この堅実クルセイダーに決断を。   作:ぶたはこ

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11話

「こっちだ!デコイ!」

 

 広場に入り、まずねりまきに狙いを付けようとした一撃熊の注意を自分に引き付けた。ヘイトをこちらに向けた一撃熊は一転して俺の方へと突進してくる。

 

「ふんっ!」

 

 その渾身の突進を、俺は両手で構えた盾でガッシリと受け止めた。自身の突進を止められた一撃熊は負けじとさらに押し込んでくるが、俺も負けてはいない。そうして硬直状態を作っていると。

 

「ファイアランス!」

 

 ねりまきの放った炎の槍が一撃熊の頭部を撃ち抜いた。その一発は的確に急所を狙ったまさにクリティカルな一撃で、それだけで一撃熊を仕留める見事な魔法だった。

 

「おら…よっと!」

 

 頭部を撃ち抜かれ動かなくなった一撃熊を、俺は素早く広場の端へと放り投げる。なるべく偏らないようにしているが、それなりに積み上がって来たな。もし手間を惜しんで放置していたら死骸が邪魔になり、動きやすいフィールドというアドバンテージが無くなってしまっていただろう。

 

「オッケー!順調だね!」

 

 ねりまきは嬉しそうにウインクをしながら拳を前に突き出した。俺もそれに倣い、合わせる様に拳を突き出しながら。

 

「ああ、この調子で油断しないでいこう」

 

 まさかねりまきの作戦がここまで上手くいくとは思わなかったな。恐らくだが、ねりまきはいつか来る日の為にと様々な戦い方や仲間との連携を思い描いていたのだろう。そしてそれは、決してただの夢見がちな妄想なんかではなく、実践を想定した実に有効な戦法だったという事だ。

 ねりまきが提案した作戦、それは「一回耐えて」というものだった。正直、俺ではここのモンスター相手に歯が立たない。だが全力で防御に徹するならばその限りではないのだ。そこで俺がモンスターの初撃を制し、モンスターが動きを止めている間にねりまきが魔法で攻撃をするという役割分担だ。

 

「んん~…最高!これが!これこそが私の理想!私の夢!ありがとうテイラー!私は今、猛烈に感動している!」

 

 拳を天に掲げ、気合の入ったポーズを決めるねりまき。そう、ねりまきがやりたかった事とは「俺を相方にして族長になるための試練に挑戦する」事だった。これはねりまきが族長になりたいという訳では無く、昼間に聞いたようにそのベースとなった冒険譚に憧れていたからだ。

 その試練の詳しい内容はというと「夜中の間、紅魔の森で迫りくるモンスター相手に、アイテムの類を使わずに、朝まで耐久をする事」。最初は紅魔族が狩場にするくらいなら楽勝だと思ってしまったが、そんなことでは試練とは言えない。実際のところ、狩場として利用する時は目当てのモンスターを上級魔法で倒し、魔力が切れそうになったらテレポートで戻るというもので。時間すれば一時間も掛からない、実に紅魔族っぽい(ねりまき談)戦い方なんだとか。

 それが一晩中戦い続けるとなるとそうはいかない、いくら紅魔族といえども魔力が無限という訳では無いのだ。そこで必要になってくるのが前衛、または相方の存在で、その頑張りによって魔法使いの魔力消費をいかに抑えるかがこの試練のカギとなっている。ちなみに見事その試練を達成したゆんゆんはほぼ一人で試練を乗り越えたのだとか…やはり若くして族長になるだけはある、また一つ見直したぞ…ゆんゆん。

 

「ねりまき、次が来たぞ」

 

 なんとなくではあるが、俺はシーフの気配察知のような真似ができる。これはスキルを習得したわけではなく、冒険者として経験から自然と身に付いた技術だ。気配がした方とねりまきの間にポジションを変えつつ、追加でモンスターが来ないかにも気を配る。モンスターはこっちの事情なんて分かっちゃくれない、最悪のタイミングで増援が来るかもしれないという心構えをしておくのは大事な事だと思う。

 

「あのモンスターなら…雷かな」

 

 広場に顔を見せたモンスターの種類から、ねりまきは一番効くであろう属性を決めた。これも大事な事で、魔力を節約しなくてはいけない以上少しでも有利な属性を使い消費を抑えなくてはいけない。ちなみにねりまきは普通の紅魔族なら取らない「魔力操作」というスキルも習得していて、これを上級魔法と併用することで消費魔力も少なくしている。当然込める魔力が少なければ威力も減る訳で、そこで急所良く狙う必要が出てくるという事だ。

 

「デコイ!」

 

 そして、その急所を狙いやすくするためにモンスターの攻撃と動きを止めるのが俺の役目だ。前衛が狙いやすくしたモンスターに、消費魔力を調整した魔法で、急所をピンポイントで狙って倒す。「一回耐えて」か…中々にいい作戦じゃないかーーーー。

 

「ーーーーあー!くやしい!」

 

 白み始めた空の下、ねりまきの叫びが森の中響き渡った。ねりまきは地面に寝転がりながら、手足をバタバタを動かして全身でくやしさを表現している。広場は今、魔除けの蝋燭の火で灯されていてモンスターはもう近づいてこない。そう…結果として、俺達の挑戦は失敗の終わったのだった。

 

「もうちょっと俺が動けていればなぁ…やっぱり防御だけしか出来ない前衛だとねりまきの負担が大きすぎる。これは俺の技量不足だな…すまない」

「テイラーはしっかり役目をこなせてたんだから謝らなくて良いってば。そもそも適正レベルじゃない所に無理矢理連れて来たんだし…それでもしっかり捌けてたんだから、むしろ技量以上の事をこなしてたんじゃないの?」

 

 ねりまきが俺の健闘を称えてくれたのは嬉しいが、結局のところ作戦が崩れたのは俺が十分に敵を引き付けられなかったからだろう。それなりの間隔でなら問題ないが、同時に複数来た時の対処がきつかったからだ。その場合、ねりまきは普通に上級魔法を使わざるを得なくて消費がかさみ。最後なんて一撃熊クラスのモンスターが4匹も一気に襲い掛かってきたせいで、一掃のために大量に魔力を消費してしまった。

 

「私の方こそもうちょっとレベル上げしとかないとダメだったかなぁ。お店の手伝いでサボり気味だったんだよね」

 

 今ねりまきは魔力切れで動けなくなっている。めぐみんのせいでアクセルでは見慣れた光景になっているが、リーンが言うには「魔力切れで動けなくなるのはウィザードの恥」なんだとか。けど今回に限っては仕方ないだろう、もう少しで夜明けという一番疲労しているタイミングでラッシュが来てしまったのだから。

 

「それでも…俺達はやれるだけはやった。しかもほとんど怪我も無い状態であの戦いを切り抜けたんだ。最後の攻防においても、無理に作戦を通す事無くすぐに安全策に移ったのを俺は凄いと思ってるぞ」

 

 運の良し悪しはあったけど、そこは間違いない。ダメだった所だけに囚われてしまっては成長は望めない。

 

「実際のクエストでもあるんだ、依頼と安全どちらを取るかっていう場面がな。当然安全を取る方が正しいが、場合によっては多少の無理を承知で依頼を優先しなければいけない時もある。そこの見極めを正確に出来るようになって一人前の冒険者だと俺は思っている」

 

 あの時点でもし成功にこだわっていたら、押し切られて怪我どころじゃ済まなかったかもしれなかっただろう。

 

「生き残れたって事は次があるって事だ。急に連れて来られたり、縛りがあったりはしたが…提案した作戦もそれなりに上手く行っていた。俺なんかが言うのもなんだが…ねりまきとのパーティーでの戦闘はとても楽しかったぞ、また機会があったら一緒に狩りに行かないか?」

「………」

 

 俺の言葉に、ねりまきはきょとんとした顔で俺を見つめる。しかし次の瞬間、その目からはぽろぽろと涙が流れ出して。

 

「うう~…ありがとうテイラー!私も…私もすっごく楽しかった!約束だよ!また一緒に…約束だからね!」

 

 俺は、まだ上手く体が動けないねりまきに歩み寄って静かに腰を下ろした。そして常備しているタオルをねりまきに渡すと、泣き顔を見ないように後ろを振り向く。後ろからはねりまきの嗚咽と…「ズビー!」という鼻をかむ音が聞こえてきた。

 

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