遊戯王GX~ペガサスミニオンの末っ子が魔法少女と共に行くデュエルアカデミア紀行~ 作:カイナ
僕の家族が亡くなったのは十年ほど前だった。
当時、両親と双子の兄と兄のガールフレンドと一緒にドライブに出かけた時、運悪く交通事故に巻き込まれてしまい、僕はどうにか助かったものの他の家族や兄のガールフレンドは亡くなったと聞かされた。
それから身寄りのない僕は施設に預けられたが、ずっと一緒にいた両親や引っ込み思案だった僕を引っ張ってくれたお兄ちゃん、考えなしなお兄ちゃんに手を焼きながら一緒に笑ってたお兄ちゃんのガールフレンド。
それらを一斉に失くしたせいか、心に穴が開いたような感じがして、何もする気が起きずに一日中人気のないところでうずくまっていた。
だけどその時から不思議なことが起き始めていた。
[ねえねえ君、家族を亡くしちゃったのは悲しいけどさ。元気出しなよ]
突然声をかけられ、ぎょっとして顔を上げると目を見開いてしまう。
目の前に綺麗な女の人がいた。しかし人間ではない気がする、人は普通地面に足をつけているのにふよふよと浮いていてしかも半透明の姿だとそう思うのも無理はないと思いたい。
そして水色のトンガリ帽子に衣服、ブーツという衣装に金色の長い髪は、お父さんから見せてもらった、日本で行われたというデュエルモンスターズの大会、バトルシティの映像で見たことがある。
それはデュエルキング武藤遊戯が使用していたカードに描かれたモンスターの姿。
「ブラック・マジシャン・ガール……」
間違いなくブラック・マジシャン・ガール。しかし何故現実に存在しないはずのモンスターがここにいるのか、そんな僕の不可解そうな視線に気づいたのか、ブラック・マジシャン・ガールは苦笑しながら僕の方に手を差し出してきた。
[君が家族を亡くして、こうやって塞ぎ込んでるのを見てね? 力になりたいって思ったの。前の私も、師匠や友達を失くして悲しむ事があったんだから寂しいのは分かるよ? だけど、ずっとそれじゃダメなんだって知ってる。家族を心配させないためにもしっかりしなきゃ……ね?]
そう言ってにこっと明るく微笑んでくるブラック・マジシャン・ガールのような謎の女性。彼女の差し出してきた手を思わず取ろうとしてしまうが、僕の右手は相手の手を握ることなく、いや、握ろうとした手がすり抜けてしまった。
[あちゃー、やっぱ物理的な干渉は無理か……んー。ま、でも話し相手くらいにはなれるよね。今度来る時は友達も呼ぶから、一緒に話そう。そしたらその内元気も出てくるって! じゃあねー]
そう言うと謎の女性はぽんっと煙と音を出して消え去る。まるでマジシャンのマジックのような光景に僕はきょとんとして、さっきの事が現実だったのだろうかと考えるのが精一杯だった。
しかしそれが夢ではなかったのは翌日に分かった。ブラック・マジシャン・ガールは自分と似たような格好をした女性を五人ほど引き連れてまた僕の前に現れたからだ。
[約束通り、友達を連れてきたよ! まあ、まだ人間界にカードが存在しないから人間界での存在が安定しなくってなかなか来れない人達なんだけどね。そこは私がなんとかしました!]
ブラック・マジシャン・ガールはそう言ってびしっとサムズアップを見せ、後ろの女性達──一名赤ん坊が混じっているが──も苦笑を見せる。
「……あはは」
その苦笑に釣られたのか、気づけば僕も笑ってしまっていた。
[あ、やっと笑った。そういえば、まだ名前を聞いてなかったよね?]
「僕は……アルマ」
彼女──ブラック・マジシャン・ガールの問いに、僕はそう、新しく出来た友人に自分の名前を名乗り、にこりと、家族が亡くなってから久しく浮かべた覚えのない笑みを彼女らに向けた。
「ん……」
少年──アルマは目を覚ます。そう、目が覚めた。その意味を理解し、くすっと笑みを漏らした。
「夢か……懐かしい夢を見たなぁ」
十年程前に起きた家族との突然の別れと大切な相棒達との出会いの思い出を夢に見た。そんな懐かしい思い出に感慨深く浸り、アルマは鳶色の瞳を宿す目をこすりながら身体が沈みそうな柔らかいベッドから降り、もぞもぞと着替えを開始する。
[おっはよーアルマ!]
「おはよ」
唐突に出てきて挨拶してくるブラック・マジシャン・ガールに軽く挨拶しながら着替えを続ける。
可愛い女の子がいる前で着替えという形になるがどうせ相手は精霊だし、もう十年一緒にいれば羞恥心なんて消える。実際にブラック・マジシャン・ガールも平然とニコニコ笑顔を浮かべていた。
それから着替えを終え、部屋に備え付けられていた鏡で確認しながら、短く切った銀色の髪を櫛で梳かす。そんな身だしなみの確認を終えた辺りでコンコンとドアのノック音が聞こえ、アルマは「はーい」と答えながらドアに走り寄ってドアを開ける。その向こうにはとてもよく似た顔つきに同じ銀色の髪を長く伸ばした、まさしく瓜二つの二人の青年が立っていた。
「おはようございます、アルマ」
「おはようございます、月行兄さん、夜行兄さん」
「準備は出来ているかな?」
「はい……」
青年の内一人が声をかけ、アルマもその二人に挨拶を返す。そしてもう一人が問いかけ、その言葉にも頷いた後、何かを警戒しているようにきょろきょろと辺りを見回してから再び青年たちを見る。
「あの……デプレ兄さんは?」
「リッチーが押さえている」
「今の内にヘリに乗り込むんだ。朝食はすまないが機内で取ってもらう」
「はい」
アルマの言葉に二人は真顔で返答、その答えを予想していたかのようにアルマも真顔で頷くとすぐさまデッキや必要な道具を準備して二人の後に続き、屋上にあるヘリポートに移動。そこに準備されていたヘリコプターに三人揃って乗り込んでいく。
そしてヘリコプターのエンジンが動き出し、機体上部のプロペラが回転を始めた時だった。
「待てぇ!!!」
「!?」
そんなつんざくような声が響き、アルマがぎょっとした顔で窓から外を見る。屋上への出入り口に縄で縛られている青年が立っており、必死で足の縛りだけでも緩めたのだろう、縄を引きずりながらこっちに向けて走ってきていた。
「アルマ! お前のデュエルアカデミアへの進学など俺は認めん!! あんなぬるま湯のような場所に行くよりも、宇宙のように厳しいカードプロフェッサーの世界で修行した方が強くなれる!! さあ、早く降りてこむぐぅっ!?」
「往生際が悪いぞデプレ! アルマのデュエルアカデミアへの進学はペガサス様のご意思でもある! 大体テメエが駄々こねるせいでアルマは入学のチャンス逃してペガサス様のお手を煩わせての編入って形になったの忘れたのか!? 月行夜行! こいつの事は放っといてさっさと行け!」
動き出したヘリコプター目掛けて両腕が縛られた状態で突撃するという危険行為をやらかそうとしていた青年を、その後ろから追いかけてきた、二メートル越えたガタイのいい青年が地面へと押さえつけて怒鳴りつけ、続けて月行達に行けと促す。
月行もそれに頷いて機長に「出発してください」と指示を出し、機長も頷くと操縦を開始。ヘリコプターはヘリポートから飛び立っていった。それを地面に押さえつけられている青年──デプレは目をどこか血走らせながら睨みつける。
「くそう!!! 俺は諦めんからな、アルマァァァァァッ!!!」
[相変わらず、騒がしいお兄ちゃんだね]
「いい人なんだけどね。なんで僕なんかにそこまで拘るのやら」
そんなデプレの叫びを聞きながら、ブラック・マジシャン・ガールが苦笑、アルマは顔を片手で押さえながら大きくため息をついて彼女の言葉に答える。その光景に月行と夜行が一瞬きょとんとした後、慣れたように微笑んだ。
「また精霊と話してるのかな?」
「あ、ごめんなさい」
「気にしなくて構いません。それにしてもデュエルモンスターズの精霊……私達もいずれ見てみたいものですね」
「施設にいた頃からおかしいって言われてはいましたけど。まさか月行さん達も、それどころかペガサス様も精霊が見えないなんて思いませんでした」
夜行と月行の言葉にアルマがそう呟く。ペガサス・J・クロフォード、この世界で広く普及し発達しているカードゲーム──デュエルモンスターズの生みの親であり、なおかつアルマ、月行、夜行、そしてさっきのデプレや筋肉質な男──リッチーの養父とでも言うべき存在だ。
施設にいた頃、ブラック・マジシャン・ガールや他の精霊が見えるようになって彼女らが話し相手になったはいいものの、どうやら精霊は一般人には見えないらしく施設の人には「事故のショックで幻覚を見始めてさらには幻覚と話し始めた」扱いを受け始めて遠巻きにされたことは今となっては懐かしい思い出だ。
結果としてはその友達の似顔絵を描いていたところを施設訪問に来たペガサスに見られ、この話をしたら「アンビリーボー!」の言葉と共にペガサスの所に引き取られたという経緯になる。
しかしそんなペガサスやデュエリストとしてはアルマよりも強い月行と夜行でさえデュエルモンスターズの精霊の姿が見えない事にアルマは訝しんだ表情を見せていた。
[ま、精霊を見るっていうのはデュエルの実力とはまた違う資質もいるからねー]
というのは当のブラック・マジシャン・ガールの言葉である。
「まあ、それはともかく。食事にしましょう。サンドイッチくらいしか用意できませんでしたが」
「ありがとうございます、月行兄さん」
月行があらかじめ用意していたらしいサンドイッチ入りのランチパックを取り出してアルマに手渡し、アルマもお礼を言ってサンドイッチを食べ始める。
今日はアルマはこれからデュエルアカデミアへの編入試験を行う。その会場──ペガサスのコネを通して無理を言った手前教員を島外の会場に派遣させることも心苦しく、デュエルアカデミア本島での試験という事になっている──へと向けてヘリコプターが飛んで行くのであった。