虞美人、後輩の息子を育てる   作:イサシ

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fgo5周年、おめでとうございます!
こちらはラストスパートですが最後までお付き合いください!


それから
虞美人、後輩の息子の結婚式に参加せず(NEW!!)


虞美人、後輩の息子の結婚式に参加せず

 

 結婚。人によって捉え方はそれぞれだろう。それを一つの目標とする人もいれば、それを人生の墓場と見る人もいる。結婚を目標というのも、大事なのは結婚した後なのだから、何だか違う気がするし、墓場というのも好き合う者同士が一緒になるのだから、その表現はよろしくないだろう。

 いずれにせよ、両者とも人生のビックイベントと捉えている事に間違いはない。結婚を境目にして人生が大きく変わるという認識に齟齬はないはずだ。

 僕だってそうだ。結婚というのは人生における節目であり、自分が家庭を築いていかなければならないという証のようなものだと考えていた。これまで育てられてきた自分が今度は育てる側に回る。

 これは極端かもしれないがいつまでが子供でどこまでが大人か、そんな曖昧な境界を分ける印になるんじゃないかとも思う。

 

 とは言っても、結局、結婚すると決めたとしても、自分の中で突然何かが変わるわけではない。

 

 それを僕は今、身をもって体験しているのだ。

 

 そう、僕は今日、結婚するのだ。

 

 

「綺麗だよ」

「ふふっ……ありがと」

 

 純白のウエディングドレスに身を包む彼女はとても美しかった。紫がかった黒髪が白に映え、彼女の白い肌をより美しく際立たせる。

 

「あなたも格好いいわよ」

「え? そうかな」

 

 僕の格好といえば花婿が着るのに定番なタキシードにいつもはしないオールバックで顔がはっきり見えるようになっている。いつもは髪の毛を下ろしているので何だか照れくさい。

 

「お義父さんとお義母さんは?」

「さっき、会いにきてくれたよ。パパに会ったら気をつけてね、未だにあなたのこと認めてないみたいだから」

「ははっ……気をつけるよ……」

 

 彼女の父親は何というか頑固者だ。僕が彼女と結婚することが未だに気に食わないようで会うたびに何かしら、愚痴を言われる。彼女の家に挨拶にいった時なんて、いきなり木刀を持たされ、勝負させられたのだ。

 

「もう、ボコボコにされるのは勘弁だよ……」

「次やったら、私がボコボコにしてあげるね」

「頼もしいね」

「そっちのお母さんは?」

「あの人は来ないよ……」

 

 僕の育ての母、つまり、虞美人は公の場に出る事はできない。

 彼女は人間ではないからだ。精霊と云われるもので僕たちとは外見はほとんど変わらないがその性質は全く別のもの。多くの偉人たちが目指した不老不死の体現者であり、自身の血液を操るなど常軌を逸した能力を有す。

 

 それ故に彼女は歳をとらない。どんなに人間が歳をとろうとも、決して彼女が変わることはない。事実、僕が子供の頃と彼女の外見は一切、変わりない。もう、数年もすれば僕の方が歳上に見えるようになるだろう。

 

 だから、彼女は公の場に姿を現す訳にはいかないのだ。いつまでも歳を取らない彼女に勘づく輩が出かねないからだ。

 

「久しぶりに会いたいわね」

「今度、言っておくよ」

 

 今、彼女は僕と暮らしていた家を離れて、一人で暮らしている。超のつくど田舎で、こちらから行くのはなかなか骨が折れる。もっといいとこ住みなよと言っても聞きやしない。長く住むつもりなら人がいない方が都合がいいということだ。

 思えば、僕と暮らした10数年、彼女はずっと我慢していたのかもしれない。人間嫌いもだいぶ緩和したとはいえ、自身と対極を成す環境にずっといたのだ、どこか無理が生じてもおかしくはない。

 

「芥さ〜ん! そろそろお時間ですよー」

 式場の係の人が呼びに来た。慌ただしい雰囲気がドア越しにも伝わってくる。

 

「そろそ行くよ」

「そうね。じゃあ、また後で」

「うん」

 

 軽くキスをし、別れを告げ、部屋を出る。長い廊下を係員達が駆け回っている。僕たちの式の為にしてくれていると思うと有難い気持ちになる。

 自分の部屋に戻るとご無沙汰な面々が待ち構えていた。

 

「わ! ぺぺさん! カドックさん! 久しぶり!」

「あら〜、おチビちゃん、立派になっちゃって! カドックよりも背、高くなったんじゃない?」

「カドックさんなら中学生時代の頃には抜かしてたよ」

「やかましいぞ、チビ助。 全く、久しぶりに会ったというのに生意気なところは変わらないな」

 スカンジナビア・ペペロンチーノ

 カドック・ゼムルプス

 

 二人はお父さん、お母さん、そして、虞美人の同僚で僕が小さい頃から僕を気にかけてくれていた。オカマっぽいというかオカマそのものなのがぺぺさんで、猫背に目にくっきりくまができているのがカドックさんだ。

 二人とも見かけはなかなかにアバンギャルドだが、とても優しくて面倒見が良く、小さい頃よく遊んでもらったものだ。

 二人とも、普通の世界では生きてないのでこういう場に来てくれるかはわからなかったが

来てくれて本当に嬉しい。

 

「二人とも来てくれて本当にありがとう! 今日は楽しんでいってね」

 

「え!? ちょっと、待ちたまえ! わたしを忘れてるよ、君ぃ! 」

「あ、ゴルドルフおじさんも久しぶり」

「あっさり過ぎないかね! ホムンクルスが健康第一に、と作ってくれるスープよりもあっさりなのだが! もうちょっと、私にも関心を持ち給えよ!」

「冗談だよ。ゴルドルフおじさんも久しぶり!」

 

 ゴルドルフ・ムジーク。以前はカルデアの所長を勤めていたのでお父さんとお母さんの上司だった人だ。今はカルデアの後継機関の所長で、彼が僕と虞美人が生活するに当たっての準備をしてくれていた。

 一見、態度は高圧的に見えるがその実態は困っている人は基本、見逃せない筋金入りのお人好しだ。

 

「むっ……冗談ならいいのだがね……いやいや、びっくりしたよ、この私を忘れてしまったのかと思ったよ」

「あら、アナタ、誰だったかしら?」

「何で、君が忘れるんだね、ペペロンチーノ君!」

 

 控室は4人の男の笑い声で満たされていく。

 

 僕は一人ではない。それを教えてくれた人たちが今日、僕の成長を見に集まってくれた。感謝の気持ちが溢れかえる。

 

「そういえば、芥ちゃんは今日は来ないのよね?」

「え? うん。そうだけど」

「あらあら、まぁ仕方ないわね……じゃあ、芥ちゃんが寂しくないようにっと」

 

 ペペさんはおもむろにスマホを取り出すと、写真取りましょ、と4人を一つの場所に集める。

「ちょ、おい、所長、もっとあっち行ってくれ、脂肪を押し付けるな!」

「君こそもっと真ん中に行きたまえよ! 私の顔が切れてしまう!」

「……って、二人ともキツイよ! あ、こら、ぺぺさんどさくさに紛れて、キスしてこないでよ!」

「あら〜、いいじゃない! 減るもんじゃないし。良い男が横にいたらキスしたくなっちゃうものよ、乙女は」

「君は乙女じゃなくて、オカマ……ぐえっ!!」

「はい! チーズ!!」

 

 何やら失礼な事を行ったゴルドルフおじさんが謎の力で吹き飛んでいくと同時にシャッター音が鳴らされる。ゴルドルフおじさんは何というかいつ会っても不憫だ……もう少し優しくしてあげよう。

 

「うん、いい写真ね! じゃあ、これを芥ちゃんにっと……」

 

 ぺぺさんのスマホに映る写真は何ともへんてこだった。まず、ぺぺさん以外誰もカメラを見ていない。その上、画面の半分はぺぺさんで埋まっており、ゴルドルフおじさんなんて、顔の半分しか見えない。僕とカドックさんは吹き飛んでいくゴルドルフおじさんを見てるし、これでは何の写真かわかったものではない。

 この写真をぐっちゃんが見たところでとても結婚式前の写真とは思わないだろう。

 何故か取っ組み合いの喧嘩を始めたカドックさんとゴルドルフおじさんを諌めつつ、ぐっちゃんの返事を待っていると数分で返事が返ってきた。

 

「あら、もう返事が返ってきたわ」

「ぐっちゃんにしては早いね、なんだって?」

 

 ぺぺさんがニコニコしながら、僕にスマホの画面を見せてくれる。そこにはただ一言、無愛想に、むさ苦しい、とだけ書かれていた。

 

「ぐっちゃんらしいね」

「ええ、そうね……どうせあの子の事だから、どっかで見てるわよ」

「そうかもね」

 

 あの人はいつだって素直じゃない。根本的に不器用なのだ。こんなぶっきらぼうな返事しか寄越さない癖に実は誰よりも寂しがり屋だし、かまってあげないと拗ねる。

 

「全く、世話がやけるなぁ」

 そう言うと僕は自分のスマホを取り出して、ぐっちゃんとのトーク画面を開いて、入力していく。

「何て送るのかしら」

「ちょっとからかってやろうと思って」

 

 僕はスマホにこう入力した。ちょっとした悪戯も込めて。

 

『どうせ、どっかにいるんでしょ! 意地張ってないでさっさと出てきなよ』

 

      *******

「なんでばれた!」

 

 トーク画面を開くと息子から返信が来ていた。

 私は現在、息子の結婚式が開かれる式場の近くの公園で一人、ベンチに座っていた。何故か矢鱈と鳩が餌を催促してきて鬱陶しい。

 

 私は不老不死故に歳をとらない。爆発することで身体年齢を変えることもできなくはないがしわくちゃの老婆になるのはごめん被る。

 公の場に出ては正体がバレかねないので、結婚式に参加することはできないが、かといって遠くの山奥で息子の結婚式に思いを馳せるほどセンチメンタルなわけではない。だが、息子に参加しないと言った以上、近くに来ているというのを知られて、からかわれるのも何だかムカつく。

 だから、式が始まるまで結婚式場の近くの公園で待機し、始まったら、こっそり覗きにでも行こうと思っていたのだが、その魂胆はとうに見抜かれているようだ。

 

「ぐぬぬ……」

 

 何か良い言い訳はないかと考えるが一向に思いつかない。しらを切ってもドツボにハマりそうだ。かといって、バレたのを認めるのも、私のプライドが許さない。

 

 結果、私はそのコメントを無視した。

 

 既読無視である。

 

 ……これって近くにいるって認めてるようなものじゃない……?

 

      *******

 

 式が開く。会場には多くの方が駆けつけてくれた。学校の同級生、先生、チームメイトにコーチ、監督、そして、魔術組織の代表としてきてくれたゴルドルフおじさんとぺぺさん、カドックさん。僕を支えてくれた多くの人たちが僕と妻を祝いにきてくれたのだ。

 新郎の入場合図と共に、式場へと入っていくと、盛大な拍手が出迎えてくれる。僕が通る度に色々な人がおめでとう! 幸せになれよ! と祝福をくれる。

 それに会釈で返して、奥の神父がいるところまで歩いていく。

 神父にお辞儀し、続いて会場全員に挨拶の代わりに繰り返しお辞儀をする。

 頭を上げて会場を見渡すと本当に沢山の人が僕に拍手をくれていた。照れくささと嬉しさが半々位でこみ上げてくる。

 

「続いて、新婦の入場です!」

 

 司会の号令と共に流れていたBGMが代わり、皆、一様に入口の方を向き直る。

 それと同時に緊張で心音が高鳴る。拍手と負けないくらいの心音が僕の脳を刺激する。

 

 ドアが開く。瞬間、心音は今までのは試運転とばかりに更に速度を上げていく。

 

 とても、美しかった。純白のドレスを着た彼女は紛れもなく僕の最愛の人で、そして僕の妻だ。先程、控室で見たときも美しかったが、今はその比ではない。この華やかな場が彼女の美しさを更に際立たせる。

 ゆっくりとお義父さんにリードされながら歩く彼女と目が合い、互いに笑い合う。それだけで幸せが溢れかえりそうだ。隣のお義父さんの威圧的な目つきなんて全く気にならない。

 この美しい人を幸せにしなければならない。僕にそんな事ができるだろうか。そんな弱気がよぎる。だが心のぐっちゃんが睨みつけてくる気がして、すぐにその気持ちを吹き飛ばす。

 ゆっくりとヴァージンロードを歩いた彼女がお義父さんに別れを告げ、僕の側にやってくる。一瞬、お義父さんの目に光るものが見えたが触れないであげるのが義理の息子というものだろう。

 新郎新婦が揃ったところを見届けて、神父が聖書を朗読し始める。普段は読んだこともないが、場が場だからか心へと響く。

 

愛は寛容なもの、

慈悲深いものは愛。

愛は、妬まず、高ぶらず、誇らない。

見苦しい振る舞いをせず、

自分の利益を求めず、怒らず、

人の悪事を数え立てない。

不正を喜ばないが、

人とともに真理を喜ぶ。

すべてをこらえ、すべてを信じ、

すべてを望み、すべてを耐え忍ぶ。

愛は、決して滅び去ることはない

 

 その文句を聞いていて、僕を育ててくれた人を思い出す。

 愛は寛容なもの、愛は妬まず、高ぶらず、誇らない……

 僕を当たり前のように受け入れ、育ててくれた。自分の利益など求めず僕のために様々な事をしてくれた。

 一緒に喜び、怒り、悲しみ、そして、笑った。

 

 恋愛感情ではないが、彼女が僕にしてくれた事は紛れもなく、愛だったのだ。

 

 温かい気持ちが雫となって溢れ出す。

 

 それを悟られまいと目を擦るが、止まらない。

 

 溢れる気持ちが止まらない。

 

 ありがとう。ありがとう。ありがとう……

 

 何回言ったって足りやしない。

 

 でも、心の中でひたすらに唱えつづける。

 

 ありがとう、僕を育ててくれて、と。

 

     ******

 息子と衛宮の娘が愛を誓い、そしてその証明としてキスをした。

 

 その光景を私は式場の外からこっそり覗いていた。

 これで私の息子を育てるという役目は完全に終わったといえるだろう。

 今まで与えられる側だった息子は、今完全に独立し今度は与える側へと代わった。今後は自分でその隣の人と自身の子を守っていかないといけないのだ。

 心配といえば嘘になるが、それを表に出すのはもはや、無礼だ。

 息子はもう一人の大人なのだから、いちいち口を出す必要はない。

 私のこれからの役目は彼とその家族を遠くから見届けてあげること。

 それが息子と約束したことだ。

 

 結婚式もそろそろ終了のようで、息子と衛宮の娘が手を取り合って出口へと向かっていく。

 

「さてと……」

 

 そろそろお暇しようかと立ち上がる。この後、披露宴もあるらしいが当然、そんなものに出るわけない。

 どうせ、また会う約束はしてるし、今日は退散しようかと式場を出る。

 

 不意にピロリン、と間の抜けた音がポケットから聞こえてくる。

 スマホを取り出して通知を見ると息子からだった。今も結婚式の真っ只中な息子が送れるわけがないので、きっと時間を設定して送信予約していたのだろう。

 画面をスワイプして、息子のトーク画面を開く。

 

『ありがとう、僕を育ててくれて』

「……こちらこそ」

 

 ありがとう、今まで一緒にいてくれて。

 

 そう、言葉に出そうとした瞬間、盛大な拍手と大きな声が聞こえてくる。結婚式が終わったのだろう。幸せが世界を満たすかと思う程の正の気が周囲を包み上げていく。

 

 それを振り返り暫く眺めると、私はその場を後にした。

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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