、それは嬉しいね……けど、彼らは僕が処理する」
(なんでだろう。ここ、すごく懐かしい気がする……見たこともないのに……)
「博士…………」
(視界が滲んで……あたし……違う、この人泣いてるんだ)
「わかっているだろう。先の短い老いぼれと、優れた戦術人形。どちらが生きるべきか」
「そ、れは……」
「チームの仲間も消されてしまって、君をもう一度創る術はもうない。君は僕たちの希望なんだ」
(チーム? 希望? なんだろう、抽象的過ぎるんだよこのお爺ちゃん……)
「それに……ゴホッ、ゴホッ」
「博士!」
「聞くんだ!」
(血が…………そっか。このお爺ちゃん、肺炎と他にも……無理してるんだ……)
「いいかい、僕は確かに科学者として優れているだろう。けれど、それはあくまで人間として、だ」
「……………」
「寿命もあるし、汚染された場所に入れば間違いなく死ぬ。流れ弾に当たっても同じだ」
(…………)
「だが君は違う。本来人形は稼働限界があるけど、君は半永久的に動けるし、重度の汚染にも抵抗できる。僕がそう創ったからだ」
「だから…………」
「そうだ」
(近づいてきた…………)
「君に僕の……いや、僕らの願いを託す。人類と人形の共存を。そしてその先の────」
(目が、覗き込むように、目が合って……違う、違う違う違う! あたしを、あたしを見────)
「っ! はっ、はっ、はっ、ひゅー……ひゅー……」
Vz.61は宿舎のベッドから飛び起きた。しかし呼吸がまとまらず、胸を掻き毟るように押さえる。発汗機能もエラーを吐き、体から大量の汗が溢れる。演算も処理が追いついていない。側の時計は0430を差している。起床には少し早く、気分も最悪だった。
(何、何が起きたの……何かを見ていた……? わからない……)
ゆっくりと息を吐く。少し落ち着いてきた。
(わからないけど……大事なもの……だった気がする……)
もう1度深呼吸。演算領域がクリアになってきた。
「な、んで…………」
目を擦る。
「なんで、涙が出るんだろう…………」
その一瞬。機械であるはずの彼女の左目は、極彩色に輝いていた。
安直すぎなネーミングですが許して……許して……
レイさんって発言が劇場版だけだし、イノベイド君たち見て口調を想像するしかなかったんですよ
などと作者は言い訳をしており……
ペルシカの口調が前半の章と後半の章で違うのはなぜなのか……
もしかしたらぺらぺら喋りすぎかもしれません