あの日、リンドウさんが贖罪の街でMIAになってから数日が過ぎた。
リンドウさんが居なくなり、更に撤退直前にも新種に囲まれるという絶体絶命の状況に陥った俺達だったが……そろそろ因縁のアラガミと言っていいヌエの横槍で新種から何とか生還を果たしのだが、混乱の真っ只中のエントランスに帰還した俺達はまずは意識が混濁したアリサを医務室へと届けて、その足で支部長と榊博士とツバキさんに報告したが……あの時の驚いた二人の顔が忘れられない。
今はとりあえず、リンドウさんが居なくなった分をなんとかしないといけないのと余計な事を考えすぎて動けなくなりたくないから身体を動かして、頭を無理矢理だが動かしている。
『お疲れ様です。本日の任務はそれで終了ですよ。』
「了解。後はよろしくお願いしますね、ヒバリさん。」
通信を終えて、霧散していくアラガミをどこか遠い目で見送りながらヘリの到着を待つ。普段ならちょっと五月蠅いけど場を盛り上げてくれるコウタもまだ落ち込んだままだし、ソーマは……どこか普段より暗い気がする。
アリサはまだ様子が落ち着いてないと大車先生が言っていたし、サクヤさんも有給を取れとツバキさんに言われた今は極東の自室に居る。正直、前にソーマが言っていた「クソッタレな職場」と言うのもどうにも納得できてしまった。
辛い。
ただただ、そう思ってしまう。でもだからと言って俺達が落ち込みっぱなしじゃダメなのは分かる……分かってるんだが、先の見えない暗闇というはこう言う事なのかも知れない。
幸いな事に現状は特に任務の内容も殆ど変わらない。しいて言う名のならば、偵察班がリンドウさん捜索の副産物でアラガミを発見したり追いかけられたりしてると言った具合で少し任務の回数が増えた位だろうか。
帰りのヘリコプターが見える、後はそのまま乗り込みパイロットの方に挨拶をして俺達三人はアナグラへと帰投を始めた。
「そういえばさ……」
空の曇り空と同じく位暗くなっていたヘリの中でコウタがこちらに尋ねる様に声を掛けてきた。それに俺とソーマが続けるようにと視線を送るとコウタは言葉を続けた。
「二人は最近、ヌエを見たって報告を聞いたか?」
「いや、俺も聞いてないな。」
「俺もだ。」
「そっかー……いや、ここの所俺達や偵察班やら防衛班やらが動き回ってるこの中で全く見ない聞かないってのはちょっとおかしいと思ってさー。なんで、嘆きの平原から贖罪の街に移動してあのタイミングで現れたのかどっか気になっちまってさ。」
確かにと俺は頷く、ソーマは……多分同じだろう。ヌエは確かにあれ以来姿を確認できていない。コンゴウだった時から神出鬼没な上に身軽であちこちで確認もされては居たが、見ない時はとことん確認されない。それにアイツの報告が少ない理由として人間を基本的に襲わないのも影響している。
基本アラガミはどこに現れても人間やモノを積極的に攻撃をしてくるのでその対処として俺達ゴッドイーターがその地域へと赴き討伐をするのだが、ヌエが出した主な目立った被害と言ったら蹴とばされた俺にコウタが喰らったヴェノム弾と殴られたソーマに握られて骨折をしたアリサ位なのだ。つまり、他のアラガミと比べてこいつだけ危険度が現状低く発見の難しさに加えてその強さでこいつの捜索は実は積極的には行われていなかったのだ。
(危険度が低いのに強いって矛盾してるけどな……)
実際、アイツと戦ったのは俺達の居る第一部隊の面々が主で防衛班の人達も対峙した様なのだが、大体は手の平から出されるバラ撒き弾だけ相手された適当な所であしらわれてしまったらしい。
「確かに気になるが、でもなんでヌエを。」
「いやいや、オレ達がこうしてる間にもアイツがまた進化してたらヤベーって思ってたんだよ。他の奴等はどこか他人事みたいに考えてるっぽいけどよ。実際死にかけたオレからすればあれ以上に進化なんかされたらたまったもんじゃないぜ!」
「……確かにな。ヤツはどうも俺達の戦い方を知ってる節が見える。」
「だけどあいつを見つけるのにしても、ましてや討伐するのも現状じゃな……」
コンゴウのままだったのなら今なら討てる気がするが、今のヌエは正直に思うに無理だと思う。
あの白いヴァジュラ神族の新種を軽く捻りった事から俺より強いかも知れない。それにまだ奴に関するデータがろくに揃ってないのもかなり面倒な事でもある。
現状分かってる範囲内ではコンゴウ神族とヴァジュラ神族を合わせた動きではないとか、榊博士は言ってはいたが……遠中距離は例のキャノンで広範囲に攻撃してきて、近づいたらその腕力とパイプから出る暴風で無理やり引き離してくる。現状ではまだ見た者は居ないが第七部隊が得た情報からどうもボルグ・カムランのランスも使えるらしいとの報告にはあった。
(決定的なダメージを与えられるタイミングが今のままだと見えない……サクヤさんのスナイプもダメージはあっても直撃には基本至ってないし、かと言ってコウタや俺の銃撃じゃ当たっても意に介していないって感じだったしな。挟み撃ちにしたら今度は尻尾から出されるヴェノム弾も厄介だし……)
「なんだよなー……はぁ。わりぃこんな事聞いちまって。」
「いいさ、帰ったら榊博士にも相談してみようか。」
「確かに、あれから色々と遭ったからね。私も気にはしていたんだが……残念ながら、ユウ君の言う通り現状ではヌエに宛てられる戦力が無いのが極東としての答えだ。今の段階では発見したとしてもその地域の警戒が限界と言っていい。……正直に言うとヌエを調べたいのは私としても是非とも、っと言いたいんだがね。」
榊博士に相談もしたが、上の人にも言われてしまうともう手の打ちようがない……最後に博士からのお願いを聞いて俺達は部屋を後にした。
客人も帰り一人きりになったのを見計らい、一度キーボードから手を放すペイラー・榊。画面に映し出されるのは今現在あるヌエのデータだ。それらを再度纏め統合し今までのアラガミとの相違点を上げてみてるのだが……
「やはり、何故我々人類に対して明確に牙を剥かないのか、これがどうにも分からない。コンゴウの時はこちらとの戦闘力の差を理解してるっと思ってはいたが、今現在での能力を鑑みればそれは違う。今のヌエならば普通のゴッドイーター達ですら対処出来ずにあちらの勝つ確率が高い……」
責任者としては実に無責任な物言いだが、科学者として見た場合は現状ヌエを倒すにしても追い込むにしても現極東戦力の大半を出せばその結果を出せるっと思いたい。確認される度に新しい能力を持ってきているのでこれも絵空事だとは思うが。
既にヌエはウロヴォロス並みにと言っていい程のエネルギーを秘めていると考えている。だが、それだけのエネルギーを秘めているにも関わらず相変わらず我々人類を避ける理由にはならない。本当に無責任だが仮にヌエがアナグラ付近に現れた場合はここの壊滅すら考えられる。そしてヌエをどうにかしたと言ってもその後も問題があり、更に新手が現れる可能性もある……最悪なのはヌエを打ち取った場合それが種としてこの極東に定着したと考えると……
「……ふぅ。実に困ったものだ。願わくば、アレがヨハンが求めるモノで無ければいいのだが……」
一度額から指を放して、再びキーボードを叩き続ける。ヌエのおかげで隠れては居るが彼らが望むもう一つの可能性を再び探し始める。
神が人になるか、人が神になるか、その答えはまだ誰のモノでもない。故に彼らは探すのだ求めるに値する答えを。
ほぼ一か月掛かってしまいすみませんでした。
ちょっと色々と重なりまして、筆の進みがかなり遅くなってしまいました。
不定期になるかも知れませんが、これからもゆっくりと書いていきます。宜しければお待ちください。