虞美人、後輩の息子を育てる   作:イサシ

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お疲れさまです! 設定として、Aチームは全員生存でお願いします!


虞美人、元同僚に振り回される

「酷いじゃないか、久しぶりの再会だと言うのに」

「あんたが不法侵入するからでしょうが」

 

 あの後、やってきた警察官を暗示で追い払い、再びくつろぎ始めたキリシュタリアはどこから取り出したのかティーカップ片手に優雅にくつろいでいた。

 

「……って、それ、うちのじゃない!?」

「あぁ、紅茶が飲みたくなったからね、お借りしたよ」

 

 何の悪びれもなくのたまうキリシュタリアに思わずため息をつき彼の座るテーブルの正面に座る。

 

「で、あんたは何しにきたのよ?」

「ビックリを仕掛けに」

「どつくわよ?」

「ハハッ、冗談だよ、冗談」

「どうだか……」

 

 普段と表情が変わらないせいで本気かどうかの判断がつかないのよね、この男。一緒に過ごした時間はわずかなはずなのに何だかやたらと友好的なのはなんでなのかしら。そんなことを思いながらも、キリシュタリアとくだらない世間話をしていると、ふと、キリシュタリアの雰囲気が変わった。いよいよ、本題ということだろう。

 

「彼のご子息は元気そうで何よりだ」

「……会ったの?」

「いいや、遠見の術でちょっとね。ハハッ、綺麗な子と一緒で羨ましい限りだよ」

「……あっそ。で、何が言いたいの?」

 

 はっきり言って、私はこいつが苦手だ。別に嫌いというわけではないし、必要とあらば話だってするが、常に優雅で自身満々って態度がどうしても気に食わないのだ。これを以前、ぺぺに話したら、もの凄く曖昧な笑みを無言で返されたことがあったが私にはあの笑みの意味はわからない。

「そう勘ぐらないでくれよ、ただ、彼の息子を一目、この目で直接見たかっただけさ」

「どうだか……」

「……」

 私がそれでも態度を崩さないでいると、キリシュタリアが顔を一瞬曇らせたような気がした。だが、それは気のせいだろう。すぐにいつもの表情に戻ったし何よりこいつが私に不遜な態度を取られたからと言って傷つくはずがない。

 暫くの間、無言が続く妙に居心地の悪い時間が続いていると時計がピピッとなる。見るとちょうど16時だった。

 

「あんた、今日は寝床あるの?」

「あぁ、近くのホテルをね」

「夕飯くらい、食べてく?」

「いや、結構だよ」

 苦手ではあるがそれでも会ったのは相当久しぶりだ。こういう時は一応、誘ってみるのが大人の礼儀というものだ、と本に書いてあったので言ってみたが、キリシュタリアはすげなくそれを断る。

 

「君とあの子の最後の宴を邪魔するわけにはいかないからね」

「なんだ、知ってたの」

「ゴルドルフ所長からね。何でもベースボールのプロになるとか」

「えぇ、才能があったみたい」

「……」

「……? 何よ、神妙な顔しちゃって」

「いや、まぁ、あれだ、あれだよ」

「いや、どれよ」

 

 珍しいわね、こいつが歯切れの悪い回答するなんて。突然、やって来た事といい、何かあるのだろう。そう確信した私は詰め寄ってキリシュタリアに聞く事にした。

 

「隠し事あるなら、話しときなさいよ。どうせ、次会うのなんていつかわかったものじゃないんだから」

「だが……」

「面倒臭いわね……何よ? もしかして、私の事討伐しにきたとかじゃないでしょうね?」

「いや、それはないよ。それは誓おう」

「じゃあ、何なのよ。はっきり、言いなさいよ! 言わないと今すぐ家から追い出すかもう一度警察呼ぶわよ!!」

 

 とうとう堪忍袋の尾が切れた私は声を張り上げ、彼に詰め寄る。ここに告白するが実は私は沸点が低いのだ。うじうじしている奴を見ているとイライラしてしょうがない。思えば、息子が何やら悩んでいたときは大体にして、私がケツを叩いて一歩を出させてやったものだ。

 まぁ、だが普段から慣れている息子とそこまで深い付き合いのないキリシュタリアを比べるのは酷というもの。きっと呆気にとられていることだろう。ここはまぁ、水に流してやらんこともない、と彼の動向を伺う。

 

 だが、彼は私の予想とは違う反応を示した。

 

 いつもの余裕のある微笑みではなく、どこかはかなげでそして優しい笑みを浮かべ、小さく囁いたのだ。

 

「あぁ、君はいつもそうだったな……」

 

 どういう意味かはわからない。そこにどういう意図があるのか、どんな感情が込もっているのか、人間に疎い私にはとても理解できない。

 

 でも、これだけはわかる。

 

 キリシュタリアは静かに泣いているのだ。涙を流さずに心の中で。

 

 私に投げかけられたものでなくても、その呟きは確かに私に届いたのだ。

 

「えっと……」

「いや、悪い。何でもないよ……今のは忘れてくれ」

「……あんたがそう言うなら、そうするけど……」

 

 反応に窮する私を見て、我に帰ったのかキリシュタリアは取り繕うように、ここに来た理由を話し始める。だが、彼にしては珍しく話が長い割に全くもって要領の得ない話だった。まぁ、要は才能がもったいないから息子に魔術の世界に来ないか、と誘うつもりだったとかそういう話だ。

 

「悪いけど、あいつはそっちにはいかないわよ」

「……だろうね。あの子をこの目で見て思ったよ。すごく良い子だってね。ああいう子達がこれからの未来を築いていくんだろう」

「そりゃ、あいつらの息子なんだから当然よ。善人世界代表の二人の血が流れて、悪人になるはずがないわ」

「あぁ、全くだとも……」

 

 そう言って深く頷くと、彼は残っていた紅茶を全て飲み干し席を立ち上がる。動作一つ一つが以前もゆっくりなのに気づく。長年の無茶がたたっているのだろう。

 

「そろそろ行くよ」

「……玄関まで送るわ」

「あぁ、ありがとう」

 

 玄関まで一緒に行く。キリシュタリアの靴がないと思ったら彼は靴を履いたままだった。

 

「ちょっと、ここは日本なんだけど」

「え? あぁ、すまない、すっかり忘れていたよ」

「全く、次は気をつけさいよね」

「あぁ、肝に銘じるよ……」

 

 いや、そこまで本気にしなくても、と言おうとしたところで気づく。

 

 キリシュタリアに白髪が生えていたのだ。

 

 元が綺麗な金髪だから普通の人間だったらまず気づかないだろうが、精霊である私の目にはその黄金に白い線が見えたのだった。

 

 老化している。他の人間よりもずっと早く。

 

 思えばさっき玄関に来るまでに見たキリシュタリアの後ろ姿は以前に比べて小さかった。

 

 もしかしたら長くないのかもしれない。だから、最後にあいつらの息子を一目見るために来たのか……私の中で漸く合点がいった。

 あんな下手くそな嘘ついてまで、隠そうとするなんて……こいつらしいといえばこいつらしいけど……

 

「じゃあ、芥、あの子にもよろしく」

「えぇ、伝えとく」

 

 それを聞いて満足したのか、キリシュタリアは家を出ようと玄関のドアノブに手をかける。

 

 そんな彼に私は最後にこんな言葉を贈った。

 

「今度、息子の試合を一緒に観に行きましょ。Aチーム全員でね」

 

 その言葉には彼の寿命を延ばすような力はない。

 

 でも、それでも、彼は今までに見た事のないほど優しく笑い、そして家を出た。

 

  ✳︎********************************

 

 リビングに戻ると当然、そこには誰もいなかった。まるでさっきまでのが幻だったのではないかと、思うかのような静けさだ。

 キリシュタリアが飲んでいたティーカップを片付けているとその静寂を破るようにスマホに着信が入る。

 

 画面を見ると、ゴルドルフからの連絡だった。

 

「何よ?」

「あぁ、虞美人くん……」

「何よ、意気消沈しちゃって? 何かあったの?」

「あぁ、同じチームだったのだ。君にはすぐに知らせなければと思ってね……」

 

 私の手はなぜか震えていた。身体がなぜか拒否反応を起こしている。脳は理解していないのに身体は既にそれを知っているのだ。私は声が震えるのを自覚しながら、努めて冷静にゴルドルフに質問した。

 

「……何をよ?」

「キリシュタリア君が先ほど、亡くなったよ」

 

 私はそれを聞いた瞬間、リビングから飛び出した。ティーカップが割れた音がするが気にしている場合ではない。

 

 靴も履かずに外へ飛び出す。

 

 何で? どうして、キリシュタリアが死んでいる。さっきまで、私と話していたはずなのに。もし彼が死んでいたとしたら先ほどまでの彼は一体誰なのか? 生霊というやつだろうか? いやそうだとしても、私はキリシュタリアとそこまで深い仲だったというわけではない。そんな執着があるはずがないのだ。それなのにどうして……

 

 疑問で渦巻く心のままにわたしはつい先ほど家を出たキリシュタリアを探し回る。精霊の私が走れば、簡単に見つかるはずだ。見つかるはずなのだ。

 

 でも、キリシュタリアはどこにもいなかった。

 

 どこにもいなかったのだ。

 

 途方に暮れて空を見上げる。

 

 そんな私だけを夕日が紅く照らしていた。

 




読んで頂きありがとうございました!

以下、ネタバレ注意!
































 仮に本編で彼が生きていたとしても、Aチームと彼の間であったことは決して自分からは告白することはないんじゃないか、と思いました。でも、スピンオフでも何でもいいからキリシュタリアとAチームの冒険は絶対にいつか見たいですよね。
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