「え? ゴルドルフおじさんの家!? 行く! 絶対行く!」
「まぁ、行かないといけないんだけどね。家、ないし」
追っ手の襲撃を退けた次の日、私たちは現在、空港にいた。ゴルドルフの計らいである。前の家に住むことはできない。慣れてきたというのに残念だが、命に代える事はできない。次の住居を探すのと、新しい戸籍をゴルドルフ達が作ってくれる間の居場所として、彼が自分の家を提案してくれたのだ。
もう、家に戻る事はできない。その事を伝えたとき、息子は一抹の寂しさを覗かせたものの、直ぐに笑顔になり私と一緒なら、と言ってくれた。
あの襲撃を乗り越えた息子は一回り大きくなったと思う。身体ではなくて精神が。こうやって子供は成長していくのかと思う。
「芥さま、でしょうか?」
名を呼ばれ振り向くと、そこには妙に色素の薄い女が二人立っていた。端から見れば普通の人間かと思うかもしれないが人外である私にはすぐにこの二人が人間ではなくて、ホムンクルスだとわかった。
頷くと、彼女らはゴルドルフ様の使いだと言って、こちらですと私たちを案内する。
他の乗客とは違う入り口を通され、暫く歩くと開けたところに出る。そこに他と比べてもかなり小さい飛行機が一台、準備されていた。
「飛行機! 飛行機!!」
初めて、間近に見る飛行機に大興奮の息子。そういえば、藤丸もバベッジが戦っている姿を見るたびに大興奮していた。男というのはいつまでたってもそのままという事か。
「出発は10分後です。お早めに準備を」
機内に入り、座席に座る。座り心地はなかなかなものだ。さすが、貴族なだけあって、金だけはたくさんあるのだろう。
席で出発を待っていると息子はうとうとしだす。昨日からずっと動いていたのでさすがに限界なのだろう。頭を撫でてやり、眠りに入るのを手伝ってやる。
「……さてと、」
飛行機が出る前に息子が寝てくれてよかった。何故って?
怖いからに決まっているじゃない!
「鉄の塊が空を飛ぶなんて嘘よ!!!」
人間は空を飛ぶようにはできてない。当然である。
その当然をどっかの馬鹿が否定したのだ。
許せない、絶対に!
初めて飛行機が飛んでいるのを見たときはとうとう呆けたのかと思った。だって、あんなデカイのが我がもの顏で空を飛んでるのよ。神代に戻ったのかと思ったわ。
そんなこんなで私は今まで、飛行機に乗った事がなかったのだ。だって、私空、飛べるし。今日だって、ちょっと遠いからという理由で説得されただけだし。
エンジンがかかり、動き出す。そして、私の鼓動も限界突破するかのよう。鼓動の音で息子が起きるんじゃないかと思うほどだ。
落ち着け。これくらいでビビるなんて、仙女の名が廃る。そう、私は精霊。項羽さまにしか縛られない女。私を脅かすものなどない!
「ヒッ!?」
……別にビビってないわよ。今のは息子が急にこっちに身を寄せてきたのに驚いただけ。決して、急に加速しだした事に驚いたわけじゃないんだから。
グゥオオオォというエンジンの音ともに、どんどんと速度を上げていくのに合わせて、恐怖は増していく。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫…………………!!!!!!」
冷や汗が止まらない。歯はカチカチと音を立てる。息子が寝ていて本当に良かった。目をつぶり、迫り来る恐怖を待ち受けた。
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「ぐっちゃん、どうしたの?」
「……なんでもないわよ」
現在、私たちは目的地のゴルドルフ家のある国の飛行場にいた。本来の旅客機なら10時間以上かかるらしいが、ゴルドルフの趣味で所有していたジェット機を用意してくれたおかげで3時間で到着する事ができた。
すっきりとした顔立ちの息子に対して鏡を見なくてもわかるほどにげっそりとした私。ある意味、昨日の戦いより疲れた。幸い、息子が起きた頃には多少慣れていたので、飛行機を怖がる姿を見せずにすんだ。
「いらっしゃい! 待ってたわよ!」
飛行機を降りて待ち構えていたのは身長180センチメートルはあろうかという大男。だが、髪はピンク。口調はオネエ。服装も女性物と所謂オカマである。名はスカンジナビア・ペペロンチーノ。偽名である。最後会ったときと何も変わらないその姿に、不死身の私も少し、驚いた。
「ペペさん!! 久しぶり!」
「あ〜ら! おチビちゃん、大きくなって!!」
元気良く息子がペペに向かって駆けていくと、ペペは満面の笑みで息子を抱き抱えて、その柔らかそうなほっぺたにキスを落とす。
「……相変わらずね、ペペ」
「芥ちゃんもお・ひ・さ!」
元気なのは良い事だが、頼むからウインクだけはやめて欲しい。夢に出てきそうだ。
「……で、あんたが出迎えってわけ?」
「えぇ、そうよ。ゴルちゃんは会議で忙しいし、カルデアの職員の子たちも昨日の対応に追われてるの。だから、有事以外は暇な私が来たって事」
暇と言っているが本当の事ではないのだろう。ペペの事だ、きっと、飛行機を降りた私たちが狙われる可能性を考慮して、護衛に来てくれたのだろう。
「ホラホラ、乗った、乗った! 滅多に乗れないリムジンよ!」
「わぁ! 凄い!! 長い!!」
空港の入り口で待っていると、見るからにいけ好かない金持ちが持ってそうな黒塗りで横長の車が私たちの前に停まる。本当は乗りたくないが、見慣れないものに大興奮な息子のために仕方なく、ペペに促されるまま、一緒に乗る。
気持ち悪い。私は車が苦手なのだ。この揺れと匂いだけで、頭がクラクラしてくる。だが、息子がはしゃいでいる手前、不安にさせたくもない。必死に顔に出さんとしていると、隣に座っていたペペに肩を叩かれる。
「10分くらいだけど、これ、飲みなさい。私特性の酔い止めだからすぐ効くわよ」
渡されたのは、ピンク色の粉が入った袋。開けて匂いを嗅ぐと、昔、漢方を作っていた薬術師のところと同じ匂いだとわかった。
何だか悔しい。Aチームの頃からかこいつには見透かされてばかりだ。なんでもお見通しって目が何だか気に食わない。だが、文句を言うのも筋違いだし……あ〜〜もう、モヤモヤするわ。
「………………………………………ありがとう」
だから、小声で、本当に小声で感謝の言葉を伝えてみる。別にこれはペペの言葉を思って伝えたわけじゃない。ただ、私の気持ちが晴れると思って伝えただけ。勘違いしないでよね。
聞こえていないか確かめる為に、チラリ、とペペを伺う。
「……うふっ」
「……」
こいつには何でもお見通しみたいだ。私はため息をついて、粉薬を飲んだ。
読んで頂きありがとうございした!
切りがいいので前編はここまで。
後編をお楽しみに!