「お前ら、暇だよな」
急にギルドに入って来るや、俺達が座るテーブルに寄って来たダストが開口一番そんなことを言ってきた。
「…暇も何も、お前が居なかったから暇してたんだよ」
「勝手にクエスト決めたら怒るくせして、クエスト行く日は集合時間言ってるでしょ?なんでただの一回も守らないかなぁ」
キースもリーンも辛らつな物言いだが仕方ない。事実、今日はクエストに行く予定だったのにも関わらずダストは大幅に遅刻してきたのだから。
「とりあえず遅刻の理由があれば言ってみろ、今の発言の答えについては内容を聞いてから考えてやる」
「いいよテイラー、話なんて聞かなくても。どうせ遅刻の理由もしょうもない事だろうし」
一応話だけは聞いてやるかと思ったが、リーンにたしなめられてしまった。言いたい事は良く分かるし実際そうなのだろうが、そういうことを言うとダストの奴は…。
「んだとリーン。それじゃ俺が、毎回くだんねぇ事で遅刻してるみたいな言い方じゃねぇか」
「この前の理由は道端で失礼な事した新人に教育してたからだっけ?ダストからの言いがかりで困ってた新人を憲兵さんが助けてたって聞いたけど?」
「反面教師としては役立ってんな。その前は逆ナンにあってたからとも言ってたけどよ、単に露出多い装備の女冒険者付け回してただけじゃねぇか。偶然だけどそれっぽい冒険者が『金髪のチンピラがストーキングしてきた』って話してるの聞いたことあるぞ」
「はぁ…」
ため息しか出ない。本当に悪い奴では無いとは分かってはいるが…最近、何でパーティーを組んでるんだろうって悩む事が多くなってきた気がする。
「はいはいはい、過去の事に囚われちゃ先に進めないぜ。とにかく話だけでも聞きやがれ、遅刻の理由にもなってるんだ」
「…あのー、やっぱり私から説明した方がいいんじゃ?」
突然の女の子の声に少し驚く、どうやらダストの後ろに居たようで気が付かなかった。確かこの子は…。
「あら、ゆんゆんじゃない?」
そうだ、ゆんゆんだ。紅魔族の人達は皆変…個性的な名前で覚えやすいようで覚えにくい。しかしこの子も良く分からないな、なんだってダストなんかと一緒に居る事が多いのだろうか?やや引っ込み思案な所を除けば普通の娘だし。紅魔族のアークウィザートということで、魔法職であるにも関わらずソロが出来る程の手練れだというのに。
「そんなとこに居ないで早くこっちに座りなよ。ダストの近くは危険だよ?」
「おい、どこがどう危険だってんだよ」
リーンは手招きをしてゆんゆんを席に座らせると。
「これからダストの話を聞くにあたって、最悪流れ弾が行くかもしれないでしょ?」
「お前どんだけ俺の事信用してねぇんだ?つーかいい加減人に向かって魔法ぶっぱすんのやめろ!」
ギルドの中…いや街中で魔法を放つのは確かにやめて貰いたい事ではあるが、ダストの自業自得でもあるしなぁ。
それに…それ以上に迷惑な魔法を毎日のように撃っている奴が居るせいで『リーンの使う中級魔法くらいなら…』と、この街の住人は感覚がマヒして来ているきらいがある。
「このままじゃラチが明かないな。ゆんゆん、すまないが説明を頼む」
悲しい事にダストが言ったところで信憑性に欠ける。彼女も当事者のようだし任せた方が無難だろう。
「は、はい!では…私とダストさんが結婚するという話になりまして…」
「「「結婚!?」」」
本気かこの子は!確かに一緒に居る所をよく見るとは思ってはいたが…まさかそこまでの仲に発展していたなんて。
「ちょっとダストどういうこと!?さっきの暇があるかってもしかして結婚式なの!?」
「この子お前の守備範囲外だろ!?遂にロリに手を出すのか!?」
「ちょっと待て、まずは一回ゆんゆんを殴らせろ」
「えええっ!?」
ダストが本気の目をしてゆんゆんに向かって一歩踏み出す。
しかしそれはリーンとキースによって遮られ、二人はダストに向かって大声で質問を投げかけていた。…まずいな、大声で結婚だのと騒いだせいで周りの注目を集めてしまっている。
「結婚?誰が?」
「ダストが…だと?相手はどこの物好きだよ!」
「どうやらいつもギルドに一人でいるあの女の子みたいだぜ」
「あの子ってよくダストと一緒に居るよな?まさか…」
「でもいつもいじめられてるというか、たかられてなかったか?」
「うわっ!サイテー!やっぱりお金目当てなんじゃない!」
「あんな可愛い子がダストに…マジ鬼畜だな」
普段の行いが行いなだけに周りの感想も酷いものだった。
「………」
リーンやキースはまだダストに食ってかかっているが俺は一周回って冷静になっていた。よくよく考えてみればダストがそんな事をするはずが無い、もしするにしてもあんな切り出し方はしないだろう。仕方ない、まずはこの場を収めなければ話も進まん。
俺は立ち上がって大きく息を吸い込むと。
「皆冷静になってくれ!ダストのようなクズが結婚なんて…いや恋人が出来たりするはずが無いだろう!この中にダストに好きだったり尊敬している奴が一人でも居るか?答えは決まっている!居る訳が無い!」
ギルドの隅々に届くほどの俺の大声に喧騒がピタリと収まった。
そしてぽつりぽつりと「確かに」や「そうだな」といった納得の声が上がる。良かった、とりあえず事態は収拾したようだ。
「さあ、話の続きをしよう。今度は冷静に聞いてやるぞ」
「うん。テイラー、お前も殴らせろ」
ダストも余裕が出たようで何よりだ。
その物騒な提案は無視をして、まずはゆんゆんの説明を聞くとしよう――――。
「――――はぁー…そういうことね、結局元凶はカズマなんじゃない」
「まったく、はた迷惑な」
「分かったろ?俺だって被害者だってことにな。あとゆんゆん、話が分かり辛ぇ。お前本当に学校なんて通ってたのか?ギルドの隅っこで一人遊びしてる暇あったらこの街ので良いから行ってこい」
「ひ、酷い!なんでダストさんにそこまで言われないといけないんですか!?」
…可哀想ではあるが、正直ダストに賛同したい。どうにもこの子は話下手な所があるようで、先の騒動のように急に話が飛んだりすることが多かったのだ。しかも、そんな話し方をすれば聞いている側が振り回される事に気がついていない。この子のためにも、誰かが矯正してあげないと今後また大変な事になるだろう。
「精神年齢近そうなガキ共がたくさん居るから友達作るのには困まんねーぞ。そこで一緒に勉強してまともな話し方を身につけてこい」
「ちょっとダスト、言い過ぎじゃないの?それを言うならあんたは道徳ってもんを身につけてきた方がいいわよ」
「…友達。私ぐらいの歳でもそういう所にいってもいいのかなぁ?」
「あれ?なんで乗り気なんだこの子?」
引っ込み思案かと思えば、妙な所でポジティブな所もあるんだな。それなりにダストと付き合えている度量の深さも持ち合わせて居るし、まだまだ底が見えない人物だ。
「んなことはさておき、俺がお前らを誘った訳が分かったろ?頼むから一緒に来て説明を手伝ってくれ。俺一人じゃさらに面倒な事態に発展しそうで怖ぇんだよ」
ダストが仕切りなおした所で本題である。ゆんゆんの説明をかいつまんで整理すると…まず結婚がどうのこうのという話、これは完全に誤解だった。話は彼女の故郷、紅魔族の集落でもある紅魔の里の族長を決める試練に彼女が挑戦する事から始まる。
その試練は二人一組で受けるもので、まぁ…あまり知り合いが居ないゆんゆんは唯一気軽に頼める相手ということで同じ紅魔族のめぐみんとその仲間であるカズマ達に協力を要請、試練自体は何とか達成出来たのだという。しかしその短い滞在の間に、カズマが彼女の友達の女の子に対してゆんゆんのアクセルでの近況を話した事が騒ぎの大元だった。
『次期族長となったのにも関わらず、ゆんゆんはアクセルに戻るらしいぞ。』
『ゆんゆんのアクセルでの知り合いが言うには、何人か男の知り合いが居るらしい。』
『魔王を討伐して成果を上げると言っていたが、もしかして男と離れるのが嫌だったからじゃ?』
等々、どんどんと尾ひれが付いていって取り返しのつかない状態になってしまったようである。
「確かにねー…娘が結婚相手として連れてきたのがダストでしょ?勢い余って殺されたりしないかな?」
「俺だったらまず娘をぶったたいて目を覚まさせるな」
「親子の縁を切られても不思議ではないだろう」
「えーと…その中ではリーンさんの予想が一番近いかも知れませんね」
「頼む、マジで助けてくれ!俺もうクーロンズヒュドラんとき一回死んでんだぜ?ゆんゆんに親父に殺されたらもう復活できねぇよ!」
まあ、ここで見捨てるぐらいならパーティーなんて組んじゃいない。説明のためについていくくらいなら良いだろう、これはリーンにキースも同じなはずだ。
「わかった。正直ダストの事はどうでもいいがゆんゆんに迷惑がかかるのも悪い。それに魔王軍とも互角以上に渡り合える紅魔族の里、一度見に行くのも面白そうだ」
「うんうん。ダストの事はさておき、誤解されたままじゃゆんゆんが可哀想だからね」
「俺もいいぜ、一部の情報じゃ紅魔族の女の子って美人が多いらしいじゃねーか。噂を確かめるいい機会だ」
「ありがとうございます!」
「ありがとうよクソ共。この借りは絶対返してやるから覚えて置きやがれ」