INFINITE STRATOS :BAREFOOT GEN 作:SHARKNADO
古めかしいSLから凄まじい音量の汽笛が2~3秒程度周囲に響き渡る。これは蒸気機関車における発車の合図として使われており、少しずつ「ガタン ガタン」とSLが動き出していく。
そんな中、SLに乗り込んだ3人組を駅のホームから見送る4人の姿が見える...
「元 政二 平山さん 元気でな」
「元おにいちゃん 政二おにいちゃん さようなら」
東京行きのSLに乗ったゲン 政二 平山の3人組に子連れの2人が別れの言葉を言う。政二から油絵の具を譲り受け励まされた事で画家として気力を取り戻し、ゲンに絵画の基礎を教え東京で絵描きのチャレンジをする事を勧めた
「星雅おじいさん 達郎 わしらは一流の絵かきになって戻ってくるぞ 元気でがんばれよ」
ゲンの隣にいた政二は一緒に絵画を学んできた星雅と達吉の2人に手を振り別れを言う
「元 達者でな しっかり頑張れ」
ゲンに見送りの言葉を言った隻眼の男は、ゲンがアルバイトをしていた看板屋『中尾工社』の社長
スクーターのパンクを部下の黒崎のせいにして殴り、娘の光子が白血病で死んだ際には光子の死をゲンのせいにして殴りかかってきたりと、責任転嫁の激しい性格でもあり、ゲンとは看板会社で決別して以来犬猿の仲であったが、ゲンの恋人であった愛娘 光子の死後、部屋に残された父親へのメッセージを兼ねた遺書を読んだのを境に戦争を美化し続けた己の愚かさを恥じ、核兵器と戦争を憎む平和主義者へと転じ、光子の遺書からゲンが愛娘の光子を心から愛してくれたことを知り、ゲンとも和解したのだった。
「ありがとう社長さん こんなに大金の餞別をくれて 大事に使います」
ゲンは中尾から貰った厚い封筒の餞別を握りしめお礼を述べる
「光子さんの思い出 大事にします」
「う うん ありがとうありがとう」
ゲンと中尾は互いに感謝を述べ合う。その2人の姿は少し前までお互い歪み嫌い合っていたとは思えない穏やかなものだった。
「お父ちゃん 隆太とムスビと勝子ちゃんによろしく言うてね」
「あぁ、夏江もわしらが帰ってくるまでに身体をすっかり治してくれえや」
立派な口髭を蓄え年老いた男 平山 松吉が自分の義理の娘 夏江にしばらくの別れを言う。松吉は東京へ逃避行した隆太と勝子、ボロボロになりながらも隆太達と一緒にいたいと決心し、ついていったムスビを追うべく、ゲン 政二と共に東京への旅へ向かうのだった。
ゲン達の見送りに来た夏江自身もゲンや隆太達と共に東京に行きたい気持ちが強かったものの治癒に向かっているとはいえ、医者や松吉から最低限以上の行動は控えるよう強く止められており、彼らが再び広島の地へ戻ってくることを待ち、闘病に励むこととなった。
「星雅さん わしの娘をよろしゅう頼んます」
「あぁ、あんたもしっかり頑張りんさい」
松吉と負けず劣らずの貫禄のついた口髭をなびかせる星雅は、東京で隆太達と会えるかどうかと若干不安を持った松吉をしっかり励ます。
SLはホームを離れ始めスピードを少しずつ上げていく。
「さようなら 元あんちゃーん政二おにいちゃーん 」
「元 政二 平山さん かんばれ」
「元 達者でなー」
「元 お父ちゃん 政二さん さようならーさようならー」
SLはホームからどんどん離れて行き、4人がホームからSLに乗った3人に手を振り、彼らの新たな旅立ちを見送っていく。
「夏江姉ちゃん 星雅おじいさん 達郎 社長さん さようならー」
「さようなら 元気でな みんな」
「みんな さようなら さようならー」
ゲン 政二 松吉の3人もSLの乗車口から身体を出し、ホームで手を振る天野 星雅、達郎、中尾 重蔵、大原 夏江の4人に手を振り返していく。
やがてホームから完全にSLが離れ、4人の姿が見えなくなってもゲンは乗車口から離れる事なく、広島の街並みを見続ける。
「さようなら 広島の街」
「さようなら 広島の山」
「さようなら 広島の川」
「さようなら 広島のみんな」
「さようなら わしを育ててくれた広島の空よ 大地よ・・・・・・」
ゲンは自分が生まれ育ち、自分の家族や友人、仲間達と共に育ち生き抜いて来た広島の地に別れと感謝を叫ぶ。ゲンのその目にはそんな広島への想いから涙が浮かんでいる。
「わしは自分の未来に挑戦するんじゃ」
「力いっぱいがんばるんじゃ 負けるもんか 負けてたまるか」
ゲンは自身の夢と決意を叫び通し、広島の地を眺め続ける。
SLは加速し、市街地から遠ざかっていき広大な麦畑の前を差し掛かっていく。
「ムッ 麦ふみじゃ」
ゲンは麦畑で農家の人々がカニの横歩きのように畑の畝を足で踏みつけていく様子を見つける。麦ふみと呼ばれる早春に麦の芽を足で踏みつける麦作の手入れの一つで、霜柱を防いで根張りを良くするために行われる作業だ。
ゲンは麦ふみの様子を見て、かつて下駄の絵付け職人でゲン自身と同じく絵画の道へと進んだ死んだ父親
「元 麦はのう 寒い冬に芽を出し何回も何回も踏まれ根を大地にしっかり張ってまっすぐに伸び やがて豊かな穂を実らせるんじゃ・・・ お前も麦のようになれ」
「踏まれても踏まれてもたくましい芽を出す麦になれ」
夕陽に浮かび上がった亡き父の幻影をゲンは見つめる。
その父の顔はゲンの決意に満ちた顔に微笑んだように見えた。
「わかっとるわいお父ちゃん」
「わしゃでっかい麦になったるわい」
ゲンは父の幻影にそう言うと腕を掲げ再び叫び出す。
「わしゃどんとな苦しみがおそってきても負けんわい カッパ カッパ 屁のカッパじゃ」
「わしゃとことん生きて生きて生き抜いてやらあ」
ゲンは父の姿が映し出された夕陽を眺め、拳を握り、希望と野望を秘めてそう叫んだ。
黒煙を派手に撒き散らし、SLは東京方面へと進路をとり、広島の地を離れていくのだった...
SLが走り出してから、もう既に8時間近くは経っただろうか。あたりは一面真っ暗な夜となり、SLは明かりを点けながら走行している。
もうかなり夜遅いが、ゲン達はイスで向かい合い、政二、松吉と雑談をしていた。
「政二さん 今はどの辺りを走っておるかのう」
「今はもう長野か山梨あたりのハズじゃ もうすぐ東京へ着くな」
政二はゲンの疑問に応える。
「政二さんは東京へ行ったことあるんか」
「あぁ あるぞ 戦争の前に家族と東京へ旅行に行ったんじゃ」
政二は太平洋戦争が始まる前、吉田家族と共に東京巡りへと出かけたことを思い出した。
まだ政二がピカで全身に火傷を負ってしまう前、戦争によって日本が荒れ果てる前の楽しい思い出。それは、かつての兄 英造と兄妻 ハナ、娘たちの冬子・秋子と共に東京の町並みを歩き、買い物を楽しみ、写生をしていた仲睦まじい光景だった。
「・・・・・・」
「政二さん・・・」
政二は急に黙り込み、悲しそうな顔を浮かべた。原爆の熱戦を浴びたばかりに全身に火傷を負い、そのために兄や兄妻 娘たち、周りの人間たちから嫌われ憎まれ、もう元の家族とは会えず、談笑することも出来ない。最初の頃に比べ、火傷跡は治癒してきているもののまだ目立っている。吉田家族から離れ、ゲンと隆太たちと過ごしていき、楽しい事辛い事を一緒に経験し生き抜いて来たが、かつての家族とはもう2度と楽しく過ごせない。政二はそう思いわずかに涙を浮かる。
そんな様子をみたゲンと松吉は口を開く。
「政二さん しっかりせえや わしらは東京で未来に挑戦するんじゃ そんなことでどうするんじゃ」
「どうだ 東京へついたらわしがごちそうするけぇ みんなで美味しいものを食べに行こうか」
「ガハハハ そりゃあええわい おっさん 太っ腹じゃのう」
政二の過去の事情を知らされていた松吉は暗くなった場を直そうと、ゲンと政二にそう提案した。
ゲンは笑い松吉の提案に賛同し政二もそんな様子を見て、いつもの和やかなムードになりそうな時だった。
突然辺り一面に強い閃光が走り、ゲンのSL車内部屋が激しく揺れ動く。そのただならない出来事に3人は動揺と混乱を隠せない。
「ゲ ゲン! これはただ事じゃないぞ」
「ギギ アメ公のやつら またピカドンを落としやがったんか!」
政二とゲンは叫び、かつての原爆の悪夢が脳内によぎる。アメリカが再び核兵器の使用をしたのかと..それもまた日本で。
ゲンと政二、松吉は車内に入ってくる激しい光に腕で目を隠してやり過ごすしかなかった。その間にも光と揺れはどんどん強くなっていく。
「グワッ」
「ううう」
「グググ」
外は夜の闇で真っ暗で電球のみが唯一の光だった室内は、昼以上の光に覆われて、これまで経験したことのないような揺れが襲う。そんな中3人は地面についていたハズの足が少しずつ浮き始めていることに気づき始める。それはまるで水の中でもがいているような感覚だ。
光と揺れが収まると3人の姿は何処にもなく、彼らのいた車内部屋は「ガタン ガタン」と線路を渡る音のみが支配する沈黙な空間となっていた.......
深夜、一台のトラックが砂利だらけの田舎道を通っていく。運搬車のトラックの前後ろに【広島⇔東京】のプレートが取り付けられており、東京へと荷物の運搬途中であることが伺える。
【←東京】と書かれた看板の隣を通り、砂利道で「ガタ ガタ」と揺れる中、トラックの内部に3人の人影が見える。
「勝子 寒うないか」
「隆太とならちっとも寒うないよ」
2人の男女、
「隆太がんばろうね 東京へついたらうちゃ一生懸命がんばるけぇね」
「勝子 わしもがんばるよ」
隆太と勝子は東京へ着いた時の事を想像に膨らませていく。お金を貯めて広島では叶えなかった洋裁店を東京の地で開店させ、支店を日本中に建てるか。或いは東京でデザイナーとして更なる技術を学び競い合い、世界へと飛び立って活躍するか。希望を秘めて想像をしていると2人からは自然と笑いが溢れてくる。
「フフフ」
「フフフ」
「ガハハハ 2人とも アツアツ..じゃのう」
藁の敷物に包まっている2人の隣にもう1人の影がそういい起き上がって出てくる。顔色は悪く怪我だらけで包帯を巻き、今回の隆太達の東京逃避行のキッカケを生み出した少年。
「わりゃあ ムスビ 麻薬中毒のけが人はひっこんどれ」
「ムスビ まだ横になってないといけんよ」
ムスビと呼ばれた少年は隆太、勝子と共に広島で生き抜いてきた孤児仲間で、勝子と夏江の夢であった洋裁店開店の為に隆太や彼らの父となってくれた松吉と共に働き通し、建設資金を集めていた。
ところが女給にうかつに釣られて入店したバー「マドンナ」のマスターに、総合ビタミン剤と偽られて麻薬を注射され中毒にされてしまった事で彼らの事態は悪化してしまった。薬物依存症に耐えきれず、うっかりゲンたちの前で麻薬を使おうとしてバレてしまった為に居たたまれなくなって家を飛び出し、隆太たちと洋裁店開店のために貯めてきた郵便貯金60万円を使い果たしてしまったのだ。結局金は底を尽き、我慢できずにバーのマスター宅に麻薬を盗みにいったが見つかり、酷い暴行を受けて川辺に投げ捨てられしまい、虫の息になりながらも隆太達のところに帰り着き、貯金のことなどを打ち明けて謝罪するが、「金はまた貯めればいい」と自分を許してくれた皆に感激し、力尽きて倒れ込んでしまった。
「おどりゃーっ わしゃ許さんぞーっ ピカで生き残った大事な仲間をよくもやりやがったのう」
「皆殺しじゃーっ ムスビのかたきをとったるわいっ」
この事が隆太の怒りに触れ、家の隅に隠してあったM1917ピストルを持ち出し復讐を決意。一緒にムスビの復讐をしようとしたゲンをピストルのハンマーで殴りつけ、気絶させると
「あんちゃんは来たらいけん・・・・・・ あんちゃんは汚れたらいけん・・・・・・」
「汚れるのはわしだけで十分じゃ わしゃ二人もヤクザを殺しとるけぇのう・・・・・・」
そう言い、倒れ込んだゲンを見つめる。終戦後に自分達を騙して食料を手に入れ、ゲンを半殺しにしたヤクザの大場と三次を拾った旧日本軍の拳銃で撃ち殺した際のあの嫌悪感は今でも身に染みている。自分の兄には自分のように一線を越えて、薄汚れてほしくはなかったのだ。
その後、隆太は単独でバー「マドンナ」のマスターとマスターに麻薬を仕入れていたヤクザ2人を射殺し、隆太は警察への自首をしようとするも勝子とゲンに止められて共に逃げ出す事を決意。隆太と勝子、そしてボロボロになりながらも隆太と勝子と一緒にいたいと強く願い出たムスビの3人は、ゲン達と別れ今の運送トラックの荷台に乗って東京へ逃避行する事となった。
「おどれを連れてくるんじゃなかったわい ええ足手まといじゃ」
隆太はキズだらけのムスビを見つめ、愚痴をこぼす。明らかにボロボロで不健康で死にそうなムスビを狭いトラックの荷台に寝かせ、東京まで連れて行くという無茶振りを敢行した隆太は内心後悔していた。
「やっぱり広島に置いて入院させた方が良かったんよ ムスビの身が心配よ」
「だ 大丈夫じゃ 痛みの方が強いせいか..麻薬への欲求は おさまってきたわい・・・」
勝子の心配にムスビは明らかに不健康そうな様子で応える。かなり無理しているのは明らかであった。
そんな2人の心の負担を減らそうと隆太が声をかける。
「わしらの人生は東京で再出発するんじゃ 今度こそ悪いことはおこらせんわい またわしらの邪魔をするやつらが出てきたら、叩き潰してシゴウしやげたるけえっ ガハハハ」
隆太はトラックの室内で立ち上がると東京で巻き起こる新たな人生を夢見て、意気込みだす。
「東京は美味しいレストランで溢れてるけえ うちがおごるから着いたら食べにいこうよ」
「ギャハハハ 勝子は太っ腹じゃ ハイハイ 食べることなら任せて頂戴」
そんな隆太の意気込みに勝子もみんなを元気づける為にそう提案してみせる。食べる事に目の無い隆太は真っ先に反応し、喜び出す。
「ええのう...わしも腹が 減ったわい・・・」
「バカタレッ おどれは真っ先にええ病院に入れて身体を治させるわい しばらく病院食で我慢せえ ガハハ」
「おまえは食うことになると本当に元気になるのう・・・」
場の空気は再び元の明るいムードになり、隆太、勝子、ムスビは希望を秘めて到着を待ち望んだ。
トラックは砂利道を抜け、線路の隣の道路を走るようになり、その途中、再び横になろうとしたムスビがトラックの後ろからライトを点けながら「ボオオオオ」と汽笛を鳴らしながら走行している汽車を見つける。
「おい 見てみぃ 隆太... 勝子... 夜の汽車じゃ・・・」
夜のSLが隆太達の乗ったトラックに近づき追い越して行く。SLが前方や客席でも灯すライトのおかげで夜でもハッキリその姿が見え、その姿は地上の豪華客船のようだ。隆太はトラックの荷台から顔を出し、声をあげる。
「ガハハハ あんなボロ汽車なんかに負けるな さぁ走れ走れ なまけるとタイヤを全部盗んで動けんようにしたるぞ 走れ 走れ」
お調子者少年の隆太は、トラックを追い越して行くSLに向かって大きく叫ぶ。その瞬間、異変大きな異変が起きたのだった。
突然あたり一面に異様で強烈な光と強い振動が隆太、ムスビ、勝子を襲った。その光に驚き、荷台から身体を出していた隆太は荷台の奥の方まで転げ込んでしまう。
「ギェェ 目が 目が焼きつく」
「うっ」
「キャッ」
3人は激しい光と振動に襲われ、勝子とムスビは座り込み目を腕で覆い隠していく。一方隆太はあの原爆投下の忌々しい記憶を思い出し、憎悪に燃える。またアメリカが原爆を使ったのか。
「おどりゃあ クソッタレのアメ公め ピカを落としやがったんか またわしらで兵器実験をする気なんか 殺したるわい 殺してやるわい!!!」
隆太は立ち上がり拳を握り、怒りに満ちた目を見開き、歯ぎしりをしてどこから出ているか分からない光を睨みつける。光と振動は次第に大きくなり、立っていられなくなった隆太は再び「ギッ」と転げ落ちるも地面に手足や身体がつくことは無かった。隆太、勝子、ムスビの身体は水の中にいるかのように浮き出していたのだった。
光と振動が収まると、彼らもまたゲン達のように忽然と姿を消してしまっていた。隆太達が消えたトラックは何事も無かったかのように東京へと走っていった。
昭和29年 1954年冬
広島で生き抜き、希望を持って新天地を目指していたゲン達と隆太達、彼らはこの世界、時間軸から跡形も無く消え去ってしまったのだった...