おれっ娘、ときどきダンジョン   作:センセンシャル!!

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淫夢語録はないので初投稿です。
※前回に引き続き戦闘描写がある関係で残酷な描写が含まれます。ご注意ください。


ダンジョンアタック・二

 どうやら、先ほどは余程運が良かったらしい。2回目の索敵を始めてから、早30分。いまだ魔物はおろか、動物の姿すら見かけない。

 頭を索敵のためにフル稼働させ、ほんの少しだけ残った部分が「そりゃそうだ」と冷静な突っ込みを返してくる。そんなこっちに都合よく入れ食い状態になるなら、ダンジョンアタッカーはもっと増えている。

 魔物がどれだけ僕らと相容れなかろうが、あいつらだって生き残ろうとしている。食い合う関係の他の魔物と下手に接触しないよう警戒するだろうし、魔物を狩るアタッカーだってその対象には含まれているだろう。

 だから、下手に姿を見せようとはしないし、姿を見せてくれなければ光の魔法を使った索敵では見つけることができない。これが五感をフルに使う本業の斥候とかなら、話は違ってくるんだろうけど。

 僕も彼女も、「魔物と戦う」ということだけを考えて技術を磨いた。そのせいでこういった「戦闘以外で必要なこと」は、知識はあってもうまくこなせない。僕たちの最大の欠点だ。

 次のときは斥候や軍師のロールを勧誘するべきかもしれない。そう思い――思考を拭い去る。

 何を考えている、次などない。今回のこれで彼女を諦めさせるのだ。今回を無事に切り抜け、それでおしまいだ。ありもしない次のことなど考えている余裕はない。

 わずかに浮かんだ思考を切り捨て、鏡面投影の映像を精査する。……やはり、動物も魔物も痕跡がない。

 

「ふぁ……まだ見つからないのかよー」

 

 僕の後ろで、広場の真ん中にあった切り株に腰かけた幼馴染が、あくび交じりに尋ねてくる。彼女は、完全に集中が切れてしまった。

 先ほどまでなら、不意打ちをされても反応ができただろう。だけど、索敵に時間がかかりすぎた。何もしない時間は、この静かな森林環境も相まって、彼女から緊張感を奪い去ってしまった。

 もう彼女は不意打ちに対処できない。こちらから見つけたとしても、先ほどの動きは期待できない。僕が見つけ、倒すしかない。……残りの魔力は、半分を切った。気持ちばかりが焦る。

 

「なぁー。暇だから話ぐらいしようぜー」

「……僕にそんな余裕はないよ。今だって、斥候の真似事で必死なんだから」

「別にそこまでしなくてもいいじゃんか。今は近くにいないってことなんだよ、多分」

 

 彼女の言うとおりかもしれないし、そうではないかもしれない。やはり、僕には魔物の動向を把握することができない。そうである以上、無駄かもしれなくても、やめるわけにはいかない。

 僕は返事を返さず、彼女は「ぶーぶー」と口で不満を音にする。……まったく、人の気も知らないで。

 

「あーあ。魔物は出ないし、お前は相手してくれないし。ダンジョンアタックって、思ってたほど楽しくねえな」

 

 今更なことを言う幼馴染。仕事というのはそういうものだ。一事が万事楽しくできるわけではない。やりたくないことだってときにはやらなきゃいけない。みんながやりたいことだけやってたら、仕事は回らない。

 ダンジョンアタッカーにしたってそうだ。夢のないことを言うなら、アタッカーというのは公務員の下請けだ。公務員の手が回らないダンジョン内の探索や素材の回収を請け負っているに過ぎない。

 何度も言うが、これだけしっかりダンジョンを管理している公務員の手が回らないことには相応の理由がある。つまり、ダンジョンアタックというのはそれだけ手間がかかるのだ。

 ゲームや漫画のように、強大な魔物を倒したりお宝を見つけて一攫千金、なんてできるわけがない。できるならとっくに誰かがやっている。それが僕の言う「彼女に見せたい現実」だ。そもそもダンジョンに宝はないし。

 ……考えていたプランとは少し違うけど、彼女がそれを認識できたというのなら、ミッションの一つは達成だ。あとは彼女を納得させ、ダンジョンから抜け出すだけだ。

 

「……もう帰るなら、僕は賛成だよ」

「それもなぁ。だってまだ地狼一匹だろ? 千円だぜ、千円。せめてもう2、3匹狩っときたいぜ」

「だったら、集中させて。見落としたら、いつまで経っても狩れないよ」

 

 「わかってるけどさー」と緊張感なく寝そべる彼女。……この感じなら、多分あと1匹でも狩れれば、彼女を説得することができるだろう。あと1匹でいいんだ……。

 祈るように、残り少なくなってきた魔力を酷使させて、鏡を維持する。いつでもマナポーションを使えるように、バックパックに手をかけた。

 

 

 

 ……っ、見つけた!

 

「いた、そっち」

「っしゃ!」

 

 内心の歓喜を抑え、地狼を見つけた方向を指で示す。彼女は勢いよく体を起こし、素早く双剣を鞘から抜いた。明らかに気が逸っている。

 

「確認。君は身を守ることを第一に考えて。絶対に無茶な攻撃はしないこと」

「わかってるって! あんな雑魚の攻撃なら、目をつむってたって当たらねえよ!」

 

 わかってない。が、押し問答している余裕もない。魔力の消費を抑えるためすぐに4枚の鏡を消して、一匹の地狼にだけ集中する。

 ――ここで、思わぬ事態が発生する。タイミングを計る前に、地狼がこちらとは反対方向に向けて走り出したのだ。

 

「これは、逃げる気か?」

「んだとぉ!? 待ちやがれこの犬っころが!」

「あ、バカ!」

 

 さらに、僕の状況分析を聞いた彼女が、大声を出しながら地狼に向けて走り出してしまった。これは……まずい。危険な状況だ。

 集中の切れた彼女は、自分の位置を周囲に潜む魔物に喧伝しながら走っている。あの地狼は臆病な個体なのか、逃げるスピードを上げて、どんどん森の奥へ向かっている。

 このままでは、足場の悪い森の中で魔物と遭遇しかねない。……どうするもこうするも、ないか。

 

「本当に手のかかる幼馴染だよ、まったく……!」

 

 愚痴りながら、僕も彼女の後に続き、森の奥に向けて駆け出した。それが悪手であるとわかっていながらも、そうするしかなかった。

 

 

 

 

 

 見つけた地狼は、袋小路に追い込めたことで、何とか撃破することに成功した。臆病だったのは力のない個体だったからなのか、動きは鈍く、集中の切れた状態の彼女でも難なく攻撃をかわすことができた。

 今回は縦真っ二つはできなかったようだ。おそらくあれは、地狼の突進速度にきれいなカウンターを合わせたことで、偶発的に発生したものだったのだろう。彼女の技量も大きく関係してはいるだろうけど。

 前回に比べればだいぶ足の遅い地狼は、比較的切り落としやすい首に一撃を入れて倒したようだ。彼女に牙の方を任せ、僕は毛皮を手早くはぎ取る。

 

「よし。一刻も早く戻るよ。僕はあと一回戦闘したら魔力切れだ。引き上げ時だよ」

「むー。あんまし手ごたえなかったけど、そういうことならしょうがないか。マナポーション高いしな」

 

 何とか説得には成功した。だけど、問題はここからだ。地狼を追って森の奥に入ってしまったせいで、「道」までの距離がだいぶある。迷わないように目印はつけてきたから、帰れないということはないけれど。

 安全な場所までの距離があるということは、それだけ魔物と遭遇する危険が増すということだ。しかも、視界が悪く足場も安定しない森の中で。……この子だけは、何としてでも無傷で帰らせないと。

 

「君は、後ろを警戒して。僕が先行する」

「はぁ? おれが前衛なのに、お前が先に行ってどうすんだよ。武器も持ってないだろ」

「魔法があるよ。近接戦ができないなんて言ってない。……気付いてないかもしれないけど、今の君は完全に集中が切れてる。前を任せるわけにはいかないんだよ」

「っ、ふざけんな! それじゃ誰がお前を守るんだよ! それはおれの仕事だろ!」

「違う。君の仕事は、君自身を守ることだ。ダンジョンアタッカーは自己責任。大前提を忘れるな」

「……なんだよそれっ!」

 

 まずい。こんな場所で言い争いなんてしてる場合じゃないのに。僕も気が急いていたのか、言葉を選ぶ余裕がなかった。

 こうなった彼女がテコでも動かないということはわかっていたのに。何とかなだめて、この場を離れないと……。

 

 

 

 ……――!

 

 彼女を突き飛ばす。驚いた表情を見せた彼女と僕の間に、何かが飛来し、地面にめり込む。それは、拳ほどの大きさのある石だった。

 

「っ!」

「遅かったか……!」

 

 あわてて姿勢を直し、ダガーを構える彼女。僕は石の飛んできた方を見て、何がいるのかを確認した。

 

 それは、地狼と同じく土色の毛皮を持つ魔物。小型の熊の姿をした「地熊」と呼ばれる魔物だった。

 

 地熊は、地狼の素早さを落として力を上げたような魔物だ。魔物としての強さ自体は地狼よりも少し上程度だが、厄介なのは意外と前足が器用なことだ。

 今のように投石攻撃をしたり、木を登って上から強襲してきたり、行動パターンが地狼よりも多い。動きこそ緩慢だが、対処を間違えれば一撃をもらってしまう魔物だ。

 力があるため、僕や彼女では受けきれない。一撃をもらうということは、負傷するということだ。鎧のおかげで軽減できたとしても、無視することのできないダメージになるだろう。

 

「あいつの攻撃は遅いけど重い。回避を優先して、近寄らせないで。何とか足止めして、逃げるよ」

 

 即座に頭を切り替え、彼女に指示を出す。だが、先ほどまでの口論が尾を引いてしまった。

 

「はん、狙ってた大物だろ? だったら、やっちまおうぜ。あんなウスノロに負けるわけねえだろ!」

 

 僕の指示を聞かず、彼女は地熊に向けて突撃してしまった。……この、バカ娘!

 もう躊躇している余裕はない。僕はバックパックからマナポーションを取り出し、一息に飲み干した。煮詰められた薬草の青臭さで吐きそうになり、気合いで抑え込む。

 効果はすぐに表れた。先ほどまで魔力の減退で鈍っていた思考が一気にクリアになる。マナポーションを使ったのは当然初めてだけど、すごい効果だ。味は最悪だったけど。

 魔力の回復を確認し、即座に光弾の術式を編む。地熊は既に石を拾い、彼女に向けて投げていた。

 

「迎撃はする!」

「っ!」

 

 回避行動に移ろうとしていた彼女に向けて言いながら、僕は石と同じ大きさ程度の光弾を生み出し、射出した。

 魔法と投石では速度がまるで違う。一瞬ののちには魔法が石にぶつかり、両方が粉々に弾け飛んだ。

 それに魔物が驚いたのかどうかはわからない。ともかく次の投石は来ず、彼女が地熊の目の前にたどり着いた。小さい熊とは言っても、彼女より二回りは大きい。

 腕を振り上げる地熊。彼女は速度を緩めず、駆け抜けて一撃を回避する。すれ違いざまにダガーを振るい、地熊の胴体に傷を負わせる。

 ……だが、地熊は倒れない。耐久力が地狼よりもだいぶ上なのだ。あの程度の小さな傷では、逆に凶暴になるだけだ。

 

「下がれ! ダガーじゃ分が悪い!」

「ちぃ、ウスノロのくせに!」

 

 さすがに攻撃が有効でないと判断したようで、彼女は大きく後ろに下がる。それと同時に、僕は光弾の狙いを定める――

 

 

 

 ドン、と。彼女の背中に、草むらから飛び出した地狼が体当たりした。

 

「……あ?」

 

 その衝撃で、彼女が装備していたスケイルメイルの留め具が外れ、鎧は地面に落ちる。無防備となった彼女は、体勢を崩して膝をついた。

 彼女の目の前では、地熊が腕を振り上げていた。

 

 

 

 無我夢中だった。鎧がない状態で地熊の攻撃を受ければどうなるかなんて、わかりきっている。血まみれになった彼女の姿が頭をよぎった瞬間、僕は「灼光」の魔法を放っていた。

 効率ガン無視の、灼熱の光で焼き尽くす魔法。僕が使えばそれだけで魔力切れを起こすような、絶対に使うことはないと思っていた魔法。

 術式を編んだ感覚も残っていない。ごっそりと削られた魔力と、炭と化した地熊の姿が、僕がそれを使ったという結果を物語っていた。

 ……まだ、地狼が残っている。魔力切れでかすみがかかる意識の中、光弾の術式を編み、流れ作業のように地狼の頭を撃ち抜いた。これで本当に、僕の魔力は残っていない。

 

「よろい、きて。にげるよ」

「……え? っ、ああ、わかった!」

 

 まだ混乱の残っていた彼女ではあったけど、僕の様子――足元がフラつき焦点の合っていない目を見て、素直に指示に従ってくれた。

 彼女は、留め具もまともに止めないまま乱雑に鎧を身につけ、僕の肩を担いだ。魔力切れでまともに思考が働いていない僕は、彼女の手助けを受けて、その場を後にした。

 

「めじるし、あるから、たどって」

「わかったから! 無理してしゃべるな!」

 

 ――あとには地熊の焼け残りと、頭を撃ち抜かれた地狼だけが残され……それらも数分後には姿を消した。




意外と早く落ちたなぁ……(フラグ回収)



Tips

ロール
ダンジョンアタックにおける役割。前衛や後衛以外に、「斥候」「軍師」「遊撃」などがある。
作中では魔法使い君が後衛以外に斥候と軍師をやって、双剣士ちゃんが遊撃をやってる。二人とも仕事量多すぎィ!!

バトルスタイル
魔法使い、双剣士などの戦闘方法を差す言葉。「前衛・双剣士」という表現は正しくは「ロールとバトルスタイル」だが、長いので「ロール」とひとまとめにされる。
前衛タイプは重戦士や剣士など、後衛タイプは弓使いや投擲使いなどがいる。魔法使いはコスパが悪いので、実は低階層では見かけない。

地熊
ランクとしては地狼と同じか一つ上ぐらいの魔物。ナイフを持った子供で対処できるレベルではない。が、遅いので逃げるのは簡単。
初心者が遭遇した場合は逃げることが推奨されている。地狼と同じ素材しか手に入らないくせに倒すのが面倒。はずれモンスター枠。



灼光
魔法使い君が覚えてる最大火力の光魔法。魔力任せに熱を伴う光を照射し、対象を焼き尽くす。もちろん地熊相手ではオーバーキル。
一発撃てば魔力切れを起こす上に、火力が高すぎて素材がダメになってしまうため、よっぽどのことがなければ使う気はなかった。
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