※今回戦闘描写がある関係で残酷な描写が含まれます。ご注意ください。
索敵開始から5分もせず、キモオタさんは戻ってきた。
「一体発見、スリングを当ててこちらに向かわせてござる。応戦の準備を」
早い。本職の斥候の仕事に内心で舌を巻き、それでも平静を保って指示を出す。
「了解。キモオタさんは隠れて、妨害をお願いします。アイカは前に出て、敵を引き付けて。無理に攻撃はしないこと」
「おう!」
アイカは威勢よく声を出して、キモオタさんが出てきた茂みの方へ進む。キモオタさんは一つ頷くと、別の茂みの中に姿を隠した。
僕とアイカが構えるわずかな時間の後、奇怪な鳴き声とともに黒光りする猿が飛び出してくる。
「ゲキャキャっ!」
「てめーの相手はおれだ! かかってこいや、このサルゥ!」
鉄猿の鉛色の目は、間違いなくアイカの姿を視認した。直後、猿はその場で大きく跳躍し、上空を覆う木の枝の一本に捕まった。
……事前に調べて知っていたことではあるけれど、実際に見ると改めてとんでもない運動性だ。動き回られている状態では、魔法を当てることは不可能に近い。
アイカは鉄猿に大声で罵声を浴びせかけ、ヘイトを稼いでいる。おかげで、鉄猿の注意が僕に向くことはない。奴はアイカの頭上を枝から枝へと移り、ぐるぐる回っている。
僕に注意を向けられるわけにはいかない。警戒されてしまえば、命中率はガクンと下がる。だから魔力を動かすことも術式を編むこともせず、それらを一瞬で行えるようにただ集中する。
狙いを定めていた猿が、とうとう攻撃に移る。上空からアイカの背後に急降下し、落下の勢いのままに爪を立てようとする。
「読め読めなんだよ、バーカ!」
だけどそんな大振りの攻撃が当たるアイカではなく、彼女は横にステップを踏むことで回避する。振り向きざまに、左の一閃。
猿も、攻撃が当たらないと見るや、すぐに地面を蹴って枝に飛び乗っていた。アイカの攻撃も空振りに終わる。
決してアイカが遅かったわけではない。彼女の回避が終わる前に、既に猿はジャンプしていたのだ。ヒットアンドアウェイを徹底する習性を持っているのだろう。厄介な。
「ちっ! うざってえ!」
アイカは口汚く罵り、猿のヘイトを集める。……いや、単に頭に血が上ってるっぽいな。注意を促したいところだけど、下手に声を出して鉄猿に警戒されるわけにもいかない。
彼女を信じるしかない。……大丈夫だ。アイカは、やればできる子だ。
再び上空旋回に戻る猿、囮の役目を(結果的に)果たすアイカ。これで奴の行動パターンは見た。仕掛けるなら、次だ。キモオタさんも、きっとそう判断する。
彼がどのような妨害をするかわからないが、猿が動きを止めた一瞬で仕留められるよう、集中力を高める。
先ほどと同じ程度の時間が経過すると、再び猿は降下してきた。アイカは、今度は回避行動をとらなかった。
「もう逃げられねえぞお前!」
彼女の取った行動は、まさかの迎撃だった。無理に攻撃するなって言ったのに!
一瞬の動揺。しかし飲まれれば、さらに彼女を危険に晒すことになる。歯を食いしばって踏みとどまり、僕は自分の役割に集中した。
魔物の落下に合わせて振り抜かれたダガー。空中にいる鉄猿に回避は不能……と思いきや、奴は予想外の行動を取る。
「キャキャキャキャキャ!」
「なん……!?」
空中で体をしならせ、ダガーの軌跡からわずかに外れたのだ。嘲笑するかのような猿の鳴き声が森に響く。
驚愕は一瞬、アイカはすぐに次の一撃を繰り出そうとする。だけど、魔物の方が早い。
鋭い爪の一撃が、彼女を襲う――。
「ッギャ!?」
その直前、茂みの中から飛び出した一握り程度の大きさの石が、鉄猿に直撃した。キモオタさんの妨害だ。
そこそこ大きな石とは言え、その程度で魔物を倒せたりはしない。それでも奴の攻撃を阻むことはでき、動きが一瞬止まる。
その一瞬が、決着だった。石の直撃から鉄猿の着地までのコンマ3秒の間に、術式を編み、魔力を通し、光弾の発動と射出を同時に行う。
光の弾丸は、過たず鉄猿の脳天を射抜いていた。
僕とキモオタさんで早急に素材を剥ぎ取り、「道」まで戻る。小休止と、今の戦闘の振り返りを行う。
「いやはや、倉橋殿の言葉を疑っていたわけではござらんが、本当に光弾一発で倒してしまうとは。何より驚異的なのが、魔法を使う予兆をほぼ感じなかったことでござる。一体どうやってござる?」
「大したことはしてないですよ。発射の直前まで集中だけして、構築と発動と発射を同時に行っただけです」
「……大したことでござるよ、それは。そこに至るまでにどれだけ反復練習したのか、想像も及ばんでござるな」
アイカとダンジョンに潜る約束をした小学3年生のときからだから、都合12年になるのか。我ながら長続きしたものだと思う。
僕の戦闘はキモオタさん的には合格点だったようだ。僕からも、キモオタさんの動きについて評価を返す。
「本職の斥候というものがどれだけすごいのか、思い知りました。前回僕がやってたのは、所詮は真似事だったんだなって」
「そこはさすがに、斥候で負けたら拙者の存在意義がなくなってしまうでござる。拙者は不器用故、斥候ぐらいしかできることがないでござる」
「斥候ができる時点で器用だと思うんですけど。……まあ、お互い様ということで」
僕が僕自身に対してできることの限界が低いと思っているように、彼も彼の基準では不器用という判断になるのだろう。僕がキモオタさんに対して評価しているという事実だけで十分だ。
さて、残ったアイカについて。彼女は、前衛として働けなかったことや、最後に隙を見せてしまったこともあって、憮然とした表情でそっぽを向いていた。
「……何がいけなかったのか自分でわかってるみたいだし、特には言わないよ。でも、これは何度でも言うけど、アイカは自分の身を守ることを第一に考えてほしい」
どうしても突っ走りがちな性格の彼女だけど、どんなに男の子みたいな振る舞いをしても、彼女は女の子なのだ。男として、傷ついてほしくないという気持ちはどうしても生まれる。
彼女は、決して認めないだろう。昔から男と対等でありたいと思っているのだから。
「アイカがダンジョンで活躍したいと思ってることは知ってる。だからと言って、無闇に自分の身を危険に晒すというのは、ダンジョンアタッカーのすることではないよ」
「……わかってるよ」
「まあまあ倉橋殿、その辺にしておくでござるよ。倉橋殿の気持ちは小鳥遊殿に伝わってござる。しかして過保護になるのも、ダンジョンアタッカーではござらん」
キモオタさんが間に入ってくれる。……確かに、僕はアイカに対し過保護になっているのかもしれない。昔から知っている、一番の友達だと思っている女の子だからだろうか。
彼女は覚悟をしてダンジョンに潜っている。傷つくことだってあるだろうし、彼女自身はそれを受け入れている。ただ、僕がそれを認められないだけなのだ。
……認めることが正解だとも思えない。今の僕には答えの出せない問いだ。
「小鳥遊殿の動きは、決して悪くなかったでござる。冷静さを保ち続けられれば、鉄猿ごときに後れを取ることもないでござろう。そしてそれが、小鳥遊殿の課題だと思うでござる」
「……つってもさぁ。それができりゃ苦労しねえよ」
「だからこその課題なのでござる。これを乗り越えられたとき、小鳥遊殿はダンジョンアタッカーとして一皮剥けるでござろう。拙者は、立派なダンジョンアタッカーとなった二人を見たいでござる」
澄んだ瞳で言われ、アイカは困ったように視線を泳がせ、頬をかいた。キモオタさんの言葉はちゃんと届いたみたいだ。
アイカの課題……そして僕の課題。アイカを、僕の幼馴染を、「対等な仲間」として扱えるようになること。はたして、僕に彼女が傷つくことを許容できるのだろうか。それが正解なのだろうか。
僕にとっても、決して簡単な課題ではなかった。
次に、一連の流れの確認と分析を行う。
「索敵から戦闘までの流れは、僕もアイカも問題ありませんでした。二人ともちゃんと対応できてます。キモオタさんの方は、どうですか?」
「こちらも問題なしでござる。初パーティでここまでスムーズに運ぶというのも、中々珍しいことでござるよ」
彼がこれまで組んだパーティの中には、索敵を始めるまでに足並みがそろわなかったり、いざ戦闘になると連携が整わなかったりするものもあったそうだ。
これは、少人数の強みだろう。パーティメンバーが多くなれば、それだけリズムを合わせるのが難しくなる。
僕とアイカは幼馴染で、長い付き合いがあるということはそれだけ波長が合うということだ。そこにキモオタさん一人が加わった程度なら、リズムが乱れることもない。
「パーティ規模もそうでござるが、何よりも倉橋殿の方針が明確なのが良いでござる。いざというときに迷わずに済むでござるよ」
「そうなんですか? ダンジョンアタックをするのに当たり前の準備をしてるだけだと思うんですけど」
「その当たり前が、特に初心者には難しいのでござる。ここは倉橋殿の几帳面さが有利に働いた部分でござろうな」
ネットで少し調べればいくらでも情報が出てくるんだから、言うほど難しくはないと思うんだけど。ダンジョンアタッカーって、ネット使えない人が多いんだろうか。
まあ、それは別にどうでもいいか。僕はうまく活用できてるってことだし、今のところは間違った選択はしていないようだ。
鉄猿ならば今の流れを繰り返すだけで安定して狩れそうだ。問題になるとしたら、消耗についてだろう。
「キモオタさんの索敵と妨害のおかげで、僕の魔力はほとんど消費していません。あと20発程度は問題なく撃てます」
「魔法使いとしては破格の燃費でござるな。とはいえ、あと20戦は拙者の集中力の方が持ちそうにないでござる。休憩をはさんでも、できて15戦と言ったところでござろう」
「むしろあと15回も索敵できるのはさすがですね。前回ので難しさはわかってますから」
前回の僕は、たったの2回で集中力が切れてしまった。一度の索敵に時間をかけ過ぎたというのもあるけれど。
とりあえず、今日はあと12回狩ることにしよう。それだけあれば、今日一日の稼ぎとしては十分だろう。一人頭1万7千強になる。
16回フルに狩れば2万を超えるけど、それだと帰還時に戦闘が発生した場合の余力が足りなくなる可能性がある。安全マージンの確保を怠ってはいけないのだ。
――僕がダンジョンアタックできるのは会社が休みとなる土日祝日のみであり、アイカに他の収入源がないことを考えると、もう少し稼いでおきたいところではあるけれど。だからと言って無理はできない。
「午前中にあと6回、昼休憩の後に6回で行きましょう。問題ないですよね」
「妥当だと思うでござる。拙者は、倉橋殿の指示に従うでござるよ」
「ありがとうございます。……アイカ。落ち着いてやれば、君ならできるはずだから。頼むよ」
「……おう」
今の彼女には、最初ほどの勢いはなかった。
結果的にはそれが良かったのだろう。二回目以降のアイカは囮の役割に徹してくれて、初戦以上にスムーズに倒せた。戦闘時間は全部合計しても5分にもならないだろう。ほとんどが移動と索敵、小休止の時間だった。
7回の狩りを終え、受付に戻って昼食を摂ることになった。
受付の三階部分全部を占める食堂はそれなりの広さがあり、そのうちの半分程度の席が埋まっていた。これがどの程度の回転率なのかはわからないけど、余裕を持って座れるのはありがたい。
僕たちは三人ともカレーを注文した。ただし具が異なり、僕はチキン、アイカはビーフ、キモオタさんは豆だった。
長机の端の方に、僕の左側にアイカが座る。キモオタさんは僕たちの対面だ。
「それで、午前中の感想はどうでござるか?」
カレーを食べながら、キモオタさんが尋ねてくる。今の彼はダンジョンの中とは違い、元の雰囲気に戻っていた。あれを維持するのは大変なのだろう。
ワクワクというかテカテカというか、そんな感じの瞳で僕たちのことを見ていた。どんな答えを期待しているのか、容易に想像がつく。
「正直に言って、驚いてます。斥候のあるなしでここまで変わるのかって感じです。勉強になります」
「そうでござろう、そうでござろう! だから是非、拙者を仲間に入れてくだされ! 誠心誠意働くでござるよ!」
「それはまあ、まだと言うことで。終わるまで結論は待ってください」
「いけずでござるなー」と笑いながらカレーを食べるキモオタさん。……このカレーおいしいな。街の定食屋で食べるよりおいしいんじゃないかな、これ。
隣のアイカがお皿をこちらにずらしてくる。意図を理解して、僕のチキンと交換した。一連の流れを見て、キモオタさんの瞳がギラリと光る。
「ンデュフフフフ。二人の息がぴったりな理由がよくわかるでござるなぁ」
「それはまあ、幼馴染ですからね。小学生の頃なんかはアイカとしか遊んでませんでしたし」
「っていうか、あの頃のお前、おれ以外に友達いなかっただろ」
余計なことは言わないの。……アイカと遊ぶのが楽しくて、他に友達作らなくていいやとか思ってたんだよね。中学に上がってから後悔したけど。
今も昔も、僕にとって一番の友達はアイカだ。だけど、彼女は女の子なのだ。どれだけ男勝りな性格をしていても、彼女を男友達として見ることなんてできないし、それは彼女に失礼だ。
中学に上がると、それはより顕著になった。その時になってようやく僕は、「男友達がいない」という状況がどれだけ孤立するのかを思い知ったのだ。
男女別の授業、たとえば体育のときとかに、話す相手がいない。ペアを組む相手がいつも先生だったりと、アイカがそばにいられない状況ではいつも一人だった。
これはまずいと思って男子にも積極的に話しかけるように意識改革をして、状況は改善した。そしてその代わりに、アイカと疎遠になってしまったのだ。
「高校一年から三年の間は、たまにすれ違ったときに挨拶する程度で、ろくに交流を取ってませんでしたよ。それがこうやって子供のときの約束を果たすことになってるんだから、何が起こるかわからないものです」
「なんだよー。嫌だったのかよ」
「別にそんなことは言ってないよ。アイカに誘われるまで本当にダンジョンに潜るなんて思ってもみなかったから、人の縁っていうのは不思議だなって思っただけ」
本当にそう思う。あの当時は、こうしてまたアイカの隣にいることになるとは、思っていなかった。……時間が経てば、友達というものはいつのまにか消えるものだから。
中学時代に作った友達とは、今となっては交流などない。高校時代の友人ですら、連絡を取ったのは高校の卒業から1ヶ月までだ。社会人としての日々に忙殺され、繋がりは途絶えたと言っていい。
彼らは多分、同窓会などで顔を合わせることはあったとしても、アイカのように再び交流することはないだろう。やはり僕にとって、アイカとの繋がりだけは特別だったのだと思う。
幼馴染だからなのか、それとも一番の友達だからなのか。はっきりとした理由は、僕にもわからない。だけど何となくそう思う。
――アイカと疎遠になってしまった二年半。僕たちの交流期間を考えれば短い間のことでしかないけれど、五年ぐらいあったんじゃないかと思うほど長く感じられた。それだけ、僕にとって苦痛の時間だったんだろう。
当たり前だと思っていたものが、突然なくなる。今から思えば、そんな喪失感を抱えていたのだろう。当時の僕は、違和感を感じていただけで、気付くことはなかったけど。
では何故今それに気付いているのかと言えば……やめておこう。これはこれであまり思い出したい記憶ではない。僕にとって、大きな失敗の記憶だから。
今は、僕の隣にアイカがいる。それだけで十分だ。
「やっぱり、僕の定位置はここなんだろうね。君のそばにいないと、何かしでかしたときに止められないから」
「言ってくれるじゃねえか。ならしっかり見とけよ。リンが止めなかったら、おれはどこまででも突っ走るからな」
「自覚があって直す気がないからタチ悪いよね。……ま、アイカらしいけど」
勝気に笑う幼馴染に釣られ、僕もニッと強く笑ってみせた。
そんな僕たちのやり取りを見ていたキモオタさんは、アルカイックスマイルを浮かべて立ち上がり身悶えた。いつもの発作のようだ。
相変わらず気持ち悪いけど、なんだかんだで彼にも慣れつつある僕とアイカだった。
少し脱線した話題を軌道修正し、ダンジョンアタックに戻す。先輩の目から見た僕たちのダンジョンアタックについても意見を聞きたかった。
キモオタさんは顎に手を当てて黙る。ややあって、彼は口を開いた。
「二人とも、初心者とは思えない動きをしてござる。倉橋殿の高精度の魔法はもちろん、小鳥遊殿の動きも、恐ろしく安定感を感じたでござる。回避に徹したなら、低階層の魔物の攻撃を受ける道理はないでござろう」
「そこは訓練してきたところだからな。双剣に切り替えてから、回避の練習は徹底的にやったし」
「そういうところは真面目なんだよね、君って。普段の生活態度にも活かしてほしいところだけど」
「うっせ!」と僕の意見を切り捨てるアイカ。それについてはだいぶ前に諦めたから、別にいいんだけど。
キモオタさんは話を続ける。
「連携についても、初回は小鳥遊殿の暴走こそあったものの、倉橋殿が対処できていたでござるし、以降はまさに阿吽の呼吸で役割をこなしていたでござる。もう何戦かすれば、拙者の妨害なしでも勝てるでござろう」
「言うほど強くないしな、あの猿。最初は驚かされたけど、慣れれば攻め方が単調でわかりやすいし」
アイカが何気なくとんでもないことを言っている。あの縦横無尽に動くのが彼女にとっては単調に感じられたらしい。やっぱり、近接戦闘に関するセンスはあるんだろうね。
もしかしたら、そのうちアイカ一人でも倒せるようになってしまうかもしれない。この子ならばやりかねない。
「二人とも、己の長所を伸ばした結果なのでござろう。斥候の問題さえ解決すれば、低階層での狩りは安定して行えるようになり……恐らく、そこで打ち止めでござる」
先輩が、非情な現実を突き付ける。アイカは「なんだと!?」と語気を荒らげた。僕は彼女を宥めつつ、キモオタさんの先を促した。
「端的に言って、二人で完結してしまっているのでござるよ。戦闘において拙者は横やりを入れているだけで、連携ではござらん。そして今のままでは、中層で確実につまずくでござる」
「……僕たちの最大の欠点、火力不足ですね」
前々から考えていた問題点を口にし、キモオタさんは首肯した。やはり、どうしてもそこがネックになる。
アイカの武器はダガーであり、決して攻撃力が高いものではない。僕の魔法は、精度こそ高いものの、大威力の魔法ほどの攻撃力は出せない。
中層以降に出てくる魔物は、耐久力も防御力も跳ね上がるらしい。つまり、攻撃力の低い僕たちでは、倒しきれない可能性が非常に高い。
もし中層の魔物を倒そうと思ったら、アイカが武器を変えるか、僕が灼光よりも強力な魔法を使えるようになる必要がある。……決して容易いことではない。ここまで鍛えるのだって、10年以上かけているのだから。
だから現実的な手段としては、火力特化のメンバーを募ることになるんだけど、そこで邪魔になってしまうのが「僕たちだけで完結してしまう連携」だ。
「倉橋殿と小鳥遊殿は、ほぼ言葉なしに連携が取れてしまうでござる。それは他の者からすれば、割り込むことが非常に難しいというデメリットにもなってしまうのでござる」
「……言われてみると、確かにって感じです。アイカが暴走しない限り、彼女が手を貸してほしい瞬間が僕にはわかります。でも、あとから入ってくる人たちはそうじゃない」
「倉橋殿が完全に軍師に徹すればタイミングを指示できるでござろうが、そうすると今度は倉橋殿の魔法が犠牲になるでござる。それはそれで、このパーティの強みを殺してござろう」
僕は後衛のロールを辞めるつもりはないし、アイカもそうだろう。というか、このパーティは基本的に「僕とアイカのパーティ」だ。メンバーを追加したとして、その軸を外す気はない。
だから僕が軍師に徹するということはありえないし、アイカが前衛を退くということも絶対にない。僕たちの連携に火力支援を加える方法でなければ、中層に向かうことはできない。
解決策は、今のところは思い浮かばない。すぐに問題になることではないけど、今のうちから考えておいた方がいいことではあるだろう。
「ありがとうございます。少し、考えてみます」
「気の早すぎる指摘だったでござるが、そう言ってもらえれば何よりでござる。拙者は、倉橋殿と小鳥遊殿ならそこまで行けると思ってござる」
「……つーか、メンバー増やす方向なのかよ。嫌だっつってんのに」
「アイカだって、僕たちの火力が低いことはわかってるでしょ。……先に言っておくけど、灼光連打は無理だからね。マナポーションガブ飲みしなきゃいけないし、そもそも一撃で倒せるかもわからないんだから」
「さすがにわかってるっての。けどなー……」
アイカ的には、僕と彼女だけで伝説を作りたいらしいから、渋るのはわかっている。だけど、物理的に無理なものはどうしたって無理なのだ。精神論でどうこうできるものじゃない。
……文句は言うだろうけど、最終的には彼女も納得してくれると思う。だって、いつの間にか彼女は、キモオタさんを仲間にカウントしているのだから。
彼をどう扱うかについては、もう結論が出たようなものだ。斥候の問題は解決したのだから、彼の提示した次のステップに至る課題を本格的に考えてもいいのかもしれない。
僕とアイカの連携が二人で完結してしまっているのは、アイカが僕を守ろうとし、僕がアイカを守ろうとしているからだ。ダンジョンでキモオタさんに指摘されたところにつながっている。
アイカは、僕を守ろうとして魔物を手早く倒そうとする。そのために突っ走ってしまい、それが彼女の悪癖となっている。
僕は、アイカが傷つかないように作戦を立てる。なるべく彼女に危険が及ばないように、自分の負担を大きくしてしまう。
つまり、二人とも視野が狭くなっているのだ。連携自体は幼馴染としてともに過ごした時間のおかげでうまく回るけど、他に気を回す余裕がなくなってしまっている。
キモオタさんは「完結している」という表現を使ったが、正確には「完結せざるを得なくなっている」のだ。……本当に僕たちのことをしっかり見てくれていたのだと改めて感じる。
ではどうすればいいのか。考えられる方法としては、僕の負担を減らしてアイカに持たせるのが妥当だろう。僕には周りを見る余裕ができ、アイカはこなすべきロールという重石で暴走を抑制できる。
ただしこれは、アイカが怪我をするリスクが高まるというデメリットを伴う。そのために僕の感情が拒否反応を示しているのだ。
彼女が背負うリスクを減らせれば、僕も納得できるのかもしれないけど。……そんなうまい方法があるのだろうか。
「少し、質問してもいいでしょうか」
話題が途切れるのを待ち、キモオタさんに問いかける。彼は頷いて聞く姿勢を取った。
「キモオタさんは、ダンジョンで怪我をしたことはありますか」
「無論。斥候に慣れるまでは、魔物を引き付けすぎて攻撃を受けることもござった。ライフポーションのおかげで傷が残るようなことはなかったでござる」
「……怖くはなかったんですか?」
「怖いでござるよ。それは今も変わらぬでござる。拙者は魔物を倒すことができぬでござるからな」
今日戦った鉄猿7匹はすべて、僕が魔法で倒している。キモオタさんは、時にスリングの弾を当て、時に着地点に石を撃ちこみ驚かせ、魔物の動きを縫い止めることに終始していた。
そんな彼がもし索敵中に魔物に襲われてしまったら、逃げることしかできない。それは……対抗できないということは、とても怖いことだ。彼は否定しなかった。
それでも彼は、斥候として一人でダンジョンの奥に潜り込み、魔物を見つけてくる。そんな恐ろしいことを、どうして続けられるのだろう。
僕の問いに、彼は答えてくれた。
「拙者がダンジョンに関わる術が、それしかないからでござる。魔物に襲われる恐ろしさよりも、アタッカーでなくなることの方が、拙者は恐ろしいと感じてござる」
彼がダンジョンに向ける感情は理解している。ダンジョンを愛する彼がダンジョンに関われないというのは……僕に置き換えれば、高校時代の短くて長かったあの時間と似たようなものだろう。
ああ、それは確かに嫌だ。それなら多少の恐怖はあっても――アイカから無関心な目で見られるかもしれないと思っても、僕は彼女に声をかけた。また最初からやり直しでもいい。もう一度、彼女と友達になりたかった。
そして彼女は、以前と変わらぬ勝気な笑みを見せてくれた。その笑顔に僕がどれだけ救われたか、君は知らないだろう。
……ああ、そうか。だから僕は、アイカに傷ついてほしくないんだ。彼女の笑顔が失われるかもしれないことが怖いんだ。
「キモオタさんは、すごいですね。自分で決めたことをしっかり成し遂げているんだから」
「……そうでもござらんよ。拙者も迷い悩み、紆余曲折を経て、今こうして倉橋殿たちの先達としてアタッカーをやっているでござる。きっと、皆似たような過程を踏むのでござるよ」
そうやって僕たちを導いてくれるのだから、立派な先輩だと思いますよ。
――僕の課題におけるボトルネックのようなものは見つけることができた。極端な話をすれば、アイカの安全が十分確保できるなら、多少のリスクを彼女に負わせても大丈夫なのだ。矛盾しているけど、そういうことだ。
ではそれを実現するためにはどうすればいいのか。解の一つは、やはり新メンバーの募集。火力ではなく、防御面での専門家を招くことだ。
ロールとしては囮・重戦士――俗に「タンク」と呼ばれるものだ。このロールさえ勧誘できれば、パーティの安定感は格段に上昇するだろう。……勧誘できれば、だが。
タンクが必要になるのは中層より先の話だ。低階層の魔物の強さを考えれば、わざわざタンクに防御を任せる必要性が薄いことはすぐにわかるだろう。
もちろん低階層でも先日の地熊のような攻撃力の高い魔物が出ることはあるが、そういった魔物は動きが遅かったり、防御面が脆かったりと対処のしようはある。だからこその低階層なのだ。
間違っても駆け出しパーティが勧誘できるようなロールではない。一度でも中層に行った実績があって初めて考慮してもらえるレベルだろう。
それに、追加メンバーと連携を取れるようにする課題をこなすためにメンバー募集をするというのは、借金を返すために借金をしているようなものだ。すぐに別の問題で立ち行かなくなるだろう。
なら、僕たちの安全の確保は、僕たちの手でできるものでなくてはならない。その方法は……単純故に難しく、アイカが好みそうなものだった。
昼休憩を終え、午後の狩りが始まる直前に、僕は二人に提案した。
「ここからの狩りは、アイカをメインにしてやってみたい」
当然、二人とも驚いた。アイカに囮に徹してほしいと言ったのは他ならぬ僕なのだから、前言を翻す真似をするなんて思ってなかっただろう。
活躍の場を望んでいたアイカは喜び、だけど困惑の方が大きかったようだ。
「おれの武器じゃ木の上は届かないし、降りてきたところを攻撃しようとしても、あいつらすぐに木の上に逃げるぜ。カウンターも避けられたし」
「それは僕の魔法だって一緒だよ。もちろん射程は君のダガーより長いけど、動いてるところに当てられない以上は、攻撃が成功する条件に差はないはずだよ」
「……つまり、役割をスイッチするということでござるか?」
キモオタさんは僕の意図するところを理解したようだ。頷いて、アイカに向けて説明する。
「僕が補助に回って、鉄猿の動きを誘導する。キモオタさんには鉄猿が樹上に逃げるのを妨害してもらって、アイカがとどめを刺す。これなら、ダガーでも鉄猿を倒すことができるはずだ」
「……確かに、できるかもしれないけどさ。お前の負担が大きくなるじゃん。一発じゃすまないだろ、それ」
そう、それがこのやり方のデメリット。鉄猿の動きを誘導するには、数発の光弾を必要とする。魔力量の少ない僕にとっては致命的となる作戦だ。
午前中はスムーズに行ったおかげで魔力消費も大したものではなく、あと15発は撃てるだろう。……たったの15発だ。一戦闘に5発使えば、3戦で尽きてしまう。
マナポーションによる回復は可能だが、安全マージンがなくなるため帰還一択となる。はっきり言って、効率で言えば論外だ。
……それでも、先々を見据えた場合、効率を取るだけではダメなのだ。
「アイカは、今日のダンジョンアタックで成長を感じられた?」
「っ」
効率的であるということは、困難ではないということだ。簡単な作業を繰り返しているだけでは、人の成長は微々たるものだ。
彼女もそれを実感しているからこそ言葉に詰まった。
「確かに、この階層で狩りをするだけなら、今のやり方で十分だよ。……生々しいことを言うけど、それではダンジョンで食べていくことはできない」
鉄猿は一匹四千円と低階層の魔物にしては破格の値段になる。だけど、生活していくのに十分な収入ではない。
今後もこの三人でパーティを組み、月に一人当たり25万必要になると仮定した場合、週一回のダンジョンアタックで鉄猿を50匹近く狩り続けなければならない。あまりに現実的でない数字だ。
だから、ダンジョンアタックで生計を立てるためには、どうしたって中層以降に進まなければならないのだ。
「今の僕たちでは、中層の魔物を倒すことはできない。メンバーを募集しようにも、僕にもアイカにも余裕がない。……僕たち自身が成長しなきゃ、進めないんだ」
これが僕の出した解答。ダンジョンアタッカーとしてできることを増やし、バッファを得る。雑に言ってしまえば「強くなる」だ。
強くなれば、余裕が生まれる。余裕ができれば、メンバーを増やすこともできる。火力面を解決する妙案が浮かぶかもしれない。
強くなければ、選択肢すらないのだ。だから僕は、僕とアイカは、ダンジョンアタックのたびに成長し続けなければならない。
……アイカが成長してくれれば、彼女が怪我をする可能性も格段に減るだろう。僕の感情的な問題としても、成長は必須だ。
僕の真摯な訴えを聞き、アイカは呆けたように黙った。ガラにもないことを言ってるのは自覚してる。
「……倉橋殿は冷静さが売りと思っていたでござるが、何とも情熱家でもあるのでござるな。ますます好感が持ててござる」
キモオタさんは優しく微笑み、僕の考えを肯定してくれた。面と向かって情熱家と言われると、少し恥ずかしかった。
彼の言葉が刺激となってアイカも我に返った。そして、いつもの勝気な――心底嬉しそうな笑顔で、僕の胸にこぶしを置いた。
「へへ。やっぱリンはこうでなくっちゃな。頼りにしてるぜ、相棒!」
それはこっちの台詞だよ。任せたよ、……相棒。
本日8度目となる鉄猿狩り。索敵を終えたキモオタさんが茂みに隠れ、いつもの布陣を取る。ややあってから、耳障りな鳴き声とともに鉄色の猿が飛び出してきた。
「ギャギャギャギャッ!」
奴はアイカの姿を確認すると、挑発するかのように踊ってから枝の上に飛び乗った。彼女は集中し、一切の言葉を発さなかった。
それでいい。今回の彼女は魔物の注意を引き付ける必要はない。それは、僕の役割だ。
樹上をがさがさと駆け回る鉄猿に向けて、狙いをつけず光弾を放つ。そんなものが当たるはずもなく、葉っぱを散らして空に消える。
一瞬、枝の揺れる音がしなくなった。奴が僕に狙いを定めたのだろう。人の手が届かない場所に逃げられる奴にとって、遠距離攻撃持ちは脅威となるのだから。
再び葉っぱのこすれる音が頭上を埋め尽くす。……背筋が冷たくなるような緊張感だ。アイカも同じように感じていたのだろうか。
初回のダンジョンアタックから通して、魔物に狙われるのはこれが初めてだ。防具のおかげで大丈夫だとわかっていても、やはり怖気は感じるものらしい。
なるほど、アイカがすぐに暴走してしまうのも頷ける。この精神状態で平静を保つのは一苦労だ。気を抜けば無意味に魔法を使ってしまいそうなほどに。
防御用の魔法はある。だけど燃費が悪く、光弾の3倍は魔力を消費する。僕は、光弾一つでこの場を切り抜けなければならない。できなければ、先に進むことなんてできない。
「……来い、勝負だ!」
己を鼓舞すると同時、樹上から鉄猿が降ってきた。編んだ術式に魔力を通し、光弾を射出する。
魔物は空中で体をしならせ光弾を回避する。……その行動はアイカが見せてくれたから知っている!
「ゲゲグギャッ!?」
嘲笑しようとしたのだろう、しかしそれは途中で悲鳴へと変わる。僕は攻撃のために光弾を使ったわけじゃない。目くらましのためだ。
術式にアレンジを加え一定距離で炸裂させるようにした光弾は、魔力が解けて殺傷力を持たない光の爆発となる。炎や風ならば攻撃力を持たせることもできただろうけど、光属性ではこれが精いっぱいだ。
普通ならば魔物相手には意味がない。だけど攻撃の補助として使うなら、これで十分なのだ。
「ギギッ! ギャッ!?」
目を覆いながら着地した鉄猿が再び樹上に逃げようとした瞬間、茂みの中から小石が飛んできて奴の額を撃つ。キモオタさんからの妨害攻撃。
光弾が炸裂した時点でアイカは走り出していた。あと一息で彼女の攻撃射程であり、鉄猿が体勢を立て直して木の上に逃げる時間は残されていない。
「詰みだ」
すれ違いざまに放ったアイカの一撃で、鉄猿は首をはねられ、倒れた。
思ったよりは魔力を消費しなかったので、体の疲労はそこまででもなかったはずだ。だけど慣れないことをしたせいか、「道」まで戻ると同時に心臓が強く鼓動し、全身から汗が噴き出した。
「お、おい!? 大丈夫か、リン!」
たまらず膝をついてしまった僕に、アイカがあわてて駆け寄る。大丈夫だからと、ダンジョン内なのだから静かにと嗜める。
キモオタさんがポケットの一つから小さな竹筒を取り出し、僕に手渡した。水筒だ。
「ゆっくりと口に含んで飲むでござる。気持ちが落ち着くでござるよ」
「……ありがとうございます、助かります」
彼の指示に従って、常温の水をゆっくりと飲む。ただの水だけど、不思議と心が安らいだ。
おかげで、僕が持ち直すのにそう時間はかからなかった。
「……正直に言います。前に立つということを侮ってました。あんなに緊張するものなんですね」
以前僕はアイカに、勢いで「近接戦もできる」なんて言ったけど、もう口が裂けても言えない。魔物の攻撃を避けながら術式を編むだけの冷静さを保てるほど、僕は強くなかった。
そんなことも知らずに彼女に色々注文を付けていたことに、申し訳なさを感じる。彼女はこなせたとは言え、僕は知っておくべきだった。それがどれだけ大変なことなのかを。
少し消沈する。そんな僕を見てアイカは声をかけようとして、言葉が見つからなかったのか再び口を閉じた。
「では、このやり方はやめるでござるか?」
キモオタさんは静かに問いかける。彼は僕を真っ直ぐに、ただ見ていた。……僕とアイカが彼を見定めようとしたように、彼もまた、僕たちを見定めるのだろう。
だからというわけでもないけど、僕の答えは決まっていた。
「続けます。今回だけだったとしても、僕は知っておくべきなんです。知らなければ、対策すら立てられない」
このパーティにふさわしい軍師が見つかるまで、僕が作戦を立て続けるのだ。だから僕は、知らなければいけない。
アイカのロールがどれだけの緊張感を必要とするのか。キモオタさんが、どれだけの集中力を消耗するのか。頭で理解するのではなく、実感を持たなくてはならない。
それを考えるのが、今の僕のロールなのだから。
僕の答えを聞いて、キモオタさんは頷いてくれた。アイカは安心と不安の混ざった複雑な顔をしていたけど、僕の意志を尊重してくれた。
僕は、このパーティで前に進みたい。それが、僕の偽らざる本音だ。
午後の狩りは3回に抑え、本日のダンジョンアタックを終了した。予定よりはやや少ないが、許容範囲内には収まったと思う。
何気にキモオタさんが斥候中に薬草を採取していたらしく、狩れなかった分の穴埋めには至らなかったが、ある程度の補填にはなった。
本日の収入は、一人当たり一万四千円。生まれて初めてのまともな収入に目を輝かせ、アイカは「飯行こーぜ飯!」と上機嫌だった。
僕もそれにはやぶさかではなく、だけどその前にやっておくことがある。
「今日一日、本当にありがとうございました。キモオタさんの力なしでは、今日の成果はなかっただろうし、いろいろとためになる話も聞けました。感謝は尽きません」
受付前でバスを待つ間に、先輩アタッカーに頭を下げる。アイカも、しばしのためらいはあったものの、僕の隣で頭を下げた。
「……まあ、変なやつだとは思うけどさ。悪いやつじゃなかったし、おれたちにできないことをやってくれたから、その……ありがと」
「二人とも、よしてくだされ。先達としてできること、すべきことをしたまででござる。それに、拙者は既に二人の仲間のつもりでござる。協力するのは当然でござろう」
「だからこそ感謝なんですけど、あまりかしこまるのもお互いにやりづらくなりますね。この辺にしておきます」
改めて、僕は彼に言うべき言葉を伝える。
「それで、キモオタさんに問題がなければ、あなたを正式にこのパーティの斥候として迎えたいと思っています。こんな駆け出しパーティで役不足でしょうが、お願いできるでしょうか」
「とんでもない! こちらからお願いしたいぐらいでござる! 誘ってもらえなければどうしようと思っていたぐらいでござった!」
彼の言う「オタ芸」抜きで、純粋に喜んで応えてくれた。断られるとは思っていなかったけど、やはり緊張はしていたようで、肩の力が抜けるのを感じた。
アイカを見る。彼女は「しょうがねえなー」とでも言うように、苦笑していた。
「それでは改めて。このパーティの後衛・魔法使いを担当する倉橋凜太郎です。当面は軍師も担当することになりますが、よろしくお願いします」
「前衛・双剣士の小鳥遊愛花。まあ、よろしく頼むわ」
「斥候・投擲使いの秋元颯太、自称キモオタでござる。不肖の身ではござるが、誠心誠意尽くさせていただくでござる!」
こうして僕らは、新しい仲間を迎えたのだった。
三人に勝てるわけないだろ!(天下無双)
やや短いですが話がとっ散らかってるので今回はここまで。
Tips
光弾
凜太郎が愛用する光属性の弾丸型魔法。弾丸系は攻撃魔法の中では基本形であり、一般に威力はそこまで高くない。特に光属性は攻撃的な追加効果がなく、魔物相手では牽制にしかならない。
彼の場合、弾丸を圧縮して威力を高め、ピンポイントで急所を狙うことで火力を実現している。バトルスタイルは魔法使いだが、やっていることは弓使いのそれである。本人に自覚はない。
鉄猿
別に鉄の肌を持っているわけではなく、黒くて光沢があるのでこう呼ばれている。強さの割にいい素材が取れるので、ベテランソロの小遣い稼ぎに使われたりする。
上下の動きが素早く厄介だが、実は平面における動きはそこまででもなく、パターンも単調。慣れればなんということのない魔物だが、対処できないアタッカーも多いというのが現実である。
カレー
おいしい。私は中○屋のカレーうどんが好きです。
登場人物
秋元颯太
今パートのメイン。ネタ枠だったはずなのにめちゃくちゃ有能な先輩になってしまった。こいつすげえ爽やかなキモオタだぜ。
ダンジョンオタク。ダンジョン好きが高じてアタッカーを志し、職業にしちゃった人。元カノの岸峰ゆかりとの交際を続けるか否かで割と葛藤があったらしい。
言うほどキモオタではないが、そもそもキモオタは あ「きも」とそ「うた」 という名前から付けられたあだ名である。なんでそれを受け入れちゃったんですかね……(アルカイックスマイル)
前話の人物紹介でわかる通り、魔法関連以外が全体的に高ステータスでまとまっているが、攻撃技能を持ち合わせないためにソロアタックが不可能になっている。