おれっ娘、ときどきダンジョン   作:センセンシャル!!

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ようやく名前が決まったので初投稿です。


おれっ娘の独白 ~ 冒頭に至るまでのお話

 ――本当のところを言えば、ダンジョンなんてどうでもよかった。ただ、あいつと一緒にいたかっただけなんだ。

 

 

 

 

 

 おれと幼馴染が初めて出会ったのは、小学校に入る前だったと思う。

 当時から女連中のままごと遊びには興味がなかったおれは、男友達と一緒に外で遊ぶことが多かった。

 年長にもなると、同じ保育園の連中だけじゃなくて、公園に集まった他の連中も交じって、野球だのサッカーだのをして遊んだ。

 あいつは、そんな中に混ざっていた一人だった。

 

 とは言っても、あいつは当時からどこかズレたやつだった。他の連中が我先とボールに群がっている中、皆の和から外れたところで本を読んでいた。

 あいつと同じ保育園の連中も気にかけず放置されていて、あいつの方もまるで気にせず本を読んでいたのだ。

 他のやつらとは違うから気になった。理由とはしてはそんなものだろう。

 

「なあ、その本面白いのか?」

 

 声をかけると、あいつはビクッと震えて本を閉じた。おどおどした態度でおれを見上げ、髪の隙間から見えた顔は女みたいだった。

 

「……君、皆と遊ばないの?」

「人数多すぎてつまんねー。それよりその本だよ。面白いのか?」

「えっ、と……お父さんがくれた、古い魔法の教科書なんだけど……」

 

 「魔法」。当時のおれは、その言葉を聞いただけで、一気に興味を持っていかれた。小学生かそのぐらいの男と言えば、魔法にロマンを感じるものだ。おれは女だけど。

 

「お前、魔法使えんの!?」

「ひぅ!? あの、そのっ……!」

「なあ、見せてくれよ! いいだろ!?」

「や、やめ、はなしてっ!」

 

 今から思えば、よくあんな強引な態度で仲良くなれたと思う。あいつみたいな性格からしたら、一番苦手なタイプの子供だったんじゃないかと、反省している。

 強引な要求だったけど、なんだかんだであいつも見せたかったらしく、小さな光を灯す魔法を見せてくれた。当時のおれは、それだけでも感動物だった。

 

「すっげー、本物の魔法だ! お前、すげーやつだな!」

「そ、その、大したことじゃないんだよ? このぐらいなら、大人は誰でもできるって……」

「お前、子供じゃん! おれの保育園で魔法を使えるやつ、見たことねーよ!」

「そ、そうかな……?」

 

 そうやって褒めたのが良かったんだろう。あいつはおれに気を許してくれた。そして、一緒に魔法の教科書を見て、おれにはちんぷんかんぷんだった。今なら、もう少し意味が分かるだろうけど。

 

「じ、じゅつしき? ぞくせい? ……わかんねー」

「あはは。魔法には、性質を決めるものと、形を決めるものがあるんだよ。そこに魔力っていうのを流すと、魔法になるんだ」

「うがー! もっと簡単に魔法使えねーのかよ!」

「やり方さえわかればすぐだよ。……あ、もう夕方だ。そろそろ帰らなきゃ」

「待て! お前、明日もここに来い! それで、おれに魔法を教えてくれ!」

 

 あいつは、びっくりした顔で俺を見た。多分、自分がそんなに必要とされるなんて、思ってなかったんだろうな。……みんなが遊ぶ場には呼ばれるのに、全く気にかけられてなかった。そんな扱いだったんだから。

 びっくりして、次には笑っておれを見てくれた。だからおれも、満面の笑顔で握手をした。

 

 

 

「おれ、小鳥遊愛花(たかなしあいか)! よろしくな!」

「僕は、倉橋凜太郎(くらはしりんたろう)。よろしくね。……君って、女の子みたいな名前だね」

「なっ!? おれは女だ、このバカ! っていうかお前こそ男だったのかよ!?」

「ええ!? ご、ごめん! なんかいろいろごめん!」

 

 ……そういえば最初は、お互い性別を勘違いしてたんだっけ。ま、まあしょうがないよな! あいつ女顔だし!

 

 

 

 それからおれと幼馴染――リンは、毎日公園で遊ぶようになった。他の子供がボールや遊具で遊んでいるのそっちのけで、魔法の練習をした。

 

「むむむ……えいやっ!」

「わっ! 今一瞬だけど火が点いたよ! やったね、アイカちゃん!」

「へへ、どうよ! ……「アイカちゃん」はやめろ!」

 

 あいつの教え方がよかったのか、数日もするとおれは着火の魔法が使えるようになった。生活魔法っていう、大人なら誰でも使えるような魔法だ。

 そんな魔法でも、当時のおれたちからしたらすごいことだった。だからこの魔法が使えるようになったときは、本当にうれしかった。おれにとっては思い出の魔法だ。

 

「そっか……アイカちゃん、魔法、覚えちゃったね」

「? なんだよ、おれが魔法覚えたらいけないのか? だからちゃんはやめろってば」

「……だって、もう僕の力、必要ないでしょ」

 

 ――この魔法のおかげで、おれとリンは、もっと仲良くなれたんだから。

 

「何言ってんだ、このバカリン! お前、もっといろんな魔法使えるんだろ!? 知ってんだぞ!」

「で、でも……」

「それに! 魔法なんかなくたって、おれはお前と遊びたいんだよ。……言わせんなよ、このバカ!」

「っ……うん! 僕も、アイカちゃんともっと遊びたい!」

「ちゃんは禁止!」

「ご、ごめん、アイカちゃ……アイカ」

 

 おれがこの魔法を覚えてから、あいつもおれのことを「アイカ」と呼び捨てで呼んでくれるようになった。

 そのことが、今でも時々思い出すほど、嬉しかった。

 

 

 

 小学校に上がってすぐ、おれはリンと同じクラスになったことで、家が近所であることを知った。うちの裏の向かい側が、倉橋家だった。微妙に距離があったせいで、おれもあいつも、気付いていなかった。

 だから小学校からは、おれは頻繁にリンの家に遊びに行き、あいつもまたうちに遊びに来るようになった。

 家族ぐるみの付き合い……とはちょっと違うけど、おれがあいつの両親と仲良くなり、あいつがうちの母親と仲良くなる。そのぐらいの付き合いはあった。

 

 ダンジョンの話が出たのは、そのときぐらいだ。

 

「なあリン。ダンジョンって知ってるか?」

「知ってるけど。急にどうしたの、アイカ」

 

 あいつの部屋で漫画を読んでるときに、ふとそんな話題になったんだっけ。

 

「ダンジョンってさ、なんか……わくわくしねえ?」

「気持ちはわかるけど……アイカってほんと、そういうの好きだよね」

「まーな。で、さ。おれ、ちょっと考えたんだよ。おれたちが大人になったら、パーティ組んで、ダンジョンに行ってお宝を集めるって、いい考えじゃね?」

「……あのね、アイカ。多分それ、ゲーム混じってる。ダンジョンって、お宝を集める場所じゃなかったと思うよ」

「え、そーなの? ゲームだと宝箱がたくさん置いてあったのに……」

「あれは遊びだから……。えっと、現実のダンジョンは、魔物の住んでる場所のことで、魔物を倒してお金をもらう場所、だったと思うよ」

「なんだよー、お宝がなくっちゃダンジョンじゃないだろー……」

「あはは、アイカらしいね。……でも、ダンジョンに行くっていうのは、面白いかも」

 

 そう。最初は、あいつの方がダンジョンに乗り気だったんだ。女みたいな顔でも、やっぱり男なんだなって思ったっけ。

 

「お? じゃあやっちゃう? おれたちで伝説作っちゃう?」

「さすがに伝説は無理だろうけど……せっかく挑むなら、ダンジョン制覇ぐらいしたいよね」

「いいじゃん、やろうぜダンジョン制覇! おれとお前で最強の二人、ってさ!」

「あはは、それもいいね! それじゃあ僕は、目指せ最強の魔法使いだ!」

「おう、ならおれは最強の剣士になるぜ! ダンジョンって言ったら、やっぱ剣だよな!」

 

 そんな感じのノリでお互いの役割……ロールを決めて、結局あいつは、高校卒業まで鍛錬を続けたんだよな。人のことは言えないけど、あいつも結構単純なところがあるよな。

 まあ……そんなあいつだから、今も一緒にいるんだけどさ。

 

 

 

 

 

 少し時間は飛ぶ。小学校と中学校は、その前と何も変わらず、ずっと仲が良かった。節目節目にイベントはあったものの、特筆すべきことは何もなかったと思う。

 そして高校生になって……おれたちは、あまり話さなくなった。

 

 小学生のときは男とほとんど変わりなかったおれの体も、中学を経て「女」になった。初潮を迎え、胸は膨らみ、体は丸くなった。男に力で負けるようになった。嫌でも自分が「女」であると思い知らされた。

 剣術部の体験入部のときも。自主練で鍛えた力押しの剣が、通用しなかった。女子部員の持つ「技術」で、完全にいなされ打ち据えられた。……ショックだった。

 リンが魔法の鍛錬を欠かしていないことは知っていた。あいつは、クソが付くほど真面目なやつだから、きっとメキメキ力をつけている。なのにおれは……おれの剣は、性別の差で通用しなくなってしまった。

 あいつに失望の目で見られるのが怖くて、おれはリンを避けるようになった。リンも……そんなおれの内心を察したのか、目を合わさなくなった。

 

 そうして高校の二年間が無意味に過ぎて……――おれにとって、一つの事件が起きた。

 

 

 

 それは、高校三年の夏のことだった。授業が終わって、帰ろうとしたとき、クラスの女子のある会話が耳に飛び込んできた。

 

「えー!? ゆっこ、倉橋君にコクられたのー!?」

 

 ――雷に打たれたかと思うような衝撃。おれは椅子から立ち上がろうとした姿勢のまま、固まってしまった。

 しばらくの間、意味が分からなかった。誰が、誰にコクったって? コクるって、なんだ?

 だけど……時間とともに言葉の意味が頭に染み渡り、理解してしまう。

 

 リンが、誰かに、告白した。

 

 理解した瞬間、おれはわき目も振らずに駆け出した。教室を抜け、階段を駆け下り、学校を出て、全力で家に走った。

 おれを迎える母さんにただいまも言わず、2階のおれの部屋に駆け込み、ベッドにしがみつき……泣いた。

 苦しかった。自分がなんでこんなに悲しいのか、わからなかった。ただ、涙だけがいつまでも止まらなかった。

 

 いつの間にかおれは、母さんに抱きしめられていた。子供の頃のように頭を撫でられ、慰められていた。学校であったことを、話していた。

 

「そう……つらかったわね。愛花は、凜太郎君のことが、好きだったものね……」

 

 

 

 母さんの言葉が、すとんと胸の内に落ちた。自分の涙の意味を理解した。

 おれは……リンの隣にいるのがおれじゃないことが、知らない女がいることが……どうしようもなくいやだったんだ。

 

 

 

 その後、リンの告白は失敗に終わったことを知り、ホッとした。しかも、何故かリンが告白したという女(ゆっことか呼ばれてたやつ)に謝られた。「邪魔するつもりはないから」とかなんとか。

 それでおれは……このままじゃダメだと思ったんだ。

 

 今のおれじゃ、リンの隣にはいられない。あいつはどんどん先に進んでいるのに、おれは高校一年のときから何も成長していない。

 だからおれは、あいつの隣に立てるぐらいに成長しなければならない。その方法は……バカなおれは、子供の頃の約束ぐらいしか思い浮かばなかった。

 

「……いいよ。なってやろうじゃん。最強の剣士に……!」

 

 それからはもう死にもの狂いだった。

 力では男に勝てない自分が、何とか男に勝てる方法を探し、速度重視の双剣というスタイルにたどり着いた。

 鈍った体を鍛え直すため、死ぬ気で走りこんだ。回避能力を鍛えるため、丸太を揺らして見切る訓練をした。何度も回避に失敗し、生傷は絶えなかった。

 そうやって二年間、鍛え続けた。対人戦の経験こそ体験入部の試合のみだったが、動きのキレと剣速だけならあいつらにも負けないぐらいになった。

 

 

 

 そうして、リンのところに向かって……あいつは何故か、ダンジョンアタッカーではなく商社に就職という道を選んでいた。知ったとき、おれは目が点になった。お前、ダンジョンはどうしたんだよ。

 今の時代は安定した収入が大事? 就職先が見つからないなら僕が会社を紹介する? ふざけんなバカ、余計なお世話だよ!

 そんなわけで、あいつが紹介してくれた会社は、素のおれバリバリで面接を受けてとっとと終わらせた。別に女として取り繕うことができないってわけじゃない。やる気がないだけだ。

 高校卒業以来、リンと話をするときによく使うファミレスで、あいつはおれの就職先について頭を悩ませた。……本当に鈍感なやつだ。

 

 いいか? おれはお前の隣にいたいだけなんだよ。その方法はなんだってかまわない。親友だろうが、恋人だろうが、夫婦だろうが、なんだっていい。

 お前がおれの気持ちに気付かないっていうなら、気付くまで隣にいてやる。もう逃げられないからな、覚悟しやがれ。

 

 そして、おれは宣言した。

 

「決めた! おれ、ダンジョンで食ってく!」

 

 ――絶対お前を手に入れてやる。




最後なかなか無茶苦茶言ってるアイカちゃんですが、要約すると「大好き♡ 結婚しろ♡」です。

とりあえずこれにて一章は終了です。



Tips

生活魔法
この世界の大人なら誰でも使える、基本的な魔法。着火、光源、水滴などなど。使えるものから使い物にならないものまで。
凜太郎とアイカは相当早く覚えたけど、アイカの方は鍛えてないので生活魔法までしか使えない。



登場人物

倉橋凜太郎(くらはしりんたろう) ♂ 後衛・魔法使い
本作主人公。インテリメガネの女顔。身長は結構高い(170cm以上ある)
生真面目な性格で、子供の頃の約束を律儀に守って魔法の腕前を磨いた結果、とんでもなく変態的な精度の魔法を使えるようになった。精度だけならベテランアタッカー顔負け。
アイカのことを憎からず思っているが、自分の気持ちにすらまともに気付けないレベルの鈍感。頭でっかち。
アイカからはリンと呼ばれる。

小鳥遊愛花(たかなしあいか) ♀ 前衛・双剣士
本作の真の主人公。タイトルの時点で当たり前だよなぁ? 子供の頃からの筋金入りのおれっ娘。(理由は特に)ないです。
身長160cm程度で、バストはDとかなり立派。普段は服装のせいでわからないが、割と女性的な魅力にあふれた体をしている。
実は子供の頃から凜太郎のことが大好きだったが、母に指摘されるまで気付いてなかった鈍感ちゃん。お前ら両方鈍感かよ……。
ちゃんづけで呼ばれるのが嫌い。自分のイメージには合わないと思っているらしい。でも実は結構かわいい系の顔をしている。

二章以降の分量は?

  • 正体現したね(分量爆発OK)
  • いいよ、こいよ!(2万文字程度ならOK)
  • クゥ~ン(1万文字程度)
  • あ~いいっすね~(5000文字縛り続行)
  • これいる?(1000文字以内)

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