アラガミ転生 猿神が征く   作:凍河の氷

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第十六話 月だけが知っている

どうも、ワタシ事ヌエです。

 

前回はとりあえず第一部隊の面々と再戦しましたが……まぁ、ワタシの安全を考えるんでしたら戦わない方が良いんですがね。でも何処かで会っておかないと物語に置き去りにされる可能性もあるので、どうしても何処かしらでぶつかっておかないとちょっと不安で。

 

(奇襲は音で気付けるけど、流石に包囲網なんてやられたらそれこそ終わりが見えるし……何処かでこっちから当たっておかないとあの成長スピードこそワタシには恐怖でしかないんですがね。……それにアリサがまだ来て間もないってのを知れたのは大きいし、おかげでここにも間に合った。)

 

あれからまたGE達の目を掻い潜りながら贖罪の街まで戻ってきました。理由は蒼穹の月を生で見てみたいのと、その通りに物語が動くかというのを見届けながらプリテヴィ・マータを喰ってみたいのが主な動機です。

 

前回の戦闘でそろそろ属性辺りが欲しくなってきたで物語の進行上、この時期多数出て喰っても問題が少なそうなのがプリティヴィ・マータなので狙っていきたいと思います。喰った後は……何も予定はありませんが。

 

そんな訳でこの近辺に居たいつものフィールドに出現する前にアラガミをたまーにかじり、たまーに来るGEの戦闘を眺めながら待つ事一週間程……

 

 

(お、来たっぽい?)

 

まず拾った音はヴァジュラの鳴き声、そう言えば実際にヴァジュラと戦うのってこの時期だったっけ?すっかり忘れてた。お次は四つ程の人間の足音に神機の駆動音……間違いが無ければ第一部隊の面々勢揃いしてしまったあのミッション『蒼穹の月』の筈だ。

 

(しっかしこれを機に色々動き出す訳だけど……どうやってあの天帝と女帝が群を作って、このタイミングで襲わせる事が出来たんだろうか?何らかの技術で誘導?天帝だけで見てみたら実際に居たとされるのはアリサの両親を喰った時からだし……大車辺りが関連してるのかなー?)

 

そんな事を考えていたら、互いに接触し戦闘を始める第一部隊とヴァジュラ。ワタシは思考を一旦止めてこちらの音を拾う事に専念する。因みにだが今ワタシが居るのは何時ぞや飛び込んだあの獣道の奥の方である。

 

聞こえてくる戦闘音とヴァジュラの悲鳴に第一部隊の指示や指摘の数々……結果としてはあっさりとヴァジュラを葬ってしまった第一部隊の面々。聞こえてきた声には……

 

「あのヌエに比べたら、楽勝だったな!」

 

「あぁ、懐に入れるだけでこんなに違うなんてな。」

 

「二人共ー、元気あるのはいいけどまだ終わってないわよー。」

 

「さっさと行くぞ。」

 

(ワタシが基準にされちゃったか。やっぱりかーって感じはするけど……反対側のビル群付近に新しい足音と一際大きい神機の駆動音が聞こえた……あぁ、他にも複数の大きいな足音があちこちで聞こえる。そろそろワタシも動く準備をしておかないと。)

 

この奇襲は本当にスピード勝負、張り付いたら即座にランスとパワー型をぶち込んでスムーズに勝つ!最高のタイミングで横槍を入れてやらないと……

 

後はワタシの知っている通りにユウ部隊とリンドウ部隊が鉢合わせし、ユウ達は教会の外で警戒、リンドウさんとアリサが教会の中へ……

 

それから数分後には破砕音と崩れる瓦礫の音、そしてワタシには目もくれずに獣道から飛び出していったプリティヴィ・マータ……さて行きますか。

 

 

 

「わりいが、俺はちょっとこいつらを相手して帰るわ。……配給ビール、とっておいてくれよ。」

 

「ダメよ!……私も残って戦うわ!」

 

「サクヤ!これは命令だ!全員、必ず生きて帰れ!!」

 

「イヤああああ!」

 

悲鳴を上げるサクヤ、それを宥めて現状を言うコウタ。教会の外では一人退路を確保しようと新種であるプリティヴィ・マータ相手に奮闘するソーマ。かつてない危機的状況に陥った第一部隊の面々を救ったのは……彼らの手を焼かせた因縁のアラガミである、ヌエであった。

 

獣道から突如飛び出したヌエは、退路を塞ごうとしていた一匹の新種に飛び掛かり頭部に右手を、背中に左手に当てたその直後に何を貫く音と破裂音が同時に響き、押さえつけていた一匹の新種を仕留めたのであった。

 

「!?コイツ……」

 

それを横目に目の前の一匹に一撃を入れてる。様々な疑問が頭の中を駆け巡る時に背後から声が響く。

 

「ソーマ!こっちはサクヤさんとアリサは回収した、後は……げ!ヌエが居る!」

 

「落ち着け!あいつはこっちには目もくれてない。……撤退するぞ!」

 

「……よく分かんないけど分かった!ソーマ、後ろを頼む!」

 

そう言ってコウタはサクヤの手を引き、ユウもその後に続く。ソーマは先に行く四人からもう一度視線をあのヌエと新種に向ける。

 

既に事切れている奴はそのままにして、既に三体を相手にしながらこちらに背を向けて立ち回っている。聞いていた報告の通り奴自身も進化しているらしい。……もしかしたらこのままヌエの奴を……

 

「ソーマ!どうした!」

 

「……今行く!」

 

心配そうな声を上げるユウのおかげでソーマの頭を一度振り、視線は再びユウの背中に向ける。背後から聞こえる戦闘音も気になる。教会の中に居るリンドウも気にしかならないが、最後になるであろう命令を遂行する為にソーマは駆けだした。

 

 

 

 

 

(ふんすッ!)

 

これで二匹目になるプリティヴィ・マータをいつもの仕込みランスで顔面をえぐりながらコアを引っこ抜いてお口にポイっと放り込む。

 

味に関しては気にしない。そんな状況でもないからだ、一応ソーマが相手してくれてた奴だったのでそこまで労する事無く数は減らせたが……後二匹の女帝を相手にどうするか……。

 

 

 

ーーーーーーーーーー!?

 

 

お互いに睨みあっていると突如教会の中から発せられる音波の様な物がこの地に響く。それを浴びたアラガミは次々と我先にとこの地から離れていく。そしてそれはかの天帝も変わらない……リザレクション版であるディアウス・ピターもこの贖罪の街から離れていった。ただ一匹の例外を除いて。

 

(……ッ!……ーあ。これが特異点の声?なのかな……頭の中に直接響くって言うか従わざる得ない威圧感やらがすっごい。ワタシがこれに耐えれたのって、ワタシがアラガミだけじゃなくて人間としての意識があるかな?うー、こう言うのは榊博士の分野だから分からないな。)

 

プルプルと頭を振ったり、頬を叩いて気を持ち直して教会の方に視線を向ける。変わってなければ右腕がないリンドウさんと後のシオちゃんが居る訳だが……ん?なんか来いって言われてる様な。

 

(どうしよう。呼ばれてるっぽいけど行ってもいいのかな?……逆らうとなんか後が怖そうだし、行ってみよう。)

 

横穴は使えないのでピターが出入りしていったステンドグラス側から入るしかない。教会に侵入して目に入るのは記憶の通り、右手首がないリンドウさんとまだフェンリルフラッグを纏っただけの後のシオちゃんである特異点ちゃん。

 

(さて、ワタシは何故呼ばれたんでしょうかね?)

 

特異点ちゃんに反応があるっぽいので『フィー…』っとそんな感じで小さく鳴いてみると、一度リンドウさんを見てからこちらに先程の咆哮の様な物に比べてだが小さくこう答えた。

 

ーーーーーー

 

(『運びたいから手伝って?』……リンドウさんが移動した形跡って確認取れてなかったから、こうなるのも考えられるか……了解。それじゃ背中に乗ってね。)

 

ワタシは伏せてリンドウさんを引っ張った特異点ちゃんが背中に乗るのを待つ。彼女が喋れる様になるのはリンドウさんの役割でもあるし、第一ワタシはこんな感じに鳴く事しか出来ない。特異点ちゃんとリンドウさんが乗ったのを確認して立ち上がりもう一度ワタシは鳴いて注意を促す。

 

(鎮魂の廃寺までは……そこそこ掛かりそうだし、ちゃんと捕まっててね。)

 

ーーーー

 

返ってきた声にワタシは頷いて教会から外に出る。外は既に見慣れてる黄昏の風景から色を落として、夜が広がり雲も少なくまだ白い月がよく見える……こっからはワタシの責任になりそうだから聴覚をフル活用して見つからない様に最速で行かねば。

 

獣道をフルで使えばGE達の追跡はなんとかなると思う、一度蒼氷の渓谷に行った時に近くを通ったので道は分かるし今回はとにかく時間の勝負だ。背中のパイプを齧り始めた特異点ちゃんとリンドウさんを背にワタシは贖罪の街の後にした。


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