前回、ゆんゆんをフルボッコにされたバサラはなんとか勝利する。
しかし、気になる点がいくつかでてきた。
アガレスを退けたあと、俺はゆんゆんを抱きしめていた。
未だ戦いの最中でありながら、俺は周囲など気にせずにひたすら、ゆんゆんを抱きしめる。
「あ、あの、バサラさん。そろそろ」
そこで初めてゆんゆんの反応に気付く。
「わ、悪い」
顔を見ると赤くなっている。
回復ポーションで怪我を治療したといっても、彼女の着ている服はボロボロであり、破れたところから、彼女の素肌が見えている。
普段の俺であれば、そんな扇情的な姿にドキッとするのだが、先ほどのアガレスの仕打ちからそんな気など起こせないほど、自分への怒りと情けなさでいっぱいだ。
「ごめんな、余裕だとかいってたのに・・・」
「いえ、私の方こそ、助けに来たつもりが、逆に助けられてしまい」
本当に情けない。この世界にきて、自分の強さに慢心していた。
その結果、アガレスに負けて、再び初心に戻ったのだが、デストロイヤーを破壊したことによって、再び慢心していたようだ。
無様に敗北宣言をさせられた。
思わず、拳に力が入る。
「そ、それよりバサラさん。まだ戦いは終わっていません」
「そうだな、指揮官のアガレスが撤退したといっても、まだそこら中に魔王軍がいる」
「えぇ、早く片付けないと」
そして、俺達は再び戦いに参加した。
機竜を使い過ぎたことにより、俺は機攻殻剣で魔王軍を蹴散らす。
後衛には心強いアークウィザードがいる。
油断せずに一体一体倒していく。
「バサラさんッ」
すると、背後から現れたゴブリンに向けてゆんゆんが《ライトニング》を放つ。
「サンキュー」
頼もしい相棒の援護を受けて、その後も油断せずに戦闘を続けていった。
そこから、五十体ほど倒した。
魔王軍も撤退し、防衛線はここで終わるかと思ったそのときだった。
再び、アガレスが現れる。
「よくもやってくれたわね」
普段の怪しげな声ではなく、怒気の籠った声が戦場に響く。
「でも、まぁいいわ。これから王都は滅びるんですもの」
ヒステリック気味に何やら魔法を発動した。
「さぁ、現れなさいッ 《リヴァイアサン》」
アガレスの魔法が発動すると、戦場に巨大な魔法陣が現れる。そこから姿を現したのは青い体を持つ竜。
「《リヴァイアサン》ッ」
俺はこの名を持つ竜を知っている。
もし、この竜が俺の特典である機竜に関するドラゴンだとするのであれば、何故アガレスが使役できる?
精神操作などいった能力を使っているのだろうか?
いや、しかし、ここは異世界だ。俺の特典に関わらず、たまたま名前が同じだったということもあり得る。
・・・考えてもキリがない。ただ分かるのは、その竜が暴れれば間違いなく王都が滅んでしまう。
ベルゼルグ王家に伝わる神器を使えば倒せるかもしれないが、こんな最前線にアイリスを連れてくるなんてクレアたちが許さないだろう。
「バサラさん。なんとかしないと、王都がッ」
「あぁ、でも、機竜を使えない。どうすればッ」
そんな風に周囲の状況を確認しながら考えていると・・・
「ひ、怯むなッ。ここから先はなんとしても通してはならないッ。必ずここで食い止めるぞ」
クレアを筆頭にした騎士たちが《リヴァイアサン》の前に立ちふさがる。
「魔導士隊詠唱準備」
今度は宮廷魔導士たちが、《リヴァイアサン》に向けて放つ魔法の準備をする。
「やりなさい《リヴァイアサン》」
アガレスが感情を感じられない声で命令した。
「グルアアアアアアアアアアア!!」
直後、狂暴な口を開き、魔法陣を展開させる。
そこから放たれるのは水のブレス。
凄まじい水圧のブレスはあっという間に騎士たちの陣形を破壊し、王都の城門まで破壊してしまった。
「アッハッハッハ!いいわよ《リヴァイアサン》」
狂ったように嗤うアガレスの姿は、まるで魔女。
「そんな」
ゆんゆんは目の前で起きた出来事に頭を悩ませる。
「は、早くなんとかしないと」
そういってゆんゆんは飛び出してしまう。
「ま、待てッ」
すかさず、ゆんゆんの腕を掴まえる。
「離してくださいバサラさんッ!」
「落ち着けゆんゆん」
「で、でもッ!」
「いいから、落ち着け」
「バサラさんは、さっきまで命がけで戦ってました、だから今度は私がッ」
「いい加減にしろッ!」
俺はとっさに怒鳴ってしまう。
しかし、一度爆発してしまった感情は止まらない。
「俺はもう、ゆんゆんに傷ついてほしくない。俺が弱いから、俺がアガレスに負けたから、ゆんゆんはあんな風に嬲られた」
「バサラさんの馬鹿ッ」
すると、俺の頬に鈍い痛みが走る。
そう、ゆんゆんにぶたれた。
何もいえないままでいると、ゆんゆんの姿はもうなかった。
「クッソッ。何が《黒き英雄》だよ、ただの負け犬じゃないか」
悔しさと情けなさのどん底に突き落とされた気分だ。
『あぁ~あ、行っちゃった』
そんな声が聞こえる。
『本当にいいのかい?このまま彼女を行かせてしまって』
「そんなわけないだろッ!!」
『なら、助けないと』
「分かってるッ!そんなこと誰よりも分かってるッ!でも、どうすればいいんだ」
『僕が力を貸してあげる。どうやら、《リヴァイアサン》は、あの魔女に操られてる』
「てことは、あの竜は・・・」
『そうだよ、君の考えてる通り、機竜のドラゴンだ』
「でも、どうすればいいんだ?それに、お前は《夜刀ノ神》でいいんだよな?」
そこで、俺は先ほどアガレスから救ってくれた機竜《夜刀ノ神》に問いかける。
『あぁ、そうだよ。情けない君の力になろう。僕を纏って《リヴァイアサン》に神装を使うんだ』
「そうかッ」
『でも、気を付けてね。君の体は限界だ。纏えるのは五分が精々いいところだ。それ以上は無理』
《夜刀ノ神》の言葉を聞いて、すぐに行動に出る。
「浸食せよ、凶兆の化身たる鏖殺の蛇竜。まつろわぬ神の威を振るえッ!《夜刀ノ神》」
再び、機竜を纏うことに成功した俺は、すぐに《リヴァイアサン》に向かう。
だが、そのときだった。
「グルアアアアアアア」
天に轟く咆哮をあげながら、尻尾を振るう。
その広範囲攻撃の直線状にはゆんゆんがいた。
「くっ、間に合えええええええ」
奥義《
「ガハッ」
なんとか攻撃を受け止めることはできたものの、衝撃までは防げず、内臓のいくつかがやられ吐血する。
「バ、バサラさん」
目を限界まで見開いたゆんゆんが悲鳴を上げる。
「ごめ、んな。で、も、もう、大丈夫、だ」
うまく呼吸ができないが、精一杯ゆんゆんに話しかける。
「コイツは俺がなんとかする」
そして、尻尾を掴んだ俺は神装を発動した。
直後《リヴァイアサン》の精神に呑み込まれていくような感覚に襲われた。
蜘蛛の巣にからめとられた何か光の様なものを見た。
『ここは《リヴァイアサン》の精神世界。僕の神装の力で一時的だけど《リヴァイアサン》の精神世界に侵入できた。この蜘蛛の巣を取り払うことで、彼の魂は元に戻る』
「つまり、アガレスから救えるってことだよな?」
『その通り。さぁ、早く』
「分かった」
《夜刀ノ神》のアドバイスを聞いた俺は、すぐさま蜘蛛の巣のようなものを除去する。
しかし、蜘蛛の巣は恐ろしい程に《リヴァイアサン》を侵食しているようで、こびりついて剥がれない。
『何をやってるんだ弟子よ』
すると、そんな声が聞こえた。
「師匠?師匠なのか!?」
『全く、我が鍛えたというのに情けない。鍛えなおしてやりたいところだが、今は時間がないのであろう。仕方ない、我が力を貸してやろう』
俺の隣に高貴なオーラを放つ竜が現れる。
その体躯は小さいながらも、身に纏うオーラは果てしない。
「師匠ッ」
そう、この小さな竜こそが、俺の師匠である《ティアマト》である。本来の大きさではないながらも、偉そうなところは変わりない。
『戯けッ誰が偉そうじゃ!実際に偉いのじゃ』
小さくなったことで声まで幼い感じがする。
『全く、扱き倒すぞ。でもまぁよい、今は同胞を救うことが先じゃ。目覚めよ《リヴァイアサン》』
そういいながら、師匠は小さな魔法陣を展開し、《リヴァイアサン》の魂に張り付ける、
『ふむ』
直後、辺り一面に張り巡らされていた蜘蛛の巣は取り払われる。
『ではな、我が弟子よ』
そういって、師匠は消えた。
『あ、あれ?』
また違う声がする。おそらく《リヴァイアサン》の声だろう。
『俺は、一体・・・思い出したッ』
と、独り言を呟く《リヴァイアサン》に話しかけた。
「なぁ、正気に戻ったってことでいいのか?」
『お前は、そうか、お前が助けてくれたのか。感謝する』
声は男のようで、爽やかな男声だった。
「いや、助けたのは師匠なんだが、まぁいい。アガレスに操られて大暴れしてたようだが、俺と契約してくれないか?」
『そうだな、わかった。契約しよう。あの魔女には煮え湯を飲まさなければ気が済まない。だが、気を付けろ。奴も俺らの同胞だ』
「それって」
『よし、契約は終わった。俺の肉体も消えるだろう』
「あぁ、助かる」
『俺の方こそ、迷惑をかけた』
そして、俺は意識が戻る。
《リヴァイアサン》の精神世界から戻ってきた俺は、掴んでいた尻尾を離す。
すぐに、《リヴァイアサン》の肉体は消滅していき、アガレスは顔を歪ませた。
「また邪魔をッ、もう許さない。次会ったときは必ず、あなたを堕とす」
その後、アガレスは消えた。今度こそ撤退したのだろう。
「バサラさん」
ゆんゆんが俺のほうを見た。
「終わったぜ」
「はいっ!」
気づくと、俺は《夜刀ノ神》を解除し、嬉しそうに返事をするゆんゆんを再び抱きしめていた。
アガレスも機竜だった!?
何故、彼女は魔王軍なんかに?
謎が深まる話でした。
次回、凱旋、そしてダスティヌス家の・・・