おれっ娘、ときどきダンジョン   作:センセンシャル!!

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5,000文字に収まったので初投稿です。
※今回戦闘描写がある関係で残酷な描写が含まれます。ご注意ください。

2020/02/25 誤字修正 節理→摂理


ダンジョンアタック・一

 深い緑に覆われた森林のダンジョン。道から外れない限り足場も視界も決して悪くはなく、スタートは予想以上に楽だった。それもそうだ、ここは先達が何度も踏み固めてできた道なのだから。

 このまま道なりに進めば、おそらく中層となる洞窟の入り口にたどり着くのだろう。つまり、僕たちが本当のダンジョンアタックをするためには、どこかで道を外れなければならない。

 ダンジョンアタッカーは魔物を倒す。あるいは、薬草や薬苔、特殊な鉱石などを採集する。それは道に沿って歩いている限りできないことだ。

 

 魔物は人間――というか魔物以外全般を襲う。どういう理屈なのかは知らないが、これはすべての魔物に共通していることらしい。食べるために襲うのではなく、問答無用で襲いかかるのだ。

 とはいえ、やつらにも知能というものはあるようで、このような外敵(人間)が数多く往来するようなところで襲いかかってくるものは少ない。いないことはないが、それだけでは収入になるほどの素材は回収できない。

 だから、魔物を狩るためには道を外れて索敵するか、自分を囮にして襲いかかるのを待つか、なんにせよ行動を起こさなければならない。

 ダンジョン生成物の採集にしたって、道なりに生えているようなものなら取りつくされている。自分の力で採集場所を見つけなければならず、それも道を外れることになる。

 ダンジョンで稼ぐというのは、道を外れることから始まるのだ。……ベテランアタッカーのブログにそう書いてあった。

 

「……そろそろ道を外れよう。そこの横道に入って」

「おう」

 

 後ろから出した僕の指示に従い、幼馴染は木と木の間にできた小さな隙間を抜ける。後を追って、僕も道を外れる。

 途端に、一気に足場が悪くなった。落ち葉で足元が滑り、踏ん張りがきかない。もしこんなところで魔物に襲いかかられたら、倒せないとは言わぬまでも、無傷というわけにはいかないだろう。

 これが、ダンジョンアタック。比較的平易なはずの最低階層にも関わらず、この難易度だ。敵は魔物だけではなく、地形そのものでもある。やはり油断は一切できない。

 

「開けた場所を探そう。そこを一時的な拠点として、魔物の索敵をする」

「わかった。……けど、索敵なんかできるのか?」

「一応、そのための魔法も持ってるからね。……戦闘も考えると、あんまり多用はできないけど」

 

 僕の得意とする光属性の魔法に、「鏡面投影」と呼ばれるものがある。光の屈折と反射を利用して、離れた場所の景色を映し出す魔法だ。

 使用する魔力はそこまで多くない。一か所投影するのに、せいぜいが光弾の魔法一発分に満たない程度で済む。自然の光を利用しているだけなので、当然と言えば当然だ。

 しかし索敵に利用するとなると、一か所では済まない。持続時間も必要となり、そこそこの魔力を使うことになる。……索敵と戦闘を1回ずつ行ったとして、4セットで限界だろう。

 

「効率だけで言うなら向こうが見つけて襲いかかってくる方がいいけど、それはそれで不意打ちを受けるっていうリスクも大きい。こっちから打って出た方が安全だ」

「そりゃそうだ。……お前が索敵だけやって、おれが全部倒すってのじゃ、ダメなのか?」

「ダメだ」

 

 強く言い切る。確かに、彼女ならば、開けた場所で1対1なら低階層の魔物などに後れを取ることはないだろう。だけど、ここはダンジョンなのだ。戦闘中に他の魔物から不意打ちを受ける可能性だってある。

 そうなれば、彼女だって無傷というわけにはいかないだろう。それがもし、10体同時に襲いかかられたら? 20体なら? 低階層でも命の危険があるというのは、そういうことだ。

 もちろん、そんな大量の魔物に襲いかかられるというのは、早々ない。奴らは、互いが餌なのだから。顔を合わせればお互いに喰い合うのが基本だ。

 だが、全くあり得ないというわけじゃない。魔物同士が手を組んだとしか思えない動きでアタッカーに襲いかかったという事例は残っている。僕らは魔物のすべてを知っているわけではない。

 だから、彼女一人に戦わせるわけにはいかない。前衛という危険なポジションを担う彼女には、敵を倒すよりも自分の身を守ることに注力してもらう必要があるのだ。

 

「君の腕を信頼してないって意味じゃない。ダンジョンアタックでは安全マージンを欠かしちゃいけないんだ。マナポーションを買ったのと同じだよ」

「わかった。お前の方がいろいろ考えてるもんな。……信じてるよ」

 

 っ、こんなところで妙な色気を出さなくていいから。一瞬の動揺を、呼吸の中に溶かし込む。……大丈夫、落ち着いた。

 もう少し歩き、開けた場所に出る。半径10mほどの小さな広場だ。ここなら、たとえ索敵中に不意打ちを受けたとしても、十分対処できそうだ。

 早速、魔力を起動させる。術式を編み、魔力を走らせ、魔法の形にする。僕を中心としてジグザグに光が走り、周囲5か所を映し出す鏡を出現させた。

 見ていた幼馴染が「ほー」と感心の声を上げる。君は君で、周辺の警戒を怠らないこと。僕の指示に「おっとっと」と言いながら、彼女は警戒に戻った。

 

 そうして――早速一匹かかった。

 

「見つけた。3時の方向、距離は30。対象、地狼と確認」

「おう。攻撃力が低いから、十分に引き付けて倒す。覚えてるぜ」

 

 頼もしい限りだ。彼女は既にダガーを抜き放ち、構え、いつでも動けるように腰を低く落としている。

 僕はマークした一匹を映し出す鏡を残し、他を消す。鏡の中には、土色をした小型の狼が映っている。こいつが逃げられないタイミングを、しっかり見計らう。

 ……今だ!

 

「ゴー!」

「シッ……!」

 

 彼女が駆け出す。映像の狼が、ピクンと体を震わせ、こちらに向けて猛然と走り出した。よし、狙い通り!

 

「攻撃が来る、構えて!」

「おう!」

 

 敵の姿が確認できるか否かというところで、彼女は足を止め、双剣を前に構える。草むらから、鏡に映っていた地狼が飛び出してきた。

 僕は最後の鏡を消し、即座に次の術式を編み始める。彼女がうまく引き付けたところに、光弾を撃ちこんで倒す!

 プランは練った。あとは作戦通り、彼女が攻撃を回避すれば……。

 

 

 

「フッ!」

「ギッ……!?」

 

 気が付くと、地狼は真っ二つになり、彼女の後ろに落ちていた。……え?

 

「よっし、上手くいった。十分に引き付けて倒したぜ」

「……え?」

 

 今、何が起きた? 僕の目には、一瞬彼女の姿がブレたところしか見えなかった。そして、いつの間にか魔物が真っ二つになっていた。

 ……今の一瞬で、目にもとまらぬ一撃で、地狼を両断したってこと? ステンレスダガーで? ……んな、あほな。

 

「何やったの……?」

「何って……お前が言った通り、十分引き付けて、相手の攻撃かわして、一太刀入れただけだぜ? 意外と簡単に斬れるんだな、魔物って」

 

 どうやら、僕は幼馴染の戦闘能力を過小評価していたようだ。……この子、めっちゃ強くなってる。

 そういえば、お互いの鍛錬の成果を見せたときは、連撃しか見せてもらっていない。動きだとか、本気の一撃とかは見なかった。あれがすべてじゃなかったってことか。

 頼もしいと感じればいいのか、高校時代何やってたのって言えばいいのか。何とも言えない複雑な気分だった。

 ……気持ちを切り替えよう。何はともあれ、魔物を撃破することには成功したのだ。一刻も早く素材を回収して、この場から離れなければ。

 

「ステ次郎を貸して。僕はこっちの半分をやる。地狼の素材は、毛皮と牙だ」

「あいよ。……しかし、マジで魔物って血が流れないんだな」

 

 そう。魔物は、血液というものを持たない。これが、魔物が魔物と呼ばれる最大の理由。僕らとは異なる摂理の中で生きているのだ。

 魔物と似た姿の動物は外界に存在するが、彼らはちゃんと血が流れている。大きな食物連鎖の中に組み込まれた、循環する存在だ。

 これに対して魔物は、たとえば人や動物が魔物を食べたとしても、栄養にはならない。むしろ毒になる。魔物の側も、人や動物の肉を栄養にすることはできない。

 絶対に相容れることのない異物同士。共存することのできない存在。それが、魔物とそれ以外の関係なのだ。

 

「血が流れないから、素材回収は楽でいいけどね。っと、こっちは完了。そっちは?」

「はえーよ。とりあえず牙は取れたけど……毛皮剥ぐのってどうすればいいんだ?」

「そんなに綺麗にとる必要はないよ。そのまま使うものじゃないんだから。ダガーを差し込んで、力任せに引っぺがすので十分だよ」

 

 僕の指示通り、彼女は乱雑に毛皮をむしり取る。土色の毛皮の下から現れた地狼の肌は、やはり地面の色をしており、僕にはとても生き物のものとは思えなかった。

 剥ぎ取り終わった地狼の死骸は、適当な草むらの中に転がし、僕たちは再び森の中に隠れた。

 

 ――ほどなくして、地狼の死骸は別の個体に持ち去られた。それが、魔物たちの歪な食物連鎖なのだ。

 

 

 

 一旦、比較的安全な「道」のところまで戻り、状況を確認する。彼女のステンレスダガーは刃こぼれ一つしておらず、本当にきれいに一刀両断したようだ。当然、彼女には傷一つなし。

 僕の方は、索敵に魔力をそこそこ使ったけど、まだ余裕はある。もう一度潜る程度なら、マナポーションは必要ないだろう。

 ……問題は、別のところにある。

 

「いやー、ほんとに上手くいったな、おい!」

 

 今の戦闘が上手くいきすぎたせいで、彼女の集中力が緩んでしまった。完全に切れてしまったということはないだろうが、言動から多少の油断が見て取れる。

 

「声が大きい。ここはまだダンジョンの中なんだよ。比較的安全とは言え、魔物に襲われる危険はあるんだ」

「なーに、平気だって。さっきの見ただろ? あんな雑魚、何匹来たって相手にならねーよ!」

 

 ……ダメだ。この状態の彼女は、言葉では抑えることができない。痛い目を見なきゃわからないパターンに入ってしまっている。

 ここは、被害が出る前に引き返すべきか? まだ彼女に現実を見せるというミッションは達成できていないし、確実に文句を言われるだろうが、このままダンジョン内にいるのは非常に危険だ。

 だが、どうやって彼女を説得する。今、僕の手元には彼女を説得するための材料がない。危機感を煽ろうにも、安全マージンを取りすぎて全く説得力がない。

 強引に連れ帰る。……ケンカになって、彼女を余計に意固地にさせてしまうだけだ。そもそも僕と彼女だと、彼女の方が力がある。力任せに連れ帰ることはできない。

 仮病を使う。ある意味一番現実的な方法かもしれない。僕にそれだけの演技力があるんならな。ついでに、僕が高校まで無遅刻無欠席無早退ではなければ。今は無駄に健康なこの体が恨めしい。

 帰還した方がいいという結論は出ているのに、その方法がない。これが、ダンジョンアタック。……なんか違うな。

 

「仕方ない。僕の方で警戒を強める。君は、さっきの通りに動けるようにだけ考えておいて」

「おうよ、任せとけ! ……そういえば、今回収した素材って、いくらぐらいになるんだ? 1万円ぐらいになっちゃったりして!?」

「んなわけないでしょ。地狼の素材なんて、よくてせいぜいが1匹千円だよ。弱かったでしょ」

「はぁ、マジかよ!? 効率悪いなー……」

 

 そんなに簡単に大金が手に入るなら、もっとダンジョンアタッカー人口は多いよ。こんなコストパフォーマンスだから、アタッカーで食べていける人は一握りなんだよ。

 最低階層のみでやっていくとしたら、装備の元を取るだけで、一人当たり地狼を100匹狩らなきゃいけない。とてもじゃないけど生活していくなんて無理だ。

 具体的な数字を見て、ようやく現実を見てくれる。……とかだったら、どれだけ楽なことか。

 

「なら、もっと大物を狩ろうぜ! 最低階層でも、もうちょい強いやつはいるだろ?」

「言うと思ったよ……。こればっかりは運だからね。僕の索敵は、本業の斥候には全然及ばないんだから。狙った魔物を見つけるなんて無理だよ」

 

 中層に行こうなんて言い出さないだけマシだったと思おう。そんなこと言っていたら、僕は何が何でも彼女を止めていただろう。たとえ、彼女に嫌われてしまったとしても。

 

 気持ちをより一層引き締める。幸い、さっきの戦闘は彼女一人で処理してくれたから、僕の魔力も想定より余っている。最悪はマナポーションの使用も視野に入れる。

 次の戦闘で、確実に彼女を守り、帰還する。彼女には言わず、心の中で決意を固め、僕と彼女は再び森の脇道へと入り込んだ。




ピコーン(フラグ1)



Tips

鏡面投影
光属性の補助魔法。ある程度までの遠隔地の映像を映し出す鏡を作る。盗撮魔法。
使用する魔力は多くないが制御が難しい。5枚同時とか、割と変態レベル。変態眼鏡魔法使い君。

地狼
地表系ダンジョンの低階層によく出現する魔物。土色の毛皮の下に土色の肌を持つ気持ち悪い狼。
魔物全般の特徴として、他の動物との間に摂食関係はなく、無条件に襲う。体に血は流れておらず、生物とは言い難い存在。
獣シンボルレベル1。野生の薬をドロップする。
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