この堅実クルセイダーに決断を。   作:ぶたはこ

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10話

 外に出て涼しい風に当たっていると…なんでこんなカチガチの装備を着こんでるんだろうという疑問が湧いてきた。んー…ねりまきがそうして欲しいと言っていたからなんだが、これから何をしようというんだ?

 

「おまたせ!」

 

 酒でふらつく頭を揺らしながら考えていると、声を弾ませてねりまきがやってきた。

 

「おお、待ってたぞ。で?これからどうするんだ?」

 

 ねりまきは昼間の時よりも動きやすそうな(ヒラヒラが少ない)魔法使いらしい格好で、背中にはリュックを背負っていた。手には手持ちの燭台と蝋燭、そして小ぶりの杖を腰につけていた。つまり…これから何かと戦いに行くという事なんだろうか?

 

「うん、とりあえずは…」

 

 そう言いながらねりまきは俺の手を掴み。

 

「テレポート!」

 

 一瞬の暗転。うわっ!酔ってる状態だと気持ち悪いなこれ!

 

「さぁ、とりあえず付いてきて」

 

 テレポート酔い?をしている間もなく、ねりまきはそのまま俺の手を引いて先導を始めた。急なテレポートと周りの暗さから何処にいるのか分からなかったが。

 

「………」

 

 ねりまきが何かを呟くと蝋燭に火が灯り、一本の蝋燭とは思えないほどの光を放ち辺りを照らす。

 

「…森?」

 

 どうやらねりまきが俺を連れてきた場所はどこかの森の真ん前で、今はその森の中をずんずんと進んでいるようだ。森は普通なら傾斜、木の根、石や岩などで歩きにくいはずなのだが、先頭を歩くねりまきの足取りは軽く、酔っぱらっている俺でも問題なく歩けるほどにならされていた。つまりこの森はそれなりに人の往来があり、地面が踏み固められて居るのだろう。

 

「ねりまき、この森は何処なんだ?」

「この森は通称「紅魔の森」、経験値稼ぎや素材集めで紅魔族が良く使う里に隣接した森林地帯だよ」

「へぇー。戦う準備もしてきたって事は…何か狩る手伝いって事か?」

「んー…まぁそうかな?とりあえずそれなりに奥には行くつもり。途中から道が悪くなるかもしれないから気を付けてね」

「わかった」

 

 なるほどなるほど、そういう手伝いか。こんな夜中にやるなら紅魔族とはいえねりまき一人じゃ危ないって事なんだな。任せとけ、ねりまきの事はクルセイダーとして絶対に守り抜いてやるぞーーーー。

 

「――――この辺りでいいかな?」

 

 ならされた道から外れてからも歩き続け、流石に酔った状態で進むのがつらくなってきたところでねりまきが足を止めた。そこは森の中でもやや開けた場所で、これなら俺が武器を振ったり立ち回ったりするのに不自由は無さそうだ。

 

「テイラー、ちょっと下がっててね」

「わかった?」

 

 ねりまきは俺から手を離すと一人で広場の中心辺りまで歩いて行くと地面にしゃがみ込んだ。

 

「アースシェイカー」

 

 ねりまきがそう唱えると、広場の地面がボコボコと波うち始めた。その波によって石は端へと追いやられ、露出していた木の根は地面へと吸い込まれるように消えていき、それらが収まった時には広場は先ほどのならされた道のようにほぼ平らな動きやすい地形へと変わっていた。

 

「おぉ~!」

 

 思わず感嘆の声が漏れ、パチパチと拍手を鳴らしてしまっていた。ねりまきはそんな俺に向かってVサインを出しながら。

 

「これでかなり動きやすくなったでしょ?足場が悪いと近接の人は大変だもんね」

「まったくだ。定点で戦うならこれほどありがたい事は無いな」

 

 戦いやすい場所に移動するだけじゃ無く、それを魔法で作れてしまうとは流石としか言いようがない。多分これも魔力に余裕がある紅魔族ならではの事だろう、リーンに提案でもしたらキースの二の舞になる事間違いなしだ。

 

「えーと…そろそろこれ飲んでて貰おうかな?はい、テイラー」

 

 ねりまきは背負っていたリュックを下ろしてそこから一本のポーションを取り出した。そして差し出されたそれを受け取ると、俺は何の疑いもせず飲み干す。ねりまきがくれるものなのだから、きっとこれからの戦いで必要な事なんだろう。

 

「………いや、なにやってんだ俺は」

 

 一気に頭がスッキリした。そして一気に血の気が引いた。

 

「効いた?やっぱりうちの里特製の酔い覚ましポーションは効果バツグンだね」

「いや!いやいやいや!どういうことだこれは!こんな時間に危険な森の中って何を考えてるんだ!」

 

 確か昼間の説明ではこの紅魔の森、出てくるモンスターの平均が一撃熊を始めとする危険モンスターばかりという話じゃ無かったか?

 

「テイラー!落ち着いて聞いて!確かに酔っぱらっている間に連れて来ちゃったのは謝るけど、ちゃんと安全とかも考えた上での行動だから。まずは私の説明を聞いて、それから判断して欲しいの。これは…私の夢を叶えるチャンスなの!」

「………」

 

 両手を合わせ、頭も下げた態勢で今度は必死にお願いをしてくるねりまき。酔ってる間にという事は、素面の俺ならば間違いなく断られると思ったから、とりあえず連れてきたという事だろう。一応酔っている間の事はしっかりと覚えている。酔って判断力が低下してはいたが、ねりまきはそう無理を言うような奴じゃない。それに「夢を叶える」や「俺にしか頼めない」というのは本当なんだと思う。こんな危険な場所からはさっさと帰りたいところだが、まずは話を聞いてやるか。

 

「よし、聞こう。ただし納得がいかなかったらすぐに帰るからな」

「わかってる、絶対に納得させてみせるからね」

 

 顔を上げたねりまきは不敵な表情を浮かべていた。どうやら俺を納得させれる程の材料はしっかりと用意している様だ。ならばと俺は気持ちを強く持つことにする、ここにきてただ情に流されるような決定はしない。俺の冒険者としての経験から、シビアに判定を下して上げなければねりまきの為にもならないだろう。

 

「まず、この蝋燭。これは紅魔族特製の魔道具で、これを灯している限りこの紅魔の森といえども敵は寄ってこないの。実際ここまでの間安全だったでしょ?」

「そうかも知れないと思ってはいたが…普通に凄いな」

 

 紅魔族というのは本当に何気なくとんでもないものを使うなぁ…。あの蝋燭だけでも、実際に買うとしたらとんでもない額になるのは間違いない。

 

「さらに私はテレポートを習得している、というか紅魔族で取ってない人なんてほぼ居ないんだけどね。私の魔力がある限りはすぐに戦闘を離脱して里まで戻れるから、どんな危機的状況になっても大丈夫よ」

「ふむ…だがそれは魔力がある限り、だろう?戦闘は全部予想通りには進まない、もしタイミングが悪く魔力が尽きてしまったらどうするんだ?」

 

 そう、どんなに対策をしたとしても不慮の事態が起こるのがモンスターとの戦闘というものだ。これは冒険者として活動していれば絶対に避けられない事で、俺達のパーティーでも何度か起こっている。そして、もしそれが起こった時に切り抜ける為に必要なものは運と経験だ。実際、俺達は運良くレベル相応のモンスターとの戦闘中で、すぐさま機転の利いた行動に移せるほどの経験があったからこそ切り抜けられたのかも知れない。

 

「だからこれも用意したの。マナタイト、これがあればすぐに魔力を回復する事が出来るでしょ?学校の授業で作った奴だけど…私の魔力を最大の半分くらいは回復できる魔力が込められてたはずよ。ぷっちんも良い出来だって合格点もくれたし、出し惜しみしなければ二人でテレポートする時間と隙は十分に作れるわ」

「本当に用意周到だな。それにしてもマナタイトを授業で作るって…いや、紅魔族なら今さらか」

 

 そうだ、あの蝋燭といい紅魔族はそういう「普通の冒険者が喉から手が出る程欲しいアイテム」を作り出す事が出来るんだ。さっきの酔い覚ましのポーションも…多分市場の値段を考えたらいけないような代物なんだろう。それを知らないとはいえ一気飲みか…何気に味にもこだわったのか美味かったな。

 

「よし、とりあえず危険を感じたらすぐさま逃げれる準備が出来ている事は分かった。次は何をするかだ」

 

 なんかしらのモンスターとの戦闘があるのは間違いないとして、一体何を目的としているのか。当然相手に寄っては帰る気満々だ。そもそも紅魔族であるねりまきが俺に手伝いを頼むような相手だ、俺でどれくらい役に立てるというのだろうか。

 

「私の夢、それはね…」

 

 ねりまきはそこで言葉を区切ると、杖を構え真っ赤に輝く瞳で俺の目を射抜くように見つめながら。

 

「あの、子供の頃から憧れていた騎士と魔法使いの冒険譚のように。私を守ってくれる人と一緒に、困難な儀式をやり遂げる事!」

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