遊戯王GX~ペガサスミニオンの末っ子が魔法少女と共に行くデュエルアカデミア紀行~   作:カイナ

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後編

 デュエルアカデミア。現在のデュエルになくてはならないデュエルディスクの開発とそれに使用するソリッドビジョンシステムの発明などデュエルの発達に多大な貢献をしたと言っても過言ではない天才、海馬瀬戸が設立しオーナーを務めている、まさしく未来のデュエル界を担うと言っても過言ではないエリート決闘者(デュエリスト)を養成する機関。

 その本校が存在する島の特設デュエルアリーナは現在大勢の学生で賑わっていた。

 

「にしてもすげー騒ぎだな」

 

 きょろきょろと辺りを見回しながら赤い制服──このデュエルアカデミア本校において最底辺を意味するオシリスレッドの制服だ──を着用した青年──遊城十代が呟く。

 普段から式典やイベントなどの特別なデュエルで使われる特設アリーナだが、今回はそこに全校生徒といっても過言ではない数の生徒が集合。別に集合する義務があるわけでもない、任意で見学できる編入試験デュエルにここまでの人数が集まることに十代がぼやくと、それを隣で聞いた小柄で眼鏡の少年が「当然っすよ」と返す。

 

「今回編入試験を受ける人って、あのI2(インダストリアル・イリュージョン)社から推薦を受けて試験を受けるって話なんすよ!」

 

「しかも、噂によると推薦を出したのはI2社名誉会長のペガサス・J・クロフォード氏だっていう話なんだなぁ」

 

 翔に続けて言うのは太った体型にコアラのような顔をした青年──前田隼人。その言葉に十代がおぉっと歓声を上げて目を輝かせた。

 

「会長さんって偉いんだろ!? そんな人が推薦出したって事はきっとすごいデュエリストなんだろうなぁ! 早く席探そうぜ!」

 

「え、偉いも何もデュエルモンスターズの生みの親っすよ! 当たり前ってアニキ待ってよー!」

 

 十代はそう言うや否や空いている席を探しに走り出し、翔と隼人もその後を追って走り出す。

 それから彼らが見つけて座った席の隣や近くには万丈目や三沢、明日香といったいつものメンバーが勢揃いしており、十代が興奮しながら万丈目に話しかけて万丈目がうっとうしそうにあしらったり、I&I社会長から推薦を受けたという編入生の話題で話したりしている内に、今回の編入試験で試験官を行う教師がデュエルスペースへと姿を現す。

 黒い髪をオールバックにし、眼鏡をかけた長身の教師。薄紫色のデュエルコートは教育実習生を意味するデュエルアカデミアの教師の制服だ。

 

「教育実習生が編入試験の相手すんのか?」

 

「それくらいに編入生の実力が評価されているという事かしらね……それにしても、龍牙先生ねぇ……」

 

 十代の呟きに明日香が返した後、何かをぼやく。十代がどうしたんだと言いたげに首を傾げると、三沢も曖昧な表情を見せた。

 

「彼には嫌な噂があるんだ」

 

「なんすか、噂って?」

 

「実習生はデュエルアカデミア採用の条件に生徒50人とのデュエルがある。対戦相手は学校の方から指示され、そのデュエル内容で評価が決まる。龍牙先生は今のところ49連勝、仮に彼が50人目としてカウントされるとすれば、それに勝利すれば50連勝。そうなればデュエルアカデミアへの採用はほぼ決まりだろうな」

 

「……って、どこが嫌な噂なんだよ。スゲェじゃん」

 

 三沢の言葉に十代が怪訝な表情を見せると、三沢は周りを気にするようにきょろきょろと顔を動かして周りを確認。自分達以外誰も聞いていない事を確認すると声を潜めた。

 

「噂というのは、負けた生徒からカードを奪っているらしい。ということなんだ」

 

「なんだそりゃ!? ヒデェな!!」

「そ……そういえば最近生徒がカード忘れたって実技授業休んでたけど……」

 

「まあ、あくまでも噂だからね……負けた生徒が悔しくて言っちゃっただけかもしれないし。ね?」

 

 三沢の言葉に十代と翔が声を上げると、明日香はあくまでも噂だと念押しした。

 それから編入試験を受ける件の受験生──アルマも入場。デュエルスペースに上がって龍牙と向かい合うとにこりと微笑んで一礼した。

 

「アルマ・フリゲートです。よろしくお願いします」

 

「私はデュエルアカデミアの教育実習生、龍牙と申します。これからデュエルアカデミアに入る者同士、お互い良いデュエルにしましょう」

 

 アルマの挨拶に龍牙も人当たりの良い挨拶を返し、互いにデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!!!」」

 

 そして挨拶もそこそこに二人の声が重なり、編入試験デュエルの幕が上がるのであった。

 

「ふ~ん、アルマって事はアイツ外人なのかな?」

 

「そうだろうな。だが、なら何故外国のデュエルアカデミアを受けないんだ?」

 

「聞いた話では、デュエルキング武藤遊戯に憧れて、その出身国日本にあるデュエルアカデミアへの進学を希望したそうだ」

 

 十代が相手の名前や見た目から外国人と判断、万丈目が出身国のデュエルアカデミアへ進学すればいいもののわざわざ日本にやってくることを不思議に思い、そこに三沢が噂を元にした話を伝える。

 そんな話をしている間に、先攻を取ったらしいアルマがドローフェイズに入り、デッキからカードをドロー。その手札の一枚を見て僅かに笑みを見せ、その手札を取るとデュエルディスクへと置いた。

 

「僕は、[ベリー・マジシャン・ガール]を攻撃表示で召喚!」

ベリー・マジシャン・ガール 攻撃力:400

 

 アルマの場に現れるのはオレンジ色の髪を顔の両側から垂れ下がるように伸ばし、口におしゃぶりを銜えた妖精のような可愛らしい魔法使いのモンスター。しかし彼女の被っている帽子、そしてそのカード名に会場がざわついた。

 

「マ、マジシャン・ガール!?」

「カード名、それにあの姿……デュエルキング、武藤遊戯が使っていたブラック・マジシャン・ガールによく似ている……それの系譜のシリーズか?」

「可愛いモンスターっす……」

「だが、あんなカード見た事がないぞ」

 

 明日香がその姿と名前に驚き、万丈目がデュエリストなら知らぬ者のいないデュエルキング武藤遊戯の使用カードを思い出し、翔がかわいいモンスターだと見惚れる。最後に三沢が己の知識を総動員するが、秀才と言われる彼をして見たことないカードだと結論付けるしかなかった。

 

「ベリー・マジシャン・ガールの効果発動! このカードが召喚に成功した場合に発動でき、デッキからマジシャン・ガールモンスター一体を手札に加える。僕は[レモン・マジシャン・ガール]を手札に加えます」

[バブ、バブブー!]

[あたしをお呼び? オケオケ、まっかせといて!]

 

 

「おぉ! 他にもいるのか!」

 

 

「そして僕はリバースカードを二枚セットして、ターンエンドです」

 

 アルマの言葉と共にベリーが仲間を呼び、新たな魔法少女(マジシャン・ガール)が彼の下へ馳せ参じる。自分の知らない未知のカードを前に観客席の十代は目を輝かせていた。それを余所にアルマはさらに二枚のカードを伏せてターンエンドを宣言する。

 

(ほう、マジシャン・ガール……見たことないカードだな。つまりは相当のレアカードのはず)

 

 龍牙は五枚の手札で隠した口元をニヤリと歪める。

 先ほど明日香達が話していた噂、それは真実。彼はカードコレクターを名乗り、負けた生徒が自分の持っていない、あるいはレアカードを持っているとそれを無理矢理奪い取っていた。そして未来のデュエル界を背負うデュエルアカデミアの生徒を相手に49連勝を行っているのにもカラクリがある。

 龍牙は自分の眼鏡の左目部分のフレームの左部分に指をツンと当てる。すると眼鏡のフレームに仕込まれていた小型のボタンが押され、ピッと辺りに聞こえない程の小さな音が聞こえ、同時にその眼鏡に不自然な、しかし周りからは怪しまれない程度の微弱な光が宿る。龍牙は眼鏡越しに彼のデュエルディスクを視認した。

 

(あの伏せカードは……[魔法の筒(マジック・シリンダー)]に[マジカルシルクハット]。なるほど、この二つの罠で防御しようってわけか……なら)

 

 眼鏡越しに伏せカードを見るとその内容が確認できる、これが彼の眼鏡に仕込まれたスキャン機能。これによってデュエルディスクにセットされたカードはもちろん、彼の手札、そしてデッキも上から数枚程度なら確認可能。厳密にはイラストが分かる程度でテキストまでは分からないのだが、そこは彼自身のカードコレクターとしての知識で補っていた。

 つまり龍牙は常に相手のセットカード、手札、デッキの上から数枚を確認できる状況でデュエルしているイカサマを行っている。これが49連勝を成し遂げた実態だ。

 

「私は速攻魔法[サイクロン]を発動! あなたの右側の伏せカードを破壊させてもらいます!」

 

「く……」

 

 龍牙がデュエルディスクにカードをセットすると、フィールドに発生した竜巻がアルマの場の伏せカードを一枚煽り、破壊。二つのカラフルな筒が描かれた赤色のカードを視認した龍牙がふむと呟いた。

 

魔法の筒(マジック・シリンダー)のようですね。これは運が良い、これで遠慮なく攻撃できます……私は[ジャイアント・レックス]を攻撃表示で召喚!」

ジャイアント・レックス 攻撃力:2000

 

 彼の場に出現する巨大な恐竜。その姿にベリーがぎょっとしたようにおののいた。

 

「バトルです! ジャイアント・レックスでベリー・マジシャン・ガールを攻撃!!」

 

「この瞬間、リバースカードオープン[マジカルシルクハット]!! 相手バトルフェイズに発動でき、デッキから魔法・罠カード二枚を選び、それを攻撃力・守備力0の通常モンスター扱いとして自分のメインモンスターゾーンのモンスター一体と合わせてシャッフルし、裏側守備表示でセットします」

 

 攻撃宣言の瞬間アルマがリバースカードを発動。彼の場に三つのシルクハットが出現し、ベリーがその内の一つに隠れると三つのシルクハットが高速で位置をシャッフル。ベリーを隠したままアルマの壁になって立ちはだかった。

 

(ククク、無駄な事を……)

 

 しかし龍牙は心中でその無駄な抵抗を嘲笑い、眼鏡越しにセットカードを確認。一番左のセットカードがベリー・マジシャン・ガールであると確認した。残る囮のカードはどうせ破壊されるからどうでもいいと打ち切った龍牙は、左側のシルクハットを指差した。

 

「私は左側のシルクハットに攻撃!」

 

「嘘!?」

 

 龍牙の指示を受けたジャイアント・レックスが突撃、シルクハットを食い破るとその中に隠れていたベリーをも一踏みで踏みつぶしてしまう。

 

「三分の一を当ててくるか……あいつなかなかやるな」

 

 それを観客席で見た万丈目もイカサマを知らないからとはいえ少し感心したようにそう呟いた。

 

「これでバトルフェイズは終了。同時にマジカルシルクハットも破壊される。そうですね?」

 

「はい。マジカルシルクハットの効果でデッキから特殊召喚したカードはバトルフェイズの間しか存在できず、バトルフェイズ終了時に破壊されます」

 

 龍牙の促し通り、残った二つのシルクハットがぷくりと風船のように膨らんでパァンと破裂。しかしその瞬間、その破裂したシルクハットの一つが一枚の赤い枠のカード──トラップカードへと変じた。

 

「なんだ!?」

 

「破壊された[マジシャンズ・プロテクション]の効果発動! このカードがフィールドから墓地へ送られた場合、自分の墓地の魔法使い族モンスター一体を特殊召喚する。戻っておいで、ベリー!」

 

[バブー!]

ベリー・マジシャン・ガール 攻撃力:400

 

 

「上手いな。仮に当てられた時の保険をかけていたか」

 

 マジシャンズ・プロテクションの中からベリーが出現、アルマの場で杖を構える。三沢がそのプレイングを見て確実にベリーを生き残らせるための方策を取っていたことを褒めた。

 

「く……私はリバースカードを一枚セットしてターンエンドです」

 

 結果的に自分の攻撃を無傷で受け流す事に成功したアルマを前に龍牙は悔しそうに唸り、カードを伏せて次のターンに備え、ターンエンドを宣言。

 観客席の万丈目はそれを見下ろしながらふと口を開いた。

 

「それにしても……I2社、しかもその名誉会長であるペガサス・J・クロフォード直々の推薦。そして教育実習生の採用試験の相手にされるほどか……」

 

「どうしたんだ、万丈目?」

 

「いや、ちょっとした与太話を思い出しただけだ」

 

「与太話? 何かあるの、万丈目君?」

 

 万丈目の様子が変わった事に十代が気づいて問いかけ、彼はつまらない事だと首を横に振るが、続けて明日香に問われるとどこか得意気に笑った。

 

「ペガサスミニオンという話だよ、天上院君」

 

「なんすかそれ?」

 

 万丈目の言葉に翔が首を傾げ、三沢が「聞いたことがある」と答えた。

 

「まず前提だが、ペガサス会長は独身でその血を分けた実子がいない……噂では若い頃の恋人を忘れられず、伴侶を取る気がないらしい」

 

「へ~……なんかロマンチックな話っすね」

 

 三沢の説明を受けた翔が「初恋の恋人に操を立てる」というロマンチックな話だと感嘆の声を出した。

 

「その界隈では有名な話だ。長作兄さんと正司兄さんも万丈目一族の本家筋に丁度いい年代の女性がいない事を残念がっていたからな」

 

 万丈目がひょいと肩をすくめて答える。ペガサス・J・クロフォード、デュエルモンスターズの生みの親であり、カード界に知らぬ者はいない偉人。もしそれと義理とはいえ親戚関係になれればカード界に大きな影響力を生み出せるのは想像に難くない。

 

「だがしかし、I2社の後を任せる後進を育てないわけにもいかないからな。そこでペガサス会長は世界中の身寄りのない子供を集めて育て、その中でも特に才能ある子ども達には特別な教育を施していた……それこそゲームやカードのデザイン、経営学、そしてデュエリストとしてもな……それがペガサスミニオン。現在ペガサス会長の後継者候補筆頭として若くしてI2社の幹部となっている兄弟も、そのペガサスミニオンだという噂だ」

 

「ペガサスミニオン……会長さんに認められる程のデュエルの才能の持ち主かぁ……」

 

 万丈目の話を聞き終え、十代はどこか期待に満ちた目でデュエル場を見下ろした。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 話がひと段落し、視点がデュエル場へと戻る。アルマはデッキからカードをドローした後、それを手札に入れると別の手札を取った。

 

「僕は[レモン・マジシャン・ガール]を召喚!」

レモン・マジシャン・ガール 攻撃力:800

 

[イエーイ!]

 

 アルマの場に現れるのは、レモンの名の通り黄色の衣装に身を包んだ、小麦色の肌をした魔法少女(マジシャン・ガール)。登場と共にノリノリで片目の前で横向きピースを見せた。

 

「そしてレモンの効果発動! 一ターンに一度、レモン以外の自分フィールドのマジシャン・ガールモンスター一体を生贄に捧げる事でデッキから魔法使い族モンスター一体を手札に加える事が出来る。僕はベリーを生贄に捧げ、[チョコ・マジシャン・ガール]を手札に加える」

 

[いくよ、ベリー!]

[バブバブー!]

 

 アルマの指示を受けてレモンがベリーの足元に魔法陣を張り、ベリーがそれに吸い込まれるように消えていく。

 

[ウフフ、ありがとうねベリー。後は任せておいて]

 

 そして彼女と入れ替わるように魔法陣から新たな魔法少女が現れ、自分を呼ぶための力になってくれたベリーへ感謝の言葉を述べてアルマの手札に入る。

 

「僕はリバースカードを一枚セットしてターンエンドです」

 

 最後にアルマは手札を一枚セットし、ターンエンドを宣言した。

 

「さっきからこの私ですら知らないカード……私のターン、ドロー!」

 

 龍牙はカードコレクターを名乗る自分をして知らないカードを前に僅かな高揚を隠せず、このデュエルに勝った後どうにかして奪う方法はないかと考えながらカードをドローする。

 

(伏せカードは……なるほど……ふん、乗ってやるか)

 

 スキャン機能付き眼鏡で伏せカードを確認した龍牙は、ふんと鼻を鳴らして戦術を決定。手札を一枚取った。

 

「私は[俊足のギラザウルス]を特殊召喚。このカードは手札から特殊召喚する事が出来、この時、相手プレイヤーは墓地からモンスターを一体特殊召喚出来る。遠慮はいらない、特殊召喚したまえ」

俊足のギラザウルス 攻撃力:1400

 

「では遠慮なく、ベリーをもう一度特殊召喚!」

ベリー・マジシャン・ガール 守備力:400

 

 三度彼の場にベリーが登場し、守備の構えを取る。その瞬間、龍牙の場のカードが翻った。

 

「この瞬間トラップ発動[狩猟本能]! 相手フィールド上にモンスターが特殊召喚された時に発動する事ができ、手札から恐竜族モンスター一体を特殊召喚する! 私は[暗黒(ダーク)ドリケラトプス]を特殊召喚!」

暗黒ドリケラトプス 攻撃力:2400

 

 俊足のギラザウルスのデメリットまで利用した上級モンスターの召喚に観客の学生が歓声を上げ、龍牙は歓声に気を良くしつつ、アルマが動かないと見てさらにダメ押しのように手札を取る。

 

「続けて私は俊足のギラザウルスを生贄に捧げ、[超古代恐獣(エンシェント・ダイノ)]を召喚!! 超古代恐獣はレベル7だが、恐竜族モンスター一体を生贄に捧げる事で表側攻撃表示で生贄召喚出来る!」

超古代恐獣 攻撃力:2700

 

 さらに今度は生贄の数を軽減させての最上級モンスターの召喚に繋げる。生徒の所々から「すげえ」という声も漏れだした。

 龍牙はアルマの動きを伺うように彼を見るが、アルマはまだ動く様子を見せず、龍牙は怪訝な目を見せた。

 

「……まあいい。バトルだ! まずはジャイアント・レックスでレモン・マジシャン・ガールに攻撃!!」

 

 もしかすれば相手は雑魚しかいないのにこちらは上級・最上級モンスターが出て戦意喪失しているのかもしれない。そう思った龍牙はジャイアント・レックスでの攻撃を宣言、龍牙の場では一番攻撃力が低いが、それでも下級モンスターとしてはトップレベルの攻撃力を持つ恐竜がレモンへと突進する。

 しかしその瞬間レモンがキッと目を鋭くして杖を構え、アルマもこの瞬間を待っていたというように声を上げた。

 

「レモンの効果発動! 一ターンに一度、このカードが攻撃対象に選択された場合に発動でき、手札から魔法使い族モンスター一体を効果を無効にして特殊召喚する! 僕は手札の[アップル・マジシャン・ガール]を効果を無効にして特殊召喚!」

アップル・マジシャン・ガール 攻撃力:1200

 

[お願いアップル!]

 

[ええ、任せなさい!]

 

 レモンが杖を構えて呪文を詠唱、彼女の前に出現した魔法陣から林檎のように赤い衣装を纏った新たな魔法少女(マジシャン・ガール)が登場した。

 

「レモンの効果はまだ続く! 魔法使い族モンスターの特殊召喚後、攻撃対象をそのモンスターに移し替え、攻撃モンスターの攻撃力を半分にする!」

[押し付けばっかと思わないでよね!]

 

「なにぃ!?」

ジャイアント・レックス 攻撃力:2000→1000

 

 レモンの杖から放たれた魔力の波動がジャイアント・レックスを怯ませて攻撃力をダウンさせ、そこ目掛けてアップルが飛び上がった。

 

[さあくらいなさい、林・檎・爆・裂・破(アップル・バーニング)!!]

 

「ぐあぁっ!」LP4000→3800

 

 アップルの杖から林檎の形をした魔力の炎が放たれ、ジャイアント・レックスがその炎に焼き尽くされつつ火の粉が龍牙にダメージを与える。

 

「ぐぅ! だがその効果は一ターンに一度、次の攻撃は防げない!」

 

「はい。アップルの効果も無効になっている。つまりこれ以上皆に対抗策はありません……皆にはね?」

 

「なに?……はっ、まさか!?」

 

 アルマの含みのある言葉に龍牙が気づいた瞬間、彼の場のカードが翻った。

 

「トラップ発動[つり天井]! フィールド上にモンスターが四体以上存在する場合に発動する事ができ、フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する!」

 

「このタイミングで!?」

 

 

「自分のモンスター諸共!?」

「あ、あんな可愛い子を!?」

 

 アルマの発動したカードに龍牙が目を剥き、十代が声を上げ、翔が頭を抱えて悲鳴を上げる。

 フィールドの上空に無数のトゲが生えた天井が出現。全てのフィールドのモンスターを串刺しにしようと落下しモンスターに迫り、ガシャァンという音を立てて地面に直撃。バキバキッと下にある物全てが押し潰されたような音が響いた。

 

「ぬぅ……このままでは全滅は免れないとはいえ、自分のモンスター諸共全てを破壊するとは……」

 

「お言葉はごもっともですが……これでも被害は最小限に抑えるつもりですよ?……この瞬間、アップル・マジシャン・ガールの効果発動!」

 

 龍牙の言葉に対するアルマの宣言と同時、地面に落下したつり天井の上部にポンッと音を立てて煙幕が出現。

 

[じゃじゃーん!]

 

 その煙の中からまるで脱出マジックに成功したマジシャンのように決めポーズを取りながらアップルが姿を現し、彼女はどこからともなく人が二人くらい中に入りそうな直径のリングを取り出して片手で持つと地面と平行に向ける。

 するとリングからカーテンが地面に向けて伸び、アップルは「3、2、1」とリングを持ってない方の指を折ってカウントダウン。「0」と手を握りしめながらパッとリングを勢いよく持ち上げた。

 

[イエーイ!]

[バブー!]

 

 そのカーテンの中からレモンとベリーがこちらもポーズを決めて登場。さらに二人の決めポーズを合図にアップルが杖を一振りすると、二人の周囲からパンパンッという破裂音と紙吹雪が舞った。

 

『おおおぉぉぉぉーっ!!!』

 

「アップルが戦闘・効果で破壊された場合、このカード以外の自分の墓地のマジシャン・ガールを三体まで対象とし、手札に加える! 僕はレモンとベリーを手札に加える!」

 

 脱出マジックから出現マジックのコンボに観客から歓声と拍手が始まり、レモンとベリーは嬉しそうに手を振ってそれに応えながらアルマの元に戻る。天井の上部に残されたアップルも出番を終えた役者が舞台裏に下がるように、観客に一礼すると魔法陣を展開。その中に飛び込んで姿を消した。

 

「凄いっす! 破壊することまで想定内だったって事っすよね!」

 

「ただ破壊するだけなら龍牙先生が俊足のギラザウルスを特殊召喚し、彼がベリー・マジシャン・ガールを蘇生させた時点で発動条件は満たしていた……けれど敢えてそこでの発動を狙わず、僅かとはいえアップル・マジシャン・ガールによる戦闘ダメージを与え、さらにアップル・マジシャン・ガールのサルベージ効果の発動まで見越していたのなら……彼は相当な手練れね」

 

 全力で拍手する翔の近くで明日香が彼の一連のプレイングを分析、出来る限り最大限の成果を上げてみせた彼の実力を評価する。

 

「フフフ……なかなかやるようですね」

 

「ありがとうございます」

 

 龍牙もそのコンボにアルマを評価するような言葉を放ち、アルマも微笑んでお礼を言う。

 

「だがしかし! まだまだだ!」

 

「!?」

 

 その次に龍牙が叫んだその瞬間、地面に落下したつり天井がガタガタと音を立てて揺れ始め、やがて龍牙の場の方のつり天井がバキリとひび割れると粉砕、そこから超古代恐獣が立ち上がった。

 

「そんな!?」

 

「私はつり天井の発動にチェーンして手札から速攻魔法[禁じられた聖衣]を発動していた! このカードの効果により、フィールドの表側表示モンスター一体はこのターン終了時まで攻撃力が600ダウンし、効果の対象にならず、効果では破壊されない! 私はこれで超古代恐獣をつり天井による破壊から守ったのだ!

 まだバトルは終わっていない! 超古代恐獣でダイレクトアタック!!」

超古代恐獣 攻撃力:2700→2100

 

「うわあああぁぁぁぁっ!!」LP4000→1900

 

「私はこれでターンエンド。この瞬間禁じられた聖衣の効果が消え、効果耐性と攻撃力ダウンが消滅する。さあ、君のターンだ」

 超古代恐獣 攻撃力:2100→2700

 

 全滅と思わせて自分のモンスターを一体とはいえ守り切り、大ダメージを与える。その手腕に生徒達が「おぉ」と控えめに騒ぎ、龍牙が得意気に笑ってターンエンドを宣言するとアルマは「僕のターン!」と宣言してカードを引いた。

 

(これであいつの手札は六枚、だが……)

 

 龍牙は笑みを浮かべて相手の手札をスキャンする。六枚、無限の手札のようなルール介入型カードがない限りルール上プレイヤーがエンドフェイズ以降手札に保持できる限界の枚数だが、その内の三枚はサーチやサルベージで手札に加えたマジシャン・ガールだと分かっている。

 

(残る三枚も……ま、恐れるようなカードではないか)

 

 スキャンした未知の三枚のカードもこの状況をひっくり返すものではないと予想でき、恐るるに足らずと切り捨てる。

 

「僕は[チョコ・マジシャン・ガール]を召喚して、効果発動! 一ターンに一度、手札から魔法使い族モンスター一体を捨てる事で、デッキから一枚ドローする。僕は手札からベリーを捨てて、一枚ドロー!」

チョコ・マジシャン・ガール 攻撃力:1600

 

[ウフフ。いつもありがとね、ベリー。また助けてもらうわね]

 

[バブー]

 

 チョコがベリーにぱちりとウインクしてお礼を言い、ベリーも頷くとチョコが描いた魔法陣に消えていく。そしてそこから吐き出されたカードがアルマの手に渡って新たな手札となった。

 

(スキャンしてっと……!?)

 

 もちろん龍牙もスキャンは忘れない。だがその瞬間、彼の目がぎょっと見開かれ、身体が驚いたようにのけぞる。

 

「あれ、どうかしました?」

 

「あ、ああいや、なんでもありませんよ。続けてください」

 

「はい。僕はカードを一枚セットしてターンエンドです」

 

 攻撃力が劣るモンスターを攻撃表示、効果の発動のための敢えてか、罠を張って誘っているのか、と生徒達が考える中。龍牙はニヤリと笑みを深めた。

 

「(これはラッキーだ……こんなところであのカードが拝めるなんてなぁ…)…私のターン、ドロー! バトルだ! 超古代恐獣でチョコ・マジシャン・ガールを攻撃!!」

 

 主からの攻撃指示を受けた超古代恐獣が頭をもたげ、チョコの立つ方目掛けて口を開けながら頭を振り下ろすと口からレーザー状のブレスが放たれる。それに対してチョコが杖を構えると同時、彼女の前に魔法陣が出現した。

 

「チョコの効果発動! 一ターンに一度、このカードが攻撃対象に選択された場合、チョコ・マジシャン・ガール以外の自分の墓地の魔法使い族モンスター一体を特殊召喚する! 僕は墓地の[アップル・マジシャン・ガール]を特殊召喚! もちろんその後、攻撃対象をそのモンスターに移し替え、攻撃モンスターの攻撃力を半分にする!」

[いくわよ!]

アップル・マジシャン・ガール 攻撃力:1200

 

「そいつも似たような効果を……だが攻撃力はまだこちらが上だ!」

超古代恐獣 攻撃力:2700→1350

 

 チョコの援護によってブレスの威力が弱まるが、それでもまだ魔法陣から呼び出されて彼女を守る壁役になったアップルでは迎撃しきれない。だがしかし、それならばとアップルが杖を構えた時、さらに彼女の目の前に魔法陣が出現した。

 

「え?」

 

「アップルの効果発動! 一ターンに一度、このカードが攻撃対象に選択された場合に発動でき、手札からレベル5以下の魔法使い族モンスター一体を特殊召喚する。その後、攻撃対象をそのモンスターに移し替え、攻撃モンスターの攻撃力を半分にする! おいで、レモン!!」

[おっまかせー!]

レモン・マジシャン・ガール 攻撃力:800

 

「なんだと!?」

超古代恐獣 攻撃力:1350→625

 

 アップルの放つ魔力の波動がさらにブレスの威力を弱め、レモンでも迎撃可能な威力になる。

 だが龍牙はこの流れで勘付く、同じ事がもう一度行われる、と。何故ならレモンもまた手札から魔法使い族モンスターを特殊召喚する効果がある事を先のターンで見ている。

 そして彼の手札には──

 

「レモンの効果はさっきのターンでご存知ですよね? 僕は手札から魔法使い族モンスター一体を、効果を無効にして特殊召喚する!」

 

 レモンがさらなる仲間を呼ぶ魔法陣を展開し、アルマがそこから呼び出されるべき仲間が描かれたカードをデュエルディスクへとセット。瞬間、レモンが展開した魔法陣から虹色の魔力が煌めき、魔法陣から一体の可愛らしい美少女が出現する。

 水色のトンガリ帽子に衣服、ブーツという衣装に金色の長い髪。くるくると巻かれたロールケーキのような先端の杖を持つその姿はデュエルモンスターズを知る者ならば知らない者はいないと言っても過言ではない。その証拠にデュエルアカデミアの生徒は全員が、その姿を見て呆然としている。

 そしてアルマも、その魔法少女(マジシャン・ガール)の名を高らかに宣言する。

 

「僕は[ブラック・マジシャン・ガール]を特殊召喚!!!」

[真打ち登場! ってね♪」

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力:2000

 

「ま、まさか……」

超古代恐獣 攻撃力:625→313

 

 

「ブ、ブッブブブブブラック・マジシャン・ガール!? アニキ! ブラック・マジシャン・ガールっす!?」

 

 杖を肩に担ぐような格好でしなを作りポーズを決め、可愛らしくウインクするブラック・マジシャン・ガールの姿に龍牙が目を見開き、観客席の生徒がざわめく。翔に至っては興奮のあまり十代の胸倉を掴んで彼をがっくんがっくん揺さぶっていた。

 

「レモンの効果により、ブラック・マジシャン・ガールが攻撃対象に変更される! そして手札の[キウイ・マジシャン・ガール]の効果発動! このカードを手札から捨てて発動でき、自分フィールドのマジシャン・ガールの攻撃力・守備力はターン終了時まで、お互いのフィールド・墓地のマジシャン・ガールの種類×300アップする!!

 僕のフィールドのマジシャン・ガールはブラック・マジシャン・ガール、チョコ、アップル、レモンの四体、さらに墓地にベリーとキウイの二体、合計六種類存在する! よって攻撃力は1800ポイントアップ!!」

[いくよ、皆!!]

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力:2000→3800

 

「こ、攻撃力3800だと!?」

 

 半透明の姿でベリーとキウイがフィールドに出現。ベリーから橙色、レモンから黄色、アップルから赤色、チョコから水色、キウイから緑色の魔力が溢れ出し、そしてブラック・マジシャン・ガール以外のマジシャン・ガールズが杖をブラック・マジシャン・ガールに向けると、それぞれの色の魔力が彼女へと送られていく。

 そしてブラック・マジシャン・ガールが杖を掲げると、彼女から溢れ出した魔力が虹色の光の球となって杖の先に集まっていった。

 

[いくよー!! 虹・魔・導・爆・裂・破(レインボー・バーニング)!!!」

 

 掛け声と共に杖を振り下ろし、放たれた魔力の波動が螺旋を描いて超古代恐獣のブレスと激突、そのブレスを一瞬で吹き飛ばすと一気に超古代恐獣そのものをも貫いた。

 

「ぐわあああぁぁぁぁぁっ!! だ、だがまだだ! たかが超古代恐獣を倒しただけだ!」LP3800→313

 

 龍牙はギリギリで踏みとどまって吼え、メインフェイズ2に入って手札を一枚取った。

 

「魔法カード[光の護封剣]発動! これにより相手は三ターンの間攻撃できない!!(あいつの手札にも次のドローカードにもこの状況をどうにか出来るカードはない。今の内に態勢を立て直す…)…私はこれでターンエンドだ!」

 

「この瞬間、キウイの効果が終了。マジシャン・ガールズの攻撃力も元に戻る」

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力:3800→2000

 

 天から降り注いだ三本の光の剣がアルマからの攻撃を封じ、時間を稼ぐ。幸いにもスキャンした次の自分のドローカードは[強欲な壺]、それでドロー出来るカードには恐竜族にとってのサーチカードである[化石調査]があることもスキャンできている。これでドローを加速し、サーチで必要な恐竜族を持ってくればばまだ勝負は分からない。

 龍牙は己の逆転を信じ、ターンエンドを宣言した。

 

「僕のターン、ドローフェイズ」

 

 アルマがターンの開始を宣言し、ドローフェイズに入る。

 

「このドローの前に、墓地の[マジックブラスト]の効果発動! このターン、通常のドローを行う代わりにこのカードを手札に加える!」

 

「な、なんだと!? そんなカード、スキャンし――もとい、墓地に送られたところなど……」

 

 アルマの宣言に龍牙が絶叫し、生徒達も見覚えが無いカードにざわめく。

 

「……いや、あるぞ! たった一度だけ、あのカードを墓地に送るチャンスが!」

 

 そこで三沢がはっとしたように叫ぶ。「マジカルシルクハットだ!」と。

 

「あのカードはデッキから魔法・罠を一枚ずつ選び、モンスター扱いで裏側守備表示で出すカード。マジシャンズ・プロテクションともう一枚選んだカード、それがマジックブラストだったに違いない!」

 

 

「ご明察。僕は墓地の[マジックブラスト]を手札に加え、発動! 自分フィールドの魔法使い族モンスターの数×200ダメージを相手に与える! 僕の場に魔法使い族モンスターはレモン、アップル、チョコ、そしてブラック・マジシャン・ガールの四体!!」

 

「800ポイントのダメージ……」

 

 三沢の解説を聞いたアルマが感謝するようにぺこりと頭を下げ、改めてマジックブラストを手札に加え、発動。四人の魔法少女が杖に魔力を溜めていき、ダメージ量を計算した龍牙がひぃっとか細い悲鳴を上げる。

 

「理屈は分かった……だが、それはつまり……」

 

 魔力がチャージされていく光景を見ながら、万丈目が声を漏らす。明日香が震える声を口から紡いだ。

 

「彼は後攻ワンターン目の時点で、この状況を想定していた、ということ?……」

 

 即ち、モンスターでの攻撃が封じられ、バーンによるフィニッシュが必要になる。アルマは後攻ワンターン目の時点でそうなる事を予測し、その布石を打っていたという事になる。

 

「これが……ペガサスミニオン……」

 

 デュエルモンスターズの生みの親(ペガサス・J・クロフォード)に才能を認められた寵児(ミニオン)

 十代はその才の一角を目の当たりにし、どこか嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「皆! マジックブラスト発射ー!!」

 

[[[[マジックブラストー!!!]]]]

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」LP313→0

 

 直後放たれる四つの魔力の弾丸が光の剣をすり抜けて龍牙を貫き、彼のライフが0を示す。

 そして龍牙が仰向けに倒れ込んだ勢いで外れ、床に落ちた彼のスキャン装置付きの眼鏡がボンと音を立てて爆発した。

 

 

 

 

 

[というわけで。我らがアルマのデュエルアカデミア編入決定を祝して……かんぱーい!]

 

 ブラック・マジシャン・ガールがヒャッホーと言いたげな顔をしながらジュースを入れたコップを持ち上げて乾杯の音頭を取り、残るマジシャン・ガールズも同じくジュースを入れたコップを持ち上げて唱和する。なお彼女らの持つコップは精霊界のものであり、彼女ら自身と同じく精霊を見る事が出来ない者には見える事はない。

 ここは童実野町のあるホテルの一室。家に帰ればデプレがやかましそうだと判断した月行と夜行、そしてリッチーによって彼は秘密裏にホテルを取らされて編入試験の結果が出るまでここで過ごすように指示されていた。ちなみにデプレは縄で縛りつけて猿轡を嵌めて監禁しているらしいが油断は出来ないとして24時間体制の見張りをつけているらしい。

 

「……まだ決定じゃないんだけどね?」

 

[何を言っているんですか。一次試験の学力試験は当然満点、加えて実技試験でも試験官を倒している。となれば合格はほぼ決まったようなものではありませんか]

 

 キウイの果肉のような緑色の衣装に身を包む魔法少女(マジシャン・ガール)、キウイ・マジシャン・ガールが、ベッドに座ったアルマの呆れ顔でのツッコミにそう冷静に返答しながらキウイジュースを飲む。

 

[そーそー! アルマも少しくらいはしゃぎなよー!]

 

[バブー!]

 

 ふわふわなクッションの敷かれた椅子に座ってレモンジュースをかっぱかっぱと飲みながらレモンがはしゃぎ、哺乳瓶でベリージュースを飲むベリーも手足をパタパタさせる。

 

[ダメよ! 合格が決まってない以上はきちんと清く正しい生活をしないと! あんた達もアルマに変な事言わないの!]

 

 アップルがリンゴジュースを一気飲み後、ビシッとレモンとベリーを指差しながら注意。その近くでテーブルに腰かけてココアを飲むチョコが足を妖艶に組みながらひょいと肩をすくめ、呆れたような目を彼女に向ける。

 

[まったく、アップルは真面目すぎるわ。こういう時くらいちょっと羽目を外したっていいんじゃないの?]

 

[あーんーたーはー!!]

 

 真面目な委員長気質のアップルと飄々としたチョコがぶつかり合い、明るく騒ぐのが大好きなレモンと無邪気なベリーが「やれやれー!」「バブー!」と面白がり、クールなキウイがクスクスと笑いながらそれを見守る。

 あの(皆と出会った)頃から続くいつもの光景を見守るアルマの隣にブラック・マジシャン・ガールが腰を下ろした。

 

[合格はまあ、一応分かんないって事にして……じゃあ、勝利おめでとう]

 

「ありがと」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの言葉にアルマもお礼を返し、ブラック・マジシャン・ガールはニコニコと微笑んだ。

 

[ま、こういうのは合格したーって思って未来を想像した方が楽しいよね! デュエルアカデミア、どんなとこなんだろ……]

 

「そうだね……まあ、どんなところでも皆と一緒ならきっと楽しいよ」

 

 アップルとチョコの喧嘩がヒートアップして互いにほっぺの引っ張り合いのキャットファイトの様相を見せ始め、レモンとベリーもいつもの事だからと仲裁する様子もなく騒いでいる。キウイもクスクスと笑って見守っているが、いざとなったら自分が止めに入ろうと構えてはいる様子。

 アルマは友達、いや、もはや家族のような彼女らを見て穏やかに微笑んだ後、ブラック・マジシャン・ガールに目を向けて片手を挙げた。ブラック・マジシャン・ガールもそれに気づくとこちらも微笑を浮かべて手を挙げる。

 

「これからもよろしく、ノーマ」

 

[うん。よろしくね、アルマ]

 

 互いに物理的に触ることは出来なくとも心でそれを行うように、アルマとブラック・マジシャン・ガール――ノーマはベッドの上でハイタッチを行うのだった。




 思いついたので書いてみた。後悔はしていない。

 初めましての方は初めまして、カイナと申します。
 他の作品読んでくださっている方はいつもありがとうございます。

 本作はマジシャン・ガールのデュエルをちょっと書きたいなーって思ったのとそこに至る設定が思いついたことから書いてみました。
 なお「ブラマジガールは世界でただ一枚、武藤遊戯のデッキにのみ入っている」という設定は若干オミット気味でお願いします。ベリーからキウイのマジシャン・ガールズはアルマが彼女らの絵を描いたのを参考にペガサスが作ったって裏設定ですが、そこだけはどうしても上手い言い訳が思いつきませんでした。(汗)
 ブラマジガールだけはそういう理由でカードが作れず、後ろで応援担当って案もあったにはあったんですが、せっかくだから使わせたいと思い、解禁させていただきました。

 そして遊戯王GXの試験デュエルといえば相手はクロノス先生かモブ教師ですが、そう何度もクロノス先生に相手させるのも読者からすればマンネリだろうし、モブ教師に相手させるのもつまらないと思い、漫画GXの第一話に登場したイカサマ教育実習生、龍牙を相手にしてみました。
 漫画では彼は指輪に仕込んだ装置で相手のデュエルディスクのシステムを麻痺させて魔法カードの発動を封じるというイカサマを行っていましたが、それをやらせると今回の決めであるマジックブラストが使えないため、同じ漫画版遊戯王シリーズである漫画ZEXALのMr.ハートランドが行っていたイカサマ、マインド・X・レイ(X線を使って相手のデッキをスキャンし、眼鏡にその映像を映すイカサマ)のような技術を彼に使わせてみました。

 ちなみにペガサスミニオンについての設定の説明を主要キャラにさせる点において上流階級の御曹司だと明言されている万丈目を十代達の仲間扱いさせるためや、オリ主ことアルマ君が精霊を持っていることを十代達に見せるために、ある程度ストーリーを進めてから放り込んだほうがいいと判断して編入生という設定にしておりますが、多分本作現在では原作ストーリーはセブンスターズ編辺りだと思います。

 少なくとも万丈目が万丈目サンダーとして本校に復学して、万丈目一族のことをさらっと話している事から35話を過ぎてる事は確かですし……まあぶっちゃけ、読み切りだからその辺全然考えてません。(きっぱり)
 でも少なくとも42話の学園祭デュエルは過ぎてないと思います。何故かって?絶対こいつ(とマジシャン・ガールズ)絡ませた方が面白いじゃん!まあ書かないけど。
 ただ百代の話みたいな十代達二年生時の入学試験デュエルだと十代達が見に来るかどうかっていう点に不安があったので、「I2社から推薦を受けた生徒がデュエルアカデミアで編入試験を受ける」という話題性で無理やり十代達を押し込むのが一番手っ取り早いと判断した結果です。

 まあそんなわけで、最近長編を書く時間がなかなか取れずに短編ばっかりになってる感じがしますが、今回もその例に漏れずここで終了と相成ります。どうかご了承くださいませ。
 では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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