虞美人、後輩の息子を育てる   作:イサシ

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おつかれさまです。皆様、福袋はどうでしたでしょうか。私は姉でした。洗脳されないように気をつけます。


虞美人、家族を語る(NEW!!)

私は不幸だ。子供ながらにそう思う。

 

 私の周りには誰もいない。パパとママは離婚して、今、私はパパと生活している。だけど、パパはいつも知らない女の人を家に上げて私を厄介者扱いする。

 日曜日は家にいても地獄の日にしかならない。なので、大体は公園にいるか図書館にいるかの2択となる。今日は3月の割に暑いから、図書館に引きこもろうと思っていたのによりによって、臨時休業とやらで休みときた。

 全くもって腹立たしい。この国は私を熱中症で殺そうとでもしているのか……

 

 仕方ないので、いつも遊んでいる公園に行こうと、トボトボと歩く。

 

 まだ、3月だというのに日光に焼かれたアスファルトがとても憎い。上からも下からも熱せられる状態に段々と意識が朦朧としてくる。

 

 あぁ、何でこんな目に合わなくちゃいけないんだろう。自分の置かれた境遇が惨め過ぎて涙がこみ上げてくる。

 そんなときだ、声をかけられたのは。

 

「大丈夫?」

 

 その人はとても奇麗だった。黒曜石を思わせるような黒髪に女優さんかと思うような整った顔立ち、女なら誰でも憧れるような抜群のスタイル、きっと幸せな人生を、送っているのだろう。

 こんな綺麗な人が幸せでないはずがない。

 

 そう思うと腹立たしくなりそっけない態度で返答してしまう。

 

「大丈夫です」

 顔も見ず、そのまま通り過ぎようとする。しかし、手で遮られてしまう。

「ちょっと、フラフラじゃない」

 女性が私の顔を覗き込んできて目が合う。とても綺麗な瞳に同性の私でもドギマギとしてしまう。

「大丈夫ですから……」

「子どもなんだから面倒みられなさい」

 そう言うと、女性は近くにあった自販機に私を引っ張って連れていく。

「どれがいい?」

「いや、ですから……」

「水でいいわね」

 

 私の言葉なんて、気にもせず500ml容器の水を購入するとそのまま私に手渡してくる。

「ほら、飲みなさい」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして……そこのベンチで座りましょうか」

 

 公園を指差す女性に従うまま、ついて行きベンチへと座る。このベンチで二人で並んで座るのはこれが始めてだ。

 

「今日は熱いわね」

「はい……あの……私に何か御用ですか?」

「ん? 別に用なんてないわよ」

「じゃあ、なんで……」

 

 私は不幸だ。初対面の美人が用もないのに私に話しかけてくるはずがない。もしや、誘拐では? 自然と身体に力が入る。

 だが、私の予想はあっけなく妄想に終わった。

 

「あんたがフラフラしてたから心配になっただけ」

 

 さも、当然のように女性は言った。

 

 その当然は私にとってどこまでも意外なもので、とてもではないが受け入れられるものではなかった。

 

「嘘です! そんなこと、あるわけない!」

 

 声を荒げて、女性に詰め寄る。だけど、女性は微動だにせず優しい笑みを浮かべるだけだった。

「……何か嫌な事でもあった?」

「あなたには関係ないです!」

 

 放っておいて欲しい。どうせ、大人には私の気持ちなんかわかりやしないのだから。そんな気持ちが態度になって表れる。

 普通の大人ならこれで何だ、こいつはと思って立ち去るはずだ。

 

 でも、この女性は違った。

 

 立ち去るどころか頭にチョップされた。

 

「……痛っ……!」

「大人にそんな口効くんじゃないわよ……全く。確かに私は関係ないけど、だからこそ気軽に話せる事だってあるわよ。ほら、話してみなさいよ。聞いてあげるから」

「……」

 

 なんで、どうして、こんなにもこの人は優しいのだろうか。パパも先生も私の話なんて聞いてくれなかった。それなのに何でこの人は私に優しくしてくれるんだ……

 不幸な私の世界にはいないはずの人だ。優しい大人なんて私の世界にはいないのだ……いなかったのだ。

 

 気がつけば話していた。洗いざらい、全て何もかも吐き出すように。しどろもどろで脈絡もないのに、それでも女性は私の話を黙って聞いてくれた。

 

「……誰も、聞いてくれないんです。誰も。表面上は聞いている振りをして適当な事を返してくるだけ……私……辛くて……パパはママに会わせてもくれないし……先生は笑ってるだけ……」

「……そう……辛かったわね」

 

 女性が私の頭を慣れた手付きで撫でてくれる。

 

 その手付きはまるでそよ風のように髪の毛を優しく揺らす。心地良さに目を細める。

 

「……ねぇ、お父さんの事は好き?」

「え……?」

 唐突な質問に答える事ができない。

 

 昔は好きだった。それは間違いない。

 

 では、今はどうか? 私は今でもパパの事が好きだろうか……?

「……わからないです……」

「でしょうね……でも、そんなもんよ、家族なんて」

「どういうことですか?」

「曖昧って事。好きになったり、嫌いになったり……喧嘩したり、仲直りしたり……家族って1番近い他人なのよ。でもね、どんなにその関係がボロボロになったって家族ってものは消えない……今までの思い出ってやつが縛りつけてくるの」

「思い出……」

 

 パパとママがまだ仲良しだった頃。

 

 よく、一緒に川の字になって3人で寝た。

 

 休みの日はピクニックに連れてってくれた。

 

 楽しかった思い出は気がつけば心の奥底に眠っていた。辛い現実が思い出という過去を封印したのだ。

「別に嫌いなら嫌いでいいわ。でもね、逃げてばかりじゃだめ。いつかは向き合うのよ」

 

 女性はゆっくりと立ち上がると、そろそろ行くわ、と伸びをする。

 

「あの……ありがとうございました……」

「別に話聞いただけよ」

「いえ、そんな事ないです……」

「そ。なら、良かった」

「あの……また、会えますか?」

「良い子にしてたらね」

 

 目線私に合わせてもう一度頭を撫でてくれる。相変わらずの心地良さにまた目を細めるがそこで女性の表情に気づく。さっきまでは優しさに満ちたそれが今はどこか憂いを帯びていたのだ。

 

 どうしたのだろうか。何か嫌な事でもあったのか。こんな綺麗な人でも辛いことがあるのか。……何か私にできることはあるだろうか。

 

「大丈夫ですか……?」

「え……?」

「何か辛い事がありましたか?」

 

 撫でてくれていた手を取って、ぎゅっと握る。ママが私が泣いていた時によくやってくれたことだ。こうすると気持ちが伝わるよ、って教えてくれた。

 

「あ……」

「……」

 

 泣いていた。その綺麗な瞳から雫が溢れる。慌てて、手を離して謝る。

 

「ごめんなさい! 不愉快でしたよね、ごめんなさい!」

「……ううん、大丈夫よ……目にゴミが入っただけだから……」

「でも……」

「……大丈夫! それよりあんたは自分の事考えなさい」

 

 そして、女性は目の辺りを擦ると今度こそ行くわね、と立ち上がる。

 遠くから綺麗な鐘の音が聞こえる。近くの結婚式場からだろう。あの式場の特徴として大きな鐘があって、披露宴が始まるとその合図として、暫くの間鳴らしてくれるのだ。

 女性はその音を聞くとまた優しくそして、寂しげに笑うとそのまま行ってしまった。

 その背中は儚げでさっきまで目の前で話していたというのに、夢だったのではないかと思わされる。

 

「……」

 

 一人、ベンチに座り、鐘の音を何となく聞いていると不意にパパとママもあの式場で結婚式を開いたと話していたのを思い出す。

 

 パパとママも幸せだったのだ。

 

 向き合わなくちゃいけない。

 

 あの人はそう言っていた。

 

 不思議と女性と話すまでの靄がかった気分は晴れていた。暑さもそこまで気にならない。

 

 女性は最後寂しげな表情を浮かべ、泣いた。きっとあの女性にも色々あったのだろう。そんな風に私だけじゃなく人それぞれに辛いことがあるのだ。

 

「家に帰ろ」

 

 パパはまた女性を家に連れ込んでるかもしれない。でも、それで何で私が家から逃げなければならないんだ。

 

 逃げるのはもうやめよう。幸せは自分で掴み取るものなのだ。それをあの女性は教えてくれた。

 

 だから、私も進まなければならない。

 

 熱せられたアスファルトを歩く。でも、全然苦ではない。何故ならあの人がくれた水があるから。

 

「……ぷはっ」

 

 ペットボトルに口をつけ、私は歩き始める。

 

 外でもない自分の人生を。

 

 

 




読んで頂きありがとうございます!
次回、ラストでございます。
どうか、宜しくお願い致します。
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