※今回若干程度ではありますが性的な描写があります。苦手な方はご注意ください。
幼馴染がダンジョンで食ってく宣言をして3週間。ようやくこの日がやってきた。
そう。僕たちは今日、初めて実際にダンジョンアタックをする。
「ここが、ダンジョンなのか?」
彼女は魔物避けの柵に囲まれたダンジョンと、その入口の前にある受付用の建物を見て、予想通り困惑した。彼女のイメージとはかけ離れていたのだろう。
まずダンジョンについて。今回選んだのは、森林と地下洞窟の複合型ダンジョンだ。理由はもちろん、安全面を考慮してのことだ。
ダンジョンとは魔物の生存領域の総称であり、種類は一つではない。洞窟であったり、森林であったり、何もない砂漠であったり、あるいは高山であったりと様々だ。
階層というのは、階段を上り下りすることを示しているのではなく、ダンジョンの深度――中心部との近さを表している。だから同じ高度でも、より中心部に近ければ「階層が深い」と表現する。
ここで問題になるのが、「どこから先が階層が深くなるのか」ということだ。
洞窟型ダンジョンの場合、一般的には地下に潜るほど階層が深くなるためわかりやすい。だが閉所ということもあって、経験や知識がないと難易度が高い。初心者向きではないだろう。
森林型は、階層の境界がわかりにくい。経験豊富なアタッカーなら、植生や魔物の痕跡で判断できるらしいけど、そんなことが僕たちにできるはずもない。
階層が深くなれば、当然遭遇する魔物も強力になる。初心者である僕たちは、低階層を出ないようにダンジョンアタックをしなければならない。
そこで選んだのが、複合型ダンジョン。特に今回選んだここの場合は、森林部は低階層で洞窟からが中層と、境界がはっきりしているのだ。
事前に調べた情報でも「初心者におすすめ」となっており、低階層の難易度は非常に平易と考えられる。
そんなダンジョンの入口だから、それはまさに森林の入口。ゲームの影響で洞窟型(というか迷宮?)を想像していたであろう幼馴染からすれば、「違う、そうじゃない」と感じるだろう。
次に、受付。これはもう違和感バリバリだ。大自然としか言いようのない森林の目の前に、デンと大きな建物が鎮座しているのだから。多分テーマパークの入場口よりも大きいだろう。
これは、少し考えればわかることだ。ここは入口であると同時に、ダンジョンから魔物が人里へ侵入しないための砦でもある。造りが悪くては、その役割を果たすことはできないのだ。
実際、ニュースで時々聞く人里に魔物が出没するような事件は、建物の老朽化だったり、ちゃんと管理できていないダンジョンだったりが原因らしい。それぐらい、ダンジョン受付の存在は重要なのだ。
また、ここでダンジョンアタッカーが装備を受け取ったり、着替えたりするというのも、受付が大きい理由になっている。倉庫であり、更衣室であり、足りないものを補充する購買でもあるのだ。
そんな、徹底的に管理されたダンジョンというシステムは、幼馴染からすればロマンのかけらも感じられない代物だろう。とても微妙な表情をしている。
「ダンジョンって、もっとこう、さあ……」
「管理されてないダンジョンなら君の想像してるような場所もあるんだろうけど。管理されないってことは、それなりの理由があるんだよ」
危険度が低い。素材が取れない。人里が十分以上に離れている。などなど。少なくとも現代において、管理されていないダンジョンにアタッカーが入ることはない。それはトレジャーハンターや学者の仕事だ。
ダンジョンアタッカーの仕事は、「ダンジョンで得られる素材を回収する」だ。持ち帰った素材が、装備品や各種ポーションの材料となり、ダンジョン管理や他アタッカーたちに役立てられる。そうやって回っているのだ。
「この辺のことは、資格試験の出題範囲だったでしょ。君だって理解してるはずだよ」
「わかってるんだけどさぁ……ダンジョンってなんだよ」
理想と現実のギャップに振り回され、哲学的な悩みを口にし、幼馴染は天を仰いだ。
ダンジョンに入る前から精神的ダメージを受けた彼女ではあったけど、ここまで来たからには引き下がれないのか、ダンジョンアタックは予定通り決行することになった。
入口の自動ドアをくぐり、職員から「いらっしゃいませ」と迎えられる。
「すみません、本日ダンジョンアタックを予定していた者ですが」
「アタッカー免許はお持ちでしょうか。……承りました。少々お待ちください」
僕と彼女の免許を受け取り、コンピュータのキーをタイプする職員さん。「確認致しました」と、すぐに返してもらう。
「二名様ですね。お二人は今回が初めてのダンジョンアタックとのことですが、お間違いないでしょうか」
「はい、そうです」
「かしこまりました。それでは規則に従いまして、当ダンジョンについてのご説明と、ご利用にあたっての注意事項をお伝え致します」
説明を始める職員さん。とはいえ、僕は予約する際に調べておいたことなので、改めて確認する程度のものだ。そうおかしな内容ではない。
ざっくばらんにまとめると、「アタッカーは自己責任」「森林部は比較的安全」「初心者は洞窟に入るな」「回収素材は受付で換金する」といった感じだ。普通だな。
「ご了解いただけましたら、こちらの同意書にサインをお願いします」
今までの説明の内容が書かれた紙の下に、署名欄がある。そこに、僕の名前を書いた。彼女の方は……まだ混乱はしているものの、ちゃんと書けたみたいだね。
職員さんは用紙を受け取ると、今度はロッカーキーを渡した。僕に青いキー、彼女に赤のキー。更衣室のロッカーキーのようだ。
「お二人の装備は、それぞれの更衣室、キーに書かれた番号のロッカーに搬入されております。もし足りないものがございましたら、こちらの窓口までお問い合わせください」
「ありがとうございます。ほら、行くよ」
「お、おう。……想像してたのと、全然違う……」
「それでは、よきダンジョンアタックを」と職員さんから礼を受け、僕たちはそれぞれの更衣室へと向かった。
僕は早々に着替え終え、ライフポーションとマナポーション一つずつがバックパックに入っていることを確認し、ロビーまで戻ってきた。彼女は、まだ来ていないようだ。
そういえば試着のときも、僕はすんなり着られたけど、彼女は苦戦していたなと思い出す。女性用はデザインの問題で着づらくなっているのかもしれない。
もし一人で着られなくても、職員さんにヘルプを出すだろう。彼女も子供じゃないんだから。そう考え、彼女のことは気にせず、僕は購買の品を眺めた。やはり、全体的に街の店よりも高い。
たとえばライフポーションは、スポーツ用品店で買えば2千円だったが、ここだと3千円。マナポーションも8千円する。バフポーション類も、覚えている限り軒並み1.5倍だ。
ここは、決して交通の便がいい場所とは言えない。ダンジョン周辺は人が住むには適さない場所なのだから、当然と言えば当然だ。そして、不便な分だけ輸送の手間がかかる。その分の上乗せだろう。
この購買は、街での準備を怠ったアタッカーへの最後の救済措置と考えるべきだろう。ダンジョンに入る前から、アタッカーは自己責任を求められるのだ。
自分の命を最後に守れるのは、自分だけ。当たり前のことだけど、忘れてはならないことだ。少し緩んでいた気を引き締め直す。
「お待たせ。鎧着るのに時間かかっちまった」
そんな考察をしているうちに、彼女の着替えが終わったようだ。声の方を向き――硬直した。
この姿自体は街で既に見ていたけど、改めて直視してしまうと、やっぱりその……とてもエッチだ。
決して、男性にそういう目で見させるための造りではない。機能性と、女性が求めるファッション性を両立させるためのデザインだ。その結果が、幼馴染の女性としての魅力を前面に引き出してしまっている。
鎧のラインによってくっきりと浮かぶ豊かな胸。
黒いボディスーツに覆われた健康的な二の腕と太もも。
鎧の隙間から見える、引き締まり、それでいて筋肉質過ぎないウエスト。
全体的に女性らしい柔らかみのあるカーブを描いたシルエット。
それらを隠したいのか、恥ずかしそうにもじもじしており、逆に魅力的な体を強調してしまう悪循環。普段の彼女を知る者ならば、ギャップでさらに破壊力は倍プッシュ。
これは……ヤバい。
「ふんっ」
「お、おい!? 何やってんだお前!?」
とりあえず頭に血が上って言語野が暴走しそうだったので、壁に全力でぶつけて頭を冷やす。あれはガハハ系女子、あれはガハハ系女子……。
「ごめん。ちょっと頭の硬さを調べたくて」
「何言ってんだ? ……時々変になるよな、お前」
苦しいごまかしだったけど、僕のすることすべてに意味があると思っているのか、彼女は特に追求しなかった。何とか平静を取り戻す。
これからやるのは、ダンジョンアタック。比較的安全な範囲に収めるとはいえ、それでも必ず危険が伴う。のぼせ上がった頭では危険度を増すだけだ。僕は、常に冷静でなければならない。
僕の奇行で、彼女もまた落ち着くことができたようだ。狙っていたわけではないが、それならそれで結果オーライだ。
「荷物はちゃんと全部あることを確認した?」
「おう。ステ太郎もステ次郎も、ライフポーションもあるぜ」
「……一応聞いておくけど、それってステンレスダガーのこと?」
「おうよ! これから一緒にやってく相棒なんだから、ちゃんと名前を付けないとな!」
そう言って、ステンレスダガーを鞘を付けたまま構える幼馴染。気持ちはわからないでもないけど、何その安直すぎる名前。もうちょっとマシな名前つけてあげなよ……。
まあ、いいか。そのステンレスダガーは、今日で出番終了(の予定)なんだから。そのぐらいの方が捨てやすいだろう。
「僕の方は、ライフポーションとマナポーション。魔物から素材を回収するときは、君のステンレスダガーを貸してもらうことになるけど、いいよね」
「む、違うぞ! ステ太郎とステ次郎だ!」
「はいはい。じゃあステ次郎の方を貸してもらうから。連携については、前に言っておいた通り。君が前衛でかく乱、僕が後ろから狙い撃つ」
「おう、任せとけよ! おれがしっかり守ってやるからな!」
君は自分の身を守ることを第一に考えてよね。君の方が危険なポジションなんだから。
……それに、守るのは僕の方だ。この直情で、単純で、猪突猛進で、だけど素敵な幼馴染を、僕が知識と魔法で守るのだ。
言葉にはしない。それを言えば、彼女は怒るだろう。「バカにするな」って。彼女はそういう人だ。僕が彼女を守ることを、彼女が知る必要はないのだ。
二人とも万全の状態であることを確認し、ダンジョン入口側のドアへ向かう。こちらは自動ではなく、手動だった。魔物対策だろうね。
外に出ると、そこは小さな広場だった。受付からダンジョンまでの、ほんの小さな空間だ。
そこには、僕らと同じ――いや、先達たるダンジョンアタッカーたちがいた。
ガッチリとした重装備の男性や、明らかに魔法使いとわかる女性、一目ではロールがわからない装備の人など、「本物」のダンジョンアタッカーたち。もちろん、中年太りをしたレジャー客と思われる人々もいる。
決して多くはない。だけど少なくもない。アマチュアもいればプロもいるだろう。駆け出しからベテランまで、多様なダンジョンアタッカーが集まっている空間。それだけで、ひりつくような緊張を感じる。
そして広場の向こう。森の小道の入口となっているところこそが、まさに彼らが、そして僕らが挑む、ダンジョンの入口。
「……ついに来たな」
武者震いでもしたのか、幼馴染がブルリと震えて笑みを湛える。今彼女の胸中には、子供の頃からのいろいろな想いが去来しているのだろう。いつもの軽口でも悪ふざけでもない、万感の思いが乗せられた一言だった。
「そうだね」
僕の方も、彼女とは種類が違うだろうが、緊張感を持って答える。ここから先は、一切の油断ができない場所。気を抜けるのはここまでだ。
僕が、絶対に守る。怪我ひとつなく終わらせる。誓いを改め、顔をパシンと叩いて気合いを入れる。
歩みを進める。ダンジョンの入口に向けて。僕の後に続いて、彼女もついてくる。「おれが前だろ」と言って、彼女は僕を追い抜いた。
――さあ、それじゃあ始めよう。僕たちのダンジョンアタックを。
そうして僕たちは、ダンジョンに一歩目を踏み入れた。
この辺にぃ、4話もかけてまだダンジョンに突入してないダンジョン物書いてる屑作者、いるらしいっすよ?
多分次は5,000文字縛りできません。
Tips
ダンジョン受付
公的施設。この世界では魔物はダンジョンにしか生息せず、ダンジョンから魔物が流出しないように監視している。危険度の低いダンジョンには設置されていない。
ダンジョン監視を安全に行うためにはダンジョン由来の素材が必要で、これを回収するのがダンジョンアタッカー。割とロマンのない話ではある。
当たり前だけど、受付嬢さんも高戦闘力。管理側がアタッカーより弱いわけがないよなぁ?